55:個性
「今日は、ヒスイの番ですよ?ミカゲ」
領地に帰ってきて半月――。今日の朝食はヒスイと一緒にとる順番なのだが、目の前にいるのはミカゲ。この二人、一緒に居るとお互いをトレースするので似ているが、やはり個性はある。いたずらっ子のミカゲに、ひたすら耐えるヒスイ。
「ヒスイに何かありましたか?体調が悪いとか・・・?」
「―――元気。ただ、俺が主とたくさんいたかったから、変わってもらった・・・。」
「木にグルグル巻きにしてぶら下げて行くことを、変わってもらったとか、よく言うわ!」
ほらよ。っとアンバーがヒスイをテラスに放り投げた。ヒスイは縛られた状態のまま器用に着地。
「ミカゲ、ひどい」
「・・・ごめん」
無表情で行われるやり取りに、思わず笑ってしまった。
「くっくっく・・・、はぁ、ではミカゲとヒスイ、一緒に朝食をとりましょう。今準備しますので」
「「手伝う」」
「アンバーも、ついでに食べて行きますか?」
「今日はもう食ったからぃぃ」
「では、今日のお礼に、次のアンバーの朝食の時にあなたの好きなものを作りましょう。何がいいですか?」
「――・・・あの、黄色くてふわふわしてたやつ。上に赤いの乗ってる」
「オムレツですね。それじゃ、次作っておきますね。」
ぶっきろぼうに、あぁ、と言ってすぐに去ってしまったが、去り際の横顔が、微笑んでいるのを僕は見逃さなかった。
「アンバーうれしそう」
「アンバー実は、名前一番よろこんでた。」
いつの間にかロープから抜け、二人が僕の側に立っていた。実を言うと、僕は彼らの事を何も知らない。ガムロさんが保護してくる人たちは、基本的に裏町の住人だ。このクケルト領ケルトには、表町と、裏町があり、表町の人々は裏町の存在を知らない。知っていても、黙認している。
そこに住まう住人は、みんな何かしらの事情がある人間ばかりだ。だが、誰もその事には触れない。自分から話すなら、話は別だが・・・。だから、僕も彼らと食事をするとき、過去の事は一切聞かない。これが、この町の暗黙のルールだ。
「そう、それは僕もうれしいな。それじゃ、2人は何が好き?」
今まで抑圧されてきた生を送っていたのなら、これから知っていけばいい。僕たちは、まだまだ子どもだ。時間はたっぷりある。
※
今の時間は、二人ずつチームを組んで、それぞれ陣地に、ガムロさん特製、呪いの――いや、かわいい人形を置いて、取られたチームは罰ゲーム。勝ったチームはご褒美アリのゲームをしている。チーム決めはくじ引き。スカーはトパーズと、ダン先輩はアンバーと組んでいた。僕はハズレを引いたのでお休みだ。
「ガムロさん、僕、初めて会った時から思っていたんだけど、ハウライト、ホヌ、トパーズの魔力量、多くないです?そもそも、たぶんみんな、平民なんだよね?残りの三人も、身体強化に魔力ほぼ極振りだよね?」
「あぁ?おう、そういうガキばっかり集めて、教育するんだよ。」
最悪な想像が浮かんだ。それなら、魔力の無い子どもは一体――・・・、やめよう。ろくなことにならない。
「で?おまえさん、その目は一体、何が見えてんだ?」
ガムロさんにはすべて話してある。今までいろんな奴にあったことはあるが、幻精が目に入って、それも同化したなんて初めて聞いたと、大爆笑してくれた。まぁ、深刻になるより、笑い飛ばしてくれた方が、気が楽だったが
「え~っと、こんな感じ?」
そう言って僕はその辺にある、木の枝を拾って、地面に棒人形を描いた後、その周りに体を囲うようにギザギザと線を描いた。
「ヘタだな」
「うるさい。魔力量が多いと、このギザギザが大きくなる。でも、色の違いが何か僕にはわからない。」
「あぁ、お前さんは魔力持ってないからな。それは、属性の違いだろうな。何色がある?」
「青、赤、黄、緑、でも、ピンクとか、白とか黒もありますよ?」
「混合属性だろうな。珍しいのもあるから、安易に口に出すなよ。」
「はーい・・・。身体強化の場合は、からだの周りに薄い膜みたいにぴったり張り付いてます。」
また棒人形を描いて、そのすぐ周りを線で囲んだ。
「ただ、人によって厚みが違う。アンバーが一番分厚い。ミカゲとヒスイはそれより薄い。」
「アンバーは外部魔力がない。その代わり、剣でも切れないぞ。ミカゲとヒスイは、両方使うタイプだから、そのせいだろう。」
今まで自分で使えない、魔術については全く興味がなかったのだが、これを機に、勉強してみるのも、いいかもしれない。そんな話をしている間に、決着がついたらしい。
優勝は、意外や意外、ダン先輩とアンバー。この二人、相性がいいらしい。二位はハウライトとミカゲ。三位はヒスイとホヌ。そして最下位は、スカーとトパーズだった。
「ごッ、ごめん・・なさッぃ――ひっッく」
「あぁ、大丈夫だから、泣くな!」
スカーの慌てぶりが、こちらまで伝わってきたのは、ちょっとおもしろかった。罰ゲームは、裏町の酒場までガムロさんのお酒のおつかいだった。帰ってきた二人は、酒場のおネェさんたちに遊ばれたのだろう。生気を吸われたような有様で帰ってきた。僕も昔、経験したことがあるので、よくわかる。
楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、そろそろ新学期が始まる。今日は月に一度の、調整の日だ。
「1時間ほどで終わるから、寝ていてもいいぞ」
「月に一度しかない機会なんですから、しっかり見ておきます。」
「なんだか、こうやってゆっくり話すのも久しぶりだな」
「そうですね・・・。」
ユリウスが捕まってからは、彼の話題は一度も出ていない。スカーだって、裏町を見たのだから、僕があえて何も言わないのは理解している。だが、心がつながっているので、気になっている事ぐらいは察しているのだろう。こんな時は厄介だと思う。
「モリアは、彼らをどうするつもりなんだ?」
そろそろ新学期が始まる。そうなれば僕は学園に帰らなければならないので、それを聞いているのだろう。
「学園に入学するか、みんなに聞いてみたのですが、断られました。」
今更、一般人の中に入って行くことはできないと、出来れば、使って欲しいとまで言われてしまったのだ。
「今までの選択肢の中にそれしかなかったのだろう。今からモリアの側で、色んな選択肢がある事を教えて行けばいいんじゃないか?」
それはガムロさんにも言われた。彼らは、自分たちにちゃんと利用価値があると言う事を、示したいんだそうだ。そうじゃないと、捨てられると、思っている。そんな事ないと口ではいくらでも言えるが、信用したいけど出来ないのだろう。だからまずは、彼らのやりたいようにさせてみることにした。
「はい、なのでまずは、王都に拠点を作って、情報収集をしてもらうことにしました。」




