50:事件の振り返り
「母様、昔ペット飼ったらダメって、僕に言いましたよね?」
「この子達は、自分たちでご飯は何とかするから、大丈夫よ~」
あの学園であった騒動から一か月―――
ユリウスは黙秘を続けているそうだ。一度だけ、スカーに会いたいと言ったそうだが、捕まえた時の詳細を知ったナダルグ様が拒否した。
学園の中での情報を相手にリークしていた3人、ロナウド、パーシー、ガスパーは、ロナウド、パーシーは貴族を除籍、国内一規律の厳しい、修道院に入った。ガスパーは、親のしている事を理解した上で関わっていたので、刑が執行された。
老師が入れ替わっていた、カタルフィー先生は、そもそも存在しない人物だった。いや、正確に言うと、カタルフィー子爵の子どもだったのだが、5歳の時、病で亡くなってしまった。カタルフィー領は、驚くほどド田舎で、領主が領民に交じって農作業をしているほど、のんびりとした場所だった。
そのため、死亡届の提出を忘れており、籍だけが存在している人物だったのだ。この報告を受け、国王は戸籍の見直しを開始した。
ガスタルバーグとクケルトで起こった暴動や、賊の騒ぎだが、あれも実は、実行犯たちは騒ぎの前に、捕まえてあったのだ。そして、ガスタルバーグ領はスラムのカルラ、メルラたちに協力してもらい、暴動という名の演習を街全体で行った。
クケルトは・・・、本当に賊が押し入ったのだが、普段暴れたりない町民が、憂さ晴らしのために、それは大いに暴れてくれた。なるだけ建物は壊さないようにという要望もしっかり聞き入れてくれて、助かった。
なので今の所、エルラドの計画は何一つ僕たちの国に影響を及ぼしてはいない。しかし、この事に向こうが気づいていないとも思えないので、今水面下で、同盟を結ぶためのやり取りが活発化している。
この同盟がうまく結ばれると、エルラド、および四ッ国連合〝えにし〟〝つむぎ〟は四面楚歌になるので、気づかれる前に締結して欲しいものだ。
学園の方は、各領地が落ち着きを取り戻したあと、閉鎖を解除し学園生たちをそれぞれの領地へと送り出し、冬期休暇終了まで臨時休校となった。僕は初めに、契約の調整もしないといけなかったのと、カルラとメルラに会いに行く名目で、ガスタルバーグ領にお邪魔させてもらった。
※
「カルラ、メルラ、ありがとう。演習は上手く行ったみたいだね」
「はい、モリア様。」
「あなた様の助力のおかげで、私たちの居場所を作る事が出来ました。ネルの事も含めて、この感謝は、一生かけてお返しします。」
いったい誰に何を吹き込まれたのか・・・、
「ダミア、ダリラ、これどうなってるの?」
「へい、今回演習でご一緒しました騎士様たちから、この街を悪の手から救ってくださった英雄だと聞きましたので、そのせいです!」
「あーーー!ないない!英雄?僕が?ムリムリ、鳥肌立つから、やめて。僕はただの知りたがりなだけ。実際動いてこの街を救ったのは、君たちだ。だから普通にして、いいね?」
でもとか、しかしとか言っていたが、全部却下した。
「・・・わかったよ。でも、感謝してるのは本当だから、その気持ちは受け取ってくれ。」
「何言ってるの?タダなわけないでしょう?今回みたいに何かあった時には、遠慮なく使わしてもらうんだから、そこのところ忘れないでね。」
僕がそう言うと、みんなポカンとした後、大笑いしだした―――。
…
その日は、飲めや歌えやの大騒ぎに参加した。弾かれ者だったスラムの住人が、街の人たちの輪に参加している光景は、饒舌に尽くしがたい。疲れたので、少し離れたところで涼んでいると、カルラがコップを二つ握って隣に腰かけ、一つを僕へと差し出してきた。
「―――・・・今でも、夢じゃないかと思うような光景です。チビたちが、みんな仲良く遊んでる。俺達だって、歩いていると、挨拶されたり、食べ物をもらえる時だってある・・・。」
なにかを噛みしめているのか、言葉が途切れたが、意を決したように僕に聞く。
「あいつは、――あいつは笑えてますか?元気に・・・・元気にしてますか?」
短くない時を一緒に過ごした仲間。実は、カルラだけにはアクアが裏切り者だと、そして事情があったことを初めの段階から伝えていた。そして、僕に任せて欲しい事、保護することも、保護の計画も、その後の事も手紙で伝えてあったのだ。他のメンバーに話すかは、カルラに一任した。
スラムに住んでいるものなら、裏切りが一番のご法度だというのは、身に染みている。いくら理由があるとはいえ、許される事ではない。そっと聞きに来たと言う事は、まだ他のメンバーは知らないのだろう。
「名前を変えて、一緒に逃げてきた人たちと、町に馴染もうとがんばってるよ。」
「――・・、あいつは、根は真面目な奴なんで・・・、よろしくお願いします」
任せといて。いつかまたどこかで、縁が繋がったら会えることもあるかもしれない・・・。この言葉は、伝えないでおいた。まだ彼らの傷は、新しい。
…
ガスタルバーグ領の被害状況もたいした事がないみたいだし、契約の調整も済んだ。僕は久しぶりに、自分の生まれ故郷、クケルト領へ帰ることにした。
「モリア、俺も行く。父上にも、許可を取ったから大丈夫だ。」
「モリア!護衛で、オレも行くことになったから、よろしくな!」
準備があるからと、さっさと部屋を出て行ったスカーとダン先輩。僕はすることもなかったので、久しぶりに、書庫にヒマつぶしのための本を探しに行くのだった。
※
馬車で揺られる事1週間―――。僕の生まれ育った町、クケルト領ケルトについた。
「ただいま」
「おぉ!モア様、おかえりなさい」
僕が住んでいる家は、義兄夫婦と子どもたちが生活している、本館から徒歩30分の所にある、こじんまりとした、一軒家だ。もともとは、使用人たちが共同で生活するように作られていた、寮だったらしいのだが、今では僕と母様が2人で暮らしている。
台所も何もかもしっかりしているし、部屋数も多いから、困る事はない。本館の本を、空き部屋に移動させたりしたので、僕にとっては最高の快適空間だ。家の周りには畑がある。今あいさつしてくれたのは、本館の庭師兼、ここの菜園を管理してくれているゼベットだ。
「お客ですかい?」
「学校の先輩」
僕がそう言うと、ゼベットはピシャーンっと落雷に打たれたような衝撃を受け、こうしちゃおれん!と言って、挨拶もそこそこに農具を投げ出し走って行ってしまった。
「あらー、すみません2人とも。でも、この町、みんなこんな感じなので、慣れてください。」
そう言って僕は二人をそれぞれの部屋へと案内した。




