5:幻想圏同好会
☆
それからの1ヵ月はすごかった。
毎日の昼休憩に絶妙に人目のない場所で彼は俺にささやいてくる。
「先輩、ガスタルバーグ先輩。スコティウェリルのモア、触りたいです。許可ください」
はじめのうちは視線だけ寄越してムシを決め込んでいた。俺と接点を持ちたいためだけに来ているのならそのうち脈がないと諦めるだろうと・・・。彼は驚くほど諦めが悪かった。昼休み限定だったので、まだ良識的だと思っている俺は毒されていたのだろうか?
毎日毎日、飽きもせず来ていた。そんなある日、
「・・・半分過ぎたぞ?」
ここ毎日続いたものが急になくなると気になるのは仕方ない事だと思う。済ませた食事のトレーを下げに席を立った時、そばを通った1年生の言葉に足を止めた。
「ねぇ、誰も助けなくてよかったの?」
「そんなこと言っても、連れて行ったの公爵家だろ?誰が止められるんだ?」
「先生に知らせた方が・・・」
「ヤメロ‼俺たちも目を付けられるだろ!」
「・・・廃塔の方に向かってたね。5限になっても戻ってこなかったらボク先生に言ってみる」
あの制服は平民の生徒のものだ。いくら身分なく平等をうたっていても、無理なものはいくらでもある。だが、先ほどの話、気になる。今日彼の姿が見えない事と関係があるのだろうか?
俺は、風紀委員だ。困っている生徒がいたら助けるのが道理。そう言って向かってみると、案の定クケルトがいた。
表情のすべてが削げ落ちている様な無表情。話の内容からディスペルはクケルトの事をライバルとしたいらしいが、全く相手にされないことに腹を立てているようだ。それを面白くないと思った豪商家のリシベルが揺さぶりをかけるためにクケルトの家庭事情を持ち出したが・・・
クケルトの無表情が絶対零度を通り越してマイナスに転じている。このままでは、埒が明かないと仲裁に入ることにした。
3人組が去ったあとクケルトは肩を震わせしゃがみ込んでしまった。いくら同級生とはいえ、自分より体格の大きい奴らを相手にしていたのだ。安堵に恐怖が襲い、泣いてしまっても何ら不思議ではない。
しかし、俺はこれまで誰かを慰めたことなどない。これは困った――。俺は正直に困っている事をクケルトに告げると、彼はすかさずモアを要求した。ブレないな・・・だが、背に腹は代えられない。
1ヵ月続けた彼の粘り勝ちと言う事で、幻想圏からモアを召喚した。
モアに丸投げする形になるが、モア自身も初めの頃からクケルトの事を気にしているようだったので何とかなるだろう。そう思い見守っていると、反応の薄いクケルトにモアが焦れたのか、髪の毛を食べだした。
これにはクケルトも驚いたようで、顔を上げる。涙の痕どころか、表情もケロリとしていた。悪びれることもなく、許可はとったとモアとじゃれている様をため息交じりに見守った。
そしてここで発覚する、彼は本当にモアにしか興味がなかったこと。幻獣、幻想圏が好きでたまらない事。自分に魔力がなく契約が出来ず悔しい思いをしている事。
俺は少し彼の事を勘違いしていたようだ。これなら彼をあちらに招待してもいいかもしれない。そんな事を考えている時、彼のお腹が盛大に不満の音を奏でていた。
※
「ごちそうさまでした」
軽食のサンドイッチと紅茶をいただき、僕のお腹はやっと満足してくれた。でもまさか転移の魔術で本を取り上げられるとは想像もしていなかった。先輩いわく、
「ここにはそういった輩が2,3人いるからな、慣れている」
「ところでここは何ですか?先生の私室にしては凝り過ぎてますよね?」
「ここは、勧誘制の同好会の部屋だ。幻想圏同好会、参加は自由。だが、ちゃんと授業には出る事。それから、ここの書物は持ち出し禁止だ。あとは・・・ここに通じる陣には特殊な魔石がいる。これを持っている者のみ入会できる」
「!!ッ・・・そんな同好会初めて聞きましたよ!」
この学園は全員何かしらの活動に入会することが必須だ。そのため新入生争奪もさることながら、入学前のパンフレットに皆しっかりと目を通している。僕もやるのなら有意義な時間を過ごしたいので、書籍に関連する活動に目星をつけていた所だった。だが、先輩の言った同好会は知らない。そもそもどこにも記載は無かったはずだ
「この同好会は、幻想圏が好きな事はもちろんだが、他にも条件がある」
「?その条件とは?」
先輩は少し言いづらそうに視線を外した。要約すると、幻想圏、幻獣以外の事に頓着しない人間が条件だったらしい。実は、この同好会はある一人の人物のために発足された会だった。それが、現3年生・王位継承権第5位のニクトリマス・ライラック大公子息――
「どんな手を使っても権力に取り入りたい奴は履いて捨てるほどいる。せめて学生のうちだけはと、この会を発足してスカウト制にしたと言う訳だ。君は権力など興味がなさそうだと判断した」
日頃の行い?のおかげで僕は入学1か月にして最高のパラダイス空間を手に入れることが出来た。
その後、初めて顔を合わせたニクトリア・ライラック(ニック先輩)に『私のこと知らない?』と聞かれたので『どこかでお会いしたことありましたっけ?』と返すとえらく気に入られ、先輩がニック先輩に褒められていた。引きこもりですみません
初投稿の時、ドキドキしながらアンチ来たらどうしよう…‼‼アンチくるほど知名度ないわ~ww読んでもらえるだけで感謝。ありがとう