46:彼の本性
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「あの、ユリウスさん。僕、あなたに聞きたいことがあったので、ここに一人できました。僕の問いに答えてくれますか?」
モリア・クケルト。座学は優秀らしいが、魔力もなく、運動神経も並。ディスペルからの情報だと、こんな感じだった。遠目には何度か確認したことがあったが、近くで見ても、今の僕に始末できない事はない。時間もまだあるし、最近の彼の様子も気になるから、少しつき合うか。
「いいよ。僕に聞きたい事って?」
「ありがとうございます。では、5年前、ガスタルバーグ領の情報をリークしたのあなたじゃありませんよね。なぜ、偽装までして、姿を隠したのですか?」
「・・・なんで、僕の仕業じゃないって思ったの?」
「今までのあなたの仕事具合を見ていると、雑だったので。年齢によるものか、とも疑いましたが、あれは、人が違うというレベルだと思いました。」
「ふ~ん、君、運動面はいまいちだけど、頭はいいんだね。勧誘してもいいレベルだけど――・・・」
おまえは、僕に許可なく彼の隣に並んだから、気に食わない。だから無理だ。
「えぇっと、なんだったっけ?あッ、そうそうねぇ、君、僕の生い立ち知ってる?」
「――うわさ程度には・・・」
「そう、僕は、父が手を出した平民の子ども。母が早くに死んで、ほっといてくれればよかったのに、父親に引き取られた。そこには本妻と、同じ年の子どもがいて、もう地獄。でも、嬉しくないことに、僕、頭の出来が良かったみたいで、初等3年の夏の終わり、僕はクソみたいな親に隣国に売られた。」
あの毒親が、情報を売っている証拠を集めて、あの最後の夏、彼の父に助けを求めようと思っていたのに、逆に僕がしたことにされた。結局、僕には地獄しか待ってなかった。
「次の質問いいですか?」
「・・・、自由かよ。いいよ」
「ガスタルバーグ領を執拗に狙ったのは、なぜですか?まず王都から、エルラド側を制圧した後、ゆっくりガスタルバーグ領を追い詰めた方が、手間はかからないですよね?」
本当に惜しい人材だとつくづく思った。そう、本来の計画は、中央から半分を攻めて、その後に海側と挟み撃ちにして、制圧する計画だった。だが、そんな事をしたら、彼は確実にどこかで戦死してしまうか、負傷する。それなら、彼に被害の及ばない学生のうちに仕掛ければいいと、計画を急ピッチで進めたのだ。
「君、もう薄々分かっているでしょう?僕は、彼のためにしか動かない。国同士の争い?領土拡大?
?どうでもいい。僕は、昔彼が、僕に泣きながら訴えたことを、実現させてあげたかっただけだ。領主になりたくない。幻獣や幻想圏を思う存分研究できる研究者になりたい。だったら、納める領地が無くなれば、叶うでしょう?国が無くなったら、彼は自由だ。」
そうすればまた、僕と彼の時間が戻って来る。
「そんな事をしても、彼は喜びませんよ?むしろ、あなたを険悪するでしょうね。」
「そんなことない。初めは悲しむかもしれないけど、わかってくれる。だって、僕は彼を心から、愛してるんだもの。」
「あなたのそれは、愛なんですか?」
当たり前だ。僕は今まで彼のためにやってきた。これは、まぎれもなく愛だ。友愛も、もちろんある。だが、離れて、初めて気づいた。僕は彼を心から愛していたんだ。だから、どんな辛い事だって乗り越えた。彼のためだと思ったら、どんなことでもできた。だから、だから、彼はきっとわかってくれる――。
「あなたの愛は、ずいぶんと独りよがりな愛ですね。僕のスカーには不要なので、お引き取りください。」
ずいぶんと長く話し込んでいたらしい、空が、紫がかってきた。夜明けが近い―――。
「彼は、僕のものだ!はっ、計画は順調に進んでいる。君とは、ここでお別れだ。大丈夫、僕がスカーと今後、幸せな人生を送るから、おまえはここで消えろ」
幻獣により、掛かっていた術が消えると、そこには僕を学園に手引きした3人がいた。
「やっぱりあなた方でしたか。ディスペル、スミス、リシベル。自分たちが何をしているかわかってるんですか?」
「やっぱりお前は気に食わない。クケルト、俺はバカじゃない。自分のしている事ぐらい理解している。」
さぁ、朝日が昇ると同時に、パーティーの始まりだ。僕はその瞬間が来るのを、胸を躍らせながら待ったのだが、いつまでたっても、その時が訪れることはなかった。




