44:初めての王城
コンコンコン――・・・
ノックの後、入ってきたのはラフな格好をしたナイスミドルだった。だが、誰かに似ていると思ったら、スカーの母君に似ている。まさか陛下自ら、足を運ぶとは思わなかったので、僕はポカンとしてしまった。
「ニック、スカー、大きくなったな~。〝男子、3日会わざれば、刮目して見よ!〟とは、まさにこの事だな。」
2人が立ち上がったので、僕もそれに続き、頭を下げる。すると、
「ここは非公式の場、堅苦しい挨拶はなしだ。初めまして、ヴェルフィア・R・ピリアだ。ヴェルおじさんとでも呼んでくれ」
「初めまして、モリア・クケルトと申します。ニクトリアス様とスカーレット様にはいつもお世話になっております。非公式の場とは言え、恐れ多くもお名前を口にすることなどできません。ご容赦ください。」
「ニックとスカーの呼び方も、話し方もいつも通りで構わない。呼び名だって、私が許すと言っている。――そうだな・・・、ヴィーと呼んでもいいぞ」
愛称・・・さらに難易度が跳ね上がった。それなら名前に様づけの方が、いくらかマシだ!
「でしたら、ヴェルフィア様でご勘弁ください・・・。」
「おじ上、そのくらいにしてあげてください。」
ニック先輩からの助け舟で、何とかヴェルフィア様呼びで勘弁してもらえた。それから、しばらくは軽く雑談をして、宰相ガリレオ様、信頼のおける護衛を残し防音魔術をかけた。
「はじめに、僕のわがままを通して頂き、ありがとうございます。本当はおそらく明日、オリビア様が到着されるご予定ですが、緊急性があると判断して、無理を言いました。杞憂に終わる事を願っているのですが、陛下の・・・、ヴェルフィア様の意見をお聞きしたく――。」
それから、僕とスカーで、夏季休暇の頃の出来事から、話し始めた。その最中、視線を感じ、ちらっと目を向けると、壁に色を変化させジッとしているカメーオンがいた。だが、僕には輪郭が浮いて見えている。隣にいたニック先輩の上着の裾を引っ張り、小声で
「あちらの壁に、誰かの幻獣がいます。たぶんですが、共有で話を聞いている可能性があります。先ほどのメイドさんにお願いして、捕まえられますか?」
するとすぐに目配せして、何かを察知したのか、肩に乗っていた蜘蛛がスッと消えたように見えたが、僕にはまた巨大になったように見えるので、極力そちらは見ない――・・・。終わったのか、側に寄ってきて、
「いかがいたしましょう?」
そう言っている間に、糸でぐるぐる巻きにされていたカメ―オンが消えた。契約を破棄されたのでこちらで体を維持し続けることが難しく、あちらに帰ったのだろう。
「城の中にも紛れていると言う事ですね。」
宰相様の言葉に、数日前学園であったことをヴェルフィア様に話した。兄弟の事なのでどうかと思ったが、想像以上に冷静で、こちらの方が逆に驚いた。
「驚かないのですか?」
「・・・、いや、これでも驚いているんだよ。そうか――、兄様は俺が王位を継ぐのに、何か不満があったのだろうか?」
「それは、本人にしかわかりません。ですが、このままだと、関係のない民間人にまで被害が及びます。それだけは、阻止しなくてはなりません。」
それからまた、これから敵が取ると予測される作戦、行動を夜遅くまで話し合った。
「これだけの行動予測が集まれば、兵や騎士団の配置に大変役立ちます。失礼でなければ、こういった知識を誰に教わったのかお聞きしても?」
宰相様の問いかけに、僕は偏屈じいさんを思い出した。
「昔、僕の住む町外れにとても偏屈なおじいさんが住んでいたんです。でも、本が好きな僕はそのおじいさんの家に珍しい本があると聞いて、入り浸りました。時々、本に飽きた時など、どんぐりや木の実などで、敵味方に分かれてゲームをしました。でも、そのおじいさん強くて、一度も勝てなかったんです。悔しくて――、結局最後まで勝てずじまいでした。」
「・・・、その方の名前がわかりますか?」
「ミックって呼ばれてました。」
「死にたがりのミック――、ミクウェル・ランバー。・・・机上の天才と呼ばれていた軍師ですよ。」
宰相様は慄いていたが、僕にとっては、大変大人げない大人だった。考えすぎて、鼻血が出たこともあった。勝ち逃げするなど本当にずるい。
それから、僕たちは身の回りには、十分気を付けるようにと言われ、この事は他言無用だと帰された。




