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43/56

43:つかの間の休息

僕たちは周りに悟られないよう、いつも通りの日常を送るようにとナダルグ様の指示を受けて、次の日の朝には学園に裏門から帰った。



授業は相変わらずつまらないし、ディスペルはウザいし、スミスとリシベルの動向は気になるが、ひとまず夫人が到着するまで忘れることにした。



「あっという間に、冬期休暇がきそうだねー」

「その前にテストが来るよ?サリー」


「言わないで!ニックそれは、言わないでー」

「それに、そうなると、僕たちの卒業もすぐかもね」


「・・・俺、卒業したくない」

「サリーは、したくない、ではなく、出来るかの心配をした方がいいかも?」



相変わらずニック先輩と、サリー先輩は仲がいい。この関係がずっと続くことを願っている。そう思っていると、スカー、ダン先輩、カタルフィー先生が入ってきた。



「こんにちは、にぎやかですね。あぁ、モリア君、アヴィが君の体調を気にしていましたよ。その後、変わりはありませんか?」


カタルフィー先生の問いに、確かにここしばらくいろいろな事があり過ぎて、アヴィ先生と顔を合わせていない。先生は、医者であり、幻想圏の研究もしている博識な人なので、話していて楽しい。そういえば、最後に会ったのはお茶会の前で、週末の予定を聞いてきたので、貴族との接し方のアドバイスをもらったんだった――・・・。



「先生、アヴィ先生とは昔からの知り合いなんですか?」



ふっと疑問に思ったことを先生に聞いてみると、


「いえ、彼に出会ったのは、ちょうど5年ほど前ですかね?王都で開催された、幻想圏、幻獣展示会の会場でぶつかった事が切っ掛けでした。懐かしいですね~。この同好会を作るキッカケをくれたのも、彼だったのですよ?」


「アヴィ先生は王都出身なんですか?」

「そう言えば、いつも私の話ばかりで、彼の事は聞いたことがないですね。」



ぞわッと寒気が駆け抜けた―――。もし、アヴィ先生がユリウスの情報源だとしたら、お茶会にスカーが参加しないのも知っていた。だから、そのまま黙って決行させた?ユリウスはスカーの()を危険に(さら)したくないのだとしたら・・・。



急用を思い出しました。そう言って僕は、スカーの手を引いて部室を後にして、寮の部屋へと急いだ。部屋へと入ると、急いで施錠して、地図を広げた。


「いったいどうした?」


焦りの感情は十分に伝わっているだろう・・・。喉がカラカラだと思ったら、横から水の入ったコップを差し出された。ひと口、口に含みゆっくり嚥下した。その後、鼻からゆっくり肺深くまで、酸素を取り込んで、またゆっくり口から吐き出した。


「――すみません。取り乱しました。もう、大丈夫です。」



それから、僕の予測を話した。


「スカー、もし特定の生徒の、身の安全を確保しながら、争いを起こすためには、どうしますか?」

「――・・・学園に生徒がいる間に、王都から遠い場所で争いを起こす?」


「そう、もしそうなれば、生徒は学園で保護と言う名目で、隔離になるでしょう。たぶんですが、海側のガスタルバーグ、辺境側のクケルトで同時に戦が起こると予測します。」


「いつだ?」

「冬期休暇までの間に――」



冬期休暇まで一か月強、相手さんは、水面下で準備に長い時間を費やしてきたはずだろう。やはり昨日、ナダルグ様に領地に残ってもらったのは正解だった。心臓がどきどきして、手が震える。指先が冷たくなる。すると、片方の手を両手で包み込みながらスカーが握ってくれた。



「モリア、ニック先輩に頼んで、今から会わせてもらいに行こう。」

「・・・、誰に?」


「陛下に」


そう言ってすぐさま今度は、僕の手を握り、部室へと引き返した。それからは、どういう風に話を付けたのか、僕たちはニック先輩の馬車に同乗させてもらっている。




「ふふッ――・・、思っていた以上に、遅かったね。頼ってくれないだなんて、そんなに僕は頼りない先輩かい?」


「・・・、あの、ニック先輩、失礼なのを承知でお尋ねします。王家はどこまでわかっているのでしょうか?」


「う~ん、僕も、聞いたわけじゃなく自分の子飼いから情報を仕入れたり、だから、断片的だけど、ある程度は分かっているんじゃない?王家はこれまでも、狙われてきた人たちだからね。」



笑っているが、ニック先輩もスカーだってその王族の血縁に当たるのだ。なんだか僕は場違いのような気がしたが、その考えは馬車の揺れにより中断された。


「揺れるよね~。城につく頃にはお尻が痛いかも」


僕たちが今乗っている馬車は、カモフラージュ用に民間の代物に乗っている。そして登城するのも裏門から、僕の町から王都につくまでの悪路に比べたらかわいいものだが、揺れるのを耐えるのはやはりしんどい。


それからすぐ、王城裏手から中に入り、厨房からお邪魔させてもらう形になった。通された部屋でしばしくつろぐように言われたのだが、どうも、部屋の天井隅になにかいる。視線を向けないようにがんばったのだが、僕は昔から()()が苦手なのだ。スカーの方にぐいぐい体を寄せているのを不審に思ったのだろう。



「モリア、なんだか背中がざわざわするのだが、何かいるのか?」


チラリと視線を向け、その視線を追ってスカーも目を向けるが、見えていないようだ。ならあれは、幻獣なのだろう。だが、僕にはこちらの世界にいる蜘蛛にしか見えない。それも、下りてきたら、人間と遜色(そんしょく)ないほどの大きさだろう。斑ピンクの体、赤く光る8個の目、ボディはスリムだが、手足が長い。



そして、なぜか下りてきた。部屋が広いからまだ距離的にはあるが、困った。僕はさらにスカーにぎゅうぎゅう体をくっつける。もう恥ずかしいとかどうでもいい。緊急事態だ。いっその事、気絶できればいいのにそう思ったその瞬間、



「僕の客人をからかわないでくれ、メーヴェ?」


ニック先輩の言葉に、先輩の背後に控えていたメイドの1人が反応した。


「申し訳ございません。護衛の役割だったのですが、もしや彼が例の?」


そう言うと先ほどまでいたクモが、実態を持ってそのメイドの肩に現れた。手のひらサイズで、かわいい見た目にはなっているが、先ほどの姿かチラついて、恐怖しかない。


「驚かせてごめんね?この子は、僕の護衛兼、()()なんだ。」

「・・・メイドの恰好をしてますが?」

「今のわたくしの背丈ですと、メイド服の方が場に溶け込みやすいので、ご容赦ください。」



なんだか、陛下に会う前から、どっと疲れた。



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