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41:ピンチ


「あなた様の助力のおかげで、概ね順調でございます。」


今度は僕が驚く番だった。この声は、一度しか聞いたことはないが、間違いなくユリウスと行動を共にしていた、老師と言う人物のものだろう。



「概ね、と言う事は、何か不測の事態でも起きたか?」

「――・・、このような事を、口に出すのも憚られるのですが・・・」


「いい、申せ」

「実は、四ッ国のえにしが介入してきまして、少し計画に支障が生じてきております。」


「どのような支障だ?」

「はい、こちらに了承もなく派手な行動を起こしますもので、計画が露見しないか、ひやひやしております。」


「それなら、抑え込むのではなく、暴れさせればいい。そうだな・・・、クケルト領辺りで騒ぎを起こして、王都からも派遣しなければならないようにすれば、手薄にもなるし、あちらの不満も解消できる。」


「なるほど!さすが、大公様。では、その案で計画を再構築させますので、楽しみにお待ちください。」



大公!大物の名前に、思わずスカーを見ると、あちらもこちらを見ていたようで、目が合った。この後どうするのか?と言うような感覚が流れてくる。しかし、出口はすぐそこだが、ここから動けば丸見えだ。向こうは、どのような武器がそろっているのか、箱を開けながら説明が始まったようで、だんだんこちらに近づいて来ていた。



スカーは、僕なんかより身長も体格も大きいので、相手に見つからないよう、僕を胸に抱き込みながら壁際に寄った。もうこれ以上は無理だ!と背中側に寄りかかった時―――、壁が消えた。叫ばなかった僕をほめて欲しい。



もちろん、人間とっさの時には藁にもすがる。僕も例にもれず、目の前のスカーを巻き込み一緒に落ちた。落ちるとき目に映ったのは、壁の一部が幻影だったと言う事。それから、落ちた先は水路で、僕たちは離れないようにしながら、それなりの時間流され、岸に上がるころにはへとへとだった。



「無事か?」

「ケホッ、こほッ、はぁ、はぁ、ありがとうございました。死ぬかと思った――。」



外は、もう日が落ちていた。なのでここが一体どこなのか、見当もつかない。スカーは、濡れた制服の上着を脱ぐと、背中側に縫い付けられていた何かを破った。



「緊急伝令用の護符だ。これで、しばらくしたら迎えが来る。こっちの木の側に寄ろう。火を焚くわけにもいかないから、濡れた服を脱いで。」



スカーは、テキパキと指示を出し、僕を立たせて手を引いて、風がなるだけ当たらない場所に、連れてくると、上着を脱がせにかかった。



「自分で脱げるから!それより、ここはどこ?」

「国立公園の湖のひとつだよ。俺もまさかこんな所につくとは、思わなかった。」



あぁ、確かにそれなら、火をおこすわけには、いかないな。そう思いながら、一生懸命上着を絞る。このくらいでいいかと、木の根元に戻ろうとしたら、スカーが無言で手を差し伸べている。僕も無言で上着を渡すと、僕が絞った倍ぐらい水が出た。なぜだ?



「さっきのあの声、老師だった。――・・・、それに、大公、どうしよう。笑えない」

「あぁ、でも、あの声は間違いない。俺は、パーティーや式典で何度もお会いしているから・・・。だが、今まで大公が王位を狙っているなど、聞いた事ないぞ。・・・どうなってるんだ?」




この国の前国王には、子どもが5人いた。王子3人、王女2人の5人だ。この子どもたちは全員、王妃様の子どもだ。前王は、愛妻家で知られており、側妃をとらなかった。兄弟仲は良好で、とても仲のいい王族として国内外で評判だった。



第一王女は、留学できていた外国の王族に嫁ぎ、第二王子は、国内の外交官シエスタ・ライラックと恋愛結婚。ニック先輩のご両親だ。そして、どうしてか、第三王子が前王から指名で王に就任し、第一王子は降下し、ガルタール領地を任され、大公になった。いまだに独身だ。



継承について、揉めたとも聞いたことがない?これはもう僕たちの手に負える代物ではないので、帰ったら早急に、ナダルグ様に知らせを出そう。ちなみに、第二王女は、スカーの母君だ。一目惚れしたナダルグ様に猛アタックして、伯爵家に養子に入ったのち、嫁いだそうだ。



現国王も、愛妻家で王子が1人、王女が2人いらっしゃる。さっきまでは、興奮のせいか、寒さを感じなかったのだが、落ち着いてくると、寒さのため震えだしてきた。なるだけかただを縮めていたのだが、無理だ。さむい!!それに気づいたスカーが僕を自分の前に座らせ、後ろから抱き込んだ。


なんだか今度は、別な意味でどきどきして、熱くなってくるような気がする・・・。だが、手先足先は冷たいので、どうやら気のせいのようだ。



「あの場所は、やはり彼が教えたのだろうか?」



ポツリと頭上から独り言のような、尋ねている様な、区別の付けがたい言葉が降ってきた。


「スカーが、彼の立場だったら、どうしますか?」

「・・・大切な、思い出の場所だから、教えない」


「なら、それでいいじゃないですか?彼が、あの場所を教えた訳ではなく、他の誰かが提案した場所が、たまたま、あそこだった。」


確かめようがない。それなら、自分の心が、ざわつかない解釈が一番だ。そうじゃないと、生きずらい。後ろ肩に感じた暖かな湿り気は、帰るころには、他の湿気に紛れて、誰にも気づかれることはないだろう。


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