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4:いやよいやよも

そこからの展開はあっけないものだった。


先輩の問いかけに対して、しどろもどろに口ごもりながら、去っていった。先輩も特に追いかけることは無くその姿を見送った。



完全に視界から姿が消えた後、僕は先輩に少し意地悪な質問を投げかけてみた。


「・・・先輩、彼らの話どこから聞いてました?」

「――・・・あのような根も葉もない言葉に君が一喜一憂する必要はない」



先輩の言葉に、ある程度話を聞いていたと言う事が伺える。そこで僕は、その場にしゃがみ込んで両手で顔を覆いしばらくの間じっとしてみた。すると、先輩のまとう空気がどうしたものかと焦っている様な感じがしたので、さらに肩を泣いているみたいに上下に動かしてみる。



どうすることも出来なくなった先輩は、同じように地面にしゃがみ、僕の肩を支えながら、


「・・・クケルト、俺は今まで誰かを(なぐさ)めた経験がない。――どうすればいいのだろうか?」


「――・・・モアっ」



しばらく思案した後、はぁとため息をつき、先輩がモアを呼び出した。


「モア、すまない。寝ていたのか?」


そう問いかける先輩の声はとても優しい。


「モア、俺の代わりにクケルトを慰めてくれるか」


キューと可愛く鳴いたモアは僕のとなりに座り込んだらしい。それから、鼻先でつつくように二の腕をツンツンした後、反応のない僕の髪の毛をむしゃむしゃしだした。


「わー‼食べないで、モア」


僕の大きな声に一瞬で後ろに跳躍した。顔を上げた僕とバッチリ目が合った先輩の眉間にしわが寄った。


「ごめんなさい。でも、許可は出たので触ってもいいですよね」


飽きれたのか、諦めたのか、先輩は僕の好きなようにさせてくれた。


「モアー、おいで」


犬にするような対応で怒らないだろうかと思ったのだが、なぜかしっぽをフリフリ、確かにちょっといかつい顔をしているが、


「先輩、モアってもしかして子供ですか?」


「あぁ、よくわかったな。生まれて30年ほどだ。人間の感覚だと3~5才らしい」


「好奇心旺盛なはずですね。いいな~、僕も契約できればな」



触ってみたモアの毛並みは、なんだか雲を撫でているようだった。確かにここに居るのに不思議な感触だ。


「そんなに幻獣が好きか?」


唐突な先輩からの質問に僕は間髪入れずに答えた。


「もちろん!幻想圏の生物ですよ?ここに出現している姿と向こうでの姿は違うんですよね?でも、人間は生身ではいけないから魔力で外壁膜張らないと見に行くことも出来なくて、僕は、子どもの頃から書庫に籠ってありとあらゆる本に目を通しました。英雄の冒険譚、魔科学の本、魔草薬学、経済学、帝王学、僕は一度目を通すと本の内容を忘れません。そんな僕が何度も何度も読み返したのが幻獣と幻想圏に関しての本だけだったんです。」



あっ、やってしまった。向こうにいた時もこの調子でしゃべってしまい、だれにも理解してもらえなかった。そして人は理解できない事から少しずつ距離を取り出すか、ウソつき呼ばわりする。とくに内容を忘れないなんて理解してもらえたことがない。恐る恐る先輩を見ると、笑っていた。



「先ほどの彼らの話を聞いていた時の様子とすごいギャップだな」


「僕は、僕以外の事に興味がないんです」


「・・・俺に付きまとっていたのは?」


「?スコティウェリルを触りたかったからですけど?」


僕がそう言うと先輩はさらにどっと疲れたようにその場にしゃがみ込んだ。いつもどこから見かけてもピシッとしている先輩しか見たことがなかったのでなんだか新鮮である。



5限の授業をサボってしまったのでどうしようかと考えている時、ぐーっとお腹が鳴った。


「うぅ~、お腹空いた」

「昼を食べてないのか?」


「食べる前にここに連れてこられたんです」


先輩はしばらく考えた後、モアを還してついて来るように言われた。




「どうぞ」


そう言って通されたのは、先ほどまで授業を受けていた魔草薬学の隣の先生が使っているであろう部屋に設置されていた・・・魔術陣?



先輩が手を壁にあてるとそれまでなかった陣が浮かび上がり光り出した。先輩を見ると顎をくいッと――行けと言う事ですね。覚悟を決め、壁に向かって進むと何の抵抗もなく進むことが出来た。その場で立ち止まっていると、後ろから続いてきた先輩が邪魔という様に背中を押してきた。



改めて部屋の中を見ると、10畳ほどの広さがあり四方すべてが本に囲まれている。中央に設置されているテーブルとソファーが最高にマッチしている。



「軽食とお茶を用意するから、適当に座って待ってなさい」


「あの、ここにある本、読んでもいいですか?」



小さくクスッと笑いながら頷いたのを確認すると、一番近くにある本棚から一冊を手に取った。まずは流し読みでパラパラと速読。気になった章をゆっくり読んでいく――


「食べなさい」


先ほどまでお腹が空いていたと言っていたのに、今では俺の声も届かないほど集中している。



妙なのに懐かれてしまったと思ったのは入学式の時だった。風紀の仕事の一環で、生徒会の補佐に回っていた時の事――。生徒会のパフォーマンス、慣れている子たちもいるが外部性の子の中には見慣れぬ魔術にはじめはポカンとしているが、気分が高揚してしまい周りを見ずに歩き回り同じ新入生にぶつかっている生徒が何人か見受けられた。



しかし、ほとんどの生徒は自分で倒れることを回避していたので手を出す必要性がなかったのだが、ひとり思い切りバランスを崩している子がおりとっさに背後から支えた。



暗がりの中でも分かる漆黒の少し癖はありそうだが柔らかそうな髪、新入生にしては小さいような気がする身長。誰が支えてくれたのだろうと伺い見る瞳は茶色のようだ。



しばらく見つめ合ったあと、弾かれるように相手が離れた。

「(面倒なことになったかもしれない・・・)」



去年、彼の様にバランスを崩した同級生を支えたところ何を勘違いしたのかストーカー化してしまい、その後、トラブルの末退学処分になってしまった。



同じ事が起こらないといいのだが・・・断じて自意識過剰ではない――と思いたい

その時、呼んでもいないのに相棒の幻獣スコティウェリルのモアがいた。



モアは契約幻獣なので人を襲う事は無い。しかし、子どもの個体だがスコティウェリルは体が大きい上に決してかわいい見た目ではない。俺から見たらとても人懐っこい可愛い相棒なのだが、無学のものは見た目に、学習したものはスコティウェリルの気質に離れていくのが常であった。



この新入生もどうせ同じだろうと顔色をうかがおうと観察してみると、瞳が輝いていた。

あれ?なんだか思ってたのと違う――・・・



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