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37:当事者の口から語られる3


母上から聞かされた話は当時、到底受け入れられるものではなかった―――。


「スカー、今から話す事、落ち着いて聞くのですよ。カンティー男爵が逮捕されました。罪状は隣国に我が国の情報を流出させていた罪です。奥方とご子息のテクロス様は、関係性が認められず・・・、ユリウス様は、現在行方不明だそうです――。」



母が何を話しているのか理解できなかった。ユリウスはついこの間まで、領地の屋敷で一緒に過ごしていたし、別れた後も、手紙のやり取りが続いていた。それなのに、行方不明?



それからしばらく俺は、学園に戻ることなく、屋敷で母上たちと過ごしていた。すると、少し疲れた顔をした父上が帰ってきた。顔を合わせずらかったが、ユリウスがどうなったのかが気になり、父の執務室を尋ねた。



すると、ちょうど呼びに行かせようと思っていたと、ソファーに座りなさいと言われた。少し重い沈黙の後、父は話してくれた。





俺が、ユリウスを屋敷に初めて招待した1年目は、特に違和感はなかった。しかし、冬期休暇、さらに2年の夏季休暇のあたりから、屋敷の書類の配置が少しおかしい事に気づいたらしい。その頃から、隣国が防衛に関しての、ちょっとしたすき間をついてくるようになった。



そこで、まずは疑いを払しょくするため、屋敷の者達から改めて行き、とくに怪しい点は無かった。次は疑いたくはないが、俺の友人であるユリウスを、しばらく屋敷に滞在させない様に仕向けたが、失敗したので、ニセの情報をつかませてみることにした。



そして今回、そのニセ情報に相手がかかったと言う事だった。ニセ情報だと気付いた相手が俺や母上、妹に手を出さない様に王都の屋敷に待機してもらったという。



「スカー、残念だが、お前が友人だと思っていた人物は、お前を欺いていたらしい。今朝、確認してきた。隣国に向かうための、普段は使われない道で、土砂崩れが起きた。そこに一台の馬車が被害にあっていたので掘り出したら・・・、顔は潰れていて、判別が出来なかったが、背格好、髪色などからユリウス・カンティーであると断定された。一緒に同乗し亡くなっていたのは、隣国の間者だ」



父の話す言葉がとても遠かった――。間者?ユリウスにも、事情があったのかもしれない。脅されていたのかもしれない。それなのに、俺は親友でありながら、全く気付かなかった。滑稽だ。俺自身にあんなに寄り添ってくれていたユリウス。困っていたのなら、俺がいくらでも手を差し伸べた。今からでも、助けられるのなら、いくらでも力になろう。それなのに―――・・・・



死んでしまったら、何もできないじゃないか。






流れ込んでくるスカーの虚無感は、自分の心にもぽっかり穴が開いてしまいそうな、そんな感じがした。それから彼が、どうやってここまで立ち直ったのかは、周りのサポートのおかげらしい。でも、あれから親しい友人を作るのは、やめたみたいだ。



だが、ここにきて、やっと表面上だけでも心の平穏を取り戻したのに、思いがけず出てきた名前――。心が騒めきもするはずだ。やはりあの時、名前を出さなくて正解だったと、僕は心で安堵したけれど、今はこれを感じ取られるから、少し厄介だ。



「モリア?なぜ、安堵が広がったのだろうか?――・・俺に何か隠していたか?」

「心情が伝わるって、面白いですけど、厄介でもありますね」



笑ってごまかされては・・・、くれないらしい。


「怒りませんか?」

「怒られるようなことなのか?」


自分で地雷を仕掛けに行ってしまったかもしれないと、言葉の選択ミスをしてしまったが、後の祭りだ。ここは素直に白状した方が、傷は浅く済むと、3人組を発見した時に、老師がユリウスの名前を呼んでいたことを、白状した。無言でゲンコツをもらった。痛い――




「この事は、あの時いたメンバーに共有させてもらうからな。ダン辺りにこっぴどく叱られるのを、覚悟しておけ」



なるほど、ダン先輩からの説教が来ると分かっていて、あの程度で済ませてくれたのか。痛かったけど・・・。話をしてからのスカーは、前よりずいぶん緊張が取れている様な気がした。いい意味で、遠慮が無くなったような感じだ。それから、僕はどうせまだベッドの上から動けないので、スカーにユリウスについて聞いてみた。


「スカー、あなたの知っているユリウスの事を教えてください。」



それから、ぽつりぽつりとスカーは彼の事を話してくれた。記憶の奥底にしまっていた、表面の苦い部分から、奥底にある大切にしていた所を取り出すように――。





あれから僕は体調面を考慮して、学園に戻る事は出来なかった。なので特別措置として、テストを他の生徒の倍受けることで、単位を取得し、進学できると学園側と話を付けた。公爵様が――。


そして、母様も僕が目覚めてから数日は滞在してくれていたが、公爵様の計らいで付けてもらった補佐官2名と共に、領地に帰って行った。スカーも屋敷に留まると言ってくれたが、これ以上の迷惑はかけられないので、週末帰って来る事を条件に、ダン先輩に連れられ学園へと帰って行った。



今は、リハビリを兼ねて散歩中だ。トータル12日間寝たきりだった体は、もともとたいしてなかった筋肉が、ゼロになった。初めは、立ち上がる事すら困難だったが、今では、散歩まで出来る。10分で息が上がるが・・・。


「モリアさん、少し休憩しましょう」


そう言って、簡易の椅子を用意しているのはスピアだ。僕の護衛兼お付きでこの王都の屋敷に残ってくれていたのだ。


「ありがとう。まだまだ日常生活に戻るのは程遠いですね。」

「焦りは禁物です。」

「でも、また不測の事態が起こらないとも限らない、犯人は結局わからず、ですか?」



沈黙が返事だろう。あのお茶会の日、あそこで集まりがあったのを、知らせた人間が必ずいるはず、それがいまだにわからない。そして、目的も。ユリウスという人物は、いったいどうしたいのか?情報が足りない。


「スピア、聞きたいことがあります。」

「なんですか?」


「あなたは、ユリウスという人物について知ってますか?」

「ッ・・・、はい。当時、まだ私は見習いでしたが、スカー様のお側におりましたので・・・。」


「あなたの主観で構いません。ユリウスという人物はどんな人でしたか?」

「――・・お応えしかねます」


「あぁ、スカーにはちゃんと許可を取ってますよ。誰かが咎められることはありません。それに、今の僕たちの間に、隠し事なんて出来ないので、安心してください。」



スピアにそう説明すると、彼は少し考えてから、話してくれた。ユリウスはスカーの事を、とても大切にしている事が使用人から見てもわかるほどだった。そして彼は、スカーの見ていないところでも、使用人に礼儀正しく接し、評判がとてもよかった。過去の事件の時、屋敷から情報が盗まれたのも、彼の仕業ではないと思っている使用人が何人もいる。



スピアの話を聞いて、確かに腑に落ちないところが、たくさんある。今確実なのは、現在、巷を騒がせている事件に、彼が根深くかかわっていると言う事だけだ。


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