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35:当事者の口から語られる

それから、また僕が目を覚ましたのは2日後だった。


「肩の傷は順調に回復に向かっているよ。情人ではありえないスピードで、ね。でも、痕は残るだろうね」


「かまいません。僕は男ですし、それに・・・、なんだか、かっこいいし?」


傷の診察に来ていたアヴィ先生に僕はそう伝えた。これは、本心だ。それに、あの時、ラクテルウルフがあんなに側にいたなんて、噛みつくことがなければ、隅々まで観察したかった。そんな妄想をしていると、ノックの音が聞こえた。



「アヴィ先生、カタルフィー先生が探していましたよ。」

「あッ、今日は急ぎの用があるんだった!ごめん、モリア。経過は良好。このまま様子を見て行こう。」



それじゃ、と大慌てで部屋を後にして行った。お茶や軽食の乗ったワゴンを、押してきたスカーは、僕が食事ができるようにベッドにテキパキと準備をしていった。それから、自分も座れるように椅子を用意し、そこに腰を落ち着かせた。



僕ではない。すごくドキドキしている。何から話そうか、どう話そうか、僕はスカーが話しだすのを待った。





17年前―――。ピリア王国、辺境ガスタルバーグに一人の男児、スカーレット()が誕生した。父、ナダルグ。母、オリビアの子だ。父はガスタルバーグ直系。母は現、国王陛下のいとこにあたる。尊き血縁も引いていると言う事もあり、厳しくも、愛情豊かに育てられた。



それから5年後、今度は女の子ナーディアが誕生した。それからさらに2年。俺は、7歳になっていた。この年齢になると、あと2年後には学園に入学するので、お茶会などでいわゆる、学友を選ばなくてはならない。



俺は母に連れられ、あらゆる茶会に参加したが、そこに集まっていた令嬢も、子息も、誰一人俺の目には止まらなかった。いや、正確に言うと、誰もかれもが親から仲良くするようにと言われているのが、見て取れたのと、俺の見た目の寄って来るものばかりで、うんざりしていたのが本音だ。生まれた時から兄弟のように育っていたダンがいたので、俺は学友を作らずに学園に入学した。



不満があったわけではない。厳しいが愛情のある両親のもとに産まれ、何不自由なく育った。それでも、少しだけあの頃、願っていたことがある。身分も何もかも関係なく。本音のまま語り合える誰かがいてくれたら・・・。



学園に入って初めの頃は、身の回りのことをすべて、自分でしなければならなかったので、慣れるのにしばらくかかった。ここでも、自分がいかに周りに支えられてきたのかを、痛感した。それを学ぶための場所なのは分かっているが――・・。



そばらくして、生活にゆとりが出てくると、どんな同級生がいるのか、目に留まるようになってきた。上位貴族出身者ほど、ここの生活に慣れるのに時間が掛かるのか、下位貴族や、平民出身者に当たり散らしている者が多かった。あまりにも目に余る者には、それとなくクギを刺していったら、勘違いした輩に付きまとわれるようになり、静かな場所を探して、ウロウロしていた時に出会ったのが、ユリウスだった。



人が滅多にこないであろう校舎の影――。個人の持ちモノなのか、幻獣について書かれている書物に静かに目を通していた。時折、ふっと(ほころ)ばせた顔は、本当に幸せそうで、俺は珍しく自分から声をかけた。



実は、初めて声をかけた時、ユリウスがどこの誰かも知らなかったのだ。お互い名前も聞かず、時折あの校舎裏で言葉を交わす。俺のそれまでの人生において、一番楽しいと思える時間だった。



そんなある日の事だった。前の授業の先生の用事で、次の授業に遅れそうだった俺は、普段は使わない道をダンと急いでいた。そこは日の入りが悪く、年中薄暗い。そのため、学園怪談話のモチーフにもなっている場所なので、あまり人が来ない。



誰かが言い争っている?・・・いや、どちらかといえば、一方的に誰かが言われているような感じだ。トラブルには巻き込まれたくないと、そっと端からのぞいて見た。俺に背を向けている奴が、誰かを壁際に追い詰めて、一方的に相手を罵っていた。



背を向けている奴が、体格がよかったので、影になって顔が見えなかったのだが、一瞬だけ見えた。あれは、いつも校舎裏で話している〝あの子〟だ。その時は、まだ名前も知らなかったんだ。



「カンティー男爵家の2人だな」


ダンが小声で教えてくれた。同じ名前だと言う事は、兄弟なのか?罵り具合から、とても良好には見えなかった。しばらく見ていると、授業に遅れそうだったからか、肩のあたりを殴って、俺達とは反対の方向に去って行った。



体格に差があるのに、強く殴られたからか、肩を押さえて、痛みが過ぎるのを待っているようだった。どうせこのまま授業に行っても、間に合わないと思ったので、俺はダンに先生への伝言を託し、彼の側に行った。



「大丈夫か?」


俺が声をかけると、顔を上げ、誰が声をかけたのか確認すると、彼はサッと視線をそらした。


「・・・、授業に遅れちゃうよ?僕は大丈夫だから、行って」

「もう、今から行ったところで間に合わない。だから、俺がサボりではないと言う理由になってくれ。自己紹介がまだだったな、俺は――、」


「知ってるよ。君を知らない人なんて、この学校にはいないんじゃない?スカーレット・ガスタルバーグ公爵令息様・・・。僕の方こそ名乗らず失礼いたしました。カンティー男爵家、ユリウスと申します。これまでの無礼をお許しください。」



公の場で声をかければ、こうなる事は分かっていたのだが、俺は少しどこかで期待していた分、がっかりしてしまった。



「でも、この学園は平等をうたっている。僕たちの始まりは、お互いただの同級生だと思ってたから、これからも、その認識でいいのだろうか?スカーって呼んでもいい?それとも、〝様〟を付けないといけないのかな?」



ユリウスのこの言葉に、先ほどの気持ちはどこかへ行ってしまうほど、嬉しかった。敬称などいらない、俺も、ユリウスと呼ぶ。そこから、ダンも交えて俺達は3人で行動することが増えた。それからの学園生活は楽しかった。初めての夏季休暇がもどかしいと思えるほど、俺達は親しくなった。



休暇の時はお互い手紙のやり取りをして、親睦を深め、初等部2年の休暇はユリウスを領地に招待した。たくさんの話をした。この時、家庭の事も聞いていたので、なるだけ家に帰りたくないというユリウスを、休暇の度に王都の屋敷か、領地の屋敷に連れて帰っていた。


読んでくれている人がいるだけで筆が進む。ありがとう

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