3:鬼ごっこ
入学式から1か月――
僕は見事にクラスから浮いていた。
まぁ、授業に支障がある訳でもないし、ひとりは慣れているのでどうでもいい。それより、今日こそ先輩から許可をもぎ取ってあの柔らかそうな毛をよしよしするぞー
※
「今日は前の授業の復習から入りましょう。それでは、ベルトニー君、教科書の5ページから読んで」
「あッ、はっ、はい」
4限目、魔草薬学の授業だ。この世界には幻想圏と言われる幻獣が住まう領域がある。そこから漏れ出たエネルギーが変換して魔力になる。
その時、人体の幻エネルギーを魔力に変換する器官が発達している人だけ魔術が使える。この器官が発達していてなおかつ強大なエネルギーを使える人ほど血筋が王族に近いとされている。そういう人たちを選んで婚姻を結んでいった結果らしい。
僕は、残念なことに魔力ゼロ。それならどうしてこの学び舎に魔力の使えない僕や平民、下級貴族が通っているかというと、魔石で補うことができるからだ。これにより、調合、その他の業務などもこなせるため、みんないい職に就くためにここへ来て学んでいると言う訳である。
「今日の授業はここまで、次回は実習のための前準備として魔草を取りに行くので、玄関に集合しておいくように」
そう言って教員は出て行った。僕も急がなくては、何も出ていない机から立ち上がり教室から出ようとしたその時、
「ちょっと待て」
そう言って不機嫌そうな声に呼び止められた。視線を向けると、そこに立っていたのはロナウド・ディスペル・・・忘れてしまった人のために補足すると、次席だ。
「何か用でしょうか?僕は急いでいるのですが」
「男爵家のくせに生意気な」
取り巻き1、子爵家のパーシー・スミス、ディスペルの分家すじらしい
「こいつやっちゃいますか?」
取り巻き2、ガスパー・リシベル、商売と金貸し業で稼いでいるリシベル商会の次男だ。
周りは遠巻きにこちらをうかがっているだけで助けなど初めから期待できない。ここで騒ぎを起こすのも得策ではないと判断して、仕方なく付いて行くことにした。
※
ここまで来ると、戻るの大変そうだな~、と言うぐらい端の方まで来てしまった。お昼も食べ損ねるし今日は厄日かな・・・。そんな事を考えていると、前を歩いているロナウドが急に足を止め
「おい、お前調子に乗っていられるのも今のうちだけだからな。入学試験で首席だったのもまぐれだ。次こそは俺がトップになる。いいな」
命令し慣れている上位貴族特有の威圧。どうぞご勝手になどと軽口をたたきたいが、下を向き嵐が過ぎるのを耐える。このくらいどうと言う事は無い。
自分をこいつらと同じレベルに落とす必要などどこにもない。そう思って耐えていたのだが、それが面白くなかったのだろう。取り巻き2のガスパーが口を開いた。
「あぁ、そうそう、知ってました?ロナウド様、こいつの実家辺境そばの男爵家で、母親が後妻なんですけど、娼婦だったらしいですよ」
豪商まで上り詰めた輩は、情報戦もお手の物らしい。僕が何も言わないのをいい事に取り巻き1,2のメンタル攻撃はヒートアップしていく。
「そうなると、こいつ本当にクケルト男爵の子どもなんですかね?」
この年になって言っていいことと悪い事の区別もつかないのか?バカなのかな?この国の出生届は魔石媒体を使っている。とくに貴族ともなれば上級だろうが下級だろうが、血縁の有無まで調べられるようになっているのは少し勉強すればわかるはずである。
これだから、学校はきらいなんだ。そろそろ時間が無いので、ここらへんでお開きにしてもらおうと口を開きかけたその時、
「そこで何をしている?」
ここしばらくで耳に馴染んだ声が聞こえた。まさか、そんなことがあるはずがない。だって、あれから僕がしつこい位、追いかけ回した先輩は僕の顔を見るなり眉をひそめてむずかしい顔をすることが増えてしまった。
表情が変わると、彫刻のような顔に人間らしさが出るので僕は好きなのだが、先輩のことを陰から見守り隊の方々は目から光線が出そうな顔で睨んでくる。
そんな僕のことを先輩がわざわざ探しに来る?
「槍でも振ってきますかね?」
「・・・どういう事だ?」
僕から視線を外し、スッと真顔に戻ってしまった先輩はそのまま僕を呼び出した3人に視線を向ける。先ほどまで得意げに語りまくっていたガスパーは取り巻き1のパーシーの後ろに巨体を隠そうとしているが隠しきれていない。
そして首謀者であろうロナウドは初めこそ視線がキョロキョロしていたが、腹をくくったのか先輩を睨みつけるように見据えていた。
誤字脱字報告、ありがたいです。読んでくれてありがとうございます。