27:仮契約
ベリルたちから話を聞いた後も、僕は変わらぬ日常を過ごしていた。2日に1度の供給は、同好会の部室で行っている。
「やっぱりオレからだと、30分かかっちまうな」
「・・・涼しい時期だからいいですけど、これだけ密着しないといけないなんて、夏はどうにかしないとキツイですね。」
今日はダン先輩から供給してもらっているのだが、ソファーに座り、なるだけ体を密着させないとならないのは、どうにかして欲しい。それより気になるのが、ここ最近のガスタルバーグ先輩だ。何かを考えこんでいる様な気がして、気になる。
「・・・、クケルト、提案がある。」
観察されていることに、気づかれてしまったのか、決心がついたのか、先輩からこんな事を言われた。
「俺と、契約を結ばないか?」
「おい!スカーッ!」
そばにいたダン先輩が、慌てたようにソファーから立ち上がった。どういうことなのか、僕にも分かるように説明して欲しい。
「ダン、わかってる。ちゃんと説明して、お互い納得してから、進めるし、合意したとしても、初めは仮契約からだ。」
いったい何の話をしているのか、分からないが、僕の、正確には幻精の事だと言う事は、理解した。ダン先輩は納得しきれてはいなかったが、あとは、僕とガスタルバーグ先輩の問題だと思ったのか、場所を譲った。
「クケルト、今から契約について説明する。わからない事は、あとから質問してくれ。」
そう言って、先輩が説明してくれたのは、幻獣との契約方法だった。幻獣と契約するには、まず、自分が相手より格上であることを、認めさせる。その後、幻獣と契約、厳密に言えば魔力回路をつなぐ作業を行うらしい。これにより、幻想圏にいる幻獣をこちらに呼ぶことができるようになる。
デメリットは、幻獣とつないだ回路は、条件がそろわない限り、幻獣側から解除することが出来ない。そして、僕の場合、通常、回路の調節をするのは幻獣側なのだが、僕にはそれが出来ないので、しばらくの間、頻繁に回路の微調整をしてもらわないといけない。
その代わり、魔力供給が自動でできるようになるので、こうやって2日に1度、面倒な時間を作らなくてもよくなる。しばらくの間だけ、調節作業に手間がかかるが、上手く行けば1カ月に1度でよくなるらしい。契約した方が、いいのではないか?と、気持ちがそちら側に寄っていたのに、横やりを入れてきたのはダン先輩だった。
「スカー、まだすべて話してないだろうが!」
「・・・」
「言いづらいなら、オレが教えてやる。モリア、いいかよく聞けよ。この話を踏まえて考えろ!契約はお前から切れないんだからな!」
そうして、ダン先輩から教えられたのは、契約後の幻獣と契約主の関係だった。
「幻獣と人間は、意思の疎通ができない。確かに、長く過ごしているペットなどの気持ちを、汲み取る飼い主、汲み取るペットは存在する。だが、戦いや、戦略などに用いる幻獣はその程度じゃ困る。なら、どうするか、契約時、回路を繋ぐと同時に、お互いの感情も流れるようになる。」
「?感情が流れる?」
「あぁ、エロいこと考えてたら、筒抜けになるぞ」
茶化すように、ニシシッと笑ったが、それから、よく考えろと頭をぽんぽんされ、ダン先輩は出て行った。
「・・、いや、エロいこととか、考えないし!」
「そこじゃない。まぁ、ダンが言ったことは、少し大げさなんだが、感情がお互い流れるのは、真実だ。だからと言って、すべてがわかる訳じゃない。その時、強く感じた思いが伝わって来るんだ。」
ちょっと考え、
「先輩は、イヤじゃないんですか?」
こっちも流れるが、先輩の方だって流れてくるわけで・・・
「――・・・、クケルト、いや、モリアなら、かまわないと思った。」
「先輩」
「契約には、信頼、信用、安心が必要だ。俺の事はスカーと呼んでくれ。」
「わかりました。スカー・・・先輩」
「先輩はいらない。契約は、対等だ。・・まぁ、少しずつ慣れてくれ」
それから、お互い話し合った結果。まずはお試しで仮契約を結ぶことになった。契約は2日後――。アヴィ先生、カタルフィー先生、監督の元おこなうことにし、今日は解散となった。
※
「ちゃんと話し合って決めた事なんですね?」
「はい、大丈夫です」
「はぁ、確かに一番安定する方法ですが、一生を左右しかねない決断です。・・・後悔の無いように」
「まずは、解約できるように、仮契約を結んで様子を見ます。」
「わかりました。立会人になりましょう。」
この日、アヴィ先生は都合がつかず、カタルフィー先生が立会人になってくれた。
「僕は、何かすること、ありますか?」
「リラックスして上向きに寝ていてくれ」
僕は言われた通り、台の上で上向きに寝転がり、スカー先輩がまず左目の上に手をかざし、術式が展開され、何かをしていたが、何をしているかはさっぱりだった。その作業も5分ほどで終了した。
「これで、仮契約は完了です。」
「・・・、なんだか、何かが変わった気がしません。」
「まだ、つないだ道が小さいのですよ。変化はこれからわかって来るでしょう。」
「そうだ、急ぐと体にも、精神にも負担がかかる。これからしばらくは、毎日、回路の調整をするから放課後時間をくれ。10分程度で終わる」
こうして僕にはよくわからなかったが、仮契約が完了し、それから毎日、回路を調整する日々が始まった。初め、毎日だったのが2日おきになり、今では、6日おきになってきた。最近では、調節しながら世間話まで出来るようになってきたのだ。
「スカー先輩・・、スカーの感情が流れてくるって、どういった感じですか?」
「う~ん・・・、自分のものではない感情に、振り回される。そんな感じ、だろうか・・・?」
「自分のものではない感情・・・?」
「モアは子どもだから、感情が揺れ過ぎて、初めの頃は大変だった。ここ最近やっと落ち着いてきたところだ。だから、俺もなるだけ、心を揺らさない様に、勤めよう。」
ちょっとまだよくわからないと、その時は思っていたのだが、それがどういったモノなのか思い知るのは、割とすぐの事だった。




