23:幻想圏
はッ!!本当に幻想圏に行けるのだろうか?僕は、何かの幻覚を見ていたのだろうか・・・?そう思い、視線を上げると、すぐそばにいた先輩と目が合った。先輩は、僕の動揺を察知したのだろう、ちょっとおかしそうに笑ったあと、夢じゃないと言うように頷いた。
どうしよう。叫び出してしまいそう―――。まさに夢のようだ。本当に、行けるんだ。
「それでは、この場に残った皆さんは、しっかり班ごとに分かれてください。今から詳しい説明に入ります。」
僕は、幻想圏が昔から大好きだったので、その辺りの知識は豊富に持っていたが、興味のないものにしてみると、昔、授業で受けたことがあっても、忘れてしまっているみたいなので、おさらいも兼ねて、先生が皆に説明している。大まかに言うとこんな感じ――・・・。
幻想圏は、幻獣の住む場所なので、私たちの住んでいる仮に現世としましょう。とは、わかりやすく言うと、空気の濃度が違う。水の中で長時間活動が出来ない様に、幻想圏でも、人間では体が持ちません。ところがある時、ある一人の天才学者が、魔力で体をおおえば、行けるのでは?と実験をしたところ、見事成功!今では、魔力のある人間は幻想圏に行けるようになりましたとさ。めでたし、めでたし
「ここまでが、10年ほど前の話です。今では、魔力量が多い人が、自分を含めて2人、人によりますが最大4人まで連れて、幻想圏に行っております。そして今回、振り分けられた班は、魔力量によるバランスで決めてあります。それでは、先輩や、職員の指示に従ってください」
カタルフィー先生の説明は以上だった。
「さぁ、説明はわかったな?バトラーとピニックは外壁の張り方は分かるか?」
「はい」
「大丈夫です」
外壁とは幻想圏に入るための膜のような、壁のような・・・?僕は魔術を使えないので、よくわからないが、本にはそう書いてあった。
「俺が側にいるから、何かあった時はすぐ対処する。その代わり、離れすぎないようにしてくれ。ピニック頼んだぞ」
「わかりました!!」
ジルベルト君は今回の事で、そういった事に対しての先輩からの信用が無くなってしまった。まぁ、一番は僕だけどね。
「クケルト、君は魔力がゼロだ。そのため、俺が君の外壁を張る。絶対に離れるな。あそこは、こちらの常識など通じない。命を落としている者だっている。それを忘れないでくれ」
あぁ、ものすごく心配されている。
「大丈夫です。絶対離れません」
元気よく言ったのに、ため息をつかれた。解せぬ
「それでは、準備のできた班からこちらに来てください。」
そう言っている先生の側の空間が歪んでいた。それが、幻想圏とこちら側の入り口らしい。ドキドキする。僕にはどう足掻いても、踏み入る事が出来ないと思っていたのに・・・。
「ふふッ――・・感動しているところ申し訳ないのですが、モリア君、ここはまだ、こちら側ですよ。さぁ、目に焼き付けてきなさい。あなた方の知っている世界が、いかに狭いか、そして感じてきなさい。世界の広さを、時間は30分です。それ以上は持たないので、スカー君、任せましたよ」
「はい、いってきます。」
言葉に詰まっている僕を置いてけぼりに、先生とのあいさつを済ませ、僕の手を引きながら、空間のゆがみに入って行った。目の前に広がった光景に、驚いた。それ以外、何と表現すればいいのか・・・
目に映るすべての景色の色がピンクなのだ。濃淡は確かにある。山は濃いピンク、足元にある花も、花弁もピンク茎も、葉もすべてピンク。少し紫がかっていたり、パステルピンクだったり、桃色だったりと
「遠近感が狂いそうです。」
「離れるなよ。迷うと出られなくなる」
先輩が張ってくれているであろう外壁は、確かに壁と言うより、膜だった。うるおいベールの膜が、体全部に張られているようだ。息苦しいわけでもないのに、あるのが分かる。
くぅーくぅー
「・・・先輩、もしかしてあれ、モアですか?」
そこにいたのは、2mは越えている大きさの狐のような、狼のような生き物。そして、薄いピンク、ふぁさふぁさの尻尾が・・2つある。
「これだけ姿が違うのに、よくわかったな。」
「姿は変わっても、この人懐っこさは、変わらないじゃないですか」
見るのはかまわないが、採取禁止、離れすぎない事を条件にちょっと自由時間をもらえた。幻想圏でしか自生していない植物。図鑑でしか見たことのないものばかりで、本当に自分の知っている世界は狭いのだと、実感した。名残惜しいが、そろそろ時間だろう。ここで自分たち1年に何かあれば、先輩や先生たちが監督不行き届きになってしまう。
またいつかチャンスはあると、少し離れていた先輩の元へ戻ろうとした時、目の前に壁が表れ、顔を上げると、ロナウド・ディスペルがいた。
「―――・・お前さえいなければ」
そう言って、僕はディスペルに体を押され、後ろに転げ落ちた。その時の出来事は、すべてがスローモーションだった。僕の体が傾いたことにより、後ろにいる先輩が見えた。他クラス1年の2人組に絡まれている。そのまま滑り落ち、止まった。たいした距離ではなかったので、ケガの心配はなかったのだが、先輩と離れすぎてしまったのだろう、僕の外壁が消えた。
その瞬間、僕が転げ落ちたことにより、舞い上がっていたなにかが左目の中に入ってしまった。
「いたッ」
「クケルト!!待ってろ、今、助ける」
その時の感覚を何と言えばいいのだろう、僕の左目の中で、なにかが溶けたような気がした。
※
「―――半分、融合しちゃってるね。」
あの後、僕はすぐに学園の医務室に連れて行かれたが、専門外だと匙を投げられた。その後すぐに、カタルフィー先生の知り合いの医者に来てもらい、診察してもらった。
「どうにかできないの?」
そう言ったカタルフィー先生の質問に、友人で医者であるアヴィさんは、コップに水を注いでその中に、紅茶用の角砂糖を一つ入れた。
「溶けた砂糖を取り出すのは、水を蒸発させればいい。だが、水の方は?」
つまり、僕の体の方が水だと。
「この幻獣は、いったい何なんですか?」
僕の質問に、
「それは、幻獣ではなく幻精。だが、見たことがない。そもそも、幻想圏の生物自体、ほとんど未解明。俺には打つ手なしだ」
幻精は、こちらの世界の虫?みたいなものらしく、謎だらけ。幻獣になる前の子どもだと言う研究者もいる。ただ、これだけは言えるとアヴィさんに言われた。
「そいつは、魔力を欲しがる」
誤字の報告、助かります。ありがとう




