21:初日後半 【注意:残酷なシーン有】
※このシーンは動物を解体する描写が含まれます。苦手な方は飛ばしてください。
何とか全員合流して、先ほどの所へ引き返した。
獲物の側で血には触れない様にウロウロしていたモアに駆け寄る。
「モア、ありがとう。抱きしめたいけど、ダニとかついてたら嫌だから、あとでね」
そう言って僕は解体の続きに戻った。あれからちょうど30分ほど経過しているので、先輩と協力して下ろした。
「これからこのイノシシを解体して、食料にする予定だけど、見てしまったことにより、食べられなくなるなら、申告して。」
と言うか、ジルベルト君とベリルは、ぶら下がっているイノシシを見た段階で、顔色が悪かった。
「ごめん、僕は無理」
「俺も無理だ。すまない・・・」
「大丈夫、先輩は平気ですか?」
「俺も幼少から遠征など、経験しているから平気だ」
役割は決まった。解体組と、寝床組。テントは後でみんなで設営するとして、薪など拾いに行ってもらおう。まずは、2人に持ってきてもらった薄手の長そでを着てもらう。それから、ちょうど胴回りにお互いをつなぐようにロープを縛る。
「見えないところに、傾斜があったりすることもあるから、このロープがお互いの命綱だからね。発煙筒、発光弾も一つずつ持って行くこと。」
こうして二人を見送ったあと、まずは獲物を川に浸ける。こうすると体に付着しているダニなどが離れるか死ぬ。この時ついでに、軽く血も洗い流す。
10分後――、今度は内臓を取り出す。ちょうどお尻の所から首辺りまでをナイフで切り開く。刺し過ぎると内臓を傷つけてしまい肉がダメになってしまうし、浅いと何度も入れる羽目になるので見極めが難しい。
普段なら内臓も食べられる部位は処理するのだが、今回、内臓は諦める。先ほどより軽くなったイノシシをもう一度、川に運んでキレイに洗い、しばらく冷やすためにさらしておいた。
周りを見渡すと、まだ背の低い木があったのでここにイノシシをロープで逆さに吊るした。それから、皮を剝いでいく。はじめは切れていたナイフも、猪の油で切れづらくなり、そのたびに石鹸で洗いに行く。
皮を剥ぎ、首の所で落としたら、街の市場などでよく目にするお肉になった。これくらいなら、もう大丈夫だろうと、いらない内蔵と、皮、頭部を持って、帰ってきている二人にお肉の番を任せ、森に入った。
もちろん先輩も付いて来ている。それなりに奥に入っただろうか?見渡した中で、一番の大木の根元にそっと袋に包んだモノを置いた。それから、手を合わせ、祈る―――。
「さぁ、次はテントの設営をしましょう。そうしたらご飯を作って、やっとゆっくりできますね」
※
満天の星空だ――・・・
ここにある光源は、焚火のみ。この光が届かない森の中は、深い深い闇だった。だからこそ、星の光や月の明かりが眩しい。
「そろそろ交代しよう。」
声をかけてきたのは先輩だった。はじめに火の番をしていたのは、ジルベルト君とベリル。
「一度眠ったら、起きれる気がしない」
「同じく」
2人とも初めての山歩き、散策、テントの設置にと、心身ともにクタクタだ。免除でいいよと言ったのだが、2人とも譲らなかったので、それならと、まとめて12時まで見てもらうことになった。
今は朝方の3時――、日中暑いとは言え、季節は秋。森の中は寒い、汲んできた水を小鍋で温めお茶を入れ先輩に手渡す。
「眠れましたか?」
「騎士団の演習で何度も経験したからな。心配ない。それより寝なくていいのか?」
「確かに、寝た方がいいんでしょうけど、この感覚が少し懐かしくて、もう少し味わっていたいような気がします。」
おかしな奴だと言われたが、好きにすればいいと許可をもらい、ときどき薪をくべながら、パチパチとはぜる音を楽しんだ。熱いお茶を冷ましながら口に運んでいる先輩が不意に口を開いた。
「なぁ、クケルト、君は学校を卒業したらどうするつもりなんだ?」
プライベートな事をあまり語らない先輩が珍しく質問してきた。・・・だが、これといってやりたい事がある訳でもない。この学園だって騙されて入ったようなものだし。
「そうですね。僕は継がなきゃならない領地がある訳でもないし、次男と言っても、兄とは半分しか血が繋がっていません。それに、あちらは結婚してもう子供もいます。次の跡取りもちゃんといるので、僕は自由にしていいと言われています。」
だが、言っても男爵、それも、父の時にそれなりに借金が出来てしまったので、貧乏男爵だ。こんな穀潰しを養っている余裕などない。あぁ、だから母様は僕を学園に行かせたのか!と妙に納得してしまった。
「願わくば、幻獣や幻想圏の研究をして、お金がもらえるのなら最高ですね。ドラグーンの研究でもいいです」
「ドラグーンとは、あのデニアのか?」
「そうです。唯一、自分の意思で幻想圏とこちらを行き来出来て、人の言葉も理解すると聞いています。」
「今の段階では、難しいだろうな。この国から一番遠い場所にあり、陸路も海路も1ヶ月以上かかる」
そうなんですよ。と言うと、先輩はふっと顔を少しほころばせた。薄い水色の髪に焚火のオレンジが反射して美しい――。
「先輩は?先輩の将来の夢は何ですか?」
僕の何気ない質問に、思っていたより長い沈黙が落ちた。それから静かに先輩は話し出した。
「――・・幻獣博士になりたかった」
まだ現実を知らず、夢は願えばきっと叶うと思っていた、あの頃の少年は、齢を重ねるごとにその願いが、決して叶わない事なのだと知ったのだろう。
「それなら、先輩は僕が研究した、幻獣や幻想圏に関する論文を一番最初に、目を通してください。そして、おかしな所があったら、添削して送ってください。責任重大ですから、ね」
嫡男で、家督を継がなければならない立場で、それでも、好きな事を諦める理由にはならない。好きなら、どんな形でも、関わっていければ、それだけで、生きて行けることだってある。
僕なら、ひとりを犠牲にして、成り立つようなモノなんて、いっそ無くなってしまえと思うが、あの街で過ごした日々を思うと、先輩の葛藤もわかる気がした。こうして、校外授業は2日目に突入した。
まだまだ続きます。




