2:新入生歓迎の末路
僕なんかよりも10㎝は高いであろう身長。高い位置で結んでいる薄水色のロングヘア。思わず見上げたまま見つめてしまった瞳の色は濃いブルー
「すっ、すみません」
覗き込んだ瞳の中に写っていた僕の間抜け面が目に飛び込んできたことにより一気に現実に引き戻された。
体を起こし、改めて視界全体に写った、たぶん先輩であろう人を見ると表現に言葉が追いつかないって本当にあるんだと実感した。
長身に引き締まった体躯、そこに乗っている顔は、全体的にまだ幼さは残るが武勇を極めている事がにじみ出ている。かっこいい以外の言葉が出てこない――・・・グルグルッ――
上にばかり気を取られている時に足元で何かが鳴いた?唸った?そこにいたのは、
「――・・・!!!」
幻獣スコティウェリル
狼のような幻獣だが、知能が高く人間と契約してくれる個体は極めて少ない。体長は大きい個体だと3mほどにもなるというが、この子は1mをちょっと超えたぐらいだろうか
僕が観察している間、スコティウェリルもお座りをした状態でこちらを見つめており、こてっと首をかしげている。かわいい・・・。噛まないだろうか?恐る恐る手を伸ばそうとしたその時、
「人の幻獣に勝手に触れてはいけない。大丈夫なようなら、君は列に戻りなさい」
「あッ、・・・はい」
僕は後ろ髪惹かれながら列へと戻っていった。触りたかった・・・。その時、僕の後ろに並んでいた確か淳男爵家のリズ・ベルトニー・・・薄い茶色の髪をドングリの帽子の様なスタイルに切っており、ちょっとキョロキョロする様子と相まってリスのような子だった。目線が同じなのもその要因だろう。
「ねぇ、きみガスタルバーグ先輩の幻獣に触ろうとしてただろう。命知らずな…、それにきみ、下級貴族だろう?」
まぁ、確かに我が家は下級貴族だがそれがどうしたというのだろう?
「まさか知らないの?ガスタルバーグ先輩は下級貴族や平民の生徒がきらいだって有名なんだよ。だから、目を付けられない様にきみも大人しくしていた方がいいよ」
心配してくれているのか、怖いもの見たさなのか今の所は分からないが、心の片隅に留めておこうと決意した時、生徒会のサプライズ企画が終了し講堂の明かりが点いた。
『楽しんでいただけたでしょうか?それでは新入生は先生の指示に従って移動してください。在校生はそのまま講堂に残ってください』
最初の方しか見れなかったが、幻獣スコティウェルを見ることが出来たので僕は大満足だった。
その後、寮の方に移動して、まずは部屋割りを確認、荷解きをしたら食堂に集合とのことだった。
※
「101、101、あった」
成績10位以内の生徒は1人部屋だった。これはうれしい誤算である。
「荷物は・・・、大したものは無いし後にして、教科書も全部届いてる」
魔数学、魔草学、魔薬学、魔術学、幻獣学、幻想圏学eat・・・
ちょっと目を通すつもりで開いたのが悪かった。次の教科に手を伸ばしていたその時
コンコンコンッ―――
「モリア・クケルト、いるのなら出てきなさい」
僕はあわてて立ち上がりドアの方へ向かった。
「すッ、すみません」
思い切り開いたドアを顔の側で当たらない様に受け止めている先輩と目が合った。
「重ね重ね、申し訳ありませんでした」
「集合時刻から30分の遅刻だ。何をしていた?」
教科書読んでて夢中になってましたという言い訳は通じるのだろうかと考えあぐねていると、足元に違和感が・・・スコティウェリルだ‼
ネコの様に体を僕の足にすり寄せてこちらを覗い見ている。
次こそは触れるだろうと手を伸ばしたその時、ワントーン低い声で先輩が声を出した。
「モア」
決して怒鳴っている訳でも、威圧しているわけでもないのだが、背筋が伸びた。足元にいるスコティウェリルは耳としっぽが下がっている。かわいい
「勝手に出てきてはいけないと言っただろう?なぜ言う事が聞けないんだモア」
幻獣に行っているだろうと言う事は分かっているのだが、どうにも座りが悪い。そこで勇気を出して先輩に言う事にした。
「あの、大変申し上げにくいのですがガスタルバーグ先輩、僕の愛称もモアなので、僕の居ないところでお願いしてもいいでしょうか?なんだか僕、自分が怒られている様な気がするんです。」
そう進言すると、僕の名前を思い出してくれたのか先輩から、
「・・・モリーやリア、ではなくモアなのか?」
「はい、母が幼少の頃からどうしてもモアじゃないとイヤだと。それで、」
自分でも分かっている。ちょっと女の子っぽいなーとは思っていて抵抗していた時期もありました。しかし、僕の母に口で敵うはずもなく受け入れる以外方法がなかった。察してくれ
「そうか、それはすまなかった。しかし、先ほども言ったが他人の幻獣に勝手に触れてはならない。君も気を付けなさい」
「モリア、と呼んでください。それでしたら、先輩。スコティウェリル触らせてください」
ここから先輩と僕の鬼ごっこが始まったのだ。
続けるって難しい。見てくれている人、ありがとう