18:班決め
「それでは、本日この時間は、来月予定されてる課外授業の班を決めていきたいと思います」
担任のビスコティア先生の言葉を合図に委員長と、副が前に出た。
「前もって知らせていたと思うので、ある程度は決まっていると思いますが、今から20分ほど時間を取りたいと思います。人数は4人まで、必ず最低3人は組んでください。」
委員長の言葉に、大半の生徒は席を立ち、あらかじめ話を付けていた人の側に行き、グループが出来上がっていた。しかし、僕は特に声をかけていなかったので安定のボッチだ。でも、今回の演習、落とすと留年決定。それだけは避けなければ、学校はどうでもいいのだが、母様が怖い――。
そんな感じで、席に座ったままぼーっとしていると、なぜかディスペルとその取り巻きがニヤニヤしながら近づいてきた。
「クケルト、組む相手がいないのか?」
上から目線の嫌味な言い方だ。無視を決め込んでいると、業を煮やしたのか掴み掛ってこようとした。公爵家にあるまじき、ゆとりの無さだなと眉をひそめると、それも気に食わないのだろう。怒りでわなわなと震えている。僕は、いつもこういった輩に遭遇すると、思うことがある。相性が悪いと分かっていながら、なぜ構いに来るのか?これだけは、どれだけ本で学習しようが、理解不能だった。
仕方なく口を開こうとした瞬間―――、
「もう、早くこっちに来てくれない?」
そう言って僕の腕を引き、席から立ち上がらせたのは、このクラスの副委員長、ラズベリル・ピニックだった。
「なッ!おい、俺がこいつに話があったんだ!!横から割り込んでくるな!」
急に横から割り込んできた、ピニックに怒りの矛先が向き、ディスペルが怒りのままに怒鳴る。だが、ピニックは冷静に、ジロリと視線を向けると、
「僕はクケルトと同じ班で、今から話し合いをしないといけないんだけど、君の話は今の授業に関係する話なんだろうね?時間は限られているんだよ?」
まさか僕に組む人間がいると思っていなかったのか、(僕も知らなかった)ディスペルは、悔し紛れに舌打ちをしながら去って行った。嵐が去ったのは有り難いのだが、僕は誰とも班を組む話などしていない。いったいどういう事だろうと、離してくれない手を見ながら彼の顔を見た。・・・ら、逆に睨み返された。
「あんたさぁ、ジルが2週間前にパートナー見つけておくように話したよね?あんただけなんだよ、決めてなかったの!」
ラズベリル・ピニックは名前にちなんでなのか、名前がちなんでいるのか、ラズベリー色の髪色、瞳の色をしている。身長も、僕と同じくらいで小柄だ。それなのに、思っていた以上に気が強いみたいだ。その気迫に押され僕は〝黙る〟を選択した。
「急にごめんね?」
そうやって連れてこられたのは教卓の側、ジルベルト・バトラー。公爵家次男の隣だった。チラチラと送られるクラスメイトからの視線がうざい。だが、教室全体を見回してみると、なんと僕以外ある程度、班が出来上がっていた。中には下位貴族が平民と組んでいるところもある。
「しばらく様子を見ていたのだけれど、誰かと一緒になる様子もなかったし、迷惑かと思ったんだけど、そろそろ時間だったからね。良かったらこのまま俺たちの班に入らないか?」
確かにこのままじっとしていた所で、どこかに入れそうな気は、さらさらしなかったので実はありがたい。そう思って返事をしようと顔を向けると、バトラーの前にピニックが立っており、
〝はぁ?断るとか、ありえないよな?お前なんかを、わざわざジルが誘ってやってんだぞ?早く返事しろよ。カスが!!〟と、瞳が、いや、顔が物語っていた。だが、バトラーは何も気づいていない。そして僕も表情に変化はない。だが、他のクラスメイトの顔は蒼白だったことだろう。僕も背中を向けているのでわかるのは雰囲気だけだが――・・・
「僕もどうしようか困っていた所だ。ありがとう、バトラー君」
「そんな、こんな事しかできなくて・・・でも、喜んでもらえてよかったよ。俺のことはジルと呼んでくれ。」
貴族社会にはありえない純粋培養――いい人だ。花が飛んでる
「・・・それなら、ジルベルト君と呼ばせてもらうよ。僕のこともモリアでいいよ」
「僕のことはベリルって呼んで、モリア!」
先ほどより高いトーンで話しかけてくるベリル。どうやらジルベルトの前では、大きな猫を被っているらしい。こちらにもよろしくと言って、3人分の名前を記載した用紙を提出。また次回の授業で詳細を詰めようと解散した。行く前から疲れたんだけど・・・
※
「懐かしいなー。もうそんな時期なんだね~。俺はニックと同じ班だったんだよ。あの時、初めてニックと話したな~」
そう言って話してくれているのはサリー先輩。今の僕と同じようにあぶれてしまったのをニック先輩が誘って同じ班で活動したらしい。
「そこから仲良くなったんですか?」
「うぅん、違うよ!だって、俺あの授業の時、ニックの事、嫌いだったもん。」
「えッ!!」
いい笑顔で語っているサリー先輩に、初耳だったのかダン先輩、ガスタルバーグ先輩も時を止めていた。
「他者からあんなに文句を言われたのは、生まれて初めてだった。」
実はこの場にニック先輩もいる。今では懐かしい思い出として、本人も納得しているのならいい、のか?
「あッ、あの、何があったんッスか?」
興味津々だったのか、ダン先輩が食い気味にサリー先輩に話の先を促していた。
「サリー、少し恥ずかしいのだが・・・///」
「う~ん・・・、天上人だと思っていた人が、人間だったって言うのが分かったからかな?」
平民のサリー先輩ならではの表現の仕方に、他の先輩たちは??だったが、僕には何となく理解できたような気がする。だが、いいたい事は分かったが、詳細を知りたくない訳ではないので、今度ニック先輩がいないところで、コッソリ聞いておこうと誓う僕だった。
「あの、聞きたいことがあるんですけど、班に振り当てられる上級生はランダムなんですか?」
「いや、ランダムと言うか、魔力量に関係して振り分けられる。」
魔力?僕は皆無だ。下位貴族は量が少ないし、平民は僕の様に持っていない子もいる。でも、なぜ魔力量?
「それは・・・」
「それは?」
「演習最終日のお楽しみだ。」
そう言ってガスタルバーグ先輩は教えてくれなかった。それから数週間、班決めで決まったグループを元に話し合いが何度も行われ、持って行く荷物、サバイバルのための準備を着々と進めていき、とうとう演習日まで残り数日になった。
「こんにちは、一年生のみなさん。生徒会です。本日講堂に集まってもらったのは、数日後に開催される課外授業の上級生の発表をしようと思います。」
見てくれてありがとう。がんばります