17:見て来たもの
「まずは、事後報告になったことをお詫びさせてください。」
そうして話し出した内容にだんだんこの場に集まった人たちの顔が険しくなる。領主様も表情に出ていると言う事はよほどのことだと思ったが・・・気にしたら負け
まず口を開いたのは領主様だった。
「モリア君、君は息子の客人だ。今回は我が領の問題に巻き込んでしまった事、弁解の仕様もないが、あえて言わせてもらう。次からは決してこのような危ないことを単独で行うのはやめなさい。もし、君に何かあれば、私はクケルト子爵に申し訳が立たない――・・・」
あぁ、これは領主としてではなく父親としての言葉だ。ここは素直に謝っておくことにした
「申し訳ありませんでした。次からは誰かと一緒に行くことにします」
「そこではない!」
みんなから突っ込まれた。
一番に立ち直ったのはガスタルバーグ先輩だった。
「それで、出てきたのは3人組、うち一人は今回の件に協力してくれていたギャングの右腕であるアクアで間違いなかったのか?」
「はい、ですがアクアは、下っ端でしょうね。捕まえていたとしても重要な情報は持っていなかったと思います」
「では、残りのお二人が主犯だと?」
セバスの質問に
「いえ、それも違います。老師と呼ばれていた方は、形だけの上司でしょう。実際、暗躍していたのは10代の右目に眼帯をしていた男だと思われます」
珍しくダン先輩が難しい顔をしながら、
「中肉中背、右目の眼帯、茶色の髪色――・・・、没個性だな。」
「はい、人混みに紛れたら探しにくい、一番厄介なタイプです」
「目的はなんだ?やはりエルラド人だったのか?」
「いえ・・・、それが、憶測なんですが、生粋のピリア人だと思います」
「?なんでだ??」
「発音が、標準の発音が板についていたような気がするんです。・・・ですが、会話自体が短かったので、あくまで参考程度にしてくださいね。思い込みは禁物です」
「おう、それで他には何か手掛かりはなかったのか?」
「いいえ、ありませんでした」
大人たちは事後処理がまだまだあるようで、とりあえずここでお開きとなった。勝手に危ないことはしない様にと、僕は先輩の幻獣モアに監視されることとなった。目を輝かせながらお礼を言うと、先輩にため息をつかれた。
こうして、今回の事件はひとまずの幕を閉じた。だが、この事件はこれから始まる陰謀の序章に過ぎなかったと分かるのは、また先のお話し―――
※
~新学期~
おはようございます。先輩のご実家で過ごした夏季休暇も過ぎてしまえばあっという間だった。あれから特に問題は無く、幻獣モアに監視されながら最終日まで幸せな時間を過ごすことが出来たのは僥倖だった。
だが、寮に帰ってきて一つ誤算が・・・、母様に寮が開いているから帰らない旨を伝えていたので、知らないうちに荷物が大量に届いていたのだ。もちろん手紙も何通も―――・・・返事のない息子に焦れたのか、一番最近の手紙など黒い封筒で送られてきており、中には一言・・・〝どこ?〟
常時なら高くて使わないのだが、魔鳥で手紙を送った。もちろん速達です。
返事は通常便でいいと記載したので、届くのは早くても3日後ぐらいだろう。
「おはよう、クケルト君。夏季休暇、どうだった?」
そう言って話しかけてきたのは、学級委員長のジルベルト・バトラー。侯爵令息だ。このくらいの地位がないとクラスのやつらはいう事を聞かない。貴族主義のやつらなどとくにだ・・・。
「おはようございます。有意義な時間を過ごしました」
「そう、それはよかった!2学期は上級生を交えた課外授業があるから、今からでもグループを組む人を決めておいた方がいいよ」
それじゃあね!と彼は去っていった。それを目で追っていると、似たようなことをクラスの中でも馴染めていない者、コミュニケーションが苦手そうな人にそれぞれ言葉を変えながら同じような事を言っていた。
なるほど。グループは3,4人程度、そこに上級生が1人、もしくは2人加わり最大5人のチームを作る。それから、学校が用意している森で3日間のサバイバルだ。森には野生の動物はいるが、幻獣は人が使役して初めてこちらの世界に来れるので、森で会えることは無い。
争うのはいつの時代も人だ。幻獣に襲われるのはそれを使役している奴の命令でしかない・・・。話がそれてしまったが、1年最大のこの行事で毎年揉めるらしい。チームの人数がそろわないのはもちろん、上位貴族が見知らぬ下位貴族と組みたがらない。
1学期関係が築けなかった平民がのけ者にされるなど問題は様々だ。そこで、まだ時間にゆとりのある今のうちに親しい人を作ってもらおうと委員長は声をかけていたのだろう。ご苦労な事だ。
ちなみにこの行事、よっぽどの事情がない限り免除はない。不参加の場合、留年決定
親睦のために始めたらしいが、溝が深まる気がする。
※
「みなさん、久々ですね。お元気でしたか?これ良かったら」
そう言ってお菓子を配っているのは、僕が所属している幻想圏同好会の顧問カーデル・カタルフィー先生だ。
「わーい」
喜んで一番にお菓子を取りに行ったのは、3年生のサリー先輩。平民なので家名は無い。赤に近い桃色の髪を顔周りだけ残して短く切っているので、活発さに拍車がかかっており、年上に見えない。だが、その気さくで飾らないところがいい。
僕の分も持って行きなよ。とサリー先輩の手にお菓子を渡していたニック先輩は、外では見ない表情をしていた。同い年だもんね。仲いいんだ
「なんで、ダン先輩がここに居るんですか?」
そう、新学期初日、半日で終わった部員は示し合わせてもいないのに部室に集合していた。もちろんガスタルバーグ先輩もいるのだが、なぜか、本なんて一冊も読みません。幻獣なんて興味ありませんの塊のようなダン先輩がここにいる。
「なんでって、当たり前だろ?俺も部員だからな!」
「・・・5人になってしまうと部として成立してしまうのではないですか?」
ニック先輩、サリー先輩、ガスタルバーグ先輩、ダン先輩、僕―――・・・
「退部してください」
「待て待て!」
僕とダン先輩のやり取りを見ながら、ニック先輩はおかしそうに笑っていた。
「この2人面白いね。モリア、ここは部員が何人になっても表立った活動はしない。それは僕が退いた後も変わらないから心配しなくていいよ」
ここは、外で気を張らなければいけない生徒の最後の砦。
「だから、君も本当に気に入た子だったら勧誘してきてもいいよ」
ニック先輩はそう言ったが、今の所僕にその予定はない。そしてこれからもない、と思うと独り言ちた。
この小説も誰かの楽しみになっているとうれしいです。読んでくれてありがとう