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16:作戦決行


怒りで殺気を飛ばしたが、このガキはケロリとしていた。


「妹さん、僕が見つけましょう」


そのワードはここに居るやつの中で俺の一番の逆鱗だ。本当は高確率で諦めている。これだけ探しても見つからない・・・いっその事、死んでると受け入れた方が気が楽だ。それなのにこいつはまた希望という名の灯を点けようとする。渦巻いている怒りに気づいているのだろう、アクアとメルラが俺が子供相手に殴り掛からない様にそっと側に寄ってきた。



わかってる。冷静になれ、相手は子供だ。・・・それでも腹は立つ!


「はッ、いったいどうするつもりだ?俺達だって探し続けているのにもかかわらず全く手掛かりがないんだぞ?」


「あぁ、申し遅れました。僕はモリア・クケルト、スカーレット・ガスタルバーグ。この領の子息の後輩になります。貴族の力を借りれたら最強だと思いません?」




そう言ってこいつはどんどん話を進めていった。その最中思わぬ乱入者が入り、計画を練り、信用した訳ではないがこのガキの話に乗ることにした。ここに居る奴らに失うものは仲間以外、何もない。



「日が暮れだしてきましたね。それでは僕はそろそろ帰ります。誰か、僕がいた裏路地まで送っていただけませんか?」



今後の話を詰めないといけないので俺はアクアにガキを送るよう頼んだ――。

帰ってきたアクアの顔色はなんだか悪いように感じた。






決行当日――本日は晴天なり、そして空に浮かぶ月はニヤリと笑っているかのような下弦の月



結論から言うと、作戦は成功。ネルとエラは同じ場所に捕まっていた。

生気の消えかけていたネルはエラが来たことにより間一髪、元気を取り戻していた。

他にも強制労働のための人が数多くいたらしい。


トレイフィヨンカンパニー、およびミリオンの町は領主の私兵団により押さえられた。だが、残念な事もあった。押収できた武器の量が想定よりずっと少なかったのだ。これから、重要人物たちの取り調べなどが始まるが、あまり期待できないだろう。



武闘派の皆様はそれぞれお手伝いに行ったのだが、僕は頭脳派なのでお留守番していることに()()()()()




僕がどこにいるかと言うと・・・。地下通路のメインから外れ、やたら人気のない地域に伸びている道が地図を見ている時から気になった。それに、とある筋からそこに黒幕が表れるとタレコミがあったのでみんなには内緒で、その通路の出口であろう場所で死角に身をひそめ待っていた。



ガン、ガン、ガン!

「開きましたよ。老師」

声の感じは10代、茶色いショート髪の男、最大の特徴は右目にしている皮張りの眼帯――

「カー、老体にムチ打たせおって」

老師と呼ばれているご老人。白髪を撫でつけ、ひげも蓄えている。

「・・・」

最後に出てきたのは・・・アクアだった。ドレッドを後ろで束ね、日に焼けた浅黒い肌――彼は確かにこの街の人によく似ている。だが、僕は彼が他の仲間と話している時のちょっとしたアクセントが引っ掛かった。そこで、あの日の帰り道ちょっとした質問をしてみた。



すると案の定、彼はエルラドでしか言わない言い回しで答えた。

ここ1年探してもネルの消息がつかめなかったのは、彼が情報操作していたからだった。だが、彼によると、手荒な扱いはしないよう、ときどき自分が見に行っていたし、そろそろ解放される予定だったとのこと・・・



その辺は、僕には関係ないとバッサリ切った。僕が知りたいのは黒幕の正体だ。そこでアクアと協力関係を結んだ。僕はアクアの事をカルラたちに一切話さない。その代わり、敵方への今回のミッションのことを秘密にすること、そして撤退ルートの提供で手を打った。




「まさかこのタイミングで来るとは思いませんでしたね。アクア、本当に知らなかったの?」


「はい、たぶんですが、怪しまれていたんだと思います・・・。」


「まぁ、4年?5年かな、持った方だよね~」


「何を言っとるか!ユリウス!まだ武器は足りていなかったじゃろうが!!」


「いや~、〝つむぎ〟との問題がこんなに早く解決するなんて想定外だったんですよ?それに、別な場所にも種はちゃんと蒔いてありますから大丈夫です」


「はぁ~、まぁいぃ、とにかくワシは休みたい。いったん帰るぞ」


そう言って3人組が僕とは反対の方角に足を進めたその時、僕の横に座っていた何かが飛び出して行こうとした。


【こら、モアだめだ】


そう、先輩に念のために護衛としてつけられたモアだった。

とっさにその大きな体を全身で抱き止めたのだが、あの眼帯の男だけこちらを振り返った。



しばらく片方しかない目でじーっと見ていたのだが、老師に呼ばれて事なきを得た――・・・。

(ちなみに、幻影の魔術をモアが使ってくれていたので姿は完全に見えていなかった。)

その後もモアは彼の姿が見えなくなるまで、悲しそうな声で小さく鳴いていた。






なんとか朝日の昇る前に屋敷についた。誰もいないことを確認してそっと部屋に入ったのだが、


「説明してもらおうか?」


ベッドに腰かけ長い足を組んで座っている先輩がそこにはいた――・・・。


「何のことでしょう?」


誤魔化すように笑ったがだめでした。


「なぁ、クケルト、感覚共有って知っているか?」

「・・・!!」


感覚共有、契約した幻獣と主人の間で結ばれているものだ。契約期間、信頼が高ければ、幻獣が見ている景色、音、ニオイまで感じることができるらしい――・・・忘れてたー!!



「先輩、どこまでわかってます?」

「ほぉ、この期に及んでまだ誤魔化しがきくと思っているのか?――・・洗いざらい吐いてもらうぞ」


「わかりました!ちゃんと話します。でも、先輩も僕もですけど、ちょっと一休みしましょう。それから、2度手間になってしまいますので、領主様も含めた皆さんの前でお話しします」



そうして一度先輩とわかれ、仮眠をとる事にした。モアも先輩について帰っていってしまった。




応接間に集まったのはその日の午後だった。


「それでは、これまでに分かっている事をざっと報告いたします。」


そう言ってセバスがこれまでわかっている被害状況、などをみんなの前で報告している。


「モリア様の読み通り、ミリオンの町は巨大な食糧供給場になっておりました。何も知らずに加担していた町民もおりますので、これからの調書、じっくり取り掛からねばなりません。それから、囚われていた者たちですが、スラムの子どもに加え、近隣から行方不明になっていた人たちも数名見つかりました。そして残念なことに強制労働によりお亡くなりになっている方々も多数おります。」


「亡くなったものの家族たちには、見舞金と形見の品をしっかり出すよう通達しろ」


「かしこまりました。それからやはり、製作された武器等の行方を知っている者が今の所おりません」


「今回の事は学園の長期休暇終了と同時に内密に陛下へと報告に行く予定だ。ニック様が整えてくださっている」



領主の言葉に皆の顔が引き締まる。今回の事を内々で処理してなかった事にするつもりらしい。確かに、いたずらに民の不安をあおるよりその方が得策なのかもしれない。



「では、今の所はこちらの主な報告案件はこのくらいでございます。モリア様、何やら話があると坊ちゃまより伺っております。こちらへ―――」


さすが先輩。しっかり退路を埋めてきました。


楽しんでもらえてますか?誰かが読んでくれている。励みになります。ありがとう


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