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15:フライング禁止

それは夜遅くの事だった。


「合図があったぜ」


そう言って部屋に飛び込んできたのは、平民の恰好をしたダン先輩。部屋の中には僕、領主様、ガスタルバーグ先輩、セバス、スピアがいた。この間から話の出ないニック先輩は、オーラがあり過ぎて平民に溶け込むことが出来ないので、話は通してあるが今回は王族として事後処理に回るらしくそのための根回しにあちらこちら出かけまわっている。



「どこからでしたか?」


「チビの読み通り、地下からだった」



この街にはもう使われなくなった大きな下水道が地下を走っていた。昔は出入り口だった場所を、建物などで塞いでいたためその存在に気づかなかったのだ。使われなくなったのは50年ほど前、領主もすっかり存在を忘れていたらしい。



「でも、よくこんな地図見つけたよな」

「普通に書庫にありましたよ」




僕はこの1週間、書庫に籠りゆっくり後から目を通す書籍を振り分けながらも、この街の資料を探し出した。実を言うと地図自体は早いうちに探し出せていたのだが、なんせ場所があり過ぎて、どこにいるのかの目星が立たない。


なので、次に取り組んだのは、今の街の地図を上から重ね、トレイフィヨンカンパニーの本社、支店、倉庫それから、付き合いのある店舗を地下への入り口のあった場所と照らし合わせた。



ビンゴ!フィヨンカンパニーの船着き場の側に一つ、倉庫に一つ、社員寮にしている建物に一つ、それにしても範囲が広い――。奴隷にしている人達がいるなら、食料が必要。大量に買い込んだり運び込むと目立つ。それに、広いと、人力で運ぶのに限界がある・・・



「あっ!」


海から持ってくることしか考えてなかった。物は上から下に流れるのだから――・・・


「すみません。ここ数年で、海から最も遠い町で裕福になった場所はありませんか?」

「ある。ガスタルバーグ元首都ミリオン――数年前、町長が変わってから目覚ましく発展している」

「その町、巣窟になっているかもしれません」

「どういうことだ?」

「元首都だったと言う事はその町を拠点に水路が作られた可能性があります。水路の目的は、海に向かって水を排泄する事。それなら、その水路を使って様々な物資を運んでいるとしたら、町ごと占領したら早いですよね?」


「だが、あまりにも大胆過ぎないか?」

「そう思いますよね?そこがもう罠なんですよ。この計画を立てた人物は、凄い長期で計画を立ててます。用意周到、細やか繊細、そしてねちっこいです。お友達にはなりたくないタイプです」


そもそも友人になる気は無い。なんて先輩が突っ込んでいましたが、早速、秘密裏に調査隊を派遣していた。




そして、待ちに待った合図――


「すぐ突撃か?」


血気盛んなダン先輩が興奮気味にはしゃいでいる。だが、答えはノーだ。


「プランCで行きます」

「おいおい、まだ待つのか?もう敵は目前だ!」


ダン先輩がお怒り気味に食って掛かる。でも、だからこそ待つのだ。


「ここで突入すれば、トカゲの尾っぽ切りになりますよ?相手だって、イヤでしょうが自分の身はかわいいはずです。ここで突入すれば、大元の黒幕ではなくカンパニーと見捨てられた元首都に罪を擦り付けて手を引くでしょうね。」


脳筋のダン先輩でも理解できたのかウッと言葉に詰まっていた。そう、この黒幕は本当に自分の手を汚さない様に上手に色んなものを計画している。盤上で動かしている駒を、あたかも自分の意思で動いているように勘違いさせるのがうまいのだろう。相手は、巨額の富が手に入る。名声が手に入ると、喜んで踊っている。踊らされていて、なおかつ主犯に押し上げられているとも知らずにだ



「プランC。決行は2日後の夜12時です。この日はいろんなカンパニーの船が一斉に大量の荷物を持って帰って来る日です。トレイフィヨンカンパニーも例外ではありません。この日は人手が必要です。黒幕さんも手を貸している可能性が高い。悔しくはないですか?どうせ、切られるのなら、身にまで食い込ませたくないですか?」


僕がうっすら笑みを浮かべながら静かに問いかけると、一番近くにいたダン先輩の喉が鳴った。そして周りを見渡すと他のメンバーも苦虫をかんだような表情をしている。??なんでだ?自分たちの街を引っ掻き回されたのなら、相応の報いを受けさせたいと思うのは間違っているのだろうか?そう思っていた僕にダン先輩が


「おまえのそれ、同族険悪だったんだな」


と同情的な声音で言われた。失礼な!




作戦決行前日深夜――



「いよいよ明日、決行だ。ダミア、ダリラ、頼んだぞ」


「「もちろん」」


「メルラ、おまえはここで待機だ」

「――・・ッ、わかったよ。あんたたち頼んだよ」



「・・・取り戻すぞ。アクア」

「――・・・おうッ・・」



話は、ネルを取り返すために、あの貴族のガキと初めて言葉を交わした日に戻る―――



俺はカルラ、このクソみたいなごみ溜めの町の外で生まれて育った。だが、それも9歳までの話だ。俺とメルラの両親は10年前事故で死んだ。それから親せきをたらい回しにされ、自分たちの意思でスラムに身を落とした。ここもゴミ溜めだが、それ以上に親戚たちのメルラに対しての扱いがクソだった。



そして同じようにさ迷っていた子どもたちを集め、身を寄せ合ったのが俺の取り仕切っているギャングだ。ギャングなんて言っているが、ただ、安全な場所が欲しかった子どもの集まりだ。だが、人が集えばトラブルも出る。それを解決しているうちに腕っぷしの強いヤツ、頭のキレるやつ、気の合う奴が集まった。



何とか表面上は平和を保ちながらここまで来たが、均衡が崩れ出したのは4年ほど前だ。スラム自体流れ者の多い町だが、それにしては入ってき方が異常だった。そしてそこに輪をかけ出したのが、居住のみかじめ料だと取り立てに来だしたファミリーのやつらだ。



初めは反抗していた奴らも、気が付くと消息が途絶えた。これは後ろにもっと大きな組織がついていると踏んで、守るため逆らわないことを決めた。だが、1年前一番末のネルが消えた―――

貴族の落とし種か、先祖返りか、平民、それもスラムで過ごしていながら魔力を持っている。だが、これを知っているのは上のごく限られた奴らのみ。仲間を疑うものはいない。


メルラの取り乱し方はすごかった。あれだけくまなく探しても全く手掛かりがなかった。それでも諦めずに探し続けている。ファミリーが関係している。あいつら以外ありえない



そうして今日もファミリーの動向に目を光らせながらアクアと探索していた時、メルラが息を切らせて俺を呼びに来た。



「おはようございます。大変お世話になりました。まさかあんな熱烈な歓迎を受けるとは思わなくて、うれしさのあまりつい意識が飛んでしまいました」



見てくれは10歳位ぐらい?気分が悪そうにしていたから、少し休ませようと連れて来たが、いったいなんだ?目が覚めたのなら帰してあげればよかったのではとメルラに視線を向けるが、首を横に振られた。何かあるのだろうと、ガキに視線を戻した。



「探し物は何ですか?僕が見つけてあげましょうか?」


ガキの言葉にイラっとしたのは言うまでもない。

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