12:ファミリーとギャング
寝心地の悪さに目が覚めた。腰が痛い――
どのくらい寝ていたのか、体を起こすと、気を失う前よりだいぶ気分が良くなっていた。それよりここはドコだろうか?木箱を平積みにしただけのベッド、掛けられていた布団は色がだいぶすすけていた。
だが、洗濯や掃除は行き届いているのだろう。嫌なニオイやホコリは見当たらなかった。テーブル代わりにしているのだろうか?の上には欠けたお椀に水が入っている。見た目はアレだったが、売り飛ばされるなどの心配はなさそうだと思っていいのだろうか。手かせや足かせがしてあるわけでもないし
まぁ、僕には必要ないと思っている可能性もある。そんな事を考えていると表が騒がしくなった
「あいつ、起きてるかな?」
「だいぶ顔色もよくなってたし、余裕しょ。起きてなかったら叩き起そうぜ!」
あぁ、この声は長髪とスキンだ
「ってか、あんたたち、うるさい!!もう少し静かにできないのかい?」
初めて聞く女性の声だ。
「いや、いや、姉さんの方が・・・」
「なんだい?文句でもあんのかい?」
「すんませんでした!!」
うん、わかりやすい。
扉は元々なかったので、外からのぞき込むだけで中は見える。目が合ったのは、濃い水色の肩までの髪、キレイな小麦色の肌の目鼻立ちのはっきりした女性だった。どことなくアニキと呼ばれた人に似ている。
「あっ、姉さん起きてますよ!」
「見りゃわかるよ。あんた、大丈夫かい?顔色は戻ったけど、ビックリしただろう?でもね、顔は怖いけど、こいつら悪い奴らじゃないから、誤解しないでおくれ。落ち着いたらちゃんと送るよ」
「ここはどこですか?」
「ここは・・・中心街のスラム。ゴロツキどもの溜まり場さ」
そう言ってここのことを説明してくれたのは、メルラさん。この人たちは家族らしい
「血は繋がっちゃいないのもいるけど、あたしたちは家族だ。困難だってみんなで乗り越えてきた。だから家族さ」
「オレはダミア」
スキンヘッド
「オレはダリラ」
ロングヘア―
それからこの2人が、あのドレッドがアクアで、アニキはカルラってんだ。おまえ名前は?などと質問の嵐だった。ちょっとうるさいなと思っていた矢先、3人が素早い動きで僕をベッド代わりにしていた木箱に押し込んだ。何事かと思ったが、シーッとされた後、すぐにふたが閉められた。
「邪魔するぞー」
その言葉と共にひげた笑い声が聞こえた。
「さぁ、今月分の取り立てに来たぜー」
「出すもんちゃっちゃと出せよ~」
「メルラ、お前が来てもいいんだぜ?そしたら、しばらく取り立てはなしでもいいぞ」
どうやらこの辺を仕切っている奴らの下っ端らしい
「ふざけたこと抜かしてないで、これ持ってさっさと消えな」
「ひゅ~、その気の強いとこも、たまんないぜ」
「けっ、また来月ちゃんと用意しとけよ」
「いつでも待ってるぞ、メルラ」
わざとその辺にあるものをなぎ倒しながら取り立て屋らしき3人組が去っていった。彼らが完全に去ったことを確認するとメルラさんが僕を出してくれた。
「ごめんな。怖い思いをさせちまって、大丈夫だったかい?」
僕とそんなに年が違うようには見えないのだが、ここは素直にうなずいておいた。
「あの人たちは?」
「この辺を仕切ってるファミリーの下っ端さ。・・・昔はこんなにひどくなかったんだけどね」
そう言って苦そうに笑うメルラ――
「昔ってどのくらい前なの?」
「・・・今の代に変わってからだから、5年前だね」
また5年前――
「ネルが見つかれば、こんな所すぐ出ていくのにね」
「ネルって?」
「一番末の妹だよ」
ちょうど1年前、一人で留守番をさせていた末妹の当時9歳の妹がいなくなったらしい。勝手に押し入った形跡があったから絶対あのファミリーだろうと直談判しに行ったが、知らぬ存ぜぬ。どこを探しても見当たらないので泣き寝入りするしかなかった
「でも、あの余裕の表情。絶対どこかにいる。そして生きてる。私たちはそう確信したから・・・」
「お金まで払ってここにとどまり続けてるんだね。でも、どうしてその妹さん連れて行かれちゃったのかな?」
「あの子は平民なのに魔力があったのよ。どこかの貴族の落とし種か、先祖返りだったんだろうね」
悔しそうに足元を見つめるメルラさんに視線を向けながら考える。今この街は大人であるファミリーと、若年層で構成されているギャングとで交戦が続いている。お金を払えばある程度は保証されるらしいけど、そろそろ限界が近いらしい――。払えなかったり、逆らったギャングやスラムの子どもたちがどこかへ連れて行かれたらしいが、見つからず、死体すら出てこないらしいと・・・
うん、まずは
「メルラさん、ちょっとカルラさんと話がしたいんだけど、どこにいるの?」
※
☆
あの人ごみの中だったから、はぐれてしまうのはある意味想定内だった。まぁ、クケルトには俺かダンが付いていれば何とかなるだろうと思っていたのだが、まさかダンが離れるとは、想定外だった
「いねぇ・・・あのチビどこいった!!」
ここは死角になっており目撃者も期待できないだろう。どうしたものか――。仕方ない、ダンと手分けしてしらみつぶしに探すしかないだろう。あれから3時間、合流場所にしていた裏路地付近に戻ってきた
「そろそろ日が暮れる。スカー、どうする?」
一度、屋敷に帰るか、もうしばらく探すか―――
「あっ、ちょうどよかった。探す手間が省けました。知り合い見つかりましたので、ここまでで結構です。それではまた連絡しますね」
そう言って、何事もなかったかのように裏路地の暗闇に向かって手を振る彼を見つけ、安堵のため息が漏れた。
帰りは馬車を呼んでいた。ダンは怒り心頭で、説教をぶちかましていたが、クケルトはどこ吹く風~
むしろ、騎士たるもの護衛対象を置いて行くなんて言語道断。僕だからよかったものの、これを教訓に精進してくださいね?と謎の説教返し――おッ、おう!なんてダンも丸め込まれていた
読んでくれてありがとう