1:縁を断つ。そしてはじまりへ――
「我との契約を持って、前任者との縁が完全に断たれるがよろしいか?」
ここは、ドラグーン国 首都デニア。この国は昔からドラゴンと共存共栄している国だ。
「はい」
「では、我を見よ」
そう言われてドラゴンの姿を視界に収めた一瞬の出来事だった。左の目が温かく感じた。
「これで契約は完了だ。そなたを苦しめていた症状も直収まるであろう」
「…これで、あちらの契約は切れたのですか?もう、大丈夫なのですね?」
「心配せずとも、ちゃんと切れた。向こうの術者もすぐに気づいたはずだ」
「・・・――ぅッ・・・やっと、やっと解放された」
そこからはしばらく涙があふれて止まらなかった。
少し長い話だが、聞いてもらえるだろうか。あれは今から5年前の話だ―――
※
「はぁ、読み終わってしまった。これでこの書庫にある本は最後だ・・・」
僕はいわゆる本の虫という奴で、幼少期の頃から外で遊ぶより籠って思いのままに本を読むのが大好きだった。本を読むというより、新しい知識を吸収するのが楽しかった。
しかし、あんだけあった本もすべて読みつくしてしまった。町に行ったところでこの辺りに僕の知らない本があるとは思えなかった。どうしたものか・・・
「モリア、モアー、ちょっと来て」
そんな事を考えあぐねていた時、母から呼ばれた。仕方ないと、重い腰を上げて母の書斎へと向かった。
「どうしたんですか母様?」
「あなた、ちょうど本をすべて読み終わったんじゃなくて?」
母は昔からこういう所があった。すべてを見透かしたような、そんなとき僕はとても居心地が悪い
「あぁ、ちょうど母様が呼びに来る少し前にね」
「それならちょうどよかった。あなた、新しい本が欲しいでしょう?でも、この辺りではもう手に入らないわよね?そこで、来月から王都の学園に入学してきなさい。」
「?・・・ッ?!――試験も受けてないのに学園なんて入れるわけないでしょう?」
「あら?あなた、この間試験受けたわよ。首席合格ですって、母様は鼻が高いわ~」
なんのことだか全く身に覚えがない。しかし、ここひと月ほどの記憶をさかのぼって行って思い出したことがある。ちょうど一月前、珍しく母が書庫に足を運んできた日があった。その日一日はなぜか、これが分からない、あれが分からないといろんな分野の問題を回答させられた記憶が――・・・
「‼‼‼」
「思い出した?」
「あんなの、卑怯だ!僕は行きませんからね。」
「それなら、新しい本は今後一切買いません。それに、学校は王立ですから、中に併設されている図書館はそれはそれは大きいらしいわよ~それに、特待生には閲覧禁止書庫も特別に開放する特典なんかもあるみたいね。本当にいいのかしらね・・・もったいない」
母は僕のことをよくわかっている。なんせもう15年のつき合いなのだから――
僕はその一月後、首都ロデリアにあるピリア王国立・魔術男子高等学園の入学式に出席したのである。
※
「この学び舎は、王族、貴族、平民分け隔てなく門徒を開いております。お互いに切磋琢磨し、友情をはぐくみ、実りある3年間になる事を願っています。」
想像していたより若い校長の挨拶がおわり、いよいよ新入生代表があいさつする。
「新入生代表、ロナウド・ディスペル」
「はい」
講堂に響くように堂々と返事をしたのはディスペル公爵家、次男ロナウドだった。
えっ?僕じゃないのかって?わざわざ火の粉を被りに行くほどいい子ちゃんじゃないからね。学校側に首席というのも伏せてもらう様にお願いした。ちなみに僕の家は辺境の側にある男爵領
その後妻の子どもが僕。前妻との間に子ども(義兄)がいるので跡継ぎだなんだという問題は関係ない。・・・たぶん
何とか無事に入学式は終了した。これから寮に移動して、説明を受ける旨を誘導の教員が話しているちょうどその時、講堂全体が急に暗闇に包まれた。新入生は怖がっていたが、誘導の教員たちが警戒していない様子を見ると、ちょっと肩の力を抜いた。
『あー、あーテステス。新入生の皆さん、驚かせてしまって申し訳ない。生徒会からちょっとしたサプライズです。動かないでその場で鑑賞するようにお願いします』
生徒会からのアナウンス終了直後、そこには幻想的な風景が広がっていた。炎の魔術で作り出した青龍、白虎、玄武、朱雀が空中を駆けており、外でもないのに足元には湖に満天の星屑が散りばめられていた。
はじめは放心していた新入生も、感動に目を輝かせていた。しかし、その中で数人あれほどその場にいろと言われていたにもかかわらず、動き回って手を伸ばしている生徒がいた。
そして僕は運悪く、その動き回っている生徒に思いっきり当たられ体が後ろに向かってグラついた。いくら引きこもりの僕でも、このくらいなら何とかなる。普段なら。暗いうえ、幻影でどこに何があるか分からない状況、
「(あっ、もういいや)」
倒れてしまえと諦めたその時、
「大丈夫か」
そう言って後ろから僕なんかよりずっと頼もしい体に抱き留められていた。
はじまりました。何とか終わりまで走れるようにがんばります。