第五話 笑顔で伝えられた衝撃
ー注意ー
この作品は、障がいを持っている方を差別・非難する目的で書かれたものではありません。
自身の偏見や見解も一切込められていません。予めご了承ください。
「紅茶のご用意ができました」
香りの正体はジールが淹れたダージリンだった。
「ありがとうジール。下がっていいよ」
「それでは、失礼致します。フォルラー様、イズミ様、ごゆっくりお楽しみ下さい」
「紅茶、ありがとうございます!」
イズミの声に反応したジールは少しにこやかに会釈をした。
「これは……ダージリンでしょうか」
「えぇ、僕のお気に入りなんです。この澄んでいる香りが良くて」
ダイヤ伯爵は目を閉じながら、香りを楽しんでいる。
イズミはそれを真似して、おしゃまにダージリンの香りを嗅ぐ。
「本当にいい香り!いただきます!」
「私もいただきます」
イズミとフォルラーは高級そうなカップを気にしながら飲み始めた。
「美味しい……!爽やかな味がします」
「すごく飲みやすいです!」
「でしょう?お気に召したようで何よりです」
ダイヤ伯爵は手話で「気に入ったようで何より」と言った。
「このダージリンは春摘みでして、隣国の紅茶産地から輸入したものなんです。この地区の市場にもあるんじゃないでしょうか」
ダイヤ伯爵も静かに飲み始める。
「さすがダイヤ伯爵、商業や経済に関して熱心ですね」
フォルラーはダイヤ伯爵の心を探っているような、少々わざとらしく言った。
「はは、こんな僕でも伯爵という身ですから。経済発展、商人育成……これがダイヤヘンドラー地区が掲げているスローガンなので」
「そうですね……私の父も、他国の経済や文化に関心がありました。幼い頃、外国の特産品や変わった品を私にも見せてきて、反応に困ったのを覚えています」
フォルラーは苦笑いをしながら言った。イズミはフォルラーの顔を見ながら、あまり良くない話をしているのだろうと何となく思っていた。
「フォルラー様の父……リターン殿ですね。僕の父と深く面識がありましたよ。パーティーでもよく酒を交わしていたそうです」
「そうですか……」
フォルラーは十何年も会っていない両親のことを、今更ながら思い出していた。
「アーデル夫妻が貴族の座を降りてから、父の業務は何倍にもなってしまいましてね。二年前に父の後を継いで、伯爵となりました」
「くっ……」
自分が障碍者となってしまったから、父と母は屋敷から出て行った、貴族の座を降りた。どこに向けていいのか分からない、怒りや悲しさが沸いてくる……。
「しかし、フォルラー様に一切の非はありません。……かと言って、アーデル夫妻が全て悪いとは一概には言えませんが」
フォルラーはダイヤ伯爵の言っている意味がよく分からなかった。
「このような感情になるのは……この王国の、優生思想が蔓延っている環境のせいと言えるでしょう」
ダイヤ伯爵は手話で「この王国には優生思想が蔓延っている」と言った。
イズミは唐突な手話の内容に困惑した。フォルラーも会話の内容に驚いている。
「左目を失明してしまったフォルラー様を迫害し、失踪したアーデル夫妻と召使い達。この王国のお偉いさん方にとっては、それは当然の処置だと考えました。私の父も、リターン殿の対応には納得していましたから」
「そう、なんですか」
「僕は幼い頃から、他の子どもと同じように優生学を教えられました。他の学問より多く、長く……」
将来は伯爵として、民衆を率いる立場になるために、優生学はきっちりと教えられたそうだ。
「子どもは、教えられた事をいい事でも悪い事でも、全てその通りだと吞み込んでしまう。フォルラー様も、障碍者となる前に、優生学を受けたんじゃありませんか?」
「……はい、父から直々に受けた記憶があります」
フォルラーは障碍者になってから10年。障碍者となる以前の記憶は上手く思い出せなく、自分も優生学を受けたという事実も薄く忘れてしまっていた。
「僕も正直、子どもの頃は障碍者に対して嫌悪感を覚えていました。この気持ちが当然のものだと思っていたんです」
ダイヤ伯爵は手話で「昔は障碍者に嫌悪感があった」と言った。
フォルラーとイズミは、まるで今は違う考えだと言わんばかりの言葉に戸惑っていた。
ダイヤ伯爵は二人の雰囲気を読み取ったのか、少し笑顔になりながら、曇りのない目で、
「……しかし僕は、この王国の腐っているものを、全て壊すつもりです」
と言った。手話でも一言一句同じ言葉を言っている。
笑顔で放った言葉にしては、フォルラーとイズミには衝撃的すぎたものだった。
お久しぶりです。前回が去年の9月ということで、約7か月ぶりに投稿しました。
最近は『獣と天使は神の糸を引いた』も更新できずにいて申し訳ございません。
リアルでの忙しさやスランプで長らく執筆できずにいました。リアルの忙しさはこれからも続くと思うので、投稿は変わらず遅くなってしまいますが、気軽に待ってくれたら幸いです。




