表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第三話 残酷な人間達

 カランカランカラン……


「イズミ。朝よ」


 イズミの部屋から騒がしい物音が聞こえる。きっと支度をしているのだろう。勢い良くドアが開いた。


「フォルラー様!おはようございます!今日はちゃんと鐘の音で起きれましたよ」


 イズミは自信満々な顔で言った。


「おはよう。鐘の源力は問題ないようね。朝食はバケットとスープとリンゴにしようかしら」


 フォルラーは手話で「おはよう」「朝食はパンとスープとリンゴにする」と言った。


「分かりました。スープを作るの手伝いますね!」


 フォルラーは何も言わず、手話で「ありがとう」と言った。




「朝にちょうどいいさっぱりしたスープで美味しいです!(パンの耳がないバケットで良かった……)」


「コンソメスープね。シンプルだけど私も好きな味よ」


 フォルラーは手話で「私も美味しいわ」と言った。


「……他の貴族はどんな食事をしてるんでしょうね。やっぱり多くて、豪華なんでしょうか」


「そうね。噂だけど、ちゃんと食事のバランスを整えていて、一流のシェフが作っているらしいわ。私が小さい頃もそうだったのかしら」


 フォルラーは手話で「バランスが良くて、一流が作っているらしいわ」と言ったが、最後の言葉は小声で言った。


「ダイヤ伯爵も今頃、すごい食事を食べているんでしょうね。この地区のトップなんですから」


 イズミはバケットを直でガリガリ食べている。獣人は歯が人間よりも固いため、食べ物なら基本的に全て嚙み砕けられる。


「ダイヤ伯爵に紅茶を贈ろうと思うのだけど、その紅茶を後で用意してくれる?」


 フォルラーは手話で「紅茶を用意して」と言った。


「かしこまりました!どの紅茶にいたしますか?」


「昨日私達が飲んだアールグレイにしようかしら。アールグレイは『伯爵』という意味があるらしいから」


 フォルラーは手話で「昨日飲んだものにする」と言った。


「アールグレイですね!食べ終わったら用意しておきます!」


「お願いね」


 フォルラーはにこやかに言った。




 朝食を終え、身支度も終わり、出発の時間がやってきた。


「イズミ。ちゃんとスカーフとピアスは付けた?」


 フォルラーは手話で「スカーフとピアスは付けた?」と言った。


「はい。バッチリです!ダイヤ伯爵に送る紅茶も持ちました」


「よし、じゃあ久しぶりに外出するから色々気を付けないとね」


 色々とは突然の悪天候や、平民からの迫害、差別である。


「どうぞ。フォルラー様お気に入りの日傘ですよ!」


「ありがとう。さて、行きましょう」


 フォルラーは手話で「ありがとう」「行きましょう」と言った。


 イズミは静かに頷き、ドアの鍵を閉めた。


 花壇の花が太陽に向かって輝いている。今日は快晴だ。


 フォルラーは屋敷の門の鍵を閉め、南西の方向に向かって歩き始めた。その方向には城下町が栄えている地域があり、最南端に『地の館』がある。


「(一体なぜ、この面会の機会を頂いたのか……。ダイヤ伯爵の目的が読めないわ。でも、決して無駄な一日にしないようにしましょう)」


 フォルラーは物憂げな表情をしながら考えていた。午前の眩しい太陽が歩く二人を見つめている。




「そろそろ城下町よ。イズミ」


 フォルラーはイズミの右肩を叩き、手話で「そろそろ町よ」と言った。


「は、はい。ありがとうございます」


 久しぶりに外に出たのか、二人は少し疲労している。


「人通りが増えてきましたね」


「そうね……」


 民衆は飽きるほどある店に夢中だ。早々と特売をしている八百屋に、良い品質の服を売っている服屋、ほぼ満席の喫茶店。


 フォルラーとイズミに見向きもしないのだ。


 しかし、とある青年の発言により、二人の存在が明白なものになってしまった。


「おい、あそこを歩いているの、フォルラー嬢さんじゃないか?」


「ほんとだ。召使いらしき奴も着いてきているぞ」


 イズミは民衆の目を見た瞬間、フォルラーの右腕を咄嗟に掴んだ。フォルラーは今の状況を全て理解している。


「予想はついていたわ」


 フォルラーは小声で軽い愚痴をこぼした。


「……怖い」


 イズミはフォルラーの右腕をほどき、下を向きながら言った。


「……そうね。怖いわよね」


 フォルラーは少し怖い顔をしていたが、それでも優しくイズミの左肩をさすった。


「(これが今の障碍者(ハンディ)を見る目……。イズミはぱっと見ただけじゃ、障碍者(ハンディ)とは分からない。でも、このピアスを付けているだけで誰でも分かる)」


 フォルラーは全てを見渡すように目を見開いた。


「(私が絶対、この国の腐敗している全てを壊してみせる。そのためには、今日のダイヤ伯爵との面会を絶対に無駄にはしない)」


 民衆の異質な目つきを跳ね返すように、フォルラーは淡々と進んだ。イズミもそんなフォルラーについていった。




 城下町をしばらく歩き、地の館に段々と近づいてきた。レンガ造りの建物であり、花やツタなどの自然が混ざっている遺跡のような見た目らしい。


「兵士さん達が増えてきましたね。館に近づいてるっていうことなんでしょうか」


「そうね……」


 兵士達はフォルラーやイズミを見ても、特に陰口を言ったりはしなかった。


「そろそろ地の館ね。……イズミ、もしかしたら館で手話をする時間が少なくなるかもしれないわ……」


 フォルラーは手話で「手話の時間が少なくなるかもしれない」と言った。


 手話をすることは障碍者(ハンディ)に対する『配慮』ということになる。ダイヤ伯爵の本性がはっきり分からない今、その配慮を行ったら強く非難されるかもしれないからである。


「……そうですよね。あまり他の人の前で手話をしたら、何が起こるのか分からないし……」


 フォルラーは寂しい顔をしながら、手話で「ごめんね」と言った。


「いえ!大丈夫です。フォルラー様がダイヤ伯爵と対話してください。わたしは……人形になっておきましょうかね」


 イズミは無理やり作った笑顔で言った。


「…………本当にごめんなさい」


 フォルラーは「そんなこと言わないで」とは言えなかった。イズミの言っていることは本当の事だから、認めざるを得なかったから……。


 地の館に着くまで、これ以降会話は弾まなかった。

『獣と天使は神の糸を引いた』も4月中に投稿できればと思います。

今日で『とある王国の惨めな大樹』を投稿してから、ちょうど1年です(書いている途中に気づきました)。

まだこの作品の話数は全然少ないですが、これからもきらほしをよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ