第二話 資産仄めかす
「あー。現金で、四百億円。株券。純金。プラチナ。賃貸マンション。貸しビル。・・・それに、お袋の店も有る。これも止める訳には、いかない、これも五億ぐらいは、有る。・・・これらの事をキッパリとケリをつけて、私の人生を終わらせたい。そして私は、スペインのカナリア諸島で余生を暮らす。これが私の考えている、大問題、なんですよ。従って、君達が本気で考えて。くれる。なら。話し合いたい。と。・・・私も、考えていた。んですよ。・・・無理にとは言わない。がね。」
「ええ。四百億円。・・・現金で。その他に、土地、ビル、株券、金、プラチナ、そんなに有る。んですか。・・・・それを・・私たちに。」ミナは、立ち上がって真田の傍へ寄って来て。
「先生。どうして私達。」
「あー。それは、第一に、四人とも仲が良い。そして、ブランド品を身に付けていない。何時も、有る程度のお金を、使っている。私は、親達を知らないが、きっと、会っている。かも、・・・でも、良い親達だと思う。演劇を見たり、映画を見たり、旅行したり、お金を無駄なく使っている。そんな感じがする、それが一番大事だ。無駄遣いする人も駄目だが、
お金を使わない人も駄目だ。そして、収入が無い人も駄目だ。これは、私の座右の銘だ。だから、君達は、私の考えに一致している。そして、四人が、仲が良い。生きて行くには、共存、共栄、絆が。一番大事だ。それが私から見た、君達の魅力。だな。」真田は、真剣に話している。
ミナも真剣に聞いている。
「うん。そうね。親達に感謝だ、ね。四人とも、お金に不自由した事は、無いわ。皆、料理屋十店舗位、指定してあるの。そこで食べればお金は要らない、親達が払ってくれるから。だから、高校卒業するまでは、殆ど四人で同じものを、食べていた。だって、朝から晩まで、一緒だもの。大学行っても、殆ど夜は一緒よ。四人の家を泊まり歩いていた。から。親達がお互い留守する時が多いから、親達もそのほうが良いって、一人、三十万かかるって、親達が言って、いた。」
「だから、君達の親は、一ヶ月、三千万円ぐらいは取っていた。でしょう。給料。」
「殆どお金の事は、話した事は無いの。」
そして真田は、
「それに、自分に自信を持っていることだ。学力、体力、良くても悪くても、やり遂げた事だ。それが一番認められることだ。私も、学生時代はそうやって来た。最後に、君達は揃って美人だ。均整取れている。し。肌も綺麗だ。・・・女は美人が一番だ。」
「先生。そんなに褒められたら・・・どう答えたら良いか。でも、まだまだ未熟だから。」
「うん。それは仕方のないことだ。人生の始まりだから。足りないところは、私がアドバイスするから、大丈夫ですよ。私が身に付けた、ノウハウは必ず、役にたつ。君達は頭が良いからすぐに身につく。よ。私も、全盛時代は、三百人もの若い衆が居たから、良い事も。悪い事も。殆ど体験している。」話は続いた。
「そうね。なんとなく頼れる。し。安心出来る。し。わたし。乗る。・・・この話。・・・そして皆にも、言う。」
「そうか。良かった。ミナが一番に、来てくれて。だったら、自分の遣りたい事、もっと詳しく、細かく考えたほうが、良いよ。・・・あ。一番大事なこと。忘れていた。・・・私の子供を生んで、育ててほしい。子孫を残したい。んでね。そして、東京六大学を必ず卒業させる。これが私の希望だ。・・・優秀な子孫を。残したい。」
真田は、顔を、ほころばせながら、喋っていた。
「先生。考えたわ。ね。それが良い。皆も、乗ると思う。わ。第一、自分の思っている事。出来る。し。四人一緒だし、子供も皆兄弟になるし、考えるだけで楽しい。よ。」ミナも、楽しそうに話していた。
「あっ。もう三時だ。ここ片付けて、庭を散歩するか。」
「うん。」二人は、片付けて庭へ出た。
「この木。て。みんな名前、有る。でしょう。私は、全然知らない。けれど。」
「あー。そうだよ。木の手入れは、慣れないと難しいから、植木屋さんに任せてある。良い植木屋さんでね。毎月一度は庭を見に来て、くれている。掃除をしたり、剪定をしたり、気を配ってくれる。んだ。」と、自慢げに、話している。
「先生。つるつるしている。この木。」
「あー。それは、さるすべりの木。て。夏に花が咲く、赤い花と、白い花が咲くんだよ。これが、赤い花。あそこが白い花。こんな太い木は、珍しい、んだよ。直径三十センチは有るだろう。」二人は、バーベキュー小屋へ行った。
「先生。この木。しだれ桜。でしょう。太い。」ミナは、木を抱きついて手を回したが届かなかった。
「あー。六十センチはあるでしょう。此処は四月から、新緑が出て、新芽の香りが出て、一面広がるから、気持ちが癒される。だから、キャンバスを持ってきて、一日描いている。んだよ。」嬉しそうに話している。
「先生。・・・先生を見ていると、暴力団の会長には、とても見えない。山とか、木とか、自然の話をしている。先生は、活き活きしている。専門家、みたいに。」ミナは、微笑んで話していた。テーブルに座っていた真田も。
「あー。此処へ来て、十年だ。・・・自然の力は、凄いっ。人間の心を変え、身体までも変わる。・・・おかげで、胃腸も、肝臓も良くなったよ。自然の力に感謝だね。」と、苦笑いした。
「さ。家に戻ろうか。」二人は、とことこ歩いて家に入った。
真田は、コーヒーを煎れた。
「ミナは駅から、何で来た。」
「え。・・・あ。バスで来ました。・・・田舎のタクシーって、暇だから、じーと、見ているの。私を。だからタクシーで、山田商店で降りて、此処へ歩いたら、話題にされちゃう。かな。て。先生に迷惑が、掛かる。と。察したの。だから、バスに切り替えた。」
「おー。流石だ。あの連中は暇だから、駅から降りたお客を想像して、お茶話に、している。・・・だからあまり好きじゃない。んですよ。此処の事も知っている。んです。よ。」
「でしょうー。」ミナは、正解だった。
「私が見込んだだけ、あるね。」真田は、嬉しかった。
「夕食は、野菜があるから、天ぷらを食べよう。」
「うん。私も手伝う。」時間は、五時を回っていた。
粉を出して野菜を切って、囲炉裏のカウンターで始まった。真田は、天ぷらを揚げて、ざるに、盛った。
「あー。こんな一杯。・・・先生。もう良いじゃ。ない。」
「あー。このぐらいに、するか。」二人は、天ぷらを盛って、飲み物を運んで、
「さあー。食べようか。好きな物、のんでくれ。・・・ワイン、日本酒、ビィール、ブランディー、」真田は、全部並べた。
「わー。いっぱい。・・・とりあえず、ビィール。」二人は、ビィールを注いで乾杯をした。
「はい。今後の成功を祝って・・・乾杯。」真田は、ほっとした様子だ。ミナも、これで前途の見通しがついたと感じた。そして、今後の事など話した。
「ミナは、出版社を経営したいと、言っていたけど、将来性はあるのかね。」
「うん。活字離れとか、本を読む人が少なくなっている事は確かなの。だから、難しい活字じゃなくて、短編小説、連載小説とかは、読んでいる人が、まだ居るのよ。そして、私みたいに、自分なりの小説を書いたりしている人がたくさん、居るの。小、中、高校生、大学生は勿論、一般の人、そういう人達の単行本を構成、編集して、世に出してあげたいの。」
「うん。でも。・・・そういうことは、大手出版社でやっている。んじゃない。」
「うん。でも。大手は、自主出版、て。お金が高いのよ、だから安いお金で出版できる本を作ってあげたいの。そしてその本を並べて、売ってあげたいの。・・・うー。採算が合うかは計算した事は無い、けれど。又、私も、脚本を書きたい。し。」真田は、頷いた。
「うん。その仕事は、場所を選ぶ。な。ま。どんな仕事でも、場所は先決だが。・・・そうだ。」真田は、閃いた。
「たしか。昨年の暮れだったか。前の女房から電話があって、親が九十歳と高齢になったので、店を閉めたい。と。言っていた。・・・神田神保町だよ。土地と家の処分を私に任せると言ってきた。」
「えー。神保町。」ミナは、一瞬頭を過ぎった。二人は、目と目が合った。
「ミナ。君は運が良い。有る。んだよ。本屋街だよ。土地は、二十坪ほどだが、大丈夫でしょう。上に高くすれば、たとえば、十階建てとか。」
「本当。神田。・・本屋街。・・・わー。夢見たい。」
「あー。建ててあげる。よ。」
ミナは。
「出来すぎー。先生。」真田に抱きついてきた。
真田は。
「ミナ。・・・人生って、こう言うもの、なんだよ。出会いだよ。運だよ。運が八割、才能が二割。これが人生を左右する。・・・・本当だよ。私も、運が良かった。良い出会いが多かった。し、私に、嘘をつく人は。居なかった。から、こういう話は、金に目をくらんだり、欲張ったり、嘘をついて詐欺行為をする人が居ると、絶対纏まらない。私は、大丈夫だよ。だから、ミナは、明日からそのつもりで、大学院で頑張るのは勿論。知人を増やして、先輩、後輩を慕う、教授たちとの交際も広めて、何をするにも、共存、共栄だ。」
「はい。先生。私。絶対頑張ります。ご指導お願いします。」ミナは、胸の鼓動がなっているのを感じていた。
「あ。もう九時だ。風呂入って良い。よ。後片付けは、私がやる。から。」
真田は、後片付けをして、キャンバスを眺めていた。ミナが風呂から上がってきた。
「先生。部屋で待っている。」寝室へ入った。
真田も、風呂へ入った。三十分位で出た。寝室のドアーを開けた、暗くなっていた。真田は、灯りを点けた。ミナは、仰向けで、待っていた。
「先生。早くー。」真田は、灯りを点けた儘。ミナに覆いかぶさった。真田は、ミナの、するが儘に、身体を預けた。二回目の性交で、前より落ち着いていた。二人は、夜中まで何度も交わした。お互い駆け引きは無い、なするが儘、ミナは、処女だった。真田も、処女は何十年ぶりだ。昔を思い浮かべながら、ミナに身体を任せた。ミナも何度も頂点に達して、何度も続いた。
真田は、何時もの六時ごろに起きた。流石に、足元がふらついて、いた。風呂に入り、縁側のチェアーで休んでいた。頬を叩かれた、ミナが立って居た。
「先生。夕べは頑張ったから、疲れた。でしょう。」
笑っていた。
「うーん。ああー。」立って、背伸びした。
「あ。もうこんな時間。」九時。過ぎていた。
「先生。トースト、目玉焼き、作っておいたよ。」
「おー。有難う。」
トーストを食べていたら、コーヒーを持ってきた。ミナが。
「歳はかくせないねー。先生。」してやったと、思った。
真田も、やられたと感じた。二人は、笑っていた。
「私、支度してくる。」
ミナは、支度をしていた。真田もコーヒーを飲んで、車を出して、送る用意をしていた。ミナが来て車に乗って、駅に向かった。
「先生。水曜日は、エミが来るから、よろしく。ね。・・・エミは私より強いかもよ。」
「はい、はい。開けておきますよ。」駅に着いた。車から降りて握手して分かれた。
ミナは、都内に向かった。十一時ごろ家に着いた。母の書置きが、あった。
(今日は、誰も居ないから、皆に泊まってもらいなさい。)
早速電話した。
「もしもし。エリ。私、ミナ。・・・今何している。・・・え。皆居る。ちょうど良かった。今家。今日は、ママ達、居ないから。家にきて。」
皆エリの家に居たようだ。すぐ来ると言う。待っていた。ピンポーン。
ドアーを開けた。
「はーい。入って、入って。」どやどや入った。
「早かった。じゃない。」
「うん。早く起きちゃったの。九時ごろ帰るって、言っていたから。」
「それより。・・・どうだった。」
「うん。やっぱり。リエの言っていた、とおり。赤坂の東侠会の。会長をしていた。んだって、十年前、解散して。今は、一人で居る。んだって。」
「それで、お金とか、資産とか、どうなっているの。」
「それ、それ。資産とか、お金とか、お墓に持っていけないから、誰かに分与したいって。その人を探して居る。んだって。」
「でもさ。どうして、私達。」
「うん。それ。皆仲良しだし、頭も良いし、親達も良い人のようだし、お金の価値も分っているようだし、ブランド物を身に付けてないし、無駄金を、使わない事が。一番気に入っている。みたい。そこ、そこお金を持って使っている。人でないと、お金の価値が分らないし、お金の無い人ほど、大金入ると別な方に。使ってしまう。そういう面は安心できるからって。そして、良い目標を抱いているし、それに、四人が何時も一緒で、仲良しで、人生は共存共栄が一番大事だって、言っていた。・・・そう言う事。」
「私達って、その事なら、合っているね。・・・ところで、資産とか、お金とか、いくら。」ミナは、一人ひとりの顔を見て。
「皆さん。・・・びっくりよ。・・・」
「なんだよ。・・・早く言って。よ。」
「それでは。公開します。現金で、四百億円、株券、純金、プラチナ、賃貸マンション、貸しビル。」
「えー。そんなに。」
「私たちに、分与する。て。・・・・信じられない。」
「うーん。そう思うでしょう。・・・それが本当よ。本気よ。真剣に話していた。から。」ミナは、続けて。
「とにかく、一人ひとり、会って見て。今、決めなさいって、事でもない。んだから。」
「そうね。・・・人生の経験だと思って。でも、ミナが言う、んだから、信じる。」ミナが、
「今度は、エミね。バスが出ているから、バスに乗って、山田商店前で降りる。そこから歩いて、三十分位。シャッターにドアーが有る。そこが開いている。から、入ったら、鍵を掛けてね。入っていくと門があるから。此処から分るでしょう。大丈夫よ。優しい人だから。・・
・頑張るのよ。」エミが。
「はい。分りました。・・・あ。バス。何分おきに、出ている。」
「あっ。・・・たしか三十分おきよ。」
ミナは、神田の事は、機会を見て話そうと思っていた。四人は、何時ものように青山へ繰り出した。そして、ミナの家に泊まる事になった。
水曜日の朝、八時、エミは新宿駅で、青梅行きに乗った。福生で乗り換え、武蔵五日市駅に着いた。九時半だ、駅前に出た、バス亭を探した。
「あ。あれか。」桧原行き。一応聞いた。
「すみません、お聞きします。このバスは、山田商店前、通りますか。」
「はい、通りますよ。すぐ出ますよ。」エミは、乗った。おばちゃん五人が乗っていた。私を待っているかのように、すぐ出発した。山田商店前に着いた。エミは、降りて。山へ向かって歩いた。何回も来たような懐かしさを感じていた。三十分位歩いた。
「あった。此処だ。」ノブを回した、開いた、入って鍵を掛けた。歩いて行くと門があった。どきどき。胸の鼓動が鳴る。引き戸を引いた。入って、鍵を掛けた。胸の鼓動が止まらない。どうしよう。玄関の前に来た。生垣の隙間から縁側を覗いた。チェアーに、真田が居た。
「先生ー。」手を振った。真田が、こっちを向いて、手を上げた。玄関を開けて入った、鍵を掛けて、靴を脱いで、縁側に出た。真田が。
「おー。いらっしゃい。良く来たね。」真田の胸に、飛び込んでいった。
エミの、鼓動が、真田の胸に伝わっていた。エミは、目頭を赤くしていた。
「さあ。どうぞ。」縁側のテーブルに座った。真田が、コーヒーを入れて来た。
エミは、コーヒーを飲みながら、
「先生。ここの庭の匂い、香り。ものすごく感じる。」
「分るでしょう。外から来ると、梅と桃の花が散って、実が大きくなろうとして、樹液を吸い上げているから、そこから,発散している。匂い、香り。なんだよ。桜もちらほら咲いてきたし、何か心も、爽快だね。」
「緑の匂い、香り。良いわー。うきうきして、私みたいで。」エミは、庭へ降りていった。
真田は、エミの後姿を見て、ふっと、お袋が浮かんだ。そう思えばおふくろの若い頃に、そっくりだ。四人の中では小柄だが、一六八センチと言っていたから、普通の人よりは、少し大きい。なんとなく着物が似合いそうな感じがする。真田は、エミの着物姿を想像していた。一人でいるエミは、何所と無く下向きな、日本の女。って、感じを漂わせている。真の強い女は、どこか控えめで、萎らしい。
真田は、エミの傍へ行って、そっと肩に手を当てた。二人は、庭を歩いた。
「先生。これシャクナゲでしょう。この木は牡丹。」
「良く知っている。ね。」
「うん。家にあるから。でも、こんなに大きくて、何本もあるの、見たことない。」
「ここは、シャクナゲ、牡丹、アジサイ、バラ、奥にツツジ、さつき、あの大きいのが霧島ツツジ、キンモクセイ、これから門をくぐるとキンモクセイの香りが。鼻をくすぐるんですよ。」
エミは、真田を見て。
「先生って、木とか、花とか、自然の話をするとき、嬉しそうね。・・・やさしい。んだね。」
「ハハハ。そうですか。うん。ここへ来て十年。私も変わった。だろうな。そう言われてみれば、三百六十度、変わったかも知れないね。昔の連中に会ったら、びっくりするだろう。
あの家と、庭に敷いてある木炭と、自然の樹木が、私の心と身体を変えてくれた。自然の力は凄いものがある。環境が人間を変える。つくづくそう思うようになったよ。・・ただ・・歳取っただけかな。ハハハ。」真田は、腰をひねりながら、笑った。そして、楠木の下に来た。
どっしり構えた楠木をエミは、抱きかかえた。両手を回したが、指が触らない。枝が家に被さるように、聳えている。
「先生。ずいぶん太いけど、直径、何センチあるの。」
「あー。測ったことは無いけど、八十センチはあるね。高さは、十五メートルぐらいかな。この木は、まだ凄い。ショウノウ。て。お母さん達が箪笥の中に虫除けの袋を、下げているの知らないかな。あの中に入っている。粉が、この木から取る。んだよ。」
「えー。あのちょっと臭い、匂いの。・・・知っている。着物の箪笥にも入れて有るよ。」
「そうそう。それだよ。あの匂いがこの樹木。なんですよ。従ってこの木の周りは、虫が来ないって、ことになる。」
「先生って、何でも知っているね。・・・この家の造り、私は好きです。都内では、想像 できない。外観だって、囲炉裏だって、天井の組み方だって、物を造る想像力って、素晴らしいわ。庭の木の配置だって。先生の考えでしょう。」
二人は、縁側に座って、庭を眺めながら、話している。真田は、エミに吸い込まれるように、自慢げに話している。
「うん。私は、周りの人に恵まれている。この土地は、造園店の土地を売ってもらった。家も造園店の友達の大工さんでね。私の考えを優先に造ってくれた。やはり、お互い信じ合う、理解し合う、頼まれた人の為に働く、そして、お互い喜ぶ。共存、共栄。これが、楽しく生きていく秘訣だね。・・・今でも、その考えが維持されている。」
「そうですねー。・・・・でも、それが一番難しい事。なんでしょう。・・・大人の世界。・・・て。それが出来ない為に、皆で傷つけあって。・・・先生。て。偉ぶらない事が。素敵ねーー。」エミは、流し目で微笑んだ。真田自信も、個人的に、今まで喧嘩を売られたことは。殆ど無い。だから、偉ぶったり、怒鳴ったりした事がない。大学時代、空手の、三年連続チャンピオンになったのが、効を成したと思っている。又、親父が貫いた任侠道精神が、好きだったから、そのように生きてきた。真田は、エミの話し言葉に吸い込まれるように、軽々と話している自分に、ふ。と、気づいた。・・・エミは、相手を誘導尋問に導いていく、技を備えている。ようだ。これは、刑事が良く使う手。だ。数字にも強い。と言っていた。が、計算づく。とすれば、凄い切れ者だ。真田は。
「エミは、将棋出来るかね。」
「将棋。うん。好きよ。父が有段者だけど、私と五分五分よ。」
真田も、あっけに取られた。やはり、計算づく、だった。凄い子だ。お袋の跡取りに。もってこいの。子だ。
「あー。一時。過ぎちゃった。・・どうする。」
「私。朝から食べてなかった。・・・胸が一杯で。」
「早く言ってくれれば、良かった。のに。・・・じゃ。外へ行こう。良いレストランがある。」真田は、車を出した。エミも乗った。
真田は、渓谷沿いを走った。
「わー。絶景ね。渓谷って言うの。」
三十分、走った。和風造りのレストランが見えた。駐車場に入った。車を降りた。
「ここがね、たまに来る店。和風料理だけど、良いでしょう。」
「うん。先生に任せる。」
「そうか。よし。これにしよう。」五千円のセットメニューを注文した。
「良く来る。んですか。」
「あー。家を造っているころは。ね。職人達を連れて、しょっちゅう。来ていたが、今は、あまり来ないね。」
店主の方が来た。
「久しぶりです。毎度有難うございます。」
「お。久しぶりだね。・・・元気なようで。」
「え。社長も元気なようで。何時も、お若くて、良いですね。」微笑んでいた。
「じやっ。これ頼むよ。」メニューを出して、頼んだ。
「はい分りました。ごゆっくりしてって下さい。」
「知っている。んですか。」
「あー。ここのレストランの社長だよ。珍しく、今日は居ましたね。何時も忙しい人で居ない。んだが。」
「お待ちどうさまー。」すぐに運ばれてきた。
「早い。」あっ。エミは、口を押さえた。
「あ。失礼しました。・・・だって。早い。んだもの。」エミは、低い声で囁いた。
真田は、笑っていた。一時間ぐらい居て、レストランを出た。
「あ。そうだ。食べ物を買って行こう。」スーパーに寄った。
「好きなもの入れて。」エミに、籠を取ってやった。
二人は、買い物をして家に着いたのは四時ごろだった。
「少し休もう。」
真田は、縁側のチェアーで、エミは、ソファーで横になっていた。真田は寒気がして目を覚ました。
「オー。こんな時間か。」辺りは薄暗くなっていた。家の中に、入り、何を食べるか、迷って、冷蔵庫を開けて見ていた。エミがそばに寄ってきた。
「先生。私。ワイン飲みたい。食事は、入らない。まだお腹一杯。だから。」
「そうかー。まだお腹、すかないか。・・・ワイン。ね。・・・」真田は、床の蓋を開けて。
「ここのワイン。取っておきのワイン。飲ましてあげるよ。」
二本出して、一本は冷蔵庫へ入れた。一本はエミにあげた。エミは囲炉裏のテーブルに持って行った。ラベルを見ていた。真田は、チーズ、生ハム、サラミ、からすみ、きゅうりを運んできた。
「先生。このワイン、1600年。」エミは知っていた。
「あ。古酒。・・・分っているね。美味しいよ。・・開けて飲んで良いよ。」エミは、ワインを開けて二つのグラスに注いだ。
「先生。注いだわよ。」
「お。じゃー。乾杯。」グラスを合わせた。
「あー。美味しい。・・・父がね。たまに買ってくるときある。の。高級ワインって。年代物って。だから知っている。の。ここに書いてある。から。」
「へえー。知っていた。んだ。」真田も、余程で、ないと。このワインは出さない。
二人は、ワインを飲みながら、これからのことなど話した。そして、薪を燃やした。囲炉裏に、炎が上がった。
「わー。凄い。何か神秘的な感じ。」
天井が高くて、部屋が広くて、周りが薄暗く、囲炉裏の炎が上がり、二人の顔が赤く染まっている。二人は、炎を眺めながら、話している。
「エミのお父さんは、国会議員と、言った。ね。」
「うん。五期目よ。茨城だから、選挙区は、日帰りで行ける。の。お母さん達は、しょっちゅう、行き来して、いるの。祖父、祖母が居る。し。選挙の事もある。し、だから忙しくて、家を空けるのが、多いの。・・・」
「へー。お父さんは議員、同士の付き合い、やら、パーティー、やら、忙しい、し。それにお母さんも、公設秘書だから、こっちも忙しい、し。・・・でも、どうしてエミは、東京に居るの。」
「うん。勉強のためよ。大学に行くから。子供のうちから東京に住んだ方が、良い。て。五歳のとき、お母さんも一緒に来たの。」それで、あの三人と会った。と。言う。
「そう。それが良い出会いだった。て。訳だ。・・・ところでエミは、着物、好きかね。」真田は、さぐって聞いた。
「うん。大好き。母が何時も着物。着ている。から。外国の要人が来ると、何時も、接待に頼まれる。て。言って、いた。だから私もなんとなく好きになった。の。いっぱいある。よ。・・・箪笥に。一人で、着る。し。ミス着物とか、一時期、興味があって、出ようかって、思ったけど。皆と遊べなくなるから、止めたの。」楽しそうに話している。エミに追い討ちをかけた。
「着物は良いね。私も、着物は好きだ。な。私のお袋は着物意外、洋服を着たのを見たことが無いから。」
「えー。どうして。」不思議そうに、問いただした。
「うん。商売上ね。」
「何の商売。・・・着物屋さん。」
「あ。違う。・・・割烹料理屋を経営している。ん、ですよ。かれこれ五十年。かな。」
「へえー。何処で。」
「赤坂の。あのホテルの、一階、二階に居る。んですよ。客層が良い。ので。不況知らずの店。でね。お袋も九十近いから、もう限界だって、この前も言って、いた。」
エミは、目をパッチリ開けた。ミナから、おおよそ聞いていた。から。赤坂とは聞いていたが、あのホテルとは。・・・すかさずアプローチ。
「先生。私。着物着てする仕事。て、興味有る。・・・その仕事。難しいの。」
「うん。・・・難しいと言ったら、難しい。難しくないと言ったら、難しくない
仕事は何でも、そうでしょう。勉強と同じで、やる気があるか、無いか、でしょう。始めから分る人はいない。それなりに勉強しなくちゃ。」
「そうね。・・その仕事。・・・どうですか。私。」
嬉しそうに、真田の傍へ寄ってきた。
「あー。エミなら出来るよ。」真田は、自信を持たせるように、やる気を起こさせるように、励ます。若者の時も、部活のときも、この手を使った。
「本当。・・・憧れていた。わ。着物着てする。仕事。」微笑んで話しているけれど、目が据わっている。
この店は、お袋が築きあげた東京一と、言っても過言ではない。一流割烹と噂されているからである。財界人、政治家、芸能関係者、スポーツ界、最近は、外国要人、などなど、日本を真剣に考えている人達が多いから、有る程度の政治経済を知らないと、就いて行けない。その点、エミは、大学院でまだ勉強すると言う信念を、真田は買う。又、相手を見抜くのも早い。そして控えめなところが、この子の長所である。早速、お袋に会わせたいと考えている。
「近いうちに、店を見ながら、お袋に会わせる。よ。」
「本当。・・・乾杯しよう。」
「あ。・・・あれ。ワインが空っぽだ。」真田は、冷蔵庫からワインを出してきた。
「もう一本開けよう。エミのお祝いの為に。」真田は、ワインをあけてエミに注いだ。
「わー。美味しい。知らず知らずに、一本開けちゃった。ね。」
「乾杯。」二人は、二本目のワインで乾杯した。するとエミは、グラスを置いて真田に抱きついてきた。
「先生。抱いてー。」しがみつくように離れない。真田は、そっと抱き寄せながら寝室へ入った。そのままベッドに倒れた。服をすばやく脱いだエミは、真田にむしゃぶりついた。真田もあわてて服を脱いだ。真田はエミに身を任せた。真田は、こんな感度の良い女は初めてだ。演技か、いや違う、本能だ、ほろ酔いになっているせいか、全身濃い゜ピンク色に染まっている。実に綺麗だ。薄明るい灯りが二人を照らしている。今度は、エミが上になり、真田を引き寄せるように迫る。真田も燃え尽きた。
目が覚めたのは、朝の九時ごろだ。エミは起きて居た。真田がトイレに行ったら、エミが風呂に入っていた。真田を呼んだ。真田も一緒に入った。夕べの続きとなった。セックス好きの子だ。真田は無理をしながらも、付き合った。
風呂から上がり、冷水で、身体を静めた。エミは、疲れた様子も見せず、微笑んでいた。着替えて朝食の用意をしていた。
「今朝は、寝坊しちゃった。」真田は、苦笑いをして、ご飯と漬物と梅干と、つめたい水を出した。
「先生。寝坊と言うよりも、寝たの、朝よ。」
「あ。・・・そうか。・・・ハハハ。」
二人は、赤い顔しながら笑っていた。真田は、エミのせいだよ、と、言うそぶりで、笑っていた。ご飯を済まして、縁側で庭を見ながらコーヒーを飲んでいた。真田は落ち着いた様子で話している。
「君達四人は、私に協力してくれれば、必ず、人生の勝ち組に成れよ。ここの行事の花見が終われば私も、都内に帰るから、四月末に、虎ノ門の家で、会おう。花見は地元の人達との交流会でね。やらないわけには、いけない。んですよ。」
「本当。虎ノ門で会える。」本当に嬉しそうだ。
「先生。私ね。この山へ来て、先生と会ってから、人生観が変わったな。て。感じるの。二月ごろから、四人が、ばらばらになるかも。て。思っていた。し、そんな事考えると、頭がもやもやしてきて、憂鬱だったの。それで自然に触れようって、事だったの。だから、偶然と言うか、先生との出会いが。・・・今日は、子供から、脱皮したみたい。・・・先生とセックスして、女に成れた。し。・・・違う人生を感じた。し、いろんな閃きが、沸きそうで。」嬉しそうに話している。
「そうか。初めての出会い。・・・大切だね。私も、君達と出会った瞬間、何の違和感も無く自然に受け入れた。し。話し方とか、仕草が落ち着いている。し。良い子達だな。と、思ったよ。私も、こんなに愛されたの、初めてだよ。これからも頼む。よ。」真田も嬉しかった。
「先生。日曜日には、リエが来るから、よろしく。ね。私、帰り支度してくる。」
と言って、席を立った。真田も着替えて、車庫から車を出していた。エミが、小走りに駆け寄って、車に乗った。
「さあ。出発しますか。」車は、駅に向かった。
駅に着いた。エミは、
「先生。リエをよろしく。ね。」
手を振りながら駅へ歩いて行った。真田は車をUターンさせて家に帰った。車庫に車を入れて、チェアーで休んだ。気分も落ち着いた。まだ時間が早いので、山へ行こうと支度をして、山へ行った。
エミは、二時ごろ赤坂に着いた。時間があるので、喫茶店でコーヒーを飲んで、気分転換した。三時ごろ、エリに電話をかけた。皆集まっていた。何時ものレストランで、すぐ会うことにした。皆先に来ていた。
「ただいまー。」
皆が注目している。
「なによ。じろじろ見て。」三人、一緒に。
「ねー。どうだった」ミナが傍へ寄って来た。
「うん。私たちの想像以上ね。先生。て。全てをやり遂げた。て。感じ。物知りで、まだまだ聞きたい事、教えてもらいたい事、いっぱい有るわ。私達は、偶然にも、良い人とめぐり合えた。のよ。私達四人を、本気で考えてくれているのよ、四月末に虎ノ門の自宅に招待して、今後の事を、詳しく話したい。て。言っていた。」
ミナが。
「本当。・・・そう。・・・思ったより早く進展するかも。よ。リエ。今度は貴方よ。」
「うん。頑張る。ジャズ歌手を目指して。」
四人は、夜遅くまで話していた。
そして日曜の朝、新宿駅。黒のロングパンツ、麻の薄地で真っ赤な半コートを、羽織った、年のころなら、二十歳前後、ロングヘアーに薄いサングラスをかけた女が一人、青梅行きに乗った。福生で、乗り換え武蔵五日市駅で、降りた。駅前に出てバス停を探した。
「あ。有った。」時刻表を見た、九時半発。
「このバス、山田商店の前通りますか。」
「はい。通りますよ。」リエは、すぐ乗った。おばさん二人乗っていた。リエは軽く会釈をした。座ってすぐ、出発した。しばらくして、山田商店前に着いた。リエは降りてバスが通りすぎていくのを待った。おばさん達が、まだ見ていた。リエはコートを脱いで、歩いた。
「あ。此処だ。ドアーのノブに触った、とたん、胸の鼓動が音を立てているのが伝わってきた。落ち着かなきゃ。自分に言い聞かせた。入って鍵を掛け、又歩いた。中門の引き戸をあけて入って鍵を掛けた。小枝の隙間から、縁側の方を見た、チェアーに先生が居た。何かを描いて居た。
「先生―。」小枝の隙間から、大きな声で呼んでみた。こっちを向いて、手を振った。玄関のドアーを開けて、入った。鍵を掛けて、小走りに走って真田のところへ、行って、
「お早うー。来たよ。」真田に抱きついた。真田はすかさず、キスをした。リエも答えた。
「お。良く来た。ね。今、コーヒー入れるよ。」真田は、コーヒーを入れてきた。
「はい。コーヒー。」
「有難うー。」
リエは、コーヒーカップを持って、庭へ降りた。真田は、チェアーに座ってリエを後ろから見ていた。
「今日は、かっこ良いね。」
リエは。
「良いでしょう。これはね。エリがデザインしたの。よ。私のお尻に合わせて。作り方がちょっと違うの。お尻の割れ目を吊り上げて、あるから、お尻が、ぷく。と。膨れ上がっているの。最初は、履きづらかったけど、今は慣れてなんでもない。の。・・・かっこ良いでしょう。」と、お尻を突き出して見せて、セクシーさを、自己ピーアールしている。ようだ。
「うん。リエは足が長いから、ロングパンツが似合う。ね。」
「このコートも、Tシャツもエリがデザインして、オーダーメイド。なの。皆の身支度も、エリがデザインしているのよ。エリって、凄いでしょう。」
「ほう。じゃ。今まで来ていた。服も。」
「そうよ。何時も四人一緒だから、店に行っても、エリが、コーディネートして、くれるの。だから、私達は、それぞれの長所をフル活用している。のよ。エミだって、父母の税金対策。とか、経理。とか、無料で遣ってあげる。の。だから、音楽、劇場の招待券も、貰えるの。映画の券とかも。四人で協力すると、全て完璧。よ。」
「うーん。君達は、本当に仲良し、なんだね。・・・あ。そう。お昼は蕎麦だよ。朝速く起きて、蕎麦打ちした。んですよ。リエの為に。」
「本当。蕎麦大好き。よ。私。」真田は、お昼の支度を始めた。皆、朝は、食べてこないのが分ったからである。
真田は台所へ行った、リエも着替えて手伝った。採れたての山菜を頂いた。ので、天ぷらにする。
「先生。山菜ってこんなに種類ある。の。」
「あー。まだまだ有るよ。でも、これはね。まだ早いから、小さい。んだ。本当は、四月から五月が一番美味しい。・・・でも、スーパーのとは、全然味が違う。こっちが美味しい。」
リエは、珍しそうに眺めながら手伝っていた。蕎麦も茹で上がり、氷水で丁寧に洗っている真田を見て、本当の蕎麦屋のおじさんに見えた。何事も心をこめて取り組めば、その道の主人公に成れる。学校で教えられた。(歌に対する情熱、歌詞に刻み込まれた主人公に成れ。それを聞いている人に伝わる様に、声で創っていくのが、歌手である。)先生も、真剣に取り組んで蕎麦を作っているから、見ている私に、伝わってくる。などと想像しながら、真田を見つめていた。
「さ。出来た。打ちたて、茹でたて、美味しいよ。」
「今度は、天ぷらだ。」リエも手伝った。一時間ぐらいかかった。
そして、囲炉裏のテーブルへと、運んだ。十二時前だ。
「さー。まだ時間は早いけど・・・食べましょう。リエも、朝食べていない、でしょう。私も、だ。」
「うん。頂きます。」リエは、父母のこと、話しながら蕎麦を食べている。
「先生。この山菜の名前。」
「あっ。どれどれ。これが、フキノトウ、つくし、タラノメ、コシアブラ、ゼンマイ、ワラビ、六種類だね。造園店さんが外の門のところに置いて。て。くれる。野菜もね。米も、殆ど不自由しない。んだよ。」
「へー。先生。て。地元の人達にも信用。有る。んですね。」
「あー。それは、この家に係わった人達、だけ、なんだよ。ずーと、付き合っている。んだよ。もうすぐ花見だし、」
「あ。これ、苦い。」
「あー。フキノトウだ。・・・でも・・・美味しいだろう。・・・山菜。て。感じ。」
「うん。初めて食べた。これ、全部食べたこと。無い。」
「あー。リエは、始めてか。山菜。」
「先生。て、何でも知っている。ね。この蕎麦。六本木の蕎麦店さんより。美味しい。」
リエは、本当に美味しく食べている。真田も褒められて、嬉しそうに、満足していた。
「良く食べたね。リエも蕎麦好きだね。・・・五、六人前、有ったよ。」
「えー。そんなにあったの。」リエは、腹を抑えて、満足そうだ。
「片付けて、コーヒーでも入れよう。」真田は片付けて、コーヒーを入れてきた。
二人は、縁側のベンチに座って庭を眺めていた。腹いっぱい食べたせいか、うとうと昼寝を始めた。今日は暖かい陽気で。つい、うたた寝してしまう。しばらくして、真田は目を覚ました。時計を見たら、三時だ。リエを起こした。
「さあ。山へ行こう。五時まで歩けば、運動になるよ。」
二人は山へ繰り出した。一時間歩いたところで戻る事にした。
「先生。この前とはだいぶ違いますね。緑が濃くなっている。みたい。香りも濃くなっている。感じ。」
リエは、自然を肌で感じ取るように鼻をくんくんさせながら歩いていた。
「ほら。あそこに白い花がいっぱい咲いているのが、コブシの木が群生している、場所ですよ。満開じゃないね。こぶしの花が散ると、春も終わりに近づいて入梅に入る。入梅のときは山に登れない。から。殆ど家に、こもって。絵を描いて、いるよ。」
「うーん。入梅のときは、山も先生もじっと、耐えている。て。感じ。」
「でもね。草木はこの時期に水分を溜めておかないと、夏の日照りに負けてしまう。自然はうまく、回っている。今の時期が山にとっては一番活気づいて居る時かな。だから日々、緑が濃くなり、草木が伸びていくのが分る。から、毎日上る、んだよ。・・・日本は、昔から、今の時期を人生の出発点、物事の始まりとしている。更に。
桜の花のように、気品に満ちて、誰にも愛され、豪快に咲き誇る様を、先祖は、日本の象徴として親しみ、代々伝わり、桜花が咲くと同時に、それぞれの人生の始まりと決めたであろう。と、私は理解する。だから君達は自然と。身体が求めて、春山に来た、のでしょう。新しい出発点で、私と出会い、それが功を成して、桜の巨木になることを、私は願っている。」
真田は、秩父連山を見ながら、話す姿は真剣そのものだった。リエは、真田の身辺に、オーラのようなものを。感じた。
「先生。今の話。理解できる。本当にそう、よ。春は出発点で、春山に来た事が。自然とそうなったの、よ、私達。・・・それが大正解だった。そして先生に会えて。そうよ。先生の言うとおりよ。」リエは、ますます、真田にひかれるものを。感じた。
「あっ。もう四時だ。下りよう。山はすぐ暗くなるから。」
二人は、急いで山を下りた。家に着いたのは五時を回っていた。
「あー疲れた。」リエは、アトリエのそばのソファーに横になった。真田は西側の物置へ行った。今晩の、食事の材料を探しに行ったようだ。そして、漬物や野菜を抱えてきた。リエは、起きてキャンバスの絵を眺めていた。
「あ。先生。」そばへ寄ってきた。
「今、描いている絵を、見ていたの。・・・もう完成。・・・」
「あ。あの絵は、駄目、なんです。・・・遠くから見ると、バランスが悪い、遠近の差が今一。でね。書き直し。」
「え。消すの。・・・勿体無い。」
「ハハハ。良い、んだよ。そんなの、しょっちゅう、なんだよ。」
「先生。この前食べた。ほら。・・・小麦粉で作った。・・・」
「あー。すいとん。」
「そう。・・・あれ食べたい。・・・すいとん。」
「そう。・・・じゃ。すいとん。に。しよう。」リエは、真田の抱えている野菜を持ってあげた。
「うん。私も手伝う。」二人で夕食の支度を始めた。
真田は、小麦粉を出してリエにこの前の要領を教えて任した。リエは鼻歌交じりで、小麦粉をこねている。真田は鍋にスープを作って、囲炉裏の鍋掛けに下げた。
そして、木炭に火をつけた。
「先生。これで良い。」ボールでこねた小麦粉を見せた。
「うん。もう少し、緩いほうが、良いね。」リエは水を足して、練り直していた。
「あー。それで良いよ。囲炉裏のカウンターへ置いておくといい。・・・・野菜と、ホタテと、えびと、木くらげも、有ったな、七味、はい。これ。囲炉裏のカウンターへ持って行って。」リエは、鼻歌を歌いながら、楽しそうに手伝っていた。
真田は、器とグラスを出して、ビィール、ワイン、日本酒を出して、カウンターに並べた。準備は出来た。二人はカウンターに座った。
「よし。準備OK。さ。スプーンで粉を入れて。」
リエは、スプーンで小さいのやら、大きいのやらいろいろ変えて。入れた。
「よし。全部入れた。ね。あ。これも全部。入れて。」具も、入れた。あとは煮えるの。待つだけだ。
「それじゃ。ビィールで乾杯。」二人は、ビィールを注いで、グラスを合わせた。
「こと、こと、煮たほうが良い。」真田は、吊るしてある鍋を、少し上げた。
「リエのお父さん達は、私を知っている。でしょう。今朝の話を聞いたら、そんな感じがしたよ。芸能関係者とは長くつき合わせて、頂いたから。親父、お袋の時代を合わせると、かれこれ四十年。私の知人も、プロダクションを、経営している。し。この知人は。今、全盛じゃないかな。芸能界は浮き沈みが激しい。から。大変ですよ。」
リエは、嬉しそうに。
「うん。知っていた。先生がこの前、私達が帰るとき、山田商店に、真田の事務所のものだけど。て。言えば分る。て。言った、から。先生のうえの名前を、覚えていて、それとなく母に話したの。・・・ごめんね。探った。り。して。」
「あー。良い。んだよ。そんな事。・・・それで母は、なんて言って、いた。」
「うん。真田さん。・・・赤坂の真田さん。ね。・・・東侠会の会長さん。じゃない、もしかして。暴力団には見えない人で、インテリーで良い、男よ。て。・・・私は、お付き合いは、なかったけれど。今は。ヨーロッパに行っている。て。聞いている。けれど。・・・あんた。どうしてそんな事。聞くの。」て。言われて。
「わたしは、レストランの隣の席で。赤坂の真田親分。とか。て。話を、していた。おじさんたちが。いたから・・・」て。答えたの。そしたら、母が。
「そうね。真田会長。・・・あの人が居なくなって。から、赤坂は、小競り合いが多くて、この前も、報道されていない。けれど、あった。のよ。」て。
「これから、どうなる。んだろう。て。母は、心配していた。」
「そうですか。そんなことに、なっている。んだ。んー。時代は変わる。それが歴史だ。又、変わらなければ人間は成長しない。し。変わらなければ、若い者が入って来る、隙間が無くなる。改革して、その時代に合ったシステムを、作らなければ成らない。でも、昔の事(先人・先輩の話)を知らないと、改革は、成功は、しない。各団体は、特に大事だ。
政治家、企業関係者達は、過去を知らない人が、多すぎる。目先の事ばかり考えて、金欲に縛られ、我を忘れて、自分が何をやっているか。分らない。自分の不手際を追及される。と、小学生が喋るような回答を。平気で言う。・・・これからは、私らがやっていた。纏め役をする人は、難しくなるだろう。」真田は、心配そうに、話していた。リエも、真剣に聞き入っていた。
「私の場合は、自分が切り開いた。から、わずらわしい問題は。作らなかった。し、もし、出来ても、その場で解決した。人生は、長いものには巻かれろ。て。言う。ジンクスも、ある。芸能界も、流されても、我慢してその流れに乗る。のも。一つの手。だからね。ただ、芸人って事忘れて、会社を、創った。り。不動産、株。に、手を染めた。り、芸事意外で、自滅していく、人も大勢。居たよ。・・・従って、俳優は俳優。歌手は歌手。スポーツアスリートは、スポーツだけ。自分の道を外さなければ、変な、柵に係わらない、筈だ。それを、税金を逃れるために、そんなこと考える。でしょう。けれど。私は、何時も反対していた。だから私を嫌う人も多かった。父母達を、見ていて分る。でしょう。芸人だけ、地道に活動している人は、しっかりしている。筈だ。」リエは。
「うん。家の父母たちは、頭が悪いからいろんな事業は、出来ない。て。言っていた。」
「そうじゃない。んですよ。父母達は、世間を、分っている。んですよ。頭良い。ですよ。お父さん、お母さんは。・・・だからリエも、しっかりしている。じゃないか。私は、初めて合った時、しっかりしている。と。感じたよ。負けず嫌いなところもある。し。自分に自信を持っている。し。・・・芸人は上手い下手じゃない。自信を就けて、自分の持っているものを全部出す。人の真似をしない。自分を磨く。この前のリエの歌は、凄い。低音が良い。低音は練習しても、出ない。んですよ。持って生まれた、宝ですよ。親に感謝しなくちゃ。声の基礎は充分出来ている。から、教えてもらう先生。次第。だね。」
リエは、
「先生。この前の話聞いていたわ。アメリカに知り合いのジャズ歌手が居る。て。・・・あれから、その事が、気になって、先生と会える。の。楽しみに、していたの。・・・お願いする。のに。・・・皆もそうしなさい。て。言ってくれている。し。私もそう決めたの。・・・だから先生にお願いしようと、思って来た。の。」
二人は、話し込んでいる。リエは、ワインを注ごうとした。が。無くなっていた。
「あ。冷蔵庫に入っている。でしょう。」リエは、ワインを出してきた。
「はい、先生。」
真田が喋るのを、わくわくしながら、待っている。落ち着かない様子だ。真田はワインをリエに注いであげた。
「もう二本目か。・・・そうか。アメリカへ、行きたい。私の知っているジャズシンガーは、女性でね。歳は。七十いくつかな。二三人、下宿させて教えている。て。聞いている。ニューヨークの郊外に。住んでいる。て。確かめたわけではない。んだが、・・・明日にでも調べてもらう。その人に。詳しい人が居る。から、でも、返事は、一週間、十日ぐらいかかるかも。」
「えー。本当。嬉しい。」
リエは、立ち上がって喜んだ。真田は、確かな返事をもらうまでは、不安だった。
「おいおい。まだ決まったわけじゃ無い。んだから。」
「うん。・・・でも、先生の顔に、大丈夫だ。て。描いて、ある。」と言って、真田に抱きついてきた。そして、寝室へ行こうと、そぶりをみせた。
真田も立って寝室へ入った。リエは、ベッドに倒れるように。仰向けになったリエは、はちきれんばかりの巨乳を見せ、誘っている。真田もこんな乳房は、始めてだ。真田が覆いかぶさると。宝物に触るような気分になり、興奮して、押さえ切れないのが、分る。顔が隠れるぐらい、ふっくらとピンク色に染まる、はちきれんばかりの乳房が堪らない。無邪気な自分が分る。リエは突然大きな、かすり声をあげた。何度も繰り返す。涙を滲ませながら、むしゃぶりついて、くる。真田も、ふっと、我に返る。まだ元気なのが、分かる。ミナと、エミの時とは違う。最近続けている。せいか、強くなったみたいだ。真田も。興奮している。・
・・リエは、まだまだのようだ。七、八回。達したか。真田は。ぐったりしてその儘。横になった。二人は、バスタオルを巻いた儘。眠った。
真田は、五時ごろ目が覚めた。リエはバスタオルをまいたまま、鼾を、かいている。顔は幼さが残る。セックスをする行動は、凄まじいものがある。女の本能なのか、それぞれ違う。真田は寝顔見ながら、一人呟いていた。風呂へ入った。上がろうとしたら、リエが起きてきた。
「私も入る。」入って来た。真田は、真正面からはっきり見た。下毛は真っ黒でふさふさと覆い茂っている。はちきれそうな、巨乳。プロポーションは、日本人離れの、抜群である。アメリカへ行っても、引けを取らない、だろう。などと頭を過ぎった。岩に、腰掛けていた真田に。
「先生。私をじっと見つめて。・・・何を考えて、いたの。」
「うん。リエのあまりのプロモーションに、うっとりしていた。んだ。」真田は、リエを抱き寄せた。リエは真田に唇を預けた。そして二人は、夜の続きを風呂の中で始めた。三十分位続いた。真田は風呂から上がり、囲炉裏に火を起こし、お湯を沸かして、コーヒーを入れていた。
「あー。気持ち良いー。先生。・・・私達。皆。・・・処女でしょう。初めて、なんだ。でも、ビデオ買ったりして、見ている。の。・・・だから。なんとなくやり方は。・・・でも、上手くない。よね。」
「あー。・・・そんな事無いよ。・・・セックスは自然体で、良い。んだよ。上手い。とか、下手、とか。無い。んだよ。人。それぞれの持ち味。て。有る。から。又、その時々でも違うし、疲れていた。り、心配事とか、ま。あまり真剣に考えない、ほうが、良いな。・・・でも、リエは、今までセックスした女で、一番、だな。・・・・あ。この話は、ほかの人達には、内緒。だよ。本当に、リエは。凄い。」
二人は、コーヒーを飲みながら。嬉しそうに話している。リエも満足した様子だ。
「ところで。リエは、アメリカのジャズシンガー。何人、知っている。」
「えー。」突然言われたので、とまどった様子だ。
「でもね。・・・ジャズの事。考え始めたのが、まだ一年も立ってないから。・・・今、C・D買って夢中で聞いているの。・・・そうね。
ナプキン・コール。ドリス・ディー。ペギー・リー。サラ・ボーン。クリス・コナー。ナンシー・ウイルソン。ビリー・ホリディー。ジューン・クリスティー。カーメン・マクレェフェレン・メリル。ローズマリー・クルーニ。ミドルレッド・ベイリー。・・・ぐらい。かな。まだいっぱい居るけど。CD聞きながら練習しているの。」
「おー。流石だね。・・・研究して、いる。んだ。そのくらい知っていれば、まあまあだな。・・・リエに紹介する人。二、三人居るよ。・・・その中に。」
「えー。本当。誰。誰。だれ。」しつっこく聞いてくる。
「はっきりしたら教える。よ。今はまだ、分らない。から、その中に居ることは。確かだ。」
「うれしい。・・・夢見たい。」
リエは、まだ決まらない。けれど。決まったかのように、嬉しそうだ。
「先生。て。凄い。いろんなこと。知っていて。」傍へ、寄って、来た。
真田は、
「あ。お腹すいたよね。もう八時だ。」真田は、台所へ行った。
「ご飯はある。し、漬物もある。し、卵もある。し、あとは味噌汁を、作れば」真田は、囲炉裏にだし汁を入れた鍋を掛け、具沢山の味噌汁を。作った。
「さあ。食べよう。・・・この卵は、放し飼いの。鶏の卵で、美味しいから。食べなさい。・
・・ところで君達は、朝ごはん食べている。」
「うん。・・・いろいろ。母が居るときは毎日。居ない時は抜いたりしている。」
「そうか。・・・朝は、一日の始まりのエネルギー。だから、しっかり食べないと。俺は、空手を遣っていた。から。先生が、食事は、煩さかった。な。三十歳を過ぎると、変化がわかるよ。あまり太らないのも。大事。だ。」
「うん。私たちも、太らないように、食事には、気を配っている。でも、アメリカに行ったらどうしよう。」
「うん。今アメリカは、日本食ブームだから、大丈夫。だよ。」リエは、もうアメリカに行っている、気分だ。そんな話をしながら朝食を済ませ、コーヒーを飲んでいた。
「あ。九時過ぎた。私。帰る。」リエは、帰り支度を始めた。真田も車庫に行って、リエを待っていた。リエがきて車に乗った。
「じゃ。出発。・・・その半コートもエリが、デザインしたの。」
「うん。そうよ。・・・エリがデザインして、オーダーメイドしたの。素敵でしょうっ。」
「うん。似合うよ。・・・お世辞抜きで。」
話しているうちに、駅に着いた。
「先生。水曜日に、エリが来るからよろしく。ね。・・・あ。そう。エリは、ね、デザイナーの素質もあるけど、絵も上手なの。今度来るとき、絵を持ってくるように、言っておく。じゃ。よろしく。ね。」リエは、車から降りた。
「あっ。ちょっと待って。」真田は車から降りた。
「そこに、公衆電話があるから、アメリカの事、聞いてみるよ。此処でまって、いて。」
真田は、電話ボックスに入った。二十分ぐらいで、出てきた。
「うん。友達に連絡ついて話したら、今年の新年の挨拶で、とても元気だった。今、内弟子が三人居るって、その弟子達は、八月にデビューする。んだって。だから、もう弟子は取らないかな。て。言っている。みたい。・・・その先生に直接電話をして、頼んであげるから、二三日待っていて。て。」
「本当。嬉しい。」真田に抱きついた。
「おー・・・周りが見ている。よ。」リエも気づいた。
「あ。すみません。・・・つい興奮。しちゃって。」リエは、赤い顔していた。
「此処での連絡は、一方通行だから、不便。なんですよ。・・・エリが来るころには分るでしょう。じゃ。気をつけて。」
二人は手を振って別れた。
真田は、感心して聞いていた。人を褒める、友達を褒める、なかなか出来ない。この子は愛情を大切にしているし、表現力も良い。話す仕草が良い。ジャズが合うかもしれない。悲しい事、悔しい事、楽しい事を体験し、実戦していけば、良いシンガーに成れるだろう。
リエは、駅構内の公衆電話を探して、エリに電話した。
「もしもし。エリ。私。今五日市駅。先生と別れた。今から電車に乗るから、どこで会う。・・・青山のレストラン。・・・分った。二時ごろね。・・・バイバイ。」電車がホームに入っていたのですぐ乗った。
二時過ぎ、青山に着いた。
「お早うー。」
皆居た。
「リエ。そんな服着て行ったー。・・・山へ行くのに。」エリが言った。
「ところでどうだった。」ミナとエミも傍へ寄って来た。
「イヤーねー。じろじろ見て。」皆、リエの腕を掴んで早く話して、と、言わんばかり。
「結果から話すと、アメリカ行きが、決まりそう。・・・今度、エリが行った時に、はっきりするの。木曜日に分る、エリに伝えるって。・・・エリ。お願いね。」
「ん。どう言う意味。」
「あのね。先生の友人に連絡を取って、くれたの。そしたら、一週間ぐらいかかるから、水曜日頃分るって。先生も知っている。ジャズシンガーで、弟子を取って、教えている。て。その人達は、八月にデビューするから、空くらしい、の。」
エリが。
「そう。じゃ。私が行く頃。・・・分るのね。」
「そう。先生。とこ、電話が無いから、一方通行なのよ。あのね。二時ごろ山へ行ったの。新緑の香りが良かった。そして五時ごろ帰ってきて、・・・ほら。小麦粉で作った。・・・あれ。・・・すいとん。作って食べたの。・・・そして、芸能界の事とか、父母の事とか話したの。先生も芸能界は、親の代から四十年ぐらい。付き合って居て、殆ど知っている。て。だから私は、ジャズシンガーに成りたい。て。言ったの。・・・だからエリが行けば分るように。なっている。」
「うん。リエは歌手になることが、第一条件だから。でも。先生。て。素晴らしいね。そんな話、すぐに連絡して、やってくれる。」
「うん。苦労している。のよ。男の中の男。なのよ。」
「ジャズシンガーだって。いっぱい知っていた。わよ。」リエは、アメリカに行った気分で嬉しくてしょうがない。するとミエは。
「今日は、リエのアメリカ行きの、願いをこめて、パー。と。やろうぜ。」
ミナの予想は、何時も当たる。ので、皆で、ミナに賛同した。四人は六本木に行き、まず、サウナへ入った。そして、リエの母の行きつけの店に行った。ママが出てきて。
「あら。今日は。皆。お揃いで。何時ものところ、空いている。わよ。・・・久しぶりね。リエちゃん。何か良い事有ったー。」
「うーん。何も無いけど・・・ママの顔が見たくて。」
「今日は、ゆっくりして行って。生バンドが入るから。六人のメンバーで、女性シンガーよ。今、東京で一番忙しいバンドなの。皆さん、運が良かったね。・・・今セットしますからね。何時ものね。」
ママが、ボーイを呼んで、セットの内容を説明して、席をはずした。
「えー。今日は、ついている。ね。リエ。」皆は楽しく、ワインを飲んでいた。八時半ごろ、バンドたちが、準備を始めた。
「ねえ、ねえ。先生とこのワイン。此処より美味しかった。わね。」エミが囁くように言った。皆、うん、うん、と、顔で挨拶した。
舞台では、バンマスが、合図して、音合わせを始めた。四人は真剣に眺めている。・・・実演開始。バンマスが挨拶して、メンバー紹介。トロンボーン、ベース、トランペット、サックス、ドラム。最後にシンガー。四人はこんな近くで、バンドを見るのは、初めてである。リエは、目をサラのようにして見ている。周りを見ても、グラスを手にしている人は、居ない。皆、聞き入っている。先生が、言って居た。ジャズはアドリブだ。基本曲は有るけど、バンマスとシンガーのアドリブで、自由に変える。それがジャズの面白さで、メンバーによって、それぞれ違う。リエは、真田が言っていた事を、思い出しながら聞いて、いた。四人とも聞き入っていた。一曲が終わった。店のママが、来た。
「どうでした。皆さん。耳が肥えている。から。・・・素敵でしょう。このメンバー。女性シンガー。綺麗な人でしょう。背が高くて。・・・リエちゃんも背が伸びて良いプロモーションになった。わね。・・・ちょっと立って見せて。」
リエが立った。
「本当。・・・今まで気づかなかった。ご免ね。」
「ママ。もう酔っている。んてすか。」
リエは、照れながら言った。二曲目の演奏が始まった。枯れ葉だ。リエは、ドリス・ディーを、浮かべて聞いている。・・・どこか違う。分らないけど違う。これがジャズ。なんだ。ドリス・ディーと同じく歌う必要は無い。ん、だ。自分の感情と、聞く人の心が繋がれば、それで良い。自分の特徴を思う存分出せる、のが、ジャズなんだ。そんな思いを、馳せながら聞いている。するとミナが。
「リエ。ずいぶん真剣じゃない。」
「うん。先生が言っていた。こと。思い出していた。」
そして、二曲目が終わって、一休み。ママが女性シンガーを私達のテーブルに連れてきた。ママが、この人は、○○女優さんの、お嬢さんです。と紹介してくれた。
「初めまして。」と挨拶された。リエも立って頭を下げた。
「リエちゃん、二人並んでごらん。」女性シンガーと立って並んだ。
「ほら。同じでしょう。背が高くて。素敵ねー。リエちゃんも、ジャズシンガーに、なったら。この子ね、うちの常連さんの、お子さんで、オペラ歌手に成る。て。音大に通っているの。卒業。・・・あ。今年。失礼しました。声の質は抜群だし、この子の発表会。見に行っている。から、知っている。のよ。良い声、している。のよ。・・・考えたほうが良いわよね。」
「あ。はい。有難う。」リエは、頭を下げて、お礼を言った。そして又、演奏が始まった。聖者の行進。子の曲は、どこのバンドでも、オリジナルにしている。みたい。二時間が過ぎ店を出た。四人は、リエの家に泊まる事にした。
次の日。皆九時ごろ起きた。夕べ飲み過ぎたようで、皆、元気が無い。
「あー。夕べは、ジャズとワインに酔っちゃったー。」ミナは冷蔵庫から水を出して。がぶ、飲みしていた。皆も飲んだ。リエが。
「エリ。今度、先生。とこ、行く時、絵を持って行って。先生がエリの描いた絵を、見たいって、言っていた、から。」
「本当。うーん。じゃー。持って行く。・・・六号ぐらいで、良いね。」
「そうよ。見て頂いたほうが、良いわよ。上手。なんだから。」エミも勧めた。
「分りました。持っていきます。・・・ところで夕べのジャズシンガー。どう、思う。此処だけの話で。」
エミが。
「うん。プロだから。上手って言えば上手だ、けれど。今一。かな。て。感じ。私は。」
リエは。
「うん。私は、アメリカのシンガーしか聞いてないから、丸々。違うけど。発音がちょっと、違う。かな。て。でも。日本で歌う分には。良い、かな。・・・でも。リズム感は、良いね。」ミナは。
「でもさ。あそこのママが、リエに、だいぶアタック。していた。じゃん。ジャズシンガーに成れ。て。リエは、誰が見ても、そう感じるのよ。・・・私もそう思っていた。でしょう。・・・夕べの彼女より、リエのほうが綺麗だった。わよ。洋服も、似合っていた。からだけど。」
「本当ね。いよいよリエも期待の星になっちゃったね。木曜日が楽しみだ。わ。先生から聞いたら、すぐリエに、電話を入れるから。」
「うん。待っている。お祈りして。・・・外へ出ようか。」皆で青山へ繰り出した。お昼を食べて別れた。
そして水曜日、朝七時、新宿駅。ラフな感じの背の高い女が、手提げ鞄にA四サイズの袋を抱えて、青梅行きの電車に乗った。福生で五日市線に乗り換え、九時半ごろ武蔵五日市駅に着いた。バス停を探した。バスが居た。
「失礼します。このバス、山田商店の前通りますか。」
「はい。通りますよ。」と運転手が言ったので、すぐ乗った。バスは出発した、二人乗っていた。山田商店前に着いた。バスが通りすぎるのを待って、山の方へ歩いた。シャッターが見えた。この前よりも、青葉が茂っている、葉っぱの香りが、なんとも言えない。この道車が行き来しているようだ。先生が言っていた。ように、別荘がどんどん建つのかな。シャッターの前に来た。どきどきしてきた。ドアーを開けて、入った、鍵を掛けて歩いた。中門の戸を開けて入り、鍵を掛けた。木の陰からのぞくように、庭と縁側を見た。先生がチェアーに、座っていた。庭木の花が綺麗に咲いている。桜も咲き始めている。玄関の方へ歩きながら。
「先生ー。」呼んだ。真田は聞こえたようだ。小走りで玄関を開けて鍵をかけた。靴を脱いで上がって。真田のところへ走っていった。
「先生。ひさしぶりー。」エリは、抱きついた。
「おー。良く来たね。」真田も優しく答えた。
「これ。」エリは、絵を、見せた。
「お。絵、ですね。・・・いま、コーヒーを入れるから。」真田は、テーブルに封筒を置いて、コーヒーを入れた。エリは、どきどきしていた。
「はい。コーヒー。・・・どれ、どれ。」真田はコーヒーを置いて、絵を見た。
「おー。エリが描いた絵か。・・・花と。これは。・・・街並。」
「うん。・・・青山通り。此処。青学の門。夕暮れ時。」
「おー。中々重みがあるね。うん。力強い。下地に大分苦労が、見えるね。
あとで、ゆっくり見ておく。」真田は、キャンバスに掛けた。遠くから、見る。
二人は、庭へ下りた。
「わー。桜が咲き始めているー。」
「うん。まだ三分って、とこ、かな。来月始めに花見するよ。」
二人は、吾妻屋のある丘へ登った。
「ここ。バーベキューしたところ、だねっ。わー。一面桜の花。」
「桜も、上から見るのも、良いでしょう。」
「うん。最高ねー。花見に来たいわ。」
「あー。来たいときは、十時頃まで、此処にくれば、準備は出来ているよ。」真田は、嬉しそうだ。樹齢五十年の桜の木が、二十本。太さが五十センチから、七十センチだ。まさに上から見下ろす桜は豪華絢爛。真田は自慢げに、話していた。二人は、縁側に行った。
「先生。此処に立っていると、なんとなく落ち着く、と言うか、安らぎを感じる。」
「うん。その楠木が、樹液を出している。から。感じるんだね。毎日居ると分らないが、外から来た人は、分る。んだね。虫除けの木だから。」
「えー。清清しい感じ。」
「あー。樟脳って、みんなの家にある箪笥の中に、入れてある。でしょう。お母さん達が。あの香りの、元ですよ。・・・この木は。」
「へえー。あの香りが、強いの。・・・知っている。」不思議そうに見ている。二人は縁側のテーブルでコーヒーを飲んでいる。
「先生。花見。・・・良いなー。」
「此処の花見は、ね。この家造りに携わった人達。だけの、集まりで、三十人ぐらいかな。大工の棟梁が、仕切っている。・・・棟梁に頼んでみるか。」
「うん。頼んで。・・・四人で来るから。」
「あ。お腹すいたでしょう。・・・今日はね。うどん仕込んで、おいたから。夕べから寝かしてあるから、大分熟しているから、美味しいよ。・・さあー、支度しよう。」
「うん。私も手伝う。」二人は台所に立った。
真田は、冷蔵庫から小麦粉の固まりを出して、テーブルにおいて、麺棒でひき伸ばし始めた。
「先生。出来るの。」エリは、ちょっとびっくりした。
真田は何も言わずに、もくもくと生地を、伸ばしている。三十分位過ぎた。真田は汗を拭きながら生地を眺めて、触ってみた。
「うん。もう少しか。」又、黙々と伸ばし。
「これでよし。」と言って、伸ばしたのを丸めて、大きな包丁で切り始めた。
「わー。出来たー。・・・うどんだ。・・・ほら。長い。」エリは。切ったうどんを掴んで、持ち上げた。真田は、切り終えて、うどんを掴んで、パラパラ、付いている粉を、落として。
「どう。四、五人分はあるね。」と言って、お湯の、入った。大きな鍋に。全部入れた。朝に沸かしておいた。ぐらぐらとなって、うどんが煮て、いる。真田は傍に置いた氷の入った鍋と、大きな、ざる、を、用意していた。うどんが茹で上がると氷水に入れ、何回も洗った。それを、ざるに、入れ、水切りをした。冷蔵庫から薬味、たれ、ゆず味噌、ふきのとう、を、出して。
「これっ。囲炉裏のテーブルに持って。行って。」エリは囲炉裏に運んだ。真田もうどんを持ってきた。
「こんないっぱい。出来ちゃった。・・・残しても良いからね。」
「凄い。いっぱい。」二人はテーブルに座り食べ始めた。
「はい。これを入れて、食べて。」真田はゆず味噌をエリに上げた。
「あ。これ。・・・・なに。」
「うん。ゆず味噌。どう。」
「うん。美味しい。・・・初めて。この味。ほろ苦い、酸っぱい、けれど、食べられる。」ゆず味噌は、初めてだった。
「じゃ。これは。」真田は、ふきのとう味噌を、あげた。
「あー。にがいー。・・・でも後からほんのり。香りが。なんとも言えない。味。」ふきのとう、も。初めてだ。
「ふきのとう。だよ。どう。・・・食べられない。」
「うん。・・・初めてだから。なんとなく・・・慣れれば良い、かな。て。」
二人は、自分の好みで食べた。ふきのとう。も、ゆず味噌も。馴れた。ようだ。
さすがに、全部は食べ切れなかった。
「あー。残っちゃった。ね。」
「美味しかった。しこしこして、滑らかで、青山のうどん屋さんより、美味しかった。この香り。でも。・・・うどん作るの。普通の人、できないでしょう。大変よ。先生。て。何でも上手ね。ふきのとう味噌、ゆず味噌。覚えておこう。」
「こういう食べ物は、来年。春になると、又、食べたくなる。季節物って、言う、もの、なんだよ。」二人は、お腹いっぱいだ。後片付けして、コーヒーを入れて、縁側に出た。真田は籐のチェアーで、エリは木の長椅子で、休んだ。
うとうとして目が覚めた。真田は時計を見た。二時だ、一時間寝た。エリはまだ寝ていた、起こさないで、真田はアトリエに行ってエリの持ってきた絵を、眺めていた。構図、色彩、遠近、配置、感覚は、掴めている、ようだ。数をこなせば、実力はつくだろう。素質は有る。子供のときから、描いている、らしいから、飽きないで続ければ良い。誰もが続けられないで捨てちゃう。継続は力なり。そんな独り言を言いながら、見ていた。エリが起きてきた。
「あ。先生。夢見ていた。もう、こんな時間。・・・私の絵、見てくれた。どうですか。先生。」
「うん。中々良く描いている。ただ。ちょっと。何かが足りない。見る人を引き付けるもの。」
「え。見る人を引き付ける。・・・何かな。」
「それは。・・・自分で探す。・・・それを見つけたら。プロ。です。」
真田は、教えなかった。エリは、今、難関にぶつかっている。これで止めれば終わり。これを乗り越えて、克服すれば、物になる。
「え。わかんない。」
「だから、リエも、エリも芸術を、目指している。自分の気持ちを、聞く人、見る人に伝える。すなわち感動を与えなければプロではない。自分よがりは、禁物である。と、私は思って今まで描いてきた。だから、自分で自分を褒めない。死ぬまで。」
真田は真剣に話していた。エリも真剣に聞いている。
「そうね。私は、ただ描いていた。なんとなく。・・・先生の言うとおり、だわ。」
自分を察した。真田は。
「分ったようだね。要するに数をこなす事。心を開く事。即ち、芸術家は殆どの人は、純真な人が多い。だから騙され易い人が、多々居る。これは私の経験でね。・・・人生、何事も難しいが、芸術、芸能は、特にそうじゃないかな。直接生活に結ぶものではないから、興味の無い人は、生きて行くうえでは必要無い。から。・・・
ただ好きな人達は居ますよ。その人達に認めてもらう。そして、公の場で、歌ったり、見てもらったり、出品したり、そしてその道の先生たちから、御墨付きを頂いて、初めて、プロのスタートラインに立つ。・・・此処までの、指導者、スポンサーが良くないと、脱落する。又、プロになったら、自分を応援してくける人を探さなければ成らない。自分ひとりでは、芸能、芸術界は、生きていけない。何時も言うけど。流される時もある。分かっていても、駄目とは言えない。よほど大物になるまでは大変な商売だ。絵も親父が好きだったから。
私も生まれたときから、見ている。し、芸能界も親父が関係していた、から、話を聞いたり、見たり、していた。エリの場合は、お父さんが、画廊では、全国に知られている人だから、それをどうやって自分に活かして行くかだ。まず、大学院に行ったら、出来るだけ多くの人との関係を深めていく事がエリの成功の近道かな。・・・私はそう思う。」
「そうね。今までは、ただ好きだから描いていた、だけだも、ん。」真田は真剣に話す。
「今までは、好きなだけで、良かった。今日からは、プロを目指すことを、頭に置いて、行けば、大丈夫だよ。エリなら出来る。」
「うん。考え直すわ。先生の言うとおり。です。」
「君達の、父母は、今まで好きな事を遣らせて来た。それは、スタートラインに並ぶ準備だ。これからは、スタートラインに並ばせる指導者が、必要だ。先生なり、スポンサーを、自分で探さなければ、ならない。君達は、基礎は出来ているから、この道を行く(マイウエイ)を決断して、ぶれない様に、皆で助け合っていけば、大丈夫だよ。私が、そのスポンサーになる。事が、第一歩かな。・・・君達は。私とめぐり会えたことが、スタートラインですよ。」真田は、この四人に、分与する事を決めた。
「本当。先生。」と、抱きついてきた。
「はい、はい。分った。」と、エリをソファーに座らせた。
エリは、三人から聞いてはいたが、直接真田から聞いた事で、心が動揺した。嬉しくて堪らなかった。エリは、眼を閉じて真田を離さない。二人は、寝室へ入った。エリはすかさず、すっぴん。になり。ベッドに倒れて、仰向けになった。股を大きく広げている、乳房はピンク色に染まり、乳頭は赤くふっくらしている。真田も服を脱いでエリに覆い被さった。こんな乳頭が大きいのは、初めてだ。真田も、四人の女に、しぼられて、強くなった。今までとは違う、エリは真田を強く抱いて、寝返りをして上になった。真田はしたから、乳房を押さえた、エリは狂った。興奮が止まらない。真田は、こんな女は初めてだ。
前の女房も上が好きだった。真田はエリの顔を見ていると、堪らなくなり、頂点に達した。エリも乗ってきた。二人は炎のように燃えた。・・・・ぐったり横になった二人はそのまま寝た。
起きたのは五時を回っていた。エリはまだ寝ている。真田はそっと、風呂にはいった。真田は、エリは女として抜群の感覚を持っている。さつきのセックスの事を思い出しながら入っていた。するとエリも起きてきた。きょろきょろして風呂に入って来た。
「あ。居た。・・・」見つけたようだ。トイレに入ると、ガラス越しに風呂が見えるのですぐ分る。
「私も入る。」入って来た。真田の傍へ寄ってきて。触った。
「先生。凄い。刺青ね。・・・痛かったでしょう。」と、囁いた。
「こういうの。見るの。初めて。でしょう。・・・これからは、これを、彫り物って。言って下さい。刺青と彫り物は。違う。んですよ。身体に、絵を彫っている。のは。彫り物。刺青とは、江戸時代のころ、悪い事をして、島流しにされ。牢屋に入れられた人の。腕に黒く、帯状に、印をつけた。彫られた。それを刺青と言う。んだよ。・・・いわば、犯罪者のレッテルだ。」
「うーん。・・・彫り物。分りました。これからは彫り物と言います。」エリは、にこっと。した。
「あ。でもね。世間には、まだ。エリのように分らない人が、多い。んですよ。だから、彫り物を、入れている。と。怖い人。悪者扱いにする。でしょう。」
「うん。その経口はある。殆どの人が。そう言います。知らないからです。ね。」エリは分ったようだ。
「うん。分って貰えば、良い。んだが。」
「皆。聞かなかった。」
「あー。誰も聞かなかった。ね。・・・失礼だと思っている。かも。・・・まだ、そういう人が、多い。・・・聞きづらい、かもね。でも。聞かれても、彫り物の話は長くなる。から、四人が一緒のとき。機会を見て話すよ。・・・さあ上がろう。」二人は風呂から上がり、着替えて一休みした。真田が。
「エリ。夜。何を食べようか。」
「うーん。お昼のうどん。・・・大分残っていたから。私それで良い。」
「あ。そうか。じゃ。野菜を入れて、煮込みうどんを作ろう。」真田は用意を始めた。エリも手伝った。
スープを入れた鍋を囲炉裏に掛け、火を起こした。ハム、チーズ、漬物、生ハム、グラス、器を出した。エリが
「私持って行く。」囲炉裏のテーブルに運んだ。真田は、うどんを持ってテーブルに座った。
「とりあえず。ビィールで乾杯。」真田がビィールを注いで、乾杯した。
「あー。美味しい。・・・先生。野菜入れても良いでしょう。」
「あー。良いよ。うどんは茹でてあるから、食べるときで良い。」
二人は鍋を囲んでいる。
「先生。ワイン、頂いても良い。」
「はい。ワイン。」真田はあけて、エリに注いでやった。
「先生。とこのワイン。頂いたでしょう。この前。あれからレストランのワイン。飲んでも、美味しくないの。皆も。言っていた。先生の。ワイン。どうして美味しいんだろう。て。やっぱりメーカー。ですか。其れとも。国ですか。」
「あー。ワインは、難しいよ。私もまだまだ知らない事がある。甘いワインは好きじゃないね。私は、スペイン産のワインが好きでね。少し辛い感じが良いね。まあ。人それぞれ。て言うか。好き好きと、言ったら。結論は出ない。それがワインだよ。とにかく、私は、古いものが美味しいと思って、飲んでいる。何故なら塾生が長い物が。美味しい。これも古いよ。」真田は上手く逃げた。実際にワインは難しい。
「これ、美味しい。」エリは、楽しそうに飲んでいる。
「お。うどん入れるか。」エリはうどんを入れた。
「おー。量もあるね。・・・少し煮込んだほうが良いね。」少し煮込んで、真田は鍋を上に上げた。
「囲炉裏は、これが出来るから便利だよ。」
「そうね。私達。初めてだから。・・・こういうの。」
「さあ、食べよう。」真田はエリに分けてあげた。
「有難う。・・・美味しい。」ふうふう言って、食べていた。
「このチーズもハムもドイツの商品だから、食べてみて。」
「はい。有難う。」エリは、嬉しそうに食べている。
「あ。そうそう。明日、友人に連絡する事になっている。リエの事でね。そしたら結果を、直ぐエリに教えるから。リエに伝えてほしい。」
「先生。リエは、もうアメリカへ、行っています。よ。喜んで、夢が実現する。て。」
「あの子は、上手く、いくよ。芸能界の親を、見ている。し。個性も強い。さっきの話じゃないけれど。スタートに立つまでの指導者しだい。だよ。アメリカ人は、個性を引き出して、導いてくれるのが。上手だから。」
「へー。そうですか。・・・アメリカ人。て。」
「うん。おおらかで、目先の事にこだわらない、常に未来に、向かっている。し、何事も世界一を、目指しているから・・・それからエリの事だが、・・・お父さんの跡継ぎを考えているのかね。」
「うん。今まではそう考えていた。けれど、最近。母が言うには、父の跡継ぎは無理だ。て。父は父の対人関係だし、あなたは自分の関係を築いて行けるか、それが出来るかどうかだけど。て。又、財団法人になったら。・・・私も心配になって。自分で考えるのは、父と一緒に歩き、父のやり方も覚えながら、無名の画家、学生達が出展できる画廊から、始めたい。そして、学生達が自由に、出入りできる、アトリエと、画材を販売する。私もそうですけれど、絵を描いている人は、いっぱい居るの、でも、見て頂く場所が無いし、だから見てくれる人も少ないの。・・・そんな場所があったら、良いなって、考えている。経営としては、絵が売れたら、場所代として何パーセント頂く、そして、アトリエを貸す代わりに、画材店の店員を交代で、してもらう。要するに、絵心のある人達の集まる場所にしたい。の。」ニコニコと話すエリに、真田は頷きながら聞いていた。
「そうですか。画材販売。私も、細かい取引はしたこと無いから、良く分らないけど、そういう店を創るなら、最適な場所があるよ。・・・神田神保町に。」
エリはびっくりした。
「本当。」
「あ。本当だよ。今、そこに八階建てのビルを、建てようかと、計画中だよ。本屋街の通りだから、エリの、考えている。店に、合っているかも。」
「えー。あそこなら、学生も多いし、芸術家も来る。し。・・・最高よ。私、そのビルに入れるの。」
「あー。入れる。よ。ミナとね。まだ、はっきり、言っていなかった。んだが、そのように出来るよ。今度、虎ノ門に集まって、きちっと話をしよう。」
「え。何か、夢見ている。みたい。」二人は、食べながら、飲みながら話している。
「先生。て。神様みたい。私たちのこと、何でも叶える。そして頼れるし、安心するし、楽になる、吸い込まれる。」
エリは、ワインを片手に、真田の後ろに立って、四人のこと連想しながら、嬉しそうに話した。
「先生。私達。四人。どう思う。」
「ん。どう思う。て。」エリは、真田に抱きついて。
「セックスの、こと」エリは、燃えている。真田は背中が熱く感じた。
「あー。セックス。か。・・・どう言う意味で聞いている。上手いか、下手かってことかな。」真田もエリの顔を見た。
「そう。・・・私達、初めてよ。男の話。時々するの。セックスしたらどうなる。て。」
「うん。私も、今までいろんな女と、セックスしたが、君達みたいな、初心な女とは、初めてだ。今は、処女は絶対居ないと、思っていた。・・・びっくりしたよ。・・・次の日シーツが、大分汚れて、いたから、分ったよ。・・・でもセックスは、上手いとか下手だとか、じゃ無い。んだよ。愛の真実を確かめ合う、証。・・・でも、一概には言えないのも事実だ。遊びで、するときも。ある。し。何となく。気が。会って。することもある。しかし、性欲は、人間の欲望のなかで、もっとも強力なものだ。
性欲活動を始めると、想像力、勇気、忍耐力を発揮し、閃きや、アイディア、思考力が生まれる。し、人間の本能を創造的なものに転換する。又、そのエネルギーを、他のものに。変え。文学、芸術、芸能、技術など、さまざまな分野においても、あるいは、富を築くためにも、その力の源になる。従って、性欲をただ肉体的な欲求だけに求めるなら、価値の無い性エネルギーの浪費である。われわれは愛とロマンを求めて、ひたすら突っ走ってきた。勿論、そこには性欲が絡んでくる。それを遊びにするか、発展させるかは、個人差はある。が。
性の知識を正しく理解し、神聖な感情を持って、その愛を発展させて行くとき、どんな苦労も辛くはない。筈だ。・・・男を生かすも、殺すも、女しだい。と言う。言葉が。生まれた。・・・先人達が見つけた知恵である。事件の陰には女あり。と。言われる。・・・欲望を。超えると。事件に成る。これが、私の、性学論である。・・・終わり。」
パチパチパチ。エリは、拍手をした。
「先生。お見事。成る程。本当。そう思う。言われて見れば。皆。それを。失っている。現代の夫婦間も。そうでしょう。噂を聞くと。先生の言う通りです。
性欲を正しく理解していない。お互い無知。無関心。遊びだから。・・・飽きる。そして離婚。それを心の不一致と。定義する。・・・先生。私達は、そんな事。無いよ。ね。」
真田は。にや。として、ウインクした。エリも安心していた。時間は、十時を回っていた。エリは、真田を誘うように、傍へ寄ってきた。二人は寝室へ入った。
鼻声で囁くように。
「先生。・・・」真田は、覆いかぶさった。
真田は。歳のせいか、ちょっと疲れていた。でも、すがりついてくるエリに、真田も巻かれるように、付き合った。絡み合ううちに、真田も復帰した、エリが迫ってくる性交は、全てを知り尽くしたように、激しいものがあった。真田は求めるままに、身体を預けた。アダルトビデオの見すぎか、と、脳裏を過ぎった。二、三十分位過ぎた。
エリは、頂点に達したようだ。満足したように二人は就寝についた。
次の日、真田は何時も六時ごろ起きていたが、今朝は九時だ、大分疲れたようだ、トイレに行き風呂へ入った。すると、隅のほうにエリが静かに入っていた。真田が覗き込むと、分って、真田を誘う、真田は傍に行って。
「早かったね。起きるの。」するとエリは、夕べの続きをやろうと、言う、セックス狂いの女が居る。とは聞いては、いたが。自分の前に現れるとは、思わなかった。真田も、四人の、最後だと思い。欲を出して、付き合った。三十分続いた。風呂から上がって着替えた二人は、冷たいコーヒーを飲んでいる。真田は。
「エリには、殺されるね。」エリは、恥ずかしくも無く、にこ。と。笑った。
「朝ご飯何、食べる。」真田が聞いた。
「私、入らない。」若いといえども、疲れているようだ。
「そうか。私も入らない。」二人は大分疲れてソファーで、うとうとしている。
目を覚まして時計を見た、十時過ぎだ。真田はあわてて、エリを起こした。
「あー。」エリは、大きく背伸びしている。それが又色っぽい。真田は、
「エリ。電話しに行くけど、一緒に行く。・・・そのまま帰る。」
「あ。どうしよう。・・・」考えている。
「はい。電話して・・・又、此処に戻る。それから、帰る。」
真田は車を出した。エリは着替えてきた。二人で。駅に向かった。駅に着いて、
真田は、駅の電話ボックスに入った。エリは、外で心配そうに待っている。
真田が出てきた、エリは駆け寄って。
「先生。どうでした。か。」傍へ寄った。
「あー。OKだよ。」真田も、ほ。と。した様子。で。
「本当。」エリは、真田に抱き寄った。
「おい、おい。皆見ている。よ。」
「あ。・・・ごめん、ごめん。」エリは、離れた。
「先生。リエに電話する。」
「あー。早くしなさい。」エリはお金を出し、電話ボックスに入った。
「もしもし。リエ。私。・・・アメリカ行き。決まった。よ。今、駅前に居る。の。先生と。・・・今。先生と変わる。ね。・・・真田だ。今、OK。貰ったよ。君が一番好きだった。ドリス・ディーさんだ。・・・良かったね。・・・そう。・・・九月からでも。言って、いた。本来は、テストをしたい。んだが。真田さんの知人なら、OK。だって。御墨付きを貰いました。・・・エリに代わる。もしもし。良かったねー。私、まだ支度してないから、家に戻ってから、帰る。五時まで帰る。」エリは、泣きながら、話していた。ボックスから出てきた。
「先生。三人。集まって、いた。電話来るのを、待っていた。皆。泣いて、喜んでいたよ。」
エリも、涙が止まらない。」真田も、安心している。十一時だ。
「レストランに、行こう。」真田が誘った。
「うん。ありがとう。」二人は、郊外のレストランに向かった。車の中で真田が。
「これで、全員。大体決まった。ね。それから、来週の日曜日に、花見が終わるから、水曜日に、虎ノ門に帰るから、私の家に、来てほしい。四人の前で話したい。んでね。私も、十年間、悩んでいた事。が、君達に助けてもらう事に。なる。大事な話、だから、待ち合わせ場所を決めて、合おう。」
「本当。虎ノ門。・・・神谷町駅で、どうですか。」
「あ。良いですよ。・・・じゃ。十時ごろ、日比谷線、神谷町駅。四番出口。それで決定しよう。皆に伝えてくれ。必ず。」
「はい。分りました。来週水曜日、十時、日比谷線、神谷町駅、四番出口。」エリはメモした。
二人は、レストランに着いた。食事を済ませ、家に着いたのは一時過ぎだ。真田は、着替えに部屋へ入った。するとエリが入って来た。抱きついてきた。
「先生。抱いてー。」囁くように、小さな声で、真田も、エリの気持ちを呼んだ、性欲で、自分を転換させようとしている、昨日、話したことを、実行しようとしている、真田も言うが儘に、エリをベッドに倒した。今度は、真田のほうから、愛と情熱と創造力を性エネルギーに変わるよう。祈りながら、セックスとは遊びでない事を分らせるチャンスでもあった。しばらくして、エリはじんわりと涙を滲ませていた。昨日のような、はしゃぎぶりは見せなかった。勘の良い子だから分ったようだ。そして、二人は頂点に達した。ピンクの乳房と乳頭が、素晴らしく光って、濡れていた。真田は乳房に顔を埋めていた。この性交が忘れられない思い出になるようにと、二人は、目を閉じている。・・・二時過ぎていた。二人は、シャワーを浴びて、着替えた、エリは帰り支度をした。
車は出ている。二人は一緒に車に乗った。
「今日は、遅くなった。ね。」駅に向かった。駅に着いた。エリは降りて、手を振って駅のほうへ歩いて行った。真田も帰った。家に着いて、チェアーで休んだ。エリとは、四回もセックスした、続けざまに、歳には勝てない。大分疲れた。腹上死なんかしたら、笑われるよ。真田は、苦笑いした。
エリは、新宿に着いた。リエに電話を入れた。
「リエ。私。今、新宿。何時もの青山のレストランね。・・・直行する。先に行って。いて。」エリは、汗ばんでいた。青山に着いた。
ミナが、気づいた。エリが、大分頑張った。目が赤くなっている。
「エリ。・・・随分。頑張った。じゃない。」にやっとした。
「うん。嬉しくなって。・・・つい。」エリは、隠さなかった。皆、同じだから、と、分っていた。自分だって、頑張ったでしょう。だって、皆、セックスは、初めてだから、珍しさに。エリは、感づいて、いた。
「顔色が悪いよ。鏡。見た。」
「えー。本当。」鏡。出そうとした。
「嘘よ。・・・それより。リエの話し。」四人はテーブルを囲んでいる。
「ミナ。たらー。・・・リエ。おめでとう。決まった。ね。」
「そうよ。皆で心配して。いた。んだもん。」ミナも。エミも。リエが。
「うん。・・・まだ、どきどき、している。本当かと。嬉しい。」四人は、がやがや騒がしく話していた。店のママが、来た。
「あーら。楽しそうねー。・・・何か良い事でも、あったの。」
「あ、はい。」
「そう。・・・良かったね。何時もので。良い。」何も頼んでなかった。
「はい。何時もの。お願いします。」ママは、帰った。
「あー。あまり大きい声で、話せないね。」
「エリ。どーお。先行き。」ミナが言った。
「うん。日曜日が、花見でしょう。火曜日の朝。虎ノ門に来て、書類を調べて、水曜日の十時に、日比谷線、神谷町駅の。四番出口で。待ち合わせする事に。なったの。そこから歩いて、二三分。だって。言っていた。」すると、エミが。
「本当。良かった。じゃ。私達。何処で会う。・・・私。家。泊まる。火曜日の夜。良いい。」すると、全員。
「良いじゃない。そう。しよう。決定。」ミナが。
「それより、さっきの。続き。エリの。」エリは。
「何よ。さっきの続きって。」
「ほら。頑張った話。」ミナが、囁いた。エリは、見当がついた。
「うん。頑張っちゃったー。四ラウンドも、行っちゃった。」
「えー。」
「ちょっと。声が。」エリは、シー。口に手を当てた。
「でもさ。・・・・皆。・・・頑張んなかった。の。・・・なんで、私だけに聞くの。」
「うん、別にエリだけじゃないけど。でも、私の時は。ぎこちなくて。初めてだし、。何年ぶりだって。慌てて、いた。から。先生が。」ミナが言った。するとエミが。
「そうよ。私にも。十年ぶりだ。て。・・・セックスは。」
ミナは、
「そうか。・・・皆で愛して、あげれば。カンバック、するわよ。」