第一話 出会い
東京都内を縄張りに、赤坂に本部を置く老舗の東侠会は、警視庁指定暴力団となって解散に追い込まれる。
会長はまだ四十七歳。と言う若さだが、長期の抗争が和解となったこともあり、ここが潮時と考えていた。これが決断のきっかけになる。
※昭和六十二年十二月二十日、日本中が慌しく年の瀬を迎えようとしていた。赤坂、永田町、霞ヶ関官庁街は、行きかう人、人、車、車で、ごった返して、いた。北風が吹き抜ける夕暮れの、ビル街は、薄っすらと、夕陽に染まり、外の慌しさとは、裏腹に、赤坂のビルの一室は、熱い緊張のこもった空気に包まれ。男たちは深刻な表情で向かい合って、いた。
「会長。本気ですか。」「会長。会長。会長。」
大きなドスの聞いた声が響いていた。三時間も過ぎていた。
会長。真田幸介。四十七歳。
「なげえあいだ、ご苦労だった。」
真田は声を詰まらせていた。
「俺の決断は、さっきから話している通りだ、皆は東京きっての、代貸しだ。任侠道を捨てろと言うのではない。後のことは、銀座会。会長に頼んである.このまま任侠道を続ける人は、今の待遇で銀座会が面倒を見てくれることになっている。明日にでも行ってくれ。会長に言えば詳しいことが分かる。」と、真田の目は潤んでいた。皆は下を向いたまま、目頭を抑えていた。
大幹部。七名。真田といつものメンバーである。
「ここに、一億円。づつ、用意してある。」と、鞄から七億円を出した。「今までのご苦労分だ。これは、俺個人の金だ。会の金は、幹事長に任せてある。後を残さないように大幹部以上で均等に配分してくれ。これだけは絶対に守ってくれ。これが俺の最後の頼みだ。・・・・・もう一つ、俺のことは探さないでくれ。しばらく一人で居たい。んだ。」
真田は、都会の喧騒から離れて一人で暮らすことに決めていた。のである。そして東京周辺の山奥に別荘を建て、子供のころから好きだった絵を描いて自分を、見つめなおそうと考えていた。
それから五年が過ぎ、まだ肌寒い
※平成四年三月中旬頃、何時ものように歩いて一時間ほどの山奥で絵を描いて居た。太陽が沈みかけ、そろそろ帰ろうかと絵道具を片付け始めていると、女達の話し声がきこえてきた。こっちにくるようだ。
「あ。人が居た。」と、真田を見つけて傍に寄ってきた。
「あのー。おじさん、何している。んですか。」
「あ。絵を描いている。絵描きやさんだ。・・・画家だ。」
「画家ですか。」と、代わる代わる喋っている。と、
一人が、真剣な顔で、俺の傍に寄ってきた。
「助けてください。道に迷っている。んです。」
すると皆寄ってきて
「助けてください。助けてください。」と、座り込んだ。そして疲れて歩けない様子で、泣き出しそうな顔で訴える。どうやら道に迷って歩き疲れているらしい。
「もう歩けないから、泊まるところ、探しているの。民宿。」
「民宿。この辺りにそんな宿はないよ。」
「わー。どうしよう。」と、皆がいよいよ泣き出した。
「まあ、まあ。泣かないでよ。・・・しょうがないな。それじゃっ。私の家に泊まりますか。でも、ここから一時間は歩くよ。」
「泊めてくれますか。」
四人は顔を見合わせて、
「本当。泊めてくれるの。」
「泊まる。泊まる。泊まるー。泊めてー。」と、疲れをよそにはしゃぎだした。
四人は、画家の家に泊まることになり、絵道具を片付けて山を下りた。一時間ほど歩いて家の前に着いた。五時を回って薄暗くなっていた。
家の前の道路は幅四メートルほどの林道だが、簡易舗装になっている。家は道路の北側に面している。幅四メートル、高さ三メートルのシャッターの前で止まった。左側に小さなドアーがあり普段はここから出入りしている。
「さあ。入って。」
皆で入った。
「ワー。凄い。長い。」
屋敷の東側に幅四メートルの舗装された道路が北の方にスロープに、なっていて、突き当たりにシャッターが下りている、車庫みたいだ、両側は椿の木。と、サザンカの、木の、生垣が交互に植えてある、そこを進んでいくと、左側に幅三メートル、高さ三メートル、瓦葺の大きな屋根で、五十センチ角の柱に、六十センチの梁がどっしりとのしかかるように建っている。板張りの引き戸が二枚。鍵を開けた。
「さあさあ、どうぞ。」
皆、門をくぐり家の中に入った。
「ワー。凄い。高い。」皆、上を見回した。
「天井が無い。」
入り組んだ小屋組み、梁の組み方が表れている。玄関とリビングの床は平らで靴を脱ぐところだけ畳一帖程の大理石が張ってあり、リビングに直接繋がっているから、広く感じるのである。又、リビングも三十帖ほどあり、広いのである。靴を脱いであがった。
「なあにこれ。」
中央に二メートル四方の囲炉裏がある。テーブル式で、座るとちょうどいい感じで、天板の幅が五十センチもあるからテーブルになる。
「高さがちょうど良いね。これに鍋掛ける。んでしょう。」と。吊り金具に触りながら辺りを見回していた。
「柱も太い。横になっている木も、幅が広いわ。」
柱は二十センチ角、梁は二十センチ×五十センチもある、それをむき出しになっているから太く見えるのである。柱の長さは五メートルほどで、都会の住宅の柱より二メートルも長いので、凄く高く感じる、床は、くるみの木で幅が、二十センチ厚さが五センチもあるから重圧感がある。
リビングの西側に大きなキャンバスが置いてある。ここがアトリエとして何時も居る場所である。
「まず。部屋を案内するよ。」と言って、各部屋を見た。
リビングのとなり西側が、和室十畳の寝室、その西が大きな銃前のかかった十五畳の納戸。ここに完成した絵が二百枚はあろうか、その反対側北西に十二畳の洋室、その手前が浴室、洗面、トイレと一緒に繋げてある。浴室は自然の石と岩で造った露天風呂になっていて、ガラス越しに、洗面とトイレがある.その東手前が台所で、六畳ぐらいと狭い。大きな食器棚と大きな冷蔵庫がおいてあるだけで食事はいつも囲炉裏でとるという。その手前北東奥に八畳二部屋がある。客室になっている。締めて八十坪。玄関の裏側の廊下から車庫への出入り口がある。車庫へ行った。
「ワー。外車だ。大きいー。」
「うん。アメ車でダッチって言う。んだよ。八人乗りだよ。」リビングへ戻った。
囲炉裏を囲んだ。
「縁側が広いでしょう、朝起きてあそこに置いてある籐のチェアーでコーヒーを飲みながら庭を眺め、木々と小鳥に、元気を分けて貰って、私の一日が始まる。んだよ。外は暗いから明日案内するよ。」真田は立って。
「突然の来客で、何も用意してないから、ある物を食べてもらおう。ね。」
「うん。なんでも良いわ。」四人はうれしそうに口をそろえて言った。
真田は、食事の用意を始めた。大きな鍋を持ってきた。突然の若い子達に気もそぞろの様子だ。
「わっ。大きい鍋。こんな大きい鍋、見たことない。」
直径八十センチの鍋で、「今夜は、田舎汁だ。」と、釣り金具に鍋を掛け、囲炉裏の下から木炭を取り出した、「はい、これに火を起こして。」と、皆で木の葉を燃やしながら火を点けた。真田は、冷蔵庫にある物を全部出した。四人も手伝いながらわいわいがやがやと、賑やかになった。
取って置きのスープに、牛、豚、鶏肉、豆腐、こんにゃく、油揚げ、それに白菜、キャベツ、大根、人参、ゴボウ、里芋、とにかく全部入れた。女の子達はこんな大きな鍋を見るのは初めてである、木炭で煮炊きするのも初めて、田舎汁も初めて、囲炉裏での煮炊きも初めて、とにかく包丁を持つのも初めてである。らしい。」
「わー。楽しい。」喜んで大騒ぎをしている。真田は、酒と味噌を入れた
「もうすぐたべられるよ。」と言って、台所のほうへ行った。ビィール、ワイン、ブランディー、日本酒、ウイスキーをワゴンに入れて運んできた。
「さあ。どれでも好きなの、飲んでください。」と言ってグラスと食器を出した。
「ワー。凄い。高級なお酒ばっかり。」どうやら、酒の銘柄が分かるみたいだ
「頂きます。」・・・・・「あっ。乾杯しなくちゃ。」と、一人が言うと、皆でとりあえず、ビィール、を、注いで、
「先生。お世話になります。」
「乾杯。」
ビィール、を、飲む人、日本酒を飲む人、ワインを飲む人、それぞれである。真田は、ブランディーの牛乳割を、飲んでいた。四人は、美味しい、美味しい、田舎汁って美味しいと言って、帆奪っていた。里芋のとろみが美味しい。東北では芋に会と言うところもある。
「ねー。皆。先生に自己紹介しよう。」と、一人が言った。
「そうよ。忘れていた。夢中で食べていた、から。」
「はいっ。私は、エリと申します。○○大学、美術科を卒業して、大学院に進みます。父が、画廊を経営、母が画材道具販売会社を経営しているので後継者として頑張って行きます。・・・住んで居る所は、青山です。」
「はいっ。私は、リエと申します。○○音楽大学、声楽科を卒業して、オペラ歌手を目指して頑張ります。父は俳優、母は女優をしています。住んで居る所は、六本木です。」
「はい。私は、エミと申します。○○大学、政治経済学部を卒業して、大学院に進みます。父は国会議員です、母は第一公設秘書です。住んで居る所は、赤坂です。」
「はいっ。私は、ミナと申します。○○大学、文学部を卒業して、研究生として大学に残り、文庫本を書いたり製作をしたり、出版社を目指しています、父は一部上場企業の会長で、母はその会社の社長です。住んで居る所は、西麻布です。」
エリが。
「先生。以上です。私達全員一人っ子です。幼稚園からの友達で、兄弟のように仲が、良い、んです。それぞれ個性が強いけど、なぜか気が合う、んです。よろしくお願いします。」パチパチパチパチ。真田は、大きな拍手をした。
「うん。君達は偉い。よく頑張っている。今の自己紹介は、はっきりしていて、分り易い。でもどうしてこんな山奥へ来ちゃった、の。」
エリが、
「うん。皆で、卒業記念に、自然に触れながら、将来の事などを話し合おうって、でも山登りなんかしたことない。し、近くの山で桧原村ってあったの、そこなら近いからって、東京だし、気楽に来ちゃった。の。地図も磁石も持ってこなかったし、安易に考えていたの。・
・・でも。良かった。・・・画家の先生と会えて。」と、嬉しそうに真田を見つめて四人は、ほっとした様子だ。
「そうか。・・・実は、私もね。毎年四月に来る。んだが、今年は三月に来ちゃったんだよ。そう考えると、君達に会えて、偶然の巡り合わせ、かな。」
「そうよ。きっと、良い事有る。かも。」四人は、声をそろえて言った。
「先生。皆。良い事有るように、乾杯しましょう。」
賑やかに盛り上がっていた。
エリが
「先生。絵を描いて、何年ですか。」
「おいおい、先生って言わないでくれ。私は、画家でも先生でもない。んです。だだの、趣味で描いている、だけ。なんです。よ。」
「へー。でも。こんな立派な家造って。奥の部屋に置いてあった、あの絵、何百枚も、有って、あれ、先生描いた。ん。でしょう。」
「上手だよねー。皆。」
「うん。趣味とは思えない。・・・日展に出したら。」皆口を揃えて、言った。
「そんな所へ、出すような絵じゃ、ありませんよ。それに、此処は別荘。なんですよ。自宅は都内に、有る。んですよ。此処へ来て・・・もう、十年かな。四月から十月まで此処で暮らす。んですよ。」
「へー。優雅ね。自宅って。・・・何処ですか。」
「自宅は皆さんの近所ですよ。虎ノ門。」
「え。本当。」四人は、びっくりした。
「じゃ。十一月からは、虎ノ門に居る。んですか。」
「十一月から三月までは、伊豆の別荘に行く。ん。ですよ。」
「えー。伊豆にも別荘ある。んですか。」
「伊豆はゴルフ場があるから毎日ゴルフ三昧ですよ。」真田は、自慢げに話している。
「えっ。自分のゴルフ場ですか。」皆、びっくりした。
「あー。九ホールでね、高低差があるのでおもしろいですよ。」
「へー。先生って。何の仕事、なさっている、んですか。」
「ああ。退職して、今は何もしていない。んです。」
「へー。退職。そんな年齢には見えないけど。」
「ま。そんなことかな。」真田は、昔のことには触れたく、なかった。
皆は、食べて飲んで、大きな鍋も底が見えてきた。それでも女の子達は真田をもっと知りたい様子で話しかけてくる。真田は、ふっと、時計を見たら0時を回っていた。真田はトイレに行き、風呂の湯加減を見てきた。
「もう、こんな時間だ。後片付けは、私がするから、皆で風呂入ったら、良いよ。」
皆も疲れた様子で、素直に。
「はーい。」と言って風呂に入った。がやがやと賑やかに騒いで入っていた
真田は、食器などを片付けて布団を敷いてあげた。
そして、紙に、
「東側の部屋に布団を敷いてある。からその部屋に、寝てください。ドアーが空いている部屋」と、書置きして自分の部屋に行った。
女の子達が風呂から上がってきた。
「あ。何か書いてある。東側の部屋に寝てくださいって。あ。あそこだ。」
すぐに分って皆部屋へ入った。真田も寝た。
真田は、四時ごろ起きて風呂に入っていた。すると誰かが起きたようだ、トイレに来た、風呂とトイレは透明ガラスで仕切ってあるので風呂場が丸見えである。
エリのようだ。トイレ済まして風呂場へ入ってきた。
「先生、入っても、良い。」と、囁くように言った。
「ああ。良いよ。」と、低い声で言った、全身彫り物を見て、はっ。と、思った様子だ。でも、気にしない様子で入ってきた。でも、気になっているようだ。それにしても腹の座った子である。十分ぐらい入って出て行った。真田は一時間ぐらい入って出た。
外は明るくなり始めていた。真田は何時ものようにコーヒーを煎れて縁側に出て庭を眺めながら、瞑想していた。そして、七時ごろ朝食の用意をしていた。
八時ごろ、ミナが起きてきた。
「おはよう。」眠そうな顔で。
「あ。私も手伝う。」と言って、傍へ寄って来た。
「あー。有難う。じゃ。その器を出してくれ。」
「はい。これ。ね。」
真田は、
「夕べは飲みすぎたようだから、お粥と、梅干と、具の入らない味噌汁だよ。」
「あ。美味しそう。」ミナは、囲炉裏のテーブルに器を並べていた。
「おはようー。」エミ、リエ、エリ、と、次々に起きてきた。
「あら。ミナ。早いね。」
「うん。朝食の支度、出来たわよ。さーさ。顔洗って、歯を磨いて。」
「わ。美味しそう。」
「さ。早くして。」
囲炉裏のテーブルには、梅干、漬物、塩、煮干の粉末、とろろ昆布などが、並べてあっ
た。真田は、お粥の入った鉄鍋を持ってきて、囲炉裏の中央に下げてある鍋掛けに掛けて
火加減の高さ調整をした。
「さ。これで、よし。」ミナも手伝って、嬉しそうに真田を見つめていた。
「皆。早くしなさい。用意が出来たわよ。」ミナが大きな声で呼んだ。
「あ。頭が痛い。目が回っている。」
「飲み過ぎよー。」
「わ。美味しそう。」
「お粥。」
「玄米お粥だから、身体に優しいよ。抹茶とか、昆布を入れたほうが。美味しいよ。」と、真田は、皆によそってあげた。囲炉裏の隅には、五徳に上げてある味噌汁鍋があり、良い香りがする。
「ミナ。味噌汁美味しそうっ。」
「今、よそってあげるから、待って居て。」ミナは、奥さん気取りで、皆をあしらっている。
「頂きます。」やっと朝食になった。九時を回っていた。
「このお粥。先生作ったの。」
「そうよ。皆のために七時から炊いていた。んだよ。」
「こと、こと、弱火で四、五時間炊くと、まだ美味しくなる。んだけど、でも上出来だね。」真田も嬉しそうだ。
「うん。美味しいー。漬物も美味しい。こう言うの、食べたことないね。中国料理店のと、又、違う感じで、本当。美味しい。」
皆喜んで食べているので、真田も、手間かけただけに、良かったと心で感じていた。真田は立って台所へ行った。コーヒーの、用意して持ってきた。
「さあ。コーヒー飲んで。」皆にコーヒーを入れた。
「有難う。」皆でコーヒー飲みながら一休みをしていた。
真田は。
「私も背が高いけど、あなた達も背が高いね。何かスポーツしている。」
「うん。新体操していたの。中学、高校とね。皆スポーツ好きなの。でも大学へ行ってからは、これと決めたスポーツはしてないね。スポーツセンターで、いろいろやっている。水泳とか、ジャズダンスとか、筋トレとか、もちろん体操も」
「ほ。良い事ですね。人生は、身体が資本だから、鍛えたほうが良いですよ。」
「ね。皆。立って並んでみる。」こういうときは、ミナが仕切る。皆たった。
「エリ。身長百七十二センチ、スリーサイズ上から、八十五、六十、九十。」
「リエ。身長百七十五センチ、上から、九十、六十五、九十二。」
「エミ。身長百六十八センチ、上から、八十三、五十八、八十八。」
「ミナ。身長百七十センチ、上から、九十、六十三、九十。」
「はーい。先生。如何でした。グラマーでしょう。私達は、プロポーションは、褒められていたのよね。でも、技術は、今一。だったの。選手にはなれなかったけど、体力づくりには、良かった。わよね。リエは、良いところまで行った。んじゃ、ない。」と、ミナが話した。
「うん。東京大会は通過したけど、関東大会で落ちちゃったから、でもそこまで行こうと思わないでやっていた、から、・・・でもやっていて、良かった。いまでもほらっ。足が真っ直ぐ上がる。じゃん。」
「リエ。はしたない、先生の前で。ったく。」
「あ。ご免ごめん。つい、毎日の癖が。股割りも、やっているのよ。・・ほら。」
するとミナが。
「皆。先生の前で、準備体操してみせる。先生、見て居てね。」と、言って、皆、パシャマを脱いでショーツとブラジャーになり、一列に並んで、立って顔に足をつける、バック転、ブリッチも一人乗せて、股割り、準備体操とはいえ柔軟さは見事である。真田も、学生時代は体操なんか目の前では見たことがなかったから、初めてである。パチパチパチパチと、手を叩いて喜んだ。
「若いってすばらしいねっ。目の前で見たのは初めてだよ。学生時代は、恥ずかしくって傍に寄れなかったですよ。さーさ。服を着なさい。これから山へ行くから着替えてきなさい。」
「本当。山へ行くの。・・・着替えてくる。」
皆着替えて外に出た。真田は庭に出て待っていた。
「皆。来てごらん。屋敷を案内するよ。」皆傍へ寄ってきた。庭の中央に寄って家を眺めた。
「どうですかっ。見た感じ。」
「うん。なんか田舎のおじいさんと、おばあさんが住んで居る。て。感じ。ゆったりして、陽の差すまま、風の吹くまま、自然。て、感じ。」
「ミナは、文学系だから、感じ方が違うな。ほかの皆は。」
「うん。昔の日本の家って感じ。のんびりして、生活観が感じる。」
「ん。ずばり、だな。田舎風、なんだよ。この家は、東西に十二軒、南北に六間半、約八十坪。高さが十五尺、床下が三尺、だから東京の家の二階建てぐらい有る。んだよ。だから皆が言う、ゆったり感がある。縁側が十軒の一軒半。縁側が下屋になって、その上が明り取りの窓に、なっているから、家の中まで陽がさして、明るい。んだよ。 床下は、三尺にして、風通しを良くして土台が腐らないように、外壁は通気性の良い。板張りで。土台、床板は栗の木、柱は檜、梁は松ノ木をふんだんに使っている。この家は、百年壊れないように造ったつもりだ。」
真田は、好奇心が旺盛で何事にも、納得するまで研究し、実行し、身に付ける、そして、皆に伝える。この家の造り方も、こんな風に誰にでも説明する、そして、相手が聞いているか、聞いてないかを見ながら喋っている。自分の話を聞いてくれない人は自分の方から避けるようにしている。でも、この子達は真剣に聞き入っている。そして、質問してくる。
「先生。あの大きな屋根の上の小さな屋根は何ですかっ。」
「おー。良く気づいたね。あれはね、囲炉裏で薪を燃やしたり、炭を燃やしたりすると、煙が出るでしょう、その煙を出す換気口だよ。昔風に言うと、煙出し。」
「へえー。先生が考えたんだね。なんとなく分る。」
「そしてね。一番大事な事は、地元の木材と、地元の大工さんを頼む事が、百年持たせる秘訣だ。そして、その大工さんに今後の家の管理を任せる。留守にしても何時も見回りしてくれるから安心。なんだよ。」
そして、西側へ回った。
「西側の小屋は、三軒の、五間。十五坪の納戸になっている。入ってみようか、ほら、米、野菜、庭木の手入れ道具とか・・・。」
「先生。これ、なあに。」
「あっ。これはサンドバックって、革の袋に砂を入れてある。これをジャッキに掛けて、上の梁に掛けて、ジャッキで巻いて自分の高さに合わせて、ほら。これを、手で突いたり、足蹴りをしたり、これを動くぐらい蹴る。んですよ。いいっ。少し離れて、いて。」
真田は、服を脱いで、足蹴りを始めた。右、左と数十回。拳で、突きを数十回。足も自分の頭の高さまで上げて・・・少し無理をしたようだ。約十分。
パチパチパチパチ。女の子達は感動した様子だ。
「先生。凄い。」
「こんな風に使う道具だよ。これは、親父の形見でね。私が空手を始めた高校一年のとき作ってくれた。んだ。今でもここに居るときは毎日、一時間ぐらい。やっている。んだよ。」
「先生。空手をやる。んですか。何段とか持っている。んですか。」
「ああっ。三段、ですよ。」
「え。三段。凄い。」
「全日本学生チャンピオン。二連覇を果たした事もある。んだ。」
「えー。凄い。じゃん。有名じゃない。」
「当時はね。・・・やって見るかい。」
「やりたい。」
拳でついたり、足で蹴ったりしたが、全然動かない。押したら少し動いた。
「ああ。痛い。動かない。先生これ何キロ。有るの。」
「ああ。二百キロ位かな。」
「ええ。それじゃ、動くわけない、よね。でも。先生凄い。手を見せて。」
真田が両手を出し、握ったり、開いたりして見せた。
「わー。硬い。なに。これ。手の甲に凸凹が無い。・・・これ。たこ。皆。触ってみて。」皆で真田の手の甲に触っていた。
「本当だー。こんな硬いの。足の、踵みたい」
女の子達は、真田に、興味を持ち、もっと知りたくなった。
「さ。出ようか。」
納戸を出て、家の裏へ行った。沢のせせらぎが、かすかに聞こえる、細い川が流れていた。
「この川は、水が涸れる事は無い。んだ。だからこの川の水を飲んでいる。んだよ。ほらっ。あそこにポンプ小屋がある、夏。冷たくて、冬。暖かい。んだ。」
「へー。本当に、自然。なんだ。ね。先生っていろんな事を、考えている。のね。」
「さあ。庭へ行こうか。」皆で家の前に出た。
「此処の庭と家の床下に、木炭を一メートル埋めてある。んだよ。床下が腐らないし、床下と庭から、マイナスイオンが発散している。から、縁側に居ると、気持ちが和む。んだ。木炭の効力は、凄いものがあるよ。」
「へー。そんな事。あるの。初めて聞いた。」
「わー。太い。・・・この木、なんて言う木。」
女の子達は、くすのきの周りに集まった。
「ああ。この木は、クスノキって。公園なんかで見た事あるでしょう。」
「興味ないから、分からないよ、ね。」
「でも、こんな太い樹、見た事無い、よ。」
「元々此処にあった。の。」直径、八十センチ、高さ十五メートルはあろうか、屋敷の中央にどっしりとかまえている。
「ああー。この樹は、トラックで運んできた。んだよ。」
「へー。トラックで運べるのっ。樹を。」不思議そうに、真田を見た。そして皆で、まわりの木を見回している。
真田は、自慢そうに、家の造りを話したように、庭木の説明を始めた。女の子達は真田に興味あるせいか、惹かれるように、聞き入っている。質問もしてくる。真田も、聞いてくれていることが分って嬉しい。
この事は、今まで真田が相手を見抜く手段として使ってきた、一手である。
自分に興味を示しているか。が。分る。この子達は、私の話を本当に聞いている。私に興味を持っている。今時の若い人達とは、ちょっと違うと思った。
「先生。これ、サクラの木、でしょう。」
「おー。よく分ったね。」と、笑いながら言った。
「ちょっと。先生。サクラの木ぐらい分るでしょう。」
「そうだね。学校には殆ど植えてありますね。でも、これは太いでしょう。直径五十センチはあるよ。」
「これもトラックで運んだのっ。」
「ああ。そうだよ。こういう大きいのは、トレーラーと言って、長い荷台のあるトラック。なんだよ。小さいのは普通のトラックで運んだ。この庭に植えてある木は、四季折々の花を咲かせる種類の木で、一年中、花が咲いて、実のなる木もいっぱい、あるよ。」
「先生。庭というよりも、林じゃない。いろんな木があって、広いし、」
「うーん。約、一〇〇〇坪はあるかな。ほら、あれが霧島つつじ、まんりょう、ろうばい、なんてん、おおやま蓮華。もくれん、はなかいどう、きんしばい、じんちょうげ、どうだんツツジ、アジサイ、ガクアジサイ、きり、くちなし、うめもどき、きんもくせい、さざんか、ひいらぎ、しゅろ、すずかけ、はなみずき、たいさんぼく、おがたまき、からたねおがたま、あかしや、さるすべり、さかき、ひさかき、げっけいじゅ、ひまらやすぎ、なし、りんご、もも、いちじく、あんず、うめ、びわ、ぐみ、はや、くり、なつぐみ、あきぐみ、もみじいちご、なわしろいちご、なわしろぐみ、ひょうたんぼく、さんしょう、かりん、えにしだ、はなずおう、やまぶき、しろやまぶき、みやぎのはぎ、もみじばふう、ねむのき、いぬざくら、かまつか、うぐいすかぐら、なつはぜ、やぶでばり、さわふたぎ、がまずみ、まんさく、しろもじ、こぶし、ほうのき、いぬがし、しろだも、かつら、つばき、しゃくなげ、ぼたん。」と、一つ一つ指差して木の名前を説明した。女の子達は,後をついて回り、説明する真田の顔を横目に見ながら聞き入っていた。
「先生。小高いところの屋根は。」
「あー。行って見よう。」
屋敷の西南が四、五メートル程高くなっている、そこに屋根だけ建っている。二十人ぐらい座れる椅子と、テーブルが造ってある。傍には、太いしだれ桜の木が丘の上から地面に触るほど、垂れ下がっている。
「わー。高い。屋敷を全部見下ろせる。梅が満開ね。ほら。桜の木がいっぱい。桜が咲いたら綺麗でしょうねっ。先生。桜の木何本あるの。
「うーん。二十本ぐらいかな。四月中旬花見をやるよ。ここの樹木も全部、地元の植木屋さんに管理を任せてあるから、綺麗に剪定してあるでしょう。四月の花見会も、植木屋さんと大工さんが、全部用意してくれる。んだよ。四月一日から私が此処に来ている。の。分っているから。地元の人達。三十人ぐらい来るから、楽しい、よ。此処は、バーベキュウ専用に造った。んだよ。流しもあるし、水も出るし、鍋食器、木炭、道具も、全部テーブルの下に入っている。から。」真田は、あけて見せた。
「あ。いっぱい入っている。・・・先生。バーベキューやろう。」
「いつでもできるよ。」真田は、嬉しそうに言った。
「あ。山へ行くの。忘れていた。・・・・今、何時かな。」真田は時計を見た
一時だ。
「あ。まだ大丈夫だ。さあ。山へ行こう。」
「わー。行こう。山へ。」と、皆で山へ向かった。一時間ぐらい歩いた。
真田は、水筒を出して、皆に水を飲ました。
「あー。美味しい。先生、流石ね。水持ってきた。んだ。・・有難う。美味しい。」皆喜んで水を飲んでいた。
「皆。静かに。腰を下ろして」と、小さな声で言った。皆で草むらに腰を下ろして耳を澄ましていた。すると小鳥の声。
ホッホッ、ケチゲチグチ、ホケホケホケホケ、ヶヶヶヶヶヶヶ、ホーホホホホ、ホケキョ。キョキョ。ホケキョ。
「おもしろい。おかしい。この声、ウグイスでしょう。」ぎこちない泣き声に、皆聞き入っていた。
「誰も居ない山奥で練習して、里へ下りて行く。んだよ。ウグイスも練習するところは見られたくない。ん、だね。いい声で鳴かないと雌が寄ってこないから、真剣ですよ。」
「本当ね。何日ぐらい練習する。んですか。」
「うん。一週間ぐらいでしょう。」
「へー。そう、なんだ。初めてね。皆。」
「皆。運が良い、んだよ。こんなウグイス の鳴き声は、なかなか聞けないよ。私も此処へ来て十年になるけど、今日で、三回目だ。・・・・ウグイスの声も聞けたし、山を下りよう。二時半だから、皆を駅まで、送って行かなくちゃ。」
「えー。もう帰るの。」
「そうでしょう。一晩。て。言った、でしょう。」
「えー。」皆、口をそろえて顔を見合わせていた。
「とにかく家に帰ろう。山は、すぐに暗くなるから。」皆で山を降りた。
女の子達は、めそめそしていた。支度をしようとしない。囲炉裏を囲んでひそひそ話をしている。真田が支度をして部屋から出てきた。
「あれ。皆支度しないで、どうした。」真田は、驚いた様子で。すると、女の子達は真田の傍へ寄ってきて。
「先生。まだ、泊めて。」甘えるような声で。
「家には、三泊四日って、言って来たの。だから。・・三泊したいの。」
「先生。良いでしょう。」皆で寄ってきた。
「私は良いけど、家に連絡しないと。此処には電話は無い。し。」真田は困った様子で言った。
「先生。私達は、親に信頼されているから。大丈夫。」
「うん。私は良いけど。君達がそう言う。なら。」
「わ。やったー。良かったー。」
「先生。有難うっ。」どうやら、エリとミナが、はしゃいでいる。
「そうか。そうと決まったら町へ買出しに行こう。」真田は車を門の外へ出した。皆は外で待っていた。
「わー。大きな車ね。」
「さあー。こっちから乗りなさい。」真田は、一人一人乗せてあげた。
「ああー。お腹すいたよ。・・・だって、お昼食べて、いない。先生。」
「あ。そうか。悪い、悪い。さあ。出発だ。」真田は、車を走らせた。
「わー。広いね。」
「八人乗り、だって。」
「先生。バーべ、キュウやろう。私達がお肉とか、全部買うから。」
「そんな心配するな。私に任せなさい。」真田も嬉しそうだ。
町のスーパーに着いた。買い物は女の子達に任せた。買い物籠二つを持って買い物を始めた。
「わー。楽しい。」ミナが、先頭を切って肉売り場の方へ行った。皆後からついて行った。わいわいがやがや。大はしゃぎで買い物をしている。真田は、後ろのほうから眺めているだけだ。二つの籠はいっぱいになった。
「先生。これだけ。」真田のところへ持ってきた。
「お。もう良いの。レジへ行こう。」レジへ行って真田が全部清算した。
「さあ。帰ろう。」女の子達は、四人で買ったものをぶら下げて、楽しそうに車へ乗った。
「楽しいね。四人で、スーパーで買い物する。なんて、久しぶりね。」
「そういえば、そうねー。」
わいわいがやがや話しているうちに、家に着いた。真田は車を車庫に入れた。女の子達は、真っ直ぐ丘の上に上った。買った物をテーブルの上に広げた。
「わー。こんなに、一杯。」真田が来た。
「そこから木炭を出して、そこから箸、皿、はい鉄板。」これで全部か。」真田は、木炭に火を点けて、電灯も点けた。
「鉄板は、充分焼いたほうがいいよ。飲み物を持ってくるから。」と言って、家の方へ行った。
「わーい。木炭の焼肉だー。」四人は、嬉しくて、大喜びだ。
真田が、ビィール、ワイン、日本酒、ブランディー、水を、大きなボックスに入れて、肩に掛けて持ってきた。
「さあ。いっぱい飲んでくれ。ビィールとワインは、家の冷蔵庫に冷えているから、遠慮しないで飲んでくれ。」と言って、グラスを出して、テーブルに並べた。
「先生。鉄板焼けたでしょう。」
「あー。焼けたね。肉を並べましょう。鉄板が大きいから、熱いところと、熱くないところと、移動して焼いたほうが良いよ。あまり焼き過ぎないようにね。」
「先生。乾杯しよう。とりあえずビィールで、ハーイ。」
「先生。よろしくー。乾杯。」午後五時を回っていた。わいわいがやがや、焼いて食べて、飲んで食べて、喋って飲んで、笑って飲んで、とにかく賑やかである。
真田は、女の子とこんなにはしゃいだのは、初めてである。それにしても何か感じるものがある、自分の傍に、こんなに親しく寄ってきた人は、今まで居ただろうか。真田は、何か、心に伝わるものを感じるのである。そんな事を思いながら、グラスを傾けていた。すると、突然。
「先生。何考え事、しているの。」ミナである。
「ああ。・・別に。ビィールある。・・・持って来ようか。」
「うん。私、ビィール。エリ。ビィール飲む。」
「私も。私も。」と、ビィールの注文が多いので、真田は、ビィールを取りに行った。
「ねえー。リエっ。先生に、歌。歌ってあげてー。」
「そうよー。歌手。なんだから。」皆に攻められ、歌うことにした。真田が、ビィールを持ってきた。
「先生。リエが、歌を、歌うって。・・リクエストある。」
「まだ聞いた事ない。んで、リエの好きな歌で良いよ。」
「はい。じゃー。先生と、私達の船出を祝って、マイウエイを、歌います。」と言って、リエは歌いだした。偶然に、真田が一番好きな歌だ。リエも好きな歌でフルコーラスを歌った。
パチパチパチパチパチパチパチパチ。
真田は、嬉しく手を叩いた。
「偶然にも、私が一番好きな歌ですよ。上手ですね。上手い。本当に上手い。高温も綺麗だけど、低音も響くねー。重さを感じさせない。・・・良いですね。」
エリが。
「先生。リエねー。ジャズ歌手になったほうが良いと思うの。先生。どう思う。オペラとか習っている。んだけど。」
「ジャズね。声の幅が広いし、低音も良いし、良いかもね。」
「ほら。皆。言うでしょう。・・・リエ。」
真田は、
「私も、ジャズは大好きですよ。でも。良い先生探さないと。」
ミナが
「そういうの、後で考えましょう。・・・今は楽しくやりましょう。じゃー皆で歌いましょう。次は、エミ、エリ、それから私。」と、ミナは司会振りを出して、延々と続いた。
もうきりが無いから、この辺で手締めとしましょう。と言って、皆で後片付けをした。九時を回っていた。家に入り、皆で囲炉裏を囲んだ。
真田はコーヒーを入れてきた。
「今日は、楽しかったね。こんなに、はしゃいだの、初めてだよ。」だいぶ疲れたようだ。皆もだいぶ疲れたようだ。
「今、風呂が沸くから、皆で一緒に入ったほうが良いよ。」
「先生。有り難うございます。こんなに親切にしていただいて。・・・・でも。先生をもっと知りたい。何か。・・・なんとなく惹かれるの。さっきも皆で話し合ったの。」と、ミナが言った。すると、エリも、リエも、エミも。
「先生。本当よ。大学の教授よりも、もっと、物知りね。」
「ご自宅。虎ノ門って。言っていた、でしょう。奥さんとか、お子さんとか、虎ノ門にお住まいですか。」
「こんな事聞いて、失礼とは思います。けれど。・・・なぜか、気になるものですから。・・・ね。皆。」ミナが話した。
「ああ。気に留めてくれて、ありがたいね。・・・奥さんが一人、男の子が一人、居ましたが、十年前、解散と共に。別れました。今は、結婚して、孫も居るみたいだ。女房もお婆さんになって、孫の面倒を見ている、らしい。巷のうわさで。・・・・私と同居していると、息子の将来に、悪影響を及ぼすよ。と、友人に言われたので、そうした。んですよ。・・・息子は、外務省に勤めている。嫁さんは、外国からの要人の通訳をしていると聞いている。
私の友人の判断は正しかった。誰かのために犠牲になるのも、人生のひとコマ。なんだ。よ。息子らは、今は青山に住んで居る。私は、会える時期が来るまで会わないつもりだ。そのほうが、お互い幸せに暮らせる。女房もそう願っているようだ。生活に困らないように居てあるから、大丈夫ですよ。」
「えー。そんな事あるの。悲しいね。」
「どんな仕事。していた。んですか。」
「そうね、・・・なんて言うか・・宅建取引業。企業同士のトラブルの仲裁。貸しビル業、賃貸マンション経営。金融業。証券取引。ゴルフ場会員権売買。芸能界地方巡業斡旋。・・・まだまだあるけど、何でも屋かな。」
「へー。いろんな仕事していた。んですね。」
「今は、誰か跡を継いでいる。んですか。」つぎつきと聞いてくる。
「ああ。私の部下だった人が、跡を継いで、いるよ。」
「先生。もったいない、そこまで手広くした会社、辞めるなんて、まだ若いのに。」
「うん。五〇才で辞めたからね。今年で六〇才だよ。俺も年取った。」真田は、頭を掻いて言った。
「先生。六〇―。・・ですか。・・・見えない。六〇なんかに見えない。本当よ。五〇になったか、なんないか・・ですよ。」エリが、むきになって言った。するとミナが。
「先生。そんなに多角経営していたら、大儲けしたんじゃないですか。・・・しっかり溜め込んだりして。・・・先生。ズバリ。でしょう。」
「まあまあ。今日は此処まで。もう二時過ぎだよ。風呂沸いている。筈だから、皆で風呂は入りなさい。明日は、山へ行くよ。」と言って、真田は、自分の部屋へ行った。女の子達は、わいわいがやがや、着替えて、風呂へ入って寝た。
真田も何時ものように、朝風呂を入って、縁側の籐のチェアーに腰掛けて瞑想をしていた。七時ごろ瞑想から覚め、朝食の支度をしていた。山で食べるおにぎりを一杯作った。
「お早うー。」四人が全員起きてきた。
「お早う。今朝は揃って起きたね。」
「うん。山へ行くって言ったから。」
「さあさ。顔、洗って。朝食の支度と、山へ持っていく弁当は、できているよ。」
真田は、囲炉裏に味噌汁鍋を掛け、朝食の支度を終えていた。
「わーっ、味噌汁だ。先生が作った味噌汁美味しい。」
「そうでしょう。これは、日本料理の板前さんから教えてもらった。作り方でね。だから美味しい。んだよ。とろろ昆布を入れるとまた美味しい。」と、皆に入れてあげた。
「あ。本当。美味しい。」
「囲炉裏で、食べているから、また違うのよ.」ミナが言う。するとエリが。
「全員で、藍染の作務衣なんか着ている。と、雰囲気が出ますねっ。
「あー。良いねー。今度用意しておきますか。・・・君達は本当に、仲良しだね。この儘、皆で暮らしたいね。」
「エー。先生。今。なんて言った。」四人はびっくりした。
「あ。・・・君達は、離れて暮らせないだろうな。と。思ってね。」
「分った。・・・そうなの。私達。幼稚園からずっとこの調子、よ。・・父母達もよ。」
「ほー。今時、他人同士が仲良く暮らすこと。なんか。あり得ないですよ。ずっと続くと良いね。」
「うん。続くよ。ねー。皆。」ミナが嬉しそうに言った。
「よし。それじゃー、これから山へ登って、山の神様にお願いするかっ。さっ、片付けていきましょう。」
「はーい。」
さっさと片付けて。丘へ、登った。ここは小高くなっているので、麓を見下ろす眺めが丁度いい。
「先生。赤坂、青山、六本木は向こうの方ね。」
「ああ。そうだよ。さあ。行こうか。」皆で西のほうへ向かった。
「この辺りも、十年前は、山奥だった。んだよ。この道も舗装じゃなかったし、去年私が帰ってから、舗装になって。道幅もこんな広くなって。こんなにすると人が大勢来て、賑やかになるね。ほら。売り別荘地の看板。」
皆は、歩くのが早い。林道だったこの道。舗装して幅を広げて、延々と四キロも奥まで舗装になった。真田は、何時も、公的資金の無駄遣いに、感心する。
「御嬢さん達。もう少し行ったら右へ入るからね。」
女の子達は、さっさと歩いている、真田は、後からついて行く。早くから飛ばすと、疲れが出る。女の子達は知らないで、飛ばしている。
「先生。ここ入る、の。」四人は、だいぶ先に、行っている。
「そうだよ。」真田は、手で合図した。四人は真田を待っていた。
「皆、歩くの、早いね。」
「先生が遅いのよ。」
「ああっ。でも、まだ二、三十分しか歩いてないよ。これからが本番だよ。この前とは違うところだよ。・・さあ。入ろう。」
五人は、獣道に入った。真田が何時も入っている。山で、一番高い山、である。連山が眺められて、都会の人達には感動を与える場所である。この道は、殆ど登山者はいない。月に二、三人ぐらいしか会わない。
「先生。もう一時間も歩いたよ。・・・まだー。」四人は、疲れてきた様子だ。真田は、分っていた。
「じゃ。その辺で休もう。」
真田は、リュックを下ろして、水、ジュース、コーラを出して。
「はい。好きなの、飲んで。」
「先生。これ持って来たの。わー、重いー。」
「頂き、まーす。」皆で好きなの、飲んでいる。
「先生。有難う。ああー。美味しい。」
「リュック。私達。持つ。」
「ああ。いいよ。・・・私は大丈夫ですよ。まだまだあなた達よりは。・・・もう一息だ。頑張ろう。後一時間。」真田は、皆に勇気付けた。
「よし。頑張ろう。」
女の子達は、元気を取り戻したようだ。今度は真田が先頭だ。頂上が見えてきた。
「もう、直ぐだ。・・・・」やっと、頂上に着いた。
「さー。着いたよ。此処が頂上だ。」真田は、リュックを下ろした。
「わー。頂上だー。早く来てー。」リエとエミは先に着いた。エリとミナは、少し遅れた。
「わー。本当。凄い。・・・山、山、山、山、山、これが連山。て、言うんだね。」
「素晴らしいでしょう。こんな広い、野原があって。何時も此処へ来ると、此処に家を建てたいな。って、思う。」
「ええー。良いね。先生。此処に家を建てよう。」
「おっ。十一時を回って、いるね。・・・お昼にしよう。」真田は、リュックから、おにぎり、水、ジュースを出した。そして、皆で両手を広げて空を仰いだ。
「ああー。気持ち良いー。」
「本当に。来ちゃった。ね。・・・山登り。」
皆で、座っておにぎりを食べながら、楽しい。
「これ。大きい。」
「はいはい。一人三個。づつ。」
「先生。三個。食べられない。・・・大きいよ。・・頂き、まーす。」
「そんな事言わないで全部食べなさい、お水は一人一本ずつあるからね。」
四人は、大喜びです、わいわい、がやがや、ぺちゃくちゃ、大はしゃぎ。真田は秩父連山の方向を探しながら食べていた。
「ごちそうさま。あー。お腹一杯。・・・苦しい。」四人とも、おにぎり、三個を全部食べちゃった。
「あー。苦しい。・・・横になろう。」皆、ごろごろ横になって昼寝をしていた。真田も、疲れた様子で、寝転んで空を仰いでいた。
皆、鼾を掻いて寝ていた。気温も上昇して二十度と、四月頃の陽気になり、汗ばむくらいだ。
真田が目を覚まして立ち上がると、女の子達は、まだ鼾を掻いて寝ている。真田は時計を見た。午後一時を回っていた。真田は、秩父連山を見ながらこの子達と同じ年頃を、振り返っていた。
「俺の青春は、こんな楽しい事は無かったな。・・毎日、立て。立つ。んだ。負けるな。勝つ。んだ。・・・勝負、勝負で毎日笑った事は無かったな。・・でも、勝った時は嬉しかったな。それも一瞬。また勝負、勝負で猛練習が待っていた。五〇歳まで、続いた。
「先生。先生。」
「オー。此処だー。」
「あっ。居たー。先生とこ、行こう。」
「先生。寝ちゃったー。」
「もう何時。」皆で時計を見た。
「二時だ。先生二時だよ。」
「起きた。二時間ちょっと寝たね。皆、見てごらん。あの辺りが秩父連山だよ。秩父山には、三峰神社と言って、ご利益の神様を祭って有る。んだよ。朝、言ったように、四人が離れ離れにならないように、此処から祈願したほうが良いよ。」真田は、先を読んでいた。
「本当。・・・皆。此処へ並んでお願いしよう。」ミナが言った。
「うん。並ぼう。・・・良い。」四人は、並んで、二礼、パチパチ、二拍。
「はい。これで、よし。・・・・ご利益ありますように。」
「はいっ。良く出来ました。まだ、新緑が開かないから、森林浴とは言えないが気持ち良いでしょう。済んだ空気で、今日は暖かいから最高ですよ。もう少し過ぎれば、山菜とか、木の実が取れるからまた違うよ。・・・そろそろ帰ろうかっ。」
「うん。帰ろう。」
五人は、山を下りた。二時半だ。帰りは早い、一時間半歩いた。
「帰りは早いねっ。もうすぐ着くよ。まだ四時にならないよ。」女の子達は早い。
「さあ。着いた。」真田は、門の扉を開けた。
「わーい。お家に着いた。・・・なんか、自分家に帰ってきたみたい。桃の花が格別綺麗に見えるね。」
「そうでしょう。今まで山ばっかり、見てたからですよ。」
真田は、玄関の鍵を開けた。
「さあ。入って。」
皆疲れた様子で。
「あー。疲れたー。縁側の窓を開けましよう。」
皆、囲炉裏の周りに集まった。真田は、コーヒーを煎れに行った。
「疲れるけど良いよね。歩いて、森の中、木と木の間をくぐって、木の葉を踏んで。」
「でもね。山登りって、大変ね。此処からでも一日。かかるのよ。・・・都内からだと。・・
・やっぱり、別荘が無いと無理ね。」
「はいコーヒー。」真田がコーヒーを煎れてきた。皆、美味しそうにコーヒーを飲んでいた。すると、突然、ミナが立って。
「先生。今日も泊まるよ。」皆、びっくりした。
「ミナ。・・・失礼よー。突然。泊めてください。って。お願いする。んでしょう。」
するとミナは。
「分っているの。よ。皆の気持ち。・・・先生。・・・良いでしょう。」
「うん。今日で、三泊か。今日も、疲れているようだから、泊まって良いよ。」
「やったー。良かったー。ミナは、流石ね。」ミナは、雰囲気を読み取るのが早い。
「先生。改めて、お願いしまーす。」
皆で、立って、頭を下げた。真田は。
「どういたしまして。どうぞ。ご自由に。・・はっはっはっはっ。」真田も、嬉しそうだ。
すると、ミナが。
「今回は、良い出会いね。・・・先生と会わなかったら、どうなっていた。でしょう。・・
・先生。・・・出会い。て。人生を、左右するね。」
「うん。そうだよ。出会い。確かに、私も。出会いが左右しましたね。殆ど良い人に出会いましたよ。そう言われれば。」
「だって。変な人に会ったら。どうなるか、分らないですよ。」四人は、また、真田を見直した。
「あー。そうと決まったら、夕飯、何を食べる。かな。」
「いつも、先生が食べているもので、良いですから。」
「うーん。・・・でも、考えちゃうな。・・・少し休もう。一時間ぐらい、寝よう。」と、言って、真田は、縁側のチェアーに座った。女の子達も、囲炉裏の椅子でもたれて眠った。五時ごろだ。
真田は、肌寒くなって、目が覚めた。
「お。何時かな。」時計を見た。
「あ。六時だ。」
真田は、四人は、まだお休みのようで、そっとしておいた。真田は、納屋へ行って鍵を開け、中に入った。小麦粉、白菜、タマネギ、ゴボウ、キャベツ、人参、長ネギを出して台所に運んで夕食の準備をしていると、四人が起きてきた。
「あー。寝たー。お早うー。先生。」寝ぼけていた。
「先生。起こしてくれれば。」
「あ。手伝う。」皆、傍へ寄ってきた。
「そうだ。これを皆でやってくれ。」
大きなボールと小麦粉と水を用意してあった。
「これを耳たぶの硬さぐらいに、練ってくれ。」
皆で、わいわい、がやがや始まった。真田は、囲炉裏に火を起こし、大きな鍋を掛けた。だし汁を入れて、台所から、刻んだ野菜を一杯運んできて、囲炉裏の上に置いた。女の子達が真田のところへ、ボールを持ってきて。
「どうですか。これぐらいで。」
「どれどれ。・・・うん。良いね。」皆、不思議そうに見ている。
「先生。何するの。」
「あっ。まだ言ってなかった。そうか。ごめん、ごめん。すいとん。て。言って。食べたこと無いでしょう。これは、皆で、楽しく作れるの。・・・鍋のスープが煮立ったら、その野菜を全部入れる。はい。入れた。それから、ボールで練ったものを、一口で食べられる大きさにちぎって入れる。皆で入れなさい。」
皆喜んで始まった。
「それじゃ大きいよ。小さいわよ、厚いわよ、薄すぎよ。」
真田は、ビィール、ワイン、ブランー、日本酒を運んできた。
「あっ。その鍋を上に上げて。こと、こと、煮たほうが美味しいよ。煮えるまで、ビィールでも飲むかっ。」と、言って、鍋を上に上げた。
「おおー。重い。」一杯入っている。
「みんな。ビィールで乾杯しよう。・・・注いだ。・・・乾杯。」
また、今日も、乾杯。
「あー。美味しい。今日は暖かいから、ビィールが美味しい。」
「先生。鍋。美味しそう。」
「うん。これは大勢で食べるのが美味しいの。スープが決めてだから。もう、食べられるよ。どんどん食べて。」
「美味しいー。本当。美味しい。」
真田は、喜んで食べているのを見て、自分も嬉しくなった。こうしていると、何か、生活感が感じるようである。この鍋は、以前、秩父の旅館に泊まった時、教えられた料理で、山奥は、米が無いので、うどんとか、すいとん。を。主食として食べていたらしい。味噌味で、スープが決めてである。この素朴さが、この子達は好きなようである。
「鍋物は、囲炉裏が一番似合うねっ。」
「本当。先生。美味しいー。やっぱり囲炉裏だね。」
四人とも、友達のように真田を慕っている。でも、真田の過去が見えないせいか、ふっと、われに返る兆しが見える。確かに素直で、頭も良いようだ。嫌味を感じさせない純情さに真田は好感を持っていた。
わいわいがやがや、飲んで食べて一時間が過ぎた。
「先生。もう、お腹一杯。美味しかったーっ。」
「残りは、私が食べるから、ワイン飲んで。このワインは美味しいよ。」
「じゃ。皆のグラスに注いであげる。」
リエは、ワインを注いで回った。
皆でワインを飲みながら、雑談を始めた、八時を回っていた。
真田は。
「皆さんっ。就職は決まった。んですか。」と、皆の顔を見回した。
「うん。皆ね。決まらないの。大学院に進む人、家事手伝いの人、分らないの。皆自分で、言って。」ミナは言った。
リエは。
「私は、音楽の勉強をしたいから、昨日も言ったけど、ジャズに切り替えようかな、って考えている。んだけど。親達にも相談は、しているの。日本でジャズを習っても、って、親達が言っている。だからと言って、アメリカに知り合いはいないし、・・・迷っているの。だから、山とか、自然に触れて、何か見え出せないかなって、山に来たの。」
エミは。
「私は、政治、経済をもっと知りたいので、大学院に行くの。まだ先のことは考えていない。ジャーナリストも、良いかな。て。」
ミナは。
「私も、日本文学を勉強したいので、大学院に行くことになっている。でも、迷っているの、小説を書いた。り、出版社を経営したいの。」
エリは。
「私は、父が画廊を経営しているから、後を告ぎたいの、でも、先が見えないし、絵を売る仕事って、難しいの。父母を見ていると。・・人の付き合い、交流、絵描きの先生とか。実は、迷っているの。違う方法は無いものかと。これからの画廊経営。」
真田は。
「うん。確かに、これからの日本はデフレに襲われるから、就職は難しいでしょう。皆さんの考えるように、自立したほうが得策かも。ただ、自立するには、その分野の経験者のアドバイス。先見の目、経済の先行きを判断するのは大変難しい。しかし、何かをやらなければ、生きて行けないから、今まで自分が勉強した事を軸に、見切り発車するのも一つの方法かな。ただ。需要の無いものを作り続けても成り立たないし、見込みがあるのは、女性の出番が多くなった事ですよ。
これは、確かにチャンスはある。君たち四人は、必ず成功するよ。私が今まで何万人と対面しているから、初対面で大体分る。ただ迷いが一番の敵ですよ。成功を。祈っています。」真田は、四人を見回した。
「あっ。それじゃー。ここに居る皆さんの成功と発展を記念しまして、乾杯しましょう。」
ワインを新たに注いで。
「乾杯。」全員で、パチパチパチパチパチパチパチパチ
女の子達は、真田のアドバイスに聞き入っていた。又、真田は、この三日間の付き合いで、この子達の心を見抜いたようだ。
親が良い。幼児からの育ちが良い。お互いの長所、短所を知って、いて。譲り合っているのが良い。相手の話を分析しながら聞いている。場面の飲み込みが早い。目標を決めている
歴史を勉強している。知りたがる。色んなことに興味津津である。ブランドは身に付けていない。スーパーでの買い物上手。新体操をしていたせいか、姿勢が良いし均整が取れている。リエは世界に通用する身体をしている。四人の絆、団結力は素晴らしい。
真田は、四人をこのように、分析した。・・・心の中で、この子達に自分の財産を分与して、自分の幕を閉じたい。と。考えた。
「私は、何時も若い人達に言っている。昔を、過去を知らなければ、良い未来は開けない。特に、政治、経済は国民を引きずる。物造りも同じ、過去のものを改良して良い物を造る。今、生きている人達は、未来を良くするために、生きているんで、今だけ良いと言うものではない。君たちも、自信を持って良い未来を、作ってほしい。何時も、暇なときはこんな話をする。んだよ。」
「先生。あれだけの多角経営で、全部、把握していた。んですか。」
「ああ。全部、分っていたよ。ただ、一気に始まった事じゃないから、一つ、づつ、積み重ねて、あの数になったんだよ。結局は、みんな繋がって居る。だから、迷っている人は、あそこへ行けば、繋げてもらえる。絶対失敗しない人だから。と言う評判が広がって、手広くなった。自分で広げたわけじゃない。んだよ。皆が集まって出来た。それだけ。・・・仕事は探した事は、無いよ。」
「へえー。そう。なんだ。・・・先生。これからずっと一人で、暮らすんですか。」
「うん。まだ遣り残している事が。ある。その事が解決しないと、安心できないですよ。」
「うーん。そう。なんだ。・・・でも、心配しているようには、見えないですけど。」
「私はね、そういう風に見られる。知らない事でも、知っているように。・・・お金がなくても、あるように見られる。そんな事が多いですよ。」
「先生。それって、オーラって言うの。仏像の後ろに、大きな丸いの。ある、でしょう、あれなの。うちのパパが、言っていた。大物俳優って、立っている。だけで、周りが引き立つ。んだって。」
「そうそう。うちのパパも、言っていた。大臣とか、大臣になる人って、違うって、オーラが出ている。て。ただ、今そういう人。て。出てこないって。言っていた。」
「先生って。そうですよ。初めて会ったとき、なんとなく安心した。もん。ね、みんな。」
「うん。以前にも、誰かに言われた事がある。人徳だって。・・・・・あっ。もう休もう。時間も零時を回ったし、風呂も沸いているし、私は失礼します。」と、言って、真田は部屋へ行った。四人は、食器を台所へ下げた。テーブルを吹いて、がやがや風呂に入って寝たようだ。
次の朝、何時ものように、五時に起きて、朝風呂を入っていた。すると、かたこと音がする、誰かトイレに起きたようだ。真田は知らないふりをして風呂に入って外を眺めていた。トイレから出て、風呂へ入ってきた。
「先生。先生」囁くような声がした。後ろを振り向くと、ミナが居た。そーっと沈みながら、真田の傍へ寄ってきて。
「先生。わたしの思ったとおりだったわよ。でも。凄いねっ。全身ですね。今日帰るけど、又来てもいい。」囁くように言った。真田は頭で挨拶した。
「背中を、触らして。」話しかけてきた。真田は、背中を向けた。二、三回触って風呂から出て行った。真田のほうがびっくりした。女は、怖いね。と、呟いた。
風呂から上がり、縁側のチェアーに座り、瞑想に入っていた。七時ごろ瞑想から覚め朝食の支度を始めた。エリとリエが起きてきた。
「先生。お早うっ。何か手伝う。」
「あー。お早う。じゃ。顔洗ってきて。」二人は、洗面所へ行って、顔洗ってきた。
「君たちは、化粧しない。んですか。」
「うん 。ローションつけるぐらい。・・・何する。」
「そう。それじゃ、皿と、茶碗と、箸を囲炉裏のカウンターに運んで、これに大根おろしを作って。」と、下ろし器とどんぶりを渡した。
「先生。大根は。」
「あー大根。・・・西側の納屋にある。二人で取って来て。鍵はそこに掛けてある。」
「あった。・・・行こう」二人は、大根取りに納屋へ行った。すぐ戻ってきた。
「先生。こんな大きいよ。」
「おおー。良い大根だ。それを、半分にして、細いほうを下ろしてください。」
「どうして、細いほうを選ぶの。」
「うん。細いほうが、ピリ辛、なんだ。」
「へえー。知らなかった。」一人がどんぶりを持って、一人が下ろした。
「はーい。出来た。」
「囲炉裏のほうへ持っていって、味噌汁鍋を、少し、上に上げて。」
「えー。どうやるの。怖い。・・できない。」
「あ。危ない。・・・私がやる」真田は飛んできた。
「あー。そうやるの。でも、重いよ。」
「先生。この卵どうする。」
「自分の好きなように。」
「はーい、わたしは、卵焼き。私は、卵かけご飯、」
「エミとミナは、まだ寝ている。・・・起こしてくる。」リエが起しに行った。
「あの子達。二人で、抱っこして、寝ていた。わよ。エリ。」
「ミナの傍で寝ると、抱っこされちゃうのよ。私なんか何時もよ。私は知っている。から良いけれど、エミは初めてじゃない。」言っている、うちに、エミが起きてきた。
「皆。嫌らしい。ミナったら、私の乳首、掴んで、寝ていたの。あー。もう。」
「騒々しいね。朝から色気出して。・・・早く顔洗ってきなさい。」
「先生。食べよう。起きてこない人は、後で良いわよ。」
「頂きます。」皆は食べ始めた。具沢山の味噌汁と卵で食べていた。ミナが起きてきた。
「あー。寝坊しちゃった。美味しそう。・・・あ。顔洗ってくる。」
顔洗ってきた。ミナが座った。
「わー。具沢山の、味噌汁。大好き。」皆、美味しそうに食べている。すると、ミナが。
「夕べは、変な夢。見ちゃった。」
「何よ。私のおっぱい、つまんで。」
「えーっ。知らない。・・・だから、変な夢。電車の中で、幼稚園の子供が、おしっこもらしちゃって、泣いていたから、私が漏れないように、ちんちんを、つまんでいた。の。」
「えー。それで私のおっぱいを、つまんでいた。のー。先生。どうする。」
皆で、大騒ぎになった。真田も笑いながら、食事の後片付けを始めた。
「ご馳走様でした。」ミナが最後に食事を済ました。そして皆で、縁側に出た。真田がコーヒーを入れて持ってきた。テーブルを囲んで雑談を始めた。
「先生。あそこの棚みたいの。なに。」
「あーっ。あれは。右が藤棚、左がぶどう棚だよ。」
「え。ブドウですかっ。食べられる。ん。ですか。」
「うん。此処に植えてある木の実は、全部食べられる。桃、梨、柿、ビワ、イチヂク、グミ、スモモ、花梨、木いちご。此処の庭はこれからが良い、ん、ですよ。いろんな花が咲いて、実も生るし、しかも全部食べられる。」
「先生。四月にお花見する。でしょう。」
「ああ。するよ。でも、地元の人達が多いから君達は、どうかな。都内からは誰も参加した事はないよ。」
「でも、この桜の木、満開になったら、凄く綺麗でしょうね。」
「うん。綺麗ですよ。桜は、日本人の心であるし、出発点でもある。日本は、全て、四月から始まる。でしょう。桜と一緒に始まる。んですよ。桜は、私達日本人が、古来から愛した花で、わが国民の象徴であった。
本居宣長と言う古典文学者が詠んだ。
「しきしまの やまと心を 人とはば
朝に にほふ 山 さくら 花。」
と、詠んで、日本人の純粋無垢な心情を示す、言葉として表した。
日本人の、桜を好む心情は、桜の花の美しさに、気品があり、優雅であることか、どの花よりも、日本人の美的感覚に、訴えている。君たちも、これから桜を見るときには、この詩を詠みながら観ると一層綺麗に観られるよ。」
ミナが。
「先生。今の凄い。確かに皆から、慕われている。愛されている。老若男女問わず、桜・
・・何気なく観て来たけど、純粋、無垢、優雅、気品。全部当てはまる。これからはそう思いながら。観ます。」
「此処の桜は、見事ですよ。あの丘から見下ろすと、花が一面に広がって、いて、したから観る桜とは、全然違う。」
「わ。観たいな。」
「うん。この辺りは寒いから四月下旬頃まで大丈夫ですよ。枝れ垂桜と、八重桜。五、六本あるから。・・・・・それより、此処に座っていると、気持ちがすっきりしてるでしょう。」
「うん。なんとなく。・・・朝だから涼しいのかな、って。思っていたけれど。」
「おお。感じています。ね。この家の床下、あそこの楠木の手前から、庭全体に、木炭、竹炭、備長炭を混ぜて、一メートル下に、厚さ、五十センチほど埋めてあるから、二十四時間、一年中、マイナスイオンを、発散している。だから、イライラしない。気持ちが休まる。落ち着いて物事に取り組める。だから私は、毎朝、此処で、一時間程、瞑想に入る。もう十年やっているよ。十月から三月まで伊豆に、行っているでしょう。四月に、此処に来るとすぐ分る。だるさがスーと抜ける。神聖な気持になれる。ここの家と庭はそういう風に造ってある。んだよ。」
「へえー。そういえば、三日間、ここに居て、すっきりしている。ね。皆。」
「そうね。そういわれれば、そんな気がする。ゆったりしている。先生も居るから特に感じるのよ。」
「そうね。長く居た感じがする。でも。まだ帰りたくない。」
「駄目よ。エリ。三泊四日って約束だから。先生。今から返り支度をするから、でも、また来ても、良いでしょう。帰ったら皆で相談する。・・・でも電話がないから連絡取れないじゃない。先生。」
「あっ。そうか。それじゃ。広い通りから、此処へ入る曲がり角に、山田商店、て、店があったでしょう。そこに電話してくれると、店のおじさんが、電話の内容を書いて、表の門のポストに入れてくれるから。・・・・東京の真田の事務所のものです。と言って、日時を伝えて、その時間に門を開けておいてください。と、電話を入れておけば、おじさんが必ずやってくれるから。・・・そこのおじさんも、花見に来ますよ。私は、毎日、外へ出るから、門を開けるときに分る。・・・・そうか。此処には電話も無い。テレビも無い。ラジオはある。」
「本当。良かった。じゃ。皆、支度しよう。」
わいわいがやがや、裏の部屋で支度をしている。さなだも送っていく支度をしていた。紙に山田商店の電話番号を書いてきた。車庫へ行って車を門の外へ出して家に戻ってきた。
「先生。これ。」ミナが封筒を出した。
「う。・・・なに。」真田は、受け取った。
「皆で相談したの。宿泊代。一泊、一万円で、一人三万円。四人で、十二万円。足りないかもって。これで、お願いします。」真田は、ミナの顔を見た。
「なに。そんなの、良い。んだよ。・・・いらない。」と言って、ミナに返した。すると、ミナは。
「先生。受け取ってー。これは私たちが、真剣に考えたの。きっと、受け取らないわよ。て。皆、知っているの。でも。・・・これは、気締めとして、貸し借りの無い。様にしたいの。・・・・だから。お願い。受け取ってください。・・・お願いします。・・・先生。」ミナは、必死だった。すると真田は。
「うん。分った。・・・あなた達の純な心が見えるよ。はい。有難う。頂きます。」と言って、真田は速やかに頂いた。
「わーい。良かったー。先生。有難う。有難う。有難う。」四人は、真田に抱きついた。真田も、ポロリと、涙が出た。
「ああー。分った。分った。」真田は、女の子達に、熱いものを感じた。
「さ。行こうか。」そして皆、車に乗った。真田は時計を見た。十一時だ。
車は、武蔵五日市駅に、向かった。丁字路にぶつかった。右側角に、山田商店が有った。
「先生、此処でしょう。山田商店。」
「あー。此処だ。よ。・・・バス停も、此処だよ。」
「先生。電話番号は。」
「あ。これだよ。」真田は、ポケットから、商店の電話番号を書いた、紙を出して、ミナに渡した。
「有難うっ。後で皆に教えますから。」ミナは、受け取った。車は、駅に着いた。
「さあ。着いた。よ。」
「はーい。・・下りよう。」皆降りた。真田も車から降りて、一人、一人と握手を交わした。四人は、手を振って駅の方へ歩いて行った。真田は、後ろ姿を見て、本当に姿勢の良い子達だ。と、感心していた。真田は、家に帰った。
「やれやれ。・・・賑やかだった。」
暫らくぶりの賑やかさに、真田も、疲れたようだ。縁側のチェアーに座って休んだ。二時間ぐらい寝ていたようだ。・・・ふ。と、目を覚ました。時計を見た。
彼女達は、午後一時ごろ、何時もの青山のレストランに着いた。
「ああー。疲れました。足がパンパン。」
「お帰り、なさい。」店のオーナーの奥さんが出てきた。
「こんにちわー。・・・どうして知っているの。」皆、不思議そうに聞いた。
「昨日、お母さん達が来て、明日帰ってくる。かもね。て。言っていたから。」
「皆、食事するから、チーフに任せる。」はい。奥さんは厨房へ行った。
「ねー。どう思う。・・・先生のこと。」
ミナが、話始めた。
「何か、お金持ちって感じ。虎ノ門に自宅でしょう。伊豆にゴルフ場付の別荘でしょう、それに、泊まった家だって。・・別荘だ。て。言っていた。」
「優雅だね。絵を描いて、別荘暮らしで、電話もテレビも無くて、しかも、太陽にあわせて寝起き。している、なんて。・・・私もやりたい。」
「でもね。一つ、やり残しがあるって。言っていたわね。・・・何かしら。」
皆は、その事が、気がかりだ。
「そうね。何だろう。」四人は、顔を見回した。
「ど。皆。もう一度、会いたい、と、思わない。エリ。」ミナが、切り出した。
「うん。会いたいね。」皆が言った。
「シー。」料理がきた。
「あー。お腹すいた。食べながら話そう。」四人は、食べながら、話している。
リエが。
「先生。て。素敵ね。お父さんの知人で俳優がいるの、渡哲也。て言う、俳優さん。その人にそっくり。芸能界も知っている。て。言っていたけれど、どこまでかね。」
すると、ミナが。
「リエ。お母さんに聞いてみる。・・・先生のこと、知っているかもよ。真田、・・・下は分らない。・・・真田だけで分るかもよ。」
「うん。聞いてみる。か。」そんな事で纏まった。食事を済ました。
「じゃ。明日会おう。・・何時にする。・・・・お昼ずらして、二時にしよう。」四人は、明日、此処で二時に会うことにして、別れた。
次の日、エリ、エミ、ミナは、十分前に来ていた。
「お早う。」リエが、にこにこしながら入って来た。ミナが立った。
「お早う。・・・奥へ行こう。」と、場所を変えて座った。三人は、リエの顔を見つめていた。すると、リエが小さな声で。
「知っていた。わ、よ。・・・真田幸介。某暴力団の会長。」すると、三人は。
「えええー。」
「しー。ちょっと、声が大きいよ。」皆、静かになった。リエに寄り添って聞き入っていた。リエは、小さな声で話し始めた。
「あのね。お母さんに聞いたの。赤坂の喫茶店で、隣に居た叔父さん達が、真田が居なくなって、赤坂が騒々しくなったって、関西からは入って来る。し、とか、言っていたから、真田って言う人、居たの。て、聞いたの。」
「それで。」皆、顔を見合わせた。
「うん。お母さんが言うの。・・・居たわよ。東侠会と言う暴力団の会長で、都内の私立大学出て、インテリーで、かっこ良い人だった。父親も、昔風で言うと、任侠道と言って、その道では切れ者と言われて、都内じゃ有名だった。て。聞いたけど。その真田幸介も親似で、切れ者で、だいぶ残した。て。何百億とか。でも、ヨーロッパへ行った。とかって聞いたけど。・・・・なぜ。そんな事、聞くの。」
「だから。隣に居た叔父さん達が。・・・大きな声で騒いでいたから。ただ。それだけ。て。言って。話をそらしたの。大変だった。のよ。探られなかった。けれど。」
すると、ミナが。
「ええー。そんな凄い人。だった。んだ。・・・何百億か。・・・うん。もしかして、その事。・・・じゃない。一つ、やり残し。て。」
すると、エリが。
「流石。ミナ。頭良い。そうよ。それよ。」
「ちょっと。声が高いわよ。」
「あ。はい。・・・興奮しちゃった。」皆、顔を寄せ合って居た。
「あーら。賑やかで。」オーナーのママが来た。注文取りだ。
「あ。注文忘れていた。・・・ケーキセット。四つ。」ママは、注文を受けて帰った。
「あー。びっくりした。」ミナは、胸を撫で下ろして、
「ねえ。皆。・・・そうと分ったら。・・・どうする。」
ミエが
「私は、会ってみたい。・・・玉の輿って、言うじゃない。何百億円はどうでも、何か良い話が有る、と。思うの。良い事も、悪い事も、経験済みの、人でしょう。そういう人なら、昨日の三泊四日で、私たちを見抜いています。わよ。ミナ。ど。」
ミナが
「そうよね。・・・そんな悪い人には見えなかった。し。私たちも、親しみを感じていたし、先生も、私たちに好意を持って、居る。んじゃ、ない。」
「どうぞ。」コーヒーとケーキが運ばれてきた。
「皆さん。何時も賑やか、ね。」ママが、にこにこしていた。
コーヒーを飲みながら、話は続く。
「私も、エミと同じだわ。・・・私たちは、今までお金に不自由したことが、無いじゃない。親達が出してくれて、大学も行かしてもらって、・・・これからは、そうは行かなく、なるのよ。結婚するって、言っても、頼りない男が多いし、未透視は、暗いよね。自分で仕事する。て。言っても、資本金が要るし、そうそう親にも負担は、かけられないだろうし、・・・未透視は暗いね。・・・だと、すると。・・・玉の輿って・・・言う事に、なる。」
すると、リエも。
「私も、頼れる男なんか。居ないわよ。やっぱりみんなの言うとおり、ジャズ歌手になりたいし、そうするには、アメリカへ行きたいし、・・・やっぱり先生に、相談したいわ。」
エリも。
「私も、考えた。私達四人は、離れ、られない。わ。て。皆。今の話、一致している。もん。それに、結婚の事考えたら皆と同じよ。自立して、自分なりに頑張ってみたい。父の画廊だって、社団法人になったら、私の入る隙間は、無いわ。・・・でも。先生が、どう考えてくれるかが、問題よ。・・・ミナ。良い考え。ある。」
ミナが。
「うん。今、考えていたの。やっぱり私たちのほうから。アタックしないと。」
すると皆。
「どうやって。・・・」
ミナが。
「うん。一人一人。会ってみる。」・・・続けて。」
「うん。一泊して・・・自分なりに。」
皆、シーンと、なった。
「どうしたの。皆。」
「ミナ。声が高い。」
ミナは、口を押さえて、小さな声で。
「ねえ。みんな。女と言う、武器がある。じゃない。・・・いろんな本を読んでいて、分るでしょう。女にしか出来ない事。この話は、将来。て。言うか、一生の賭け。じゃない。万が一。先生が、私たちを認めてくれたら、一生保障される。て。訳でしょう。以前、話した事あるじゃない。皆、別れるの、嫌だから、四人で一人の男と結婚しよう。て。・・・冗談が実現する。かも。よ。」
エミが。
「本当。楽しい。何百億。目標に頑張ろう。」話は、進展していく。
「シー。」
「よし。決まった。・・・それでは。・・・会う順番。どうする。」
リエが。
「それは。・・・ミナよ。」
「えー。」ミナは。
「そう来ると思った。何時も私が犠牲ね。・・・でも。」
ミナは
「しょうがない、でしょう。・・・お姉さん。なんだから。」
ミナは、四月生まれで、幼稚園から、順番が何時も一番だったせいか、なんでも一番先になった。そのせいか、大事が有る。と。お姉さんと、呼ばれる。又、それなりに責任感が強く、何事も、判断力が優れている。し。間違えた事が、無い人だ。
「そうね。毎度の事だ。・・・良いわ。」ミナは決めた。
「でも。・・・先生、毎晩じゃきついから、三日置きに。行きましょうよ。帰る日は、午後三時に此処に着くように。有った事。全て。話すように。きちっと。覚えてくる事。・・・約束ね。」と、ミナが話し、皆で一致した。そして、リエが、日時を書いて見せた。
ミナが今週の土曜日曜。エリが来週水曜木曜。リエが土曜日曜。エミが再来週の水曜木曜。
「どうですか。・・・これで。」
ミナが。
「ところで、今日、何曜日。」
「水曜日よ。後三日後よ。」皆が言った。
「三日後。」と、頷いて電話をかけに。行った。
すると、エリが。
「エミ、変わって。・・・私、下り物なのよ。今日から。・・・」
「ええ。下り物。」
「エミ。声が大きいわ。よ。」
「あ。ごめん、ごめん。うんー。・・・しょうがないわね。良いわよ。」
リエは、三番手になった。
「じゃ。次は、私ってこと。」エミが言った。
ミナは。
「そう言う事ね。」
ミナ。エミ。リエ。エリ。の順に決まった。
ミナが、電話をかけて帰ってきた。
「OKよ。山田商店のおじさんが出た。すぐに連絡して、くれる。て。」
「ミナ。」リエが言った。
「順番が変わったのよ。エリとリエ。」
エリが。
「私。今日から下り物なのよ。」
「えー。下り物。」手で股下を抑えていた。
「そう。それで。・・・ミナ。リエ。エミ。エリ。の順で良いのね。」
ミナは。
「皆。今の話は、絶対内緒よ。・・・四人意外は、誰も知らない。・・・人生の分かれ道になるかも。・・・約束よ。」皆で。
「はい。指切り、げんまん。さあー。今日は将来の祝福を祈って。ぱーと、やりましょう。」ミナは、チーフを呼んで、宴会の注文をした。そして宴会となり、そこからカラオケに行った。解散したのは、朝の三時だった。
女の子達を紹介しよう。
昭和二十年。四月生れ。平成4年。今春三月。大学卒業
エリ 私立大学、美術絵画専攻。今春卒業。大学院進学
住 青山
父 都内で画廊経営。全国有名デパート出展認定社。
母 右画廊に隣接・画材、額縁工房卸売問屋。
リエ 私立大学、音楽オペラ専攻。今春卒業。ジャズ歌手志望。
住 六本木
父 映画俳優
母 映画女優
エミ 私立大学、政治経済専攻。今春卒業。大学院進学。
住 赤坂
父 国会議員
母 父の第一公設秘書
ミエ 私立大学、日本文学専攻。今春卒業。大学院進学
住 西麻布
父 一部上場会社会長
母 主婦
体型は、前に記してある。この子達は、一人っ子で、付属幼稚園での出会いで、某学校は、高校まで進む事が出来る。学校です。
小学3年生のころから力量を発揮し始めたころ、成績の順位でトラブル発生、何所にもある話である。
エリとリエの親達は、仕事上で名の知れた人達で、担任の先生とも顔見知りで良く知っていた。
エミとミナの親達が、先生に抗議を申し立てたのです。
内容は。
エリとリエという生徒は、○○先生と深い関係が噂されています。休み時間でも職員室へ行って、指導を受け、御贔屓に扱われている。従って成績が上がるのは当然です。・・・家の子は塾に行って勉強しています。なのに、成績は、あの子達の下です。そんな筈は、ありません。調べたところ、前記のことが噂されているようです。今後、そのような個人的に、特別なご贔屓をするのは止めてほしい。
これが、学校中に広まり、本人達四人が校内の注目の的になってしまい、毎日、先輩、同級生からも、からかいやら、嫌がらせに遭い、登校拒否を実行しました。
一日、三日、五日、一週間。・・・・
エミとミナの母親達は、この情報を知り、先生に相談しました。先生は、親達で解決してほしいといわれました。そして、母親達四人で会うことになりました。
その話を聞きつけた子供達四人は、親達が会うレストランに、先回りして待機していました。
母さん達四人と、先生も来て居ました。五人で、ごちゃごちゃ話していますが、拉致が、明かないようで、ごちゃごちゃ、又、始まり。先生も困っている様子でした。
すると。子供達四人は、親達の前に寄ってきて、仁王立ちになり、ミナが。
「お母さん達。・・・なにやって、いる。んですか。」すると、お母さん達は立ち上がり。にらみあいになった。
「何ですか。あんた達。」
するとミナが。
「何よ。何ですかじゃないでしょうー。」大きな声で言った。
「そんな事で、大騒ぎする。なんて。お母さん達は、最低よ。・・・私達四人は、こんなに仲良しなのに、お母さん達は勝手に、騒いでいるだけじゃない。・・・私たちの邪魔。しないでよ。」子供達は、本気で怒っていた。お母さん達は、びっくりした。まさかの出来事に。すると、先生が喜んで。
「あー。良かった。ミナちゃん。偉い。先生見直した。・・・お母さんたち。先走ったようですね。・・・これで、何も無かったことに、しましょう。」先生は、お母さん達にすがった。母親達は。
「本当ね。・・・私達の不注意だったわ。」四人のお母さん達は、顔を見合わせて、喜んで、涙を流していた。ミナが。
「もう。終わりね。私達。帰るから。」子供達は帰った。
お母さん達は、場所を変えて、じっくり話し合おうと店を出た。そして、リエのお母さんの行きつけのレストランに行った。個室に入った。
「ミナちゃんは。しっかりしていますね。」皆で褒めていた。そして、お互い自己紹介し、仕事の事とか、旦那の仕事とか、世間話で盛り上がり、お互い腹を割った話し合いになった。エミの母が。
「身から出た錆って、この事かしら。」ほほほ。赤い顔して笑った。
「とんだボタンのかけ違いで。失礼しました。」お互い、謝った。そして、これからは定期的に会う約束をして、解散した。
子供達は、益々これをきっかけに、学校内の噂を吹き飛ばそうと誓い。四人は猛勉強に励んで、何時も、一番から四番までの成績を維持した。小学校、中学校まで続いた。親達は、子供達に頭が上がらなくなり、ただ、応援とお金を出すだけ、ピアノ、英語、数学、国語の塾に通い、部活では新体操で、抜群の成績を、取って、いった。
ピアノ発表会。英語弁論大会。新体操東京大会。などなど何時もお母さん達が一緒に応援しながら、着いて行く。又、それぞれの大会では、何度も優秀賞を獲得していた。トロヒーも何個も貰った。そんな事から、四人は兄弟のように、愛おしく、慕っていました。お母さん達も子供達に負けないように、意気投合して、親戚付き合いをする様になりました。
高校三年、一月末、四人は何時ものレストランに集まって居た。今までに無い深刻な趣で向かい合っていた。
「ねえ。皆。決まった。」大学進学の事である。
リエが。
「私は、音大にする。ピアノじゃなく、声楽。」
エリは。
「私は、家の跡継ぎが有るから、美大にする。とりあえず絵を描くわ。」
「エリは、そのほうが良いねー。デザイナーの素質も有るし。私は、日本文学を専攻する。」ミナが言った。
エミは。
「私も、文学に進みたかったけど、親達の勧めで、政治経済を専攻する事にしたの。・・・今度は皆、別れちゃうね。」心配そうに言った。
「エミ。何言っているの。学校行っても。何時でも会えるじゃない。近所の学校だもの。」エリが言った。
するとミナが。
「ねー。皆。約束しよう。・・・私達四人は、死ぬまで友達で居るって。・・・だから、一人の男と、四人が、結婚するの。そして、一軒の屋根の下で、皆で暮らすの。・・・どー。」
「わー。それ、良いー。賛成。」エミは喜んで言った。
リエは。
「あなた達。本の、読みすぎ、よ。何時も夢みたいなことばっかり、言う。」
エリは。
「今まで仲良しで来た。んだから、これからも大丈夫よ。四人で助け合わないと、脱落しちゃうわよ。・・・はい。皆、手を出して。此処に重ねるの。最後に、私が抑えるから。」と、言って。テーブルの上に手を重ねあった。エリが最後に。
「はい。これで、この四人は、離れる事は出来ない。」と、言って。拍手して喜んだ。そして、今までどおりの、生活に戻った。
二月には、大学の合格発表が、各地で始まり、この四人も、全員合格した。
大学生活は省きます。
そして、四人は、四年が過ぎ、卒業記念に山登りでもしよう。自然に触れてみよう。なにか違った事が見えるかもしれない。と、話が纏まった。しかし、改まっての登山は無理なので、東京近郊の小高い山。桧原村、秋川渓谷。と、地図に有った。
「この辺りなら、迷っても大丈夫でしょう。東京に近いし。」と、三泊四日で、民宿を探しながら出かけ、真田と、出会ったのである。
そして、三日後の土曜日の朝。ミナは六時に起きた。お母さんが起きていた。
「あら。早いわ、ね。」
「うん。今日は、大学の友達とハイキングをしながら、お別れ、パーティー会を。するの、一泊で、秩父山、とか、言っていた。お・か・ね。」と言って、手を出した。
「えー。山へ行って来たばかりでしょう。・・・いくら。」
「三万円。・・・うん、今度は友達が違うの。」ミナは、話しながら支度をしていた。
「有難う。そのうち、親孝行するから、待って、いてね。・・・お母さん。」
「まあ、まあ。当てにしないで、待っている。わよ。」
ミナは、弾むような口調で話していた。そして、家を出た。時計を見た。七時だ。少し早い。とりあえず新宿に行って、時間調整した。八時発。青梅行き。これに乗った。拝島と言う駅で乗り換え、武蔵五日市駅に着いた。九時半だ。
「あー。気持ち良い。」深呼吸した。
タクシーに乗ってはまずいと思った。バスの切符売り場を探した。売り場があった。山田商店を通るか聞いた。通ると言うので、切符を買った。田舎のタクシーはあまり人が乗らないので、山田商店で降りて、山のほうへ歩いて行ったら、先生の別荘しかないので、不思議に思われ、先生に迷惑がかかると考えたからである。すぐ発車するというので乗った。四十分ぐらいで、山田商店の前に着いた。ミナは降りて、歩いた。三十分位歩いた。大きなシャッターが見えた。ほっとした。
「あー着いた。疲れた。」
小さなドアーの、ノブを回した。開いた。瞬間、胸の鼓動が、頭まで響いているのが感じる。落ち着け。落ち着け。と、自分に言い聞かせていた。入ってドアーの鍵を掛けて、小走りに急いだ。次は、門がある。引き戸に手をかけた、開いていた。入ってまた鍵を掛けた。一気に走った。
「先生。先生。」
玄関を開けて走りながら上がって。
「先生。」
あれ。居ない。縁側を見た。何時ものチェアーに座って居た。
「あ。居た。先生。」
真田は、目を開けてミナを見ていた。ミナはショルダーを投げ捨て、チェアーに座って居る真田に、覆い被さるように飛び込んでいった。
「おい、おい。危ないよ。良く来たね。」
真田もきつく抱き寄せた。
「うん。」
嬉しそうに、ニコニコしながら喜んでいた。
「はいはい。起きなさい。」
二人は、起きて立ち上がった。
「あーーー。」
真田は、庭の方へ出て大きく背伸びした。
後ろから、ミナが、そっと抱き寄って来た。
「先生。お風呂は入りたい。」
「あ。・・・あー・・・沸いているから、入れるよ。」
「うん。入る。」ミナは、嬉しそうに風呂へ行った。真田もおおよその見当はつけていた。場面で、流されるのも、一つの生き方、勝ち方の一つだ。今日は、ミナの流されるままに、しようと考えていた。
「あー。良いお風呂。」ミナが、風呂から上がってきた。真田は、バスタオルを持ってきてミナに渡した。
「有難う。先生。」
ミナは、さっと身体を拭いて、バスタオルを置いて、素っ裸で真田の胸に飛び込んできた。真田は抱いて、寝室へ入った。
真田のベッドは、特注で造った、幅二メートル、長さにメートル五十センチメートルの、大きなベッドで、頑丈に造ってある。ミナはむしゃぶりつくように迫ってきて、ベッドに倒れた。真田は、こんな若い女とセックスをするのは何年ぶりか、十年、いや、二十年、頭を過ぎって、戸惑っていた。ぴちぴちして、はちきれるようなヒップと乳房に、この世に無いものを感じた。真っ白い若い肌は、真田を迫ってくる。十年もご無沙汰していた真田は、一気に頂点に達した。一方のミナは、何度も繰り返す刺激に狂ったように叫ぶ。もちろんミナも男とのセックスは始めてである。真田も、吸い込まれるように着いていった。三十分位続いた。真田は歳のせいか、ぐったり仰向けになった。ミナは、まだ燃えて、抱き寄ってくる。真田は、若いものには勝てない、そのまま眠ってしまった。ミナもそのまま寝てしまった。
ふっと、目が覚めた。正午を回っていた。二人はシャワーを浴びて着替えた。
真田はなんとなく恥ずかしかった。そして、昼食の支度に取り掛かった。蕎麦を出してきた。
「蕎麦嫌い。」
「うんっ。好きよ。しょっちゅう食べる。」
「おー。そうか。良かった。ミナが来ると思って、仕込んでおいた。んだよ。」
真田は、蕎麦を茹でて大きめの、ざるに、盛った。
「さ。打ちたて、茹でたて。美味しいよ。」真田は、囲炉裏のテーブルに運んだ。
「わー。美味しそう。これ。先生が打ったの。切ったのも。」
「あー。そうだよ。」自慢げに、声が弾んだ。
「上手ね。先生って、何でも上手ね。」ミナは、少し持ち上げた。でも本当だ。漬物、大根おろし、畳いわしと一緒に食べていた。ミナは、嬉しそうに食べながら話した。
「先生。あれから、帰って、四人で話し合ったの。・・先生の事。」
「私の事。」真田は、びっくりした様に、ミナを見た。
「そんな。・・・びっくりしないでよ。・・・皆が先生の事、好きになった。て。一目惚れだって。素敵な人だって。リエがね。お父さんの友達で、渡哲也。て。俳優が居る。んだって。・・・その人に似ている。て。言っていた。でも、先生のほうが、少し背が高くて、渡哲也より素敵だ。て。言っていた。・・・・知っている。・・・その俳優さん。」
「ああ。知っているよ。いろんなパーティーで、会っていたよ。・・・え。そうかな。・
・・照れちゃうな。」と、苦笑いをした。
「それでね。皆、一人一人会って、先生と話したい。て。」ミナは、楽しそうに話した。
「ほう。・・・そうですか。皆で私を。おいおい皆で押しかけて、私を殺す、きかー。・
・・ははは。冗談だ。よ。・・・そうか。そう言ってくれて、いるか。」すると、ミナは。
「本当よ。先生の事、もっと知りたい。て。・・・本気なの。皆。」真剣な顔で話していた。真田は。
「そうか。・・・私もね。・・・君達帰ってから、これからの事。考えていた。ん。ですよ。・
・・君だから話そう。・・・実は、ね。一つ遣り残しが有る。て。言っていた。でしょう。その事。」
「はい。聞いていました。」ミナは、真田の顔を見た。真剣そうだ。
「私は、赤坂で東侠会と言う、任侠道の会長をしていた。マスコミは暴力団と言っている。けしからん連中だ。・・・ま。良いか。それは、・・・それで、警視庁に解散に追い込まれ、解散した。ん。ですよ。そして、会の金とは別に、自分の資産が有る。別れた女房には、子供が一人居て、それなりに分与して、解決済み。だ。後の残りが有る。それは、お墓に持っていけない。ので、誰かに分与しようかと考えている。ん。だが。適当な人が見つからない。・・・一人じゃ持ちきれないから、四、五人は、居ないと。そう考えていた。・・・そこに、君達が現れた。・・・そして、ここ二三日。君達のことを。考えて。いた。」
「へー。そう。なんだ。・・・失礼ですけど。資産。て。いくら。ですか。」真田は、続けた。