彷徨うもの
ボコボコ。
ボコボコ。
それは月の灯もない夜の日のことだ。
ボコボコ。
シンシンと音のない夜。
何も聞こえない夜。
帰宅の途に付いた時の事だ。
ひたすら歩いて帰っていた。
ボコボコ。
ボコボコ。
草も木もない。
いや違う。
草や木に近いものは有る。
酷く揺れてるが。
歩いて居ると何故か奇妙な感覚に襲われた。
いや違う。
何かに押されてるのだ。
僕は。
目を凝らし遠方を見る。
はるか彼方に有る大きな山。
反対を見れば奈落に通じそうな谷が有る。
それは何処か神秘的だ。
ボコボコ。
ボコボコ。
うん?
「おや久しぶり」
「あ~~久しぶりです」
突然現れた人物に僕は挨拶をする。
正確に言えば人で有ったと言えばいいだろうか?
グジグジと腐った肉。
何かに啄まれた腕。
内臓のない肋骨の見えた体。
そこに居たのは腐乱死体と言って良い人物でした。
確か暫く前はまだ人としての原型を保ってたよな?
「これ?」
「あ~~」
自分の啄まれた腕を指す。
いや良いけど。
「先程小魚の群れに遭遇してさ食われたんだ」
「ご愁傷さまです」
心底同情する。
僕らは死んでるから痛みはない。
だが流石に生き物に啄まれるのは嫌な気持ちになる。
「お~~す」
「「どうも」」
白骨化した人物が歩いてくる。
僕らと同じ様に。
いや正確に言えば少し違う。
僕らは潮の流れに乗り歩いてるように見えてるだけだ。
ここは海の底。
僕らは海で死んだ死体。
そう唯の死体だ。
正確に言えば水死体だ。
ま……意識があるけどね。
早く成仏したい。
意識があると地獄だからね。
ここは。