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053、幸多は出不精。

立花 幸多は、自他共に認める出不精だ。

食事はコンビニか、買い込んだカップラーメン。

髪は半年くらいに一回、風呂上りにウザくなってきてから。

服は、数年に一回買い換えに行くだけ。

幸多を3と言っていた女は、3が余りにも服装に頓着してないくて、珍しいと平凡枠でも珍獣枠寄りで関わった。

だが、毎度ヨレヨレとホテルに行くのも嫌気がさし、宅配の送り状を入力させ100サイズの箱一杯に適当サイズの服や下着、靴やバッグまでも送った。

それを幸多は、感謝もなくそれを頂いた。

衣類のごみ収集前の日だったからと、持っていた服を全部袋に詰めて、ごみ置き場に持って行ったほど。

その後会社の後輩が『それって○○じゃないですか!?』などと服や靴のことを色々と言ってきたが、貰い物だから分からないと、言うと『そーっすよねー。立花さんがこれ選んで買うとか絶対にないっすもん』などと言われていたが、対して気にしてもいなかった。

シャネ○とかの馬鹿みたいな金額のブランドの名前なら何個かは聞いたことあるくらい。

服を買っていた、近場のスーパーの二階の衣類店では、Mサイズの適当な色を適当に買っていた。

靴とかもナイ○やアディダ○などの有名どこなら知ってるが、そもそも履ければいいから、会社で支給された安全靴をもう一足買って外でも履いていた。

会社に来たら、履き替えなきゃいけない規則だからと、わざわざ事務の人が社内用とは色違いのを選んでくれた。

あの事務のおばちゃん、サトウさんだったと記憶してる。

安全靴は、少し重いのが難だが、家と仕事場やコンビニしか行かないから、慣れれば何てことない。

そんな幸多だが、まだ二十歳の頃は出不精だが高校の友人から呼び出されたら飲みに行ってた。

その友人、タケの友人がバンド組んでて、箱ライブやってるから見に行こうと飲みの後に行ったのが人生初のライブ。

対バンで何組か出てて、付き合いで全部見たがそんなに面白くないし、他バンドの信者を見て、そこまで熱狂的になれることに色々な意味で感心した覚えがある。

そのバンドマンの、タケの友人のリュウだったかが、その後バーを持ったと何度か飲みに行った。

飲み屋街と名高い駅の一角にある、L字のカウンターで7脚ほどの小さなバー。

名前は忘れたが、あそこで飲んだテキーラ美味かった。

レモンを噛りながら、ストレートで何杯も飲んで、店のレモンをなくしたから、次に行った時は、レモン持参で行った。

あのバーに行き、タケと連絡取ってるかとリュウに聞けば連絡取れたのだろうかと、ふっと、そんなことを初めて思った。

タケとも連絡が付かなくなり、誰にも誘われることもなくなり、あの女と何回かホテルに行った以外、仕事場と家の往復が主でしかしなかった。

そんな出不精が、異世界に来て旅をしてる事実が面白いし、見るもの見るものが新鮮に写っている状況。


長くなってしまったが、ようは目の前に広がる大自然に圧倒されていた。

「うおーっ、すげーっ」

絶景のロケーションにコウのテンションは上がり、ラウの足を止めると、リンが気付いて引き返してきていた。

第四の聖地に向かっていると、山越え中。

登山路を走り頂上に着く前の開けた展望台のような場所に出た。

それまで木々に遮られていた視界が一気に開け、眼下には青々とした森などが広がっている。

幼い頃に、広がった田畑や紅葉した木々で埋まった山々などは見たことあるが、見渡す限りの大自然を見下ろす山に登ったことはない。

電線などの人工物も一つもなく、混じりっけなしの大自然。

日本のどこかにはあるだろうが、都心近辺に住んでしまっては、そんな風景にはお目にかかることはない。

関東の奥地にもそんな風景があるらしいが、よっぽどの用がない限り自分から行くことはないだろう。

「これぞ、大自然」

「見たことないのか?」

「人工物が一個もないなんてねぇし、ってかこんな開けた景色がまずない」

「……なら、ここで野営するか?」

「なんで?」

「ここは夕日や朝日が綺麗なんだ」

「へぇー、そういうのもリアルで見たことねぇや」

そうと決まったらと、ラウから降りて改めて大自然を見て、なぜか深呼吸した。

「これからは俺が気に入ってる場所を通り掛かったら寄ってもいいか?」

「おっ、そんなんあんの?言えよー!ってことは、何個かは見逃した?」

「この道のりでは逃したのは、一ヶ所だけだ。前に立ち寄った泉も綺麗だったろう、あの泉も気に入ってる場所の一つだ」

泉、泉と思い出してみると、キラキラとした反射が綺麗な小さな泉が脳裏に表れた。

「おっ、あれか!確かにあれも良かったな」

「どこ行くにも無駄に遠回りしてでも、気に入った景色の場所で野営するのが好きなんだ」

「ふーん、でも街中に行った方が楽じゃんか」

「街中よりも自然の中にいる方が好きだからな、誰に見られたり話しかけられることもこともなく、ゆっくり出来る」

ふっと対人恐怖症という言葉が出てきたが、リンの場合は周りからの干渉を鬱陶しく感じてる方だろう。

イケメン勇者は、いれば見られ声をかけられる存在なのは確実。

「ふーん、でも教えていいん?」

「教えたいんだよ、俺の気に入ってる風景や景色を見てもらいたいんだ、コウに」

そう言うリンはこちらを見ているようだが、俺は前を見ていた。

その意味を気付いてしまったから、どんな顔して返事をすればいいのか分からないと思ったが、言葉はするりと口から落ちた。

「じゃあ、次から寄ってな」

「ああ、全て教えるよ」

「一個は逃したじゃん」

「聖地を廻った後に見に行けばいいさ」

「そっ」



腕の中で眠るコウにリンは呟く。

「いくら受け入れてくれなくても、俺は言うよ。コウ、君が好きだ。心から愛している」

その言葉にコウが少し動くと隙間を埋めるようにピタリと胸にくっついた。

そんな行動を無意識ならしてくれるコウの額にキスを落としてリンも寝付いた。

いつか、本当の意味で抱き合えることを願って。


イムリンは二人が寝付くと行動を始めた。

一瞬の内に大福形態を引き伸ばし、シート状に変態するとテント内を覆い、そしてまた大福形態へと戻った。

リンやコウの吐き出したものを、拭き取った布巾やテントに飛び散った欠片さえ残らず収集した。

一瞬覆われたリンやコウ、イムリンの横で眠るペタにさえ気付かれずに、全ての種を腹に納めた。

そして、何事もなかったかのようにイムリンは元に戻った。


「なっ、スライムにあのようなことは出来ぬはず。あのスライムはわらわの知らぬことばかりする。こやつはなんなのだ」

キュリアンリサエルの目下の観察先は二人ではなく、スライムへと変更されていた。

もはや、このスライムが次は何を仕出かしてくれるのか楽しみにもなりつつある。

楽しみを知らずにただただタシュワ湖で、キュラビッツを見守ってきたキュリアンリサエルに、一つの娯楽が出来た。

お目通し、ありがとうございます。

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