050、雨宿り 3(後悔)。
ラスボス扉の中に、このダンジョン内で一番デカイいかにもな部屋が作られていた。
珍しくイムリンもペタも俺にくっつくことなく、広いラスボス部屋を動き回っていたので、ラウ達はそこに残し、その奥の隠し扉にあるクエントの自室へとお邪魔させてもらう。
そこはダンジョン内のような土壁剥き出しではなく、煉瓦調に加工した壁で、キッチンや机や椅子、ベッドまでもあるキチンとした部屋になっていた。
「クエントってドラゴンなんしょ?ドロン系?」
「そう、まあドロンじゃないけど、なんかダンマスなったら変化可能になっちった」
「へぇ、そういや、さっきのキャラなんなん?」
「あれは~その方が~この姿に合うと思って~もううろ覚えになったアニメかなんかのキャラまね~」
少し声音を高くして、手振りまでつけると確かにそんなキャラがいそうだが、俺の記憶にはないやつだ。
「ジャンルは別な」
「分かりませんか~なら~そうかも~。まあ、初めましてでこの声はこの顔に合わねぇだろ」
確かに少し低めの声は、赤髪少年風な見た目とはチグハグ感が出てしまう。
「考えたね~地声で来てたら~警戒してたかも~、疲れんなこれ」
「分かってくれるか同士、あっ茶とか出したいのに茶っぱとかねぇや」
「ある、リンが持ってる」
「使っていいなら俺がやろう。積る話もあるだろう。それにそろそろ昼食時間だから、昼食も作ってもいいかな?……ありがとう」
クエントが頷き、そのままキッチンに向かうリンを目で追っていた。
「よろー」
俺が言うと、こっちに視線を戻した。
「さっきから思ってたけどあいつ、めちゃくちゃイケメンな。モデルとかやってそう、あれ旦那?」
長年生きたドラゴン、こちらの色々は知っていいるようだ。
「いやいや。一緒に聖地巡りしてる仲間。なんか軍隊出で飯系をしごかれたらしくて、味がメチャうま」
「おっ、優良物件」
「だろー。俺コンビニばっかだったから飯テロとか確実に無理」
「俺も無理、スーパー近くの物件探す口」
「割引狙い?」
「そうそう、毎日コンビニだと高いし、半額ばっか買ってた記憶ある」
「えれー、俺はカツカツでも近くのコンビニ行ってた」
「定時上がり要求されるのに薄給だった……はず」
「薄給リーマン、ドラゴンに転生。まんまタイトルになりそう」
「だろ!ってか、そっち好き?俺も俺も」
椅子は一脚しかないから、クエントと地べた座りで話していたら忘れていた記憶が戻ってきたようで、好きな作品とかの話に花を咲かせていると、リンが食事を持ってきた。
「あのキッチン、見た目だけだったんだな」
「あっ、言うの忘れてた!ごめんー、このナリだからってキッチン作ったけど、あれオブジェなんよ」
「まじで?言えよー」
「大丈夫。立って調理出来たから、楽にできたよ」
「……スパダリ?」
「俺んじゃないぞ」
「スパダリ候補?」
「それそれ、勇者だし」
「すげーなこいつ」
「スパダリってなんだ?」
「あとで説明する、飯食おーぜ」
「またあとでか、あとでが増えてきてるぞ。味付けが足りなかったら言ってくれ」
地べたに座った二人の前に出来上がった料理と調味料を並べていく。
「すげー……、俺まともな飯食うのこっちに来て初めてかも」
「あっドラゴンだから生肉食ってた?」
「そうそう、最初の頃はまだ記憶なくてさ、普通にドラゴンしてたんたけど、ある日人間だったこと思い出して、それからは人は食わなくなった」
「食ってたんだ」
「だってドラゴンだし、それまでは討伐とか言いながら飯が走ってくる状態だったけど、思い出したら無理」
「お前も苦労してんな」
「分かってくれるか同士……じゃねぇな、こんな旨い飯食えてんだから、すげー旨い」
「口に合って何よりだ」
「……リアルスパダリっていんだな」
「候補付けてくれ、俺んじゃないし」
「ふーん、このドレッシングまたうっまいな」
「それ、この間泊まった宿のおかみさんの直伝ドレッシング、こいついつの間にか教わっててさ……」
またコウタとクエントの二人で色々と話に花を咲かせながら食事をし、食後のお茶を堪能していると、クエントが改まった顔でリンに向き直った。
「すげーっ、旨かった、ありがとう」
「いや、口に合って何よりだ」
「最後に二人に会えて良かったぁ」
少し残念そうな、でもスッキリとしてような不思議な顔で二人を見るクエント。
「まじで最後?」
「今までドラゴン楽しんだし、何故かダンマスなれたからな、大人しくダンマスしとくよ」
「一人で?」
「今まで一人だったし」
「伴侶作んなかったのか?」
「ドラゴンって全体的に気性荒いし、それにペットとかなら分かるけど、伴侶って無理くね?」
「ドラゴン以外は?」
「……ドラゴンとなんて、やついないだろ」
「今は人間だぞ」
「あっ!!」
「ここって閉じれるだろ、だったらしばらく放置して伴侶でも作ってくれば?この先一人はキツイって」
「おおーっ!そっか、でもいいのか?」
「だってダンマスだし、ここの管理はお前だろ。好きにすればいいじゃん、現に稼働前だからって俺達とこんなん出来てるし、だったら伴侶とここで生活ってアリじゃねぇの?」
「んなこと考えてもなかったわー」
「ほらっ入り口部屋に管理部屋みたいのを作ってそこで生活すれば?そしたらお前はダンジョンから出れないかもだけど、伴侶は出れるじゃん」
「ダンジョンマスターはダンジョンから出れないのか?」
今まで静かに聞きに回っていたリンが口を挟んだ。
「俺の知識ではそうだな。でも出れるかもしれないのか」
「でも出れないかもしれないから、入り口近くに管理部屋兼自室作ってってのはアリな」
「あっ、じゃあさ……」
読んでいた小説や漫画のダンジョン知識を色々と並べ上げるとクエントは、それ読んだ、それ知らないななどと言いながら目を輝かせている。
一通りの話をして、クエントの頭の中でダンジョンの構想が出来上がると、クエントは斜め上辺りの空中を見ながら呟いた。
「伴侶かぁ……」
その斜め上の視線の先に誰かがいるような気がした。
「好きなやついんだ、迎えに行けば?」
「……ほんと、なんなんお前」
先ほどとは違うトーンの言葉が証拠、誰かいるのだクエントの視線の先に。
「いやー、なんとなくそんな気してなぁ」
「ダメ元で行くぅ~……ムリポ、チキンハートだもん」
少し自虐的に呟くが、なぜかそれは違うと思ってしまった。
「大丈夫じゃね?」
「軽く言うなよー」
「だって人間の時より長くドラゴンやってたお前が気に入るようなやつなんだろ。何があったのか知らねぇけど、話したりしたってことだろ、じゃあ大丈夫だって、砕けねぇと思うぜ」
「……こいつって、いつもこんなん?」
クエントはリンに聞いてみるが、リンも苦笑するしかない。
「先日、キューピットってやつをやってたよ」
「そうそう、俺キューピッドして、仲人までしちまった」
「へぇー、なら少しは……いやっ砕けた時の為に半分で……いやっ一割で……」
「一割かよ、まっいっか。うまくいったら教えろよ」
「どうやって教えんだよ、ライ○とかねぇんだぞ」
「あっ、そっか。ペタ?あっ俺は旅してっから、セミのとこに送ってくれよ、セミには言っとくからさ」
「セミ?」
簡単にセミとアンを説明して、セミの住所を教えた。
出立前にこんなことがあったら、こちらに送ってくださいと住所を書いた紙を渡されていたのだ。
「俺は?クエントに送る時はどうすんの?」
「レタクルーブ……ペタに覚えさせればいい」
リンに顔を向け聞くと、また魔物名で言うので目を細めたら、名前を言った、覚えてはいるのだ。
「そう、ペタだぞ!イムリンもイムってちゃんと言えよ」
「あれイムリンかよ、スラリ○からのだろ」
「あれ言うなよ!当たり前じゃん、スラリ○は畏れ多くて使えないって」
「あー、ゲームやりたくなってきたわー、俺はモンハ○派だったなぁ、懐かしい」
「リアル逆モンハ○してた奴が言うのかよ」
「確かに」
ひとしきり笑って、一息付いてそろそろ出るかと腰を上げた。
「あっちょっと待ってな。そうだ、あいつらもここの中に入れちゃって、この部屋を入り口のとこに移動させっから」
ラウ達を入れると部屋が狭く感じると思ったら、壁が奥へと移動して、部屋が広くなった。
クエントを見ると、手を胸に当て、明後日を向いていた。
「……おし、これで良し。もう出ていいぞ」
部屋を出ると、そこはしまっていた入り口が開いている入り口部屋に移動していた。
「すげー、さすがダンマス!」
「へへっ、マイク○もビルダ○もやりこんだのはこの日の為だったのかも」
「憧れるわー、リアルマイク○すげーっ」
「なる?」
「稼働前に引き渡そうとするな」
「だなっ」
ペタにこの住所を覚えてと言うと落ちている石を一個拾って、ジンケットに入れていた。
「それでいいんだ、おもろい生態」
「俺も初めて見たし、これでお前宛の手紙送れんな、お前も送れよー」
敬礼の手付きで「りょっ」と言うクエントにまた笑ってから、ラウに乗り込んだ。
じゃあなーっとクエントに別れを告げて走り去ると、後ろの方でバサッと大きめな羽音が聞こえて振り向いた。
見ると真っ赤で巨大なドラゴンが上空を飛んでいて、こちらに手を上げると飛び去っていった。
「あーっ、変態見せてもらえば良かった!」
そんな一つ後悔を残して、ドラゴンを見送った。
お目通し、ありがとうございます。




