048、雨宿り 1(初進入)。
翌朝、宿を後にしてしばらく走っていると目の端に影が映り、視線を落とすとイムリンの上にペタが乗っていた。
「うおっ……ペタ?」
「どうした?ああ、帰ってきたのか」
声に気付いたリンがディラを操ってこちらを覗いた。
「……気になるだろうが、もう少し先を急いでいいか?」
「いいけど、どうしたん?」
「しばらくしたら雨が降る」
「こんないい天気なのに?雲一つないのに?」
木々で全体は見渡せないが、見る限りでは雲一つない晴天だ。
「ああ、雲もないがこれは降る、大雨が」
「まじで?大雨?えっ町とか着く?」
「ここから先はしばらく町や村がないが、この先に洞穴があるからそこまで走るぞ」
地図を出し場所の確認をすると、ディラの速度を上げて走るリンに、コウも速度を上げた。
「分からんが分かった」
「あとで教える」
「そうしてくれ」
いつもよりも大分速度を上げて走っていると後ろの方で雷が鳴り出し、洞穴に滑り込むように入ってすぐに滝のような大雨で洞穴の外が見えなくなった。
「うおーっ、滑り込みセーフ」
「間に合ったな、こんなに広いとは助かった……」
洞穴とリンは言っていたが、騎乗のまま難なく入れる入り口を入るとそこは部屋のように広い空間。
「……んっ?止んだ?……えっ?」
大雨の音が途絶えたと思って、入り口を見るとそこに先程まであった入り口が消えていた。
「コウ、すまない」
「えっ?あっ?入り口……」
「この洞穴はダンジョンになってしまったようだ」
「あん?なってしまったっ?」
「この地図の時点では単なる洞穴だったが、何かの影響でダンジョンに変わったんだ」
「んんっ?えーっと、それはよくあること?」
「そういった記述を文献で見たことがある」
「つまり、激レア引き当てた?」
「お前の言葉で言うならそうなる」
「喜ぶやつ?落胆するやつ?」
「それはこの先を見てみないと分からない」
「あっ!これは行かなきゃ出れない系か!」
「そう、入口を閉じられてしまったからには、進むしかない」
とうちゃん、俺、ダンジョンに閉じ込められた。
心でそう呟くとペタが戻ってきているのを思い出して、ラウから降りるとイムリンに腹這いで張り付いているペタ共々抱き上げた。
「……ペタはペタなんだよなー。何かこいつら見ると脱力する」
「ふっ、確かにそうだな。ここはまだ入り口で、危険はないから手紙を読んでしまうか」
リンはジンケットからバケツを二個出し、水魔法で中を満たすとディラとラウの前に置いたり、部屋の壁を触ったりと状況を見極め中のよう。
「あっ、魔法の練習出来る?」
「まだ出来立てのダンジョンだ、刺激するのは更に出れなくなりそうだから止めてくれ」
「むーっ、んっ?出来立て?」
「ああ、定期的に可動するダンジョンに入ったことがあってな、動いた直後と似ているから出来立てなんだろう」
「ここもそれだったりしたりしなくない?」
「んっ?それはどういうことだ?」
「あっ、すまんすまん。えーっとそれと同じじゃないかと聞きたかった」
「……だとすれば、ダンジョンマスターが厄介だな」
「わくわくダンジョン、篭りたいけど、早く先にいかなきゃだしなぁ」
「早く手紙を読んで先に行ってみよう」
「だなっ。あっそういや、ここのダンジョンって明るいやつな」
松明とかを灯してなくても光源もないのに全体を見ることが出来る不思議な明るさ。
「ああ、助かったな。場所によっては松明が必要で片手を塞がれる、慣れてないものには大変なんだ。明かりの為に一人雇ったりするとも聞いたことがある」
「そっか、片手の松明離せないのか」
「置いて消されたり消えたりしたら、それこそ真っ暗だからな」
「うひょーっこぇー、それでアンデット系ならまさにリアルバイオじゃん!こぇーっけど見てみてー」
「ばいお?アンデットのことなら、アンデットダンジョンあるぞ、いつか行ってみるか?」
「バイオは映画な。ってあるんかい!んっ?アンデットってアンデット?」
「ああ、死体とかのことだろう?」
「そこは同じなんね、そっかスライムとかもスライムだからそれは共通か、そういや他のざっくりとした種類分けは?」
他にも魔物の種類を聞いてみたが、大まかな種類分けで、全く知らない魔物はいなかった。
ちなみにあの美味しいゲーヌヤキのトカゲイヌは、ドラゴン科だとびっくりも情報ゲット。
「へぇー、やっぱり少しは魔物も見てみたいな」
異世界に来てから、敵対する魔物にあったのは結局あれだけだから、やっぱり異世界感が足りない。
まあ、ラウイムペタと異世界感たっぷりな魔物は目の前にいるが、もうこいつらは家族同然だからな。
「ここなら嫌でも見れるだろうよ」
「そっか、あっセミの手紙見るか、ペタちょうだい」
ペタに手を差し出すと、腹這いになっていたペタが起き上がり、腹から小さなジンケットを出し、そこから手紙を取り出す。
出した途端にペタよりもでかくなるが、ペタはふらつきもせずにこちらに差し出してる。
「ペタありがとうな、あっ食べるか?」
ペタ用に買っていた木の実類を何個も差し出すとジンケットにポイポイ放り込んでから最後の一個を食べ出した。
「やっぱりリアルリスは見れなかったか、ちょい残念」
「んっ?」
「あとで教える。んで何か書いてっかな」
セミの手紙の封を開けて読み、リンに渡すとリンもさらっと読み返してきた。
「その最後の言葉は何て書いてるんだ?」
「あっ、これはまた今度な」
「んっ?まさか教えたのか!?」
「いやいや、違うって。ほらダンジョン進もうぜ」
「教えたんだろう」
「違う、違う」
初ダンジョンを暢気に言い合いしながら進んでしまう。
最後にセミが日本語で一言添えていた。
『リンスラン様の幼き日のことは覚えてますよ。わざわざ日本語で書くから驚きましたよ。字は合ってますか?』
セミは日本語習得済みだったのだ、しかも趣味で。
さすがです、セミ様!