046、手紙 2(ふわふわ)。
その対面口の横の方にドアがあり、その前に移動してしばらくすると鍵が開く音がして、ドアか開いた。
家の中か郵便屋の本拠地のような場所に入るのかと思ったら、そこは応接室のような感じのソファとテーブルだけが置かれている部屋。
「今、レタクルーブが参りますので」
亭主の手がソファを指さしていたので、リンの隣に俺も座ると、もうそこは定位置と化している俺の膝上にイムリンが乗ってきた。
「……またなのか」
「もう、いいじゃん、こいつはそうなんだって、もう諦めろ」
そう、今日もイムリンは俺にくっついてきていた。
ラウ達とお留守番と言って置いて来たが、ダメだったようだ。
イムリンは、かのスライム達のような存在感たっぷりな大きさではなく、直径20センチほどなので邪魔にもならないし、たまに気付かずに踏みそうになったりするくらいだ。
出されたお茶を飲みながら、イムリンをいじっていると、奥の扉がガチャリと音がして、鳥籠を持った店員さんが入ってきた。
「……ほぇ?」
「見るのは初めてですか?」
口を開いたら、色々と言ってしまいそうになったので、頷くだけにしといた。
「俺もまだ数回見かけただけだ、ここまで間近で見たのは初めてだな」
テーブルに鳥籠が置かれて、更にじろじろと見てしまったが、何て言っていいか、まずは。
「かわぇー」
「それは可愛いってことか?」
色々と言ってしまいそうな口は閉じて、コクコク頷いておいた。
「愛玩魔物として従魔されているとも聞く程ですからね」
それはそうだろう、何っでって、リスのような顔と体に大きめな尻尾に小さめな羽が生えてる魔物が可愛らしくつぶらな瞳でこちらをガン見しているのだ。
亭主が鳥籠を開けると小さな手で入り口にたどり着き、パタパタと羽を動かして飛ぶと俺の頭の回りをくるりと飛びイムリンの上にとんと乗った。
目線はずっと俺をロックオン、俺もロックオン。
イムリンをいじっていた手が上に上がり、恐る恐る手を伸ばしても逃げもせずにそのまま撫でられているし、時折目を瞑る感じで撫でられているのが気持ち良さそう。
「かわぇー、ふわふわっ」
そのまま二人の世界の状態で撫でていると、リンに肩を叩かれた。
「コウ」
「えっ?あっ?なに?」
「やっぱり、聞いてなかったな。亭主と交渉してこのレタクルーブを譲り受けたよ」
「あっ?えっ?んん?」
「この町では結局一度も配達せずにおりましたので、定期的に最機密信書を送られるのであればと」
「えっ?まじで?こいつ仲間?」
「ああ、そうなるな」
「リン様にもお話しましたが、これから旅を続けるとのことでしたので、レタクルーブの休憩所として各郵便屋を使えるようにしますので、もうしばらくお時間を頂きます」
「えっ、ああ、はい、それはどうぞ」
そうして、待望のふわふわが仲間になった。
あ、リンのあれは、あれでふわふわだが、やっぱり小動物系のが欲しかったから、まじ待望のふわふわが仲間になった。
視線を集めてしまっている。
何故かって、それは俺の肩の上のせい。
右肩の上にイムリンが乗ってるなら、まだそこまで視線を集めないだろうが、今はその上に羽リスが乗ってる。
チマい片手が俺の髪を掴んでるのも可愛いらしくて、いつもならリンに行ってるだろう視線も俺の肩の上に集中してしまっている。
「なにあれ、可愛いー、髪掴んでるよ」
「スライムの上のあの魔物って何かね?」
「確かレタクルーブですよ、本当に可愛らしい」
「へぇーあれって、レタクルーブってんだって、可愛いな」
などと、直接ではないが彼らの可愛さ、いや羽リスの方を絶賛している。
「ねぇねぇ!」
とうとう声を掛けられた、声は大分下の方からで、見ると俺の腰の位置辺りに頭がある小さな子供。
「えっ?あっ、どうした?」
「座って、ちゃんと見たいの!」
「あっ、こらっすいません」
「えっ、ああ、いいっすよ」
片膝突くとその子の上向きに上がっていた顔が、俺の顔横を真正面で見ている。
「可愛いー、ねぇとうさま、スライムの上に可愛いのが乗ってるよ、見てみて、可愛いねー」
隣のとうさまの服を掴み、可愛い可愛いと連呼している。
「すいません。ほらっお礼言わないと」
「ありがとう」
「どういたしまして」
単なるペットではないので、触っていい?とかこないのが助かる、そこまでのスキルはない。
この世界の動物イコール魔物なので、誰かの従魔であってもそれは魔物なので、むやみに触るのはNGとこんな小さい子でも知っているのだ、でも……。
「ねぇ、触っちゃダメ?」
「こらっ、それはダメだって教えただろう」
「あっ……」
「ごめんね。今日から従魔になったばかりだから、まだ緊張してると思うんだ、だからごめんね」
リンが少し屈んでフォローしてくれるので、そこは任せてみたが、ちょっとウルっとされてしまった。
どうしようと思っていると髪をツンツン引っ張られた。
「おっ?どうした?……おっと」
なんとなく羽リスの前に手を出すと、手にちょんっと乗ってきて、重みで手のひらがカクンと下り、子供の目の前に羽リス登場。
「えっ、いいの?……とうさま……」
その子が隣のとうさまに聞いて、とうさまも苦笑いの状態で優しくそっとなっと一言添えた。
この十数センチのチマい羽リスが悪さしても、そこまでのことは起こらないだろうと、何気に見ていた、ここにいる誰もが思った。
その子は、笑顔と好奇心一杯の表情で羽リスにそーっと手を伸ばし撫でる。
しばらく撫で、とうさまに促されるとまたありがとうと言い、とうさまと手を繋いで去っていった。
コウタは、大人の領域に入ってから、目の端に映る以外でしっかりと子供を見るのは初めてだと思った。
その子の純粋な笑顔に、コウタの頬も自然と笑顔になっていた。
それに気付いたリンは、コウタの笑顔に釘付けになり、行くかっと歩き出したコウタに、一歩遅れを取ったが、コウタはそれに気付かなかった。
羽リスはパタパタと飛び、またイムリンの上に乗り、コウタの髪を掴んだ。
「こいつ、ここが気に入ったみたいだな」
「……ああ、そうだな」
「んっ?どうした?」
「いやっ。宿に帰ったら名付けか?」
「そうそう、どうすっかなー」
「決まったら、ギルドに行ってスライムも一緒に登録しないとな」
「お前、イムリンって呼ぶの嫌?イムでもいいっ言ってんのに」
「嫌……ではないが、なかなか呼びにくくてな、従魔で特にスライムに名前付けるのはそう聞かないしな」
「えーっ!?こんな可愛いスライムに名前付けないとは、概念の違いかー……んっ?ディラは?」
「あれは言わば相棒の類いになるだろう。それにクリンスライムは家屋で従する魔物で一体だけじゃないからな」
「えっ?まじで?」
「実家にもいたが、何体いたのか分からないな」
「そうなん?……あ、そういやお前って良いとこの出だよな」
「いいとこので?」
「貴族かってこと?」
「ああ、そのことか。そうだな。実家は貴族階級だな」
「だと思った。んっ?実家は?」
「その先は宿に戻ってから説明するよ」
町中でしかも視線を集めてしまっている中ではと、一旦話はそこでストップして他の話題にシフトした。




