041、アレはランスでユリランス
百合カップルの仲人してから、ユリランスに来るのは、なんとなく複雑な心地があるが、多分関係ないだろう。
村を出て、ラウ達を走らせると二番目の聖地に、夕刻前の14刻には着いてしまった。
周りがだだっ広い広場だったキユランスとは違い、こちらは森の中に聖地ユリランスはあった。
もしもの為に、少し離れた小川近くにラウとディラを待機させた。
周りに人がいないことを確認してから、噴水に触れ一瞬で地下へと降りる。
「んっ?一個目がキユランスで、こっちがユリランスってことは、あれってランスか?」
「……気付かなかった、確かに次の聖地はリアランスだな」
「あれがランス?それともここ全部?」
先にドデカいスライムのような液体の塊を指差して、次にぐるりとこの部屋を指差して聞いてみた。
「俺には分からないよ。全てにランスが付くことに気付かなかったくらいだ」
「あれかね。ランスはあれの名前的な?」
「さあ。ならユリは?」
「なんだろうな、ってかあれあれ言うのめんどいから、あれはランスってことにしないか?あっなんだあれ?」
「んっ?あれは……」
巨大なスライムのようなランスに近付くと薄ピンク色をしたスライムがプカプカと中に浮かんでいる。
「……もしかして、守護核だろうか?生き物のような感覚はしないっ……えっ?」
リンの第六感では、あのランス内に浮かぶスライムからは生き物の気配は感じられないが、自分達の後ろに生き物の気配を感じ振り向いた。
「どうした?……えっ?イムリンなんで?」
そこには、ラウと共に置いてきたはずのイムリンがゆらゆら揺れていた。
「どうやって入ってきた?置いてきたよな」
「多分……あのさ、実験しない?」
「何を?」
イムリンを抱いて、ちょいちょいとリンを手招きし、逆さ水に向かう。
「イムリンってさ、俺にくっつくの好きじゃん」
「そうだな」
大抵は抱いているが、それ以外でも気付けば俺のどこかにイムリンは触れている。
一緒に逆さ水に触れると、イムリンと一緒にテレポート出来た。
「って、ことかなっと」
「と言うことは、待ってろって言ったのに、聞かずに付いてきたってことだな、従魔なのに」
「言うなよー。可愛いじゃん!それにまだ従魔登録してないんだから、従魔枠じゃなくてペット枠だって……置いてかないぞ」
そのままもう一度、噴水の水に触れて地下に下りてしまう。
「ディラの所まで戻るのが面倒なだけだろう」
「……それもある。まっ、さっさと済ませて、ラウ達んとこに戻ろうぜ」
「……さっさとね……」
リンの呟きはコウタの耳には届かなかった。
「さすがにイムリンはランスの中に入れないだろうが」
「あれはランスってことにしたんだな」
「ほらっ、ユリの方は地名的なのでこれ自体はランスの方が楽じゃん」
「一理あるな、ではランスに入るか」
リンがランスに手を伸ばし、中に入ってしまうので、イムリンを置いて俺も入る。
「そうそう、あれとかこれって面倒じゃん」
ランスが淡く輝いて終わり合図。
ふっと上を見ると、自分達の上を薄ピンク色のスライムのような物が漂っていたが、それの色も濃くなっていた。
「あれの存在忘れてた」
「俺はよく見えていたよ、でもまだだ」
「俺もー」
それから二ラウンドこなしたところで、ランスがあり得ないくらい光り、目を瞑ると、リンが俺の頭を守るように抱き締めてきた。
光が収まりゆっくりと目を開けるが、まだ光がちらついている。
「忘れていたな、これは目に良くなさそうだ」
「早く終われってやつだな」
「まだまだ出来るけどな」
「ラウ達待ってるし、出ようぜ……ここじゃなくても……」
最後の方は小さく呟いたからか、リンにんっ?と言われたが、いやっと首を振った。
光のせいか、落ち着きを取り戻した体で衣類を着て、ランスを出るとイムリンが足元に寄ってきた。
「あっ、イムリン……そういや、いたんだった」
「今日はさっきの場所で野宿するか?」
「結構経ってる?」
「ああ、外は暗くなり始めているだろうな」
「じゃあ、そうすっか。んっ?イムリン?」
歩き出し、もう逆さ水に触れるかというときに、イムリンがいないことに気付いた。
見るとイムリンは、ランスの前にいた。
特大なスライムの横にいる、極小なスライム。
若干というか、ランスの中を浮かんでいる守護核と色は違えど瓜二つ。
「イムリン。入るなよ、なんか吸収されそうで怖い」
「だったら、言うことを聞くようにしないとな」
「それはそうだけどさー」
イムリンを抱き上げ、逆さ水に触れテレポートした。
二人と一匹がいなくなった途端、ランスの中では守護核が硬化して、下部の上に落ちた。
先ほど、イムリンが日頃吸収していた二人の液をランスに吐き出していた為、硬化するほどにまでなっていたのだ。
ランスでそんなことが起きてるとは知らずに二人は、ピポグリフォンの元に話しながら歩いていた。
コウタが抱いているイムリンは、ただゆらゆらと歩きに合わせて揺れている。
そして、聖なる鐘が鳴ったことに歓喜したのは、サマール家の六人と噂を聞き付けた親戚や友人知人達。
仕事などで式を覗けず、勇聖者や聖女を見れなかった人たちは悔しがった。
仲違いを長年していた二人がようやく結ばれたことに勇聖者や聖女に感謝しつつ、友人や親戚たちは勇聖者様たちに肖るために、これでもかと二人に抱き付いていた。
だが、二人とも出来立てほっかほっかの新婚さん、お互いに嫉妬し、一騒動起こしたことは、後々の彼女らの笑い話となる。