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040、二軒目の宿 4(仲人)。

二部屋取ったが、夕方にしわくちゃにしたベッドはそのままに、もうひとつの部屋に引っ張られ、リンの抱き枕にされた。

俺なんかが、抱き枕にならないと言ったら、抱き枕?と説明させられ、説明したらしたで、その通りじゃないかと結局抱き枕にされて寝た。

こいつの腕枕って、固い枕好きな俺には丁度いいのがまたいけないと思う。

朝から何度もヤってるせいか、のび○に負けないくらいのスピードで寝付いた。

リンは苦しくならないくらいに、だが離さないと意思を込めた抱擁をしながら寝付いた。


翌朝、朝食を食べているとクユーユが訪ねてきた。

クハラが、走って近付くと朝の壮大な抱擁をかまして、クユーユに怒られるという、テンプレを見た。

「失礼しました。おはようございます。あの、お客様は……コウタさんとリンさんは、今日旅立たれますか?」

クユーユを後ろから抱き締めているクハラが、耳元で俺たちの名前を教えている、熱いな、この部屋。

「そのつもりだが、なにか?」

「あの、少しお時間を頂けないでしょうか?」

「あたしたちの結婚式に出て欲しいんだ」

「えっ?結婚式?」

「あなた方のお陰で、クハラちゃんとあの……」

顔を真っ赤にするクユーユに、クハラは可愛いっと更にきつく抱き締め、髪にキスを落としている。

「あたしの夢はクユーユと伴侶になること。昨日クユーユも伴侶になると言ってくれたんだ。だからお兄さん方に仲人になって欲しいんだ」

「仲人って、こっちにもあるんだ」

リンに聞くと首を縦に振った。

「お前の知ってるのと同じかは分からないがな」

「コウタさんの知ってるのと違うのですか?」

「俺の知ってる仲人はふう……一組の伴侶がやるもんで、俺たちは伴侶じゃないし」

「はい、それは同じです。本来はそうですが、でもお二方にお願いしたいのです。形だけでもいいので、お願いします」

クハラの腕から逃れ、お辞儀をするクユーユを真似てクハラも頭を下げる。

「どうする?」

「俺が決めんの?」

「ああ、コウが決めてくれ」

「あー、でもなー」

俺なんかが、と逡巡している俺にリンが小声で伝えてきた。

「あと一つ教えておく。ここで人に頭頂部を見せる行為は死をも覚悟してるという意味もある、これをしている意味を考えろ」

「えっ。まじで?分かった、やるよ!だから頭を上げて」

慌てて言うと、リンがニヤリと広角を上げた。

「なんてな。そこまでの意味はない。ただ信頼している者にしかしないってだけだ」

「……同じじゃん。やるって言ったんだからやるよ、リン、お前もだかんな」

「おれは喜んでやるよ」

「えっ?なんで?」

「なんでだろうな」

口元に笑みを乗せたままのリンに、いくら聞いてもそれは教えてくれなかった。


二軒の宿の間にある空き地、彼女達の生まれる前に店があったが無くなったあとは、幼い頃の二人だけの遊び場。

そこにテーブルと椅子などを二つの宿から出してきて、簡易の結婚式が始まる。

「えーっと、大精霊キュリアンリサエルの名において、ここにクハラ サマールとクユーユ サマールの、えっ?」

こちらの仲人は、神父的な役割で、俺らが二人の前に立ち、誓いのなんたらを読むらしいが、同じサマールという名に俺の言葉は止まってしまった。

「婚姻の誓約を執り行う。互いに伴侶の息が尽きるその時まで連れ添うと誓うか?」

リンは、すぐに俺のあとをスラスラと読んでしまう。

「「はい、誓います」」

二人とも俺のアクシデントに、にこりと笑みを頬に乗せただけで、誓いの言葉はピッタリと合わさった。

「その誓い、確かに我らが受け取った。大精霊の加護が二人の今後を見守ることとなるだろう」

残りはリンが全て読んで、結婚の誓いは終わってしまった。

「ごめん、ちゃんと言えなくて」

「大丈夫!クユーユ、これで本当に伴侶になったんだね。嬉しいよー」

涙を流し、クユーユに抱き付くクハラを優しく撫でながら、クユーユも涙を流している。

「クハラちゃん、私も嬉しい!大好きだよ」

「あたしだって、大好きだよ」

二人の唇が自然に合わさった時に、後光のような光を感じ、温かな光の輪が二人を囲むように近付き、二人に触れると同時に消えた。

「えっ?今の何?」

「しっ!お前にも見えたようだが、俺たちにしか見えてないな、これは……」

クハラ両親も、クユーユの男同士の両親も、ニコニコと少し涙を溜めながら見ているだけだ。

「クハラちゃん」

「クユーユ」

おでこをくっ付けて、微笑んでいる二人。

あの光の正体は分からないが、この二人は切磋琢磨しながら、これから末長く仲良く伴侶として過ごしていくんだろうと何故か確信出来た。


簡易結婚式を終えると、近所の人達も集まってきて、二人に祝福の言葉を述べていたので、そこから退散して、宿クハラに戻ると、お父さんがお茶を持ってきた。

昨日の夜に出稼ぎから帰ってきて、奥さんやクハラから色々聞いて、昨日の内に挨拶と二人を取り持ったことのお礼を言ってくれた。

「改めて礼を言わせてくれ。本当にありがとう」

「そんなんいいって」

「……これからはどうするのですか?」

「ああ、実は二つの宿を一つにして、皆でやっていこうとなってな」

「そっかー、あっ、宿の名前は?」

実は、クユーユの宿も『宿クユーユ』だった。

「それをどうしようか迷っていてな」

「じゃあさ、『宿サマール』でいいんじゃないですか?」

安易に言ったら、お父さんが目を見開いていた。

「……ちょっと待っててくれ」

そう言って、走って宿を飛び出していった。

「えっ?……普通ならそうなるだろう、名字が一緒なんだから」

「お前の世界はどうか分からないが、こっちでは名字は重要視されていない。持たないものもいるくらいだからな」

「へぇー。あっ、名字持ちは貴族とか?」

「貴族だったり、昔からのしきたりだったり、あってもこういった結婚式とかの場でもなければ言うこともない」

「へぇー、そっか」


そのあと、戻ってきた家族に盛大に感謝された。

みな集まったところで、出発する旨を伝え、二つの宿と近所の方々に見送られ、村を出た。

「お二人は次はどちらに行かれるんだ?」

「ユリランスだって、あっ、ユリランスじゃなくて、その奥のジヌなんたらに行くって言ってた」

クユーユの父の片方が呟いた言葉に、クハラが答えた。

「やはり聖地か。……先日、聖地キユランスで聖なる鐘が鳴ったよな……」

「それは、彼らが勇聖者様方と言いたいのか?」

「確証はない。だが言い伝えにあるだろう。勇聖者様と聖女様の歩いたあとには、幸せが芽吹くと」

「ピポグリフォルの足で行けば、今日中に聖地に着くと思います」

「えっ?ユリランスはまだまだ遠いよ、クユーユ」

「ピポグリフォルは凄く速いのよ。もし今日中に聞こえたら……」

「兄さん達が勇聖者と聖女?まっさかー」

「でも、もしそうなら私達は勇聖者様と聖女様に取り持って貰えたし、仲人もして貰ったとなるのよ」

「あっ……それなら、今日中に鐘が鳴りますように」

二人に向けて、祈りのポーズするクハラにクユーユが真似た。

「もう一つのいい伝えにあったよね。勇聖者様と聖女様に取り持って貰えた家族は末代まで末長く幸せになるって」

「そうね」

皆で二人に向けて祈りのポーズ。

感謝とこれからの聖地巡礼の無事を願って。


のちに、宿サマールは旨い食事のある質のいい宿泊所と評判になり、大きな宿になっていく。

初めて長期休業をし、今までより部屋数も多くした宿へと改築する。

真ん中の空き地も買い取り、中庭も作り、獣舎もしっかりとしたものにしたのだ。

その休業中に、クハラとクユーユの子供も授かり、宿サマールはいつまでも幸せで溢れていた。

のちに産まれた子供の名前は、コウリ。

もちろん、勇聖者と聖女の名前に肖って付けている。

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