036、有効的な魅力
目的地ユリランスに向けてまだまだ走る。
昼食時刻になる前に適当な場所を休憩地にし、リンがジンケットに用意してある鍋を出し温めるが、温泉の時の炎を置くことが気に入ったのか、薪は出さずに炎のみで調理している。
「なんか、絵面がおもろっ……面白い、面白いの略」
「略が多いな。面白いか?だが、火力調整も楽だから今度からこれでいこうと思ってな」
「なるほど。それもそうだ。俺も早く制御出来るようになりたいー」
「ここではやるなよ、火事を起こす。やるなら……そうだな、風……うーん、もう少し広い場所に行ったときにしよう」
制御が全く出来ない俺は、不意に魔法を出すと大事故を起こしかねないと、セミが魔力封印石のピアスをくれた。
元はネックレスだったが、首に何かを下げるのは好きじゃないと伝えると、様々なアクセサリーを出してきた。
その中でピアスを見付け、昔ピアスしたことあると言うと、魔力封印石を付けたピアスにした。
実際あったのはフック型だったが、ラウに乗って移動する時に落ちる可能性をセミが心配して、キャッチ型のに更に加工した。
「どっか、ダンジョンとかあればガッツリ練習出来そうなのになぁ」
「ダンジョンを壊しかねないぞ」
「えっ?まじっ?」
「まぁ、ダンジョンだから自然回復するだろうが、お前の魔法はやりかねない。それに誰も潜ってないダンジョンじゃないと危険だしな」
「魔法使いたいー。従魔と話せないし、魔法使えないし。なんだかなぁー」
「コウ、飽きてきたな」
「えっ?そう?」
「見るもの全てが新鮮だったのが、森ばかり走ってるから飽きてるんだろ」
「あ、なるほど。まあーそれはありそう」
「今日は村がこの先にあるからそこで泊まろうと思ってるから、そこで気分変えれるだろ」
「そうなん?あとさ、異世界感足りないと思うんだよ、あれから魔物に全く会ってない」
「会いたいのか?」
「会いたいような、会いたくないような」
「どっちだよ」
「うーん、会いたい方?」
「疑問符付けるなよ。会いたいなら会わせれるが」
「あっ、やっぱり避けてる?」
「いや、避けられてる方」
「ん?」
「俺の魔力には加護も付いてるから、ここ辺りの魔物は近寄ろうとはしない。会いたいなら初日の時のように魔力制御するが、するか?」
「……あっ、そういぅ。お前のチートぶりは凄まじいな」
「何だか、貶されているような不思議な気分だな、ほらっ出来たぞ」
出来たスープを受け取って食べるとこれがまた美味い、本当にこいつは優良物件だと思う。
ちなみにキャンプ用の椅子は持ってきているが、今は鍋の前に地べた座り、昼食程度でいちいち机や椅子を出すような性格でなかったのは、俺だけじゃなく、一人旅の長いリンもだった。
「おっ、うまっ。まっ、どっちもだ」
「誉め言葉として聞いておくよ」
「そうしてくれ、村にはいつ着く感じ?」
「このまま行けば、15刻辺りに着くと思う」
「じゃあ、村探索も出来るな、なんかあるかな」
「早速気分が変わったようで良かった」
「思ったんだが、なんかリンってジジ臭くない?」
「えっ?」
「匂いの方じゃないぞ、なんてーか、落ち着き過ぎてて、おじいちゃん的な……いやっ、ごめんなさい」
リンの瞳がキラリと光った気がして、とっさに謝った。
「ほぉー、そんなことを言うんだな。村に着くのは二刻程遅くなるけど、いいなっ」
「いやっ、良くない。ごめんって」
すると、いつものリンに戻り笑った。
「嘘だよ。まあ、俺が落ち着いてるのは性分だからとしか言いようがないな」
「……昔っから?」
「いや、まああれだ、30までは色々あるだろ。それが35も過ぎたしな、大体は落ち着いてくるさ」
そんなリンの返答にふっと、自分のことに思いを巡らした。
色々と複雑で多感な10代、状況対応に追われる20代が過ぎて、20も後半になれば後輩の面倒などが始まる。
俺だって、仕事場で後輩指導なんかもしてた。
人付き合いが苦手だとか言ってられない状況で、先輩と言われ、仕事を教えていたのだ、なるべく懇切丁寧に。
適当に教えると後でフォローでてんてこ舞するのは自分だから尚更。
「ふーん、そっか」
「それに俺の場合は、慌てる状況がそうそう起こらないし、何かある前には大体は分かる。だからジジくさくなるってことだな」
「ごめんって、イケメン勇者に、じいさんなんて言ってごめんって」
「なぁ、やっぱり二刻遅くしていいか?」
「なんでぇ?」
「イケメン勇者ってことは、もの凄くカッコいい勇者ってことだろ?そんなこと言われたら、お返ししなきゃと思ってさ」
「……いや、そこは枯れていい、返品します」
「そこは受け取って欲しいな」
「朝からヤってんだぜ……ってかさ、俺相手によくそう盛れるな」
「コウは、自分の魅力に気付いていないだけだよ」
「そんなんないっ」
食べ終わり、食器を隣にいるイムリンの前に置くと揺れながら前進し、食器を体で侵食すると、食器の汚れだけを吸収して、後退すると食器はピッカピカ、動く食器洗浄機。
実はこれを生で見ることが出来て、メチャクチャ嬉しい。
「イムリン、お前スッゴいな」
撫で撫でしていると、残りの食器と鍋もイムリンの前に置かれ、それもゆらゆらと揺れて侵食しては、綺麗にしていくイムリン。
「いやー、うちのイムリンは賢いなー」
「クリンスライムはこういう為のスライムだろ?」
「分かってないなー、単なる魔物の一角のスライムが従魔になる意味を!スライムの可愛さを確定的にしてくれた鳥山先生にもだが、更にスライムの有効性を確立してくれた各作者に……っっんっむっ」
またスライム熱を語ろうとした舌はリンの、俺より分厚く熱い舌に絡み取られてしまい、言葉は切れた。
「……リッ、リン……っ……」
口付けだけで下半身は熱を帯び、そこを布越しに刺激されると更に力が抜け、抱き締めてくるリンの腕がなければ、地面にドスンな感じの脱力感。
「俺はコウの魅力の方が有効なんだがな」
「そんな……っっ……魅力ないって……っっ」
「口付けだけでとろとろになるところも、すぐに潤む瞳も少し開いた唇から舌が覗くとこも……」
「なっっ、なに言って」
「コウの魅力を言ってるだけだが?まだまだあるぞ。例えばここ」
「すぐに固くなって、爪で……」
恥ずかしさで聞きたくなくて、リンの首を引き寄せ、口を塞いでやった。
「コウは俺を狂わせる。こんなにも誰かを欲したことなんてないんだぞ」
「っ……」
そんな風に言ってくれる嬉しさもありながら、頭の中にどこか冷めたところが、やはり精霊の力がリンをこんな風に思わせていると思ってしまう。
「……いつか、俺の言っていることを信じてくれることを待つよ」
そんな言葉にリンを見ると、どこか寂しそうな色が瞳に宿っているが、すぐに欲の色が強くなって、口付けを再開した。
これぞ、青空な森の中、密着した。
考えてしまうのだ。
俺が聖女じゃなくなった瞬間、リンが抱いているその想いが雲散してしまうのじゃないかと。
その時のためにも、どこかにそれを残さないと生きていけなくなる気がするのだ。
俺は、今まで完全に誰かに乗り掛かって生きてきてはいない、親にも誰にも。
また一人で生きていくためにも、残さないといけない。
ある意味無駄な命だと思うが、死ぬという考えはない。
親戚のおじさんが言っていたのだ。
「どんなことがあっても自分から死ぬのは止めろ。あいつらが悲しまなくても、俺が悲しむ。それは覚えていてくれ」
唯一、全身で優しさをくれた親戚のおじさんが、あの日本一深い湖を見せてくれながら、そう言った。
美化されているかもしれないが、それはずっと残っている。
何があっても自分から死ぬ気はない。
だが、リンがもしそうなったとき、生きていけなくなる気がする。
だから、残す。
リンが悲しい顔をしても、俺はリンの為に喚ばれた聖女なのだと。




