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035、漫画熱

今日もラウとディラに跨がり、ユリランスに向けてひた走るが、二日目になったからか余裕も出てきた。

イムリンは、かのスライムのようにバッグの中を定位置にしようかと思ったが、ちょうどいい大きさのバッグはなく、どうしようかと思って周りを見た。

なんとなく、目の前のラウの首の後ろと鞍の隙間に填まりそうと置いてみたらピッタリ。

「ここはどうだ?」

聞いてみたが、ゆらゆら揺れるだけで返事はないが、何となく応と言っているような気がした。

落ちないか心配だったが、鞍にペタリと張り付き、触ってみるだけじゃ剥がれない。

走ってみても上部がゆらゆらするだけで、鞍の装飾にでもなったかのよう。

雫型のスライムのように目でもあれば、もっと表情が分かるだろうが、透明な体に眼球があるのは色々な意味でホラーになってしまう。

かのスライム達のように線や点で目があれば良かったが、イムリンにはそれはないからどこを見ているかも分からないのが難点だ。

「目描くか?」

呟くが、なんとなくイムリンから否と言われているような気がして、今のところ断念中だ。

だが、いつか何か分かるようにしたい、顔を見て話したいのだ。

そんなことを思ってから、顔を見て話したいなどと『下ばかり向くな、こちらを見ろ』と言われていた過去をふっと思い出し、笑ってしまった。

「俺、変わったな」

そんな呟きをしながら、ラウに乗りながらイムリンを撫でる余裕も出来ている。

セミにそれらも伝えておこうと心のメモ帳に記録した。


森の中を走っていると俺に場所は全くといって分からないが、リンには何か目印があるみたいでどんどん進んでいく。

「そろそろ休憩するか?」

リンのそんな声におぅっと応えると、リンはディラの進行方向を左に向けた。

少し走ると前の方からキラキラとした光の反射のようなものが見えた。

速度を落とし、森を抜けると小さな泉が眼下に広がった。

ラウから下りると、ラウとディラは泉に近付き、泉の水を飲み始める。

俺は疲れなくなっているが、ラウ達は違う。

「ラウ達の為にもう少し休憩を増やした方がいい?」

「俺も疲れにくくなってるが、多分この位で十分なはずだ」

「ラウ達と話出来たりは?」

「話せる魔物は上位種でもごく僅かだ」

「念話なし?」

「念話?」

「言葉を発しないで話す的な」

「聞かないな」

「えーっ、話せないの……結構ショック……大精霊さん~こいつらと話せるようにしてくれー」

「話したいのか?」

「話したくないのか?」

質問に質問で返したら、リンは話せないのが当たり前だからか、首をかしげた。

「従魔とは話せないとぉ。あれかっイムリンもレベルアップしたら話せるようになるとか」

「レベルって何だ?」

「えっ?レベルなし?あーっと、ステータス……レベルってどう言うんだ?じゃあさ、あのレンチンで数値出るじゃん……あっレベルなかった……」

レンチンで出たセミの数値を思い出してみても、体力、魔力などの文字は思い出せるが、そこにレベルの文字はなかった。

「レベルないのかーっ、じゃあさっ、あのこれ」

冒険者登録カードを取り出し、そこに書かれている数字を指す。

「この数字ってどうやって上が……あっ、聞いた。そっかー、レベルないのはレベル慣れしてる俺にはきついわー。んっ?俺はレベル上げしなくていいじゃん!」

自己完結してしまうと、納得したなら大丈夫かとリンに言われ、頷いた。

レベルのないことへの若干の寂しさもあるが、元の世界でもレベルはないが、事ある毎に『ぺぺレペッペレー、レベルアップ』などと言ってきたのだから、それでいこう。

だが、イムリン達と話せないのは残念でならない。

「まじかー、話せないのかー、ラウ~イムリン~話したいよー、お前達もそう思うだろー……だろ~思うだろ~イムリン分かってるじゃないか、話したいよなー」

「……おい、それと話してるのか?」

「それ言うなよ!イムリン!あっリンがイムリン言うのが嫌ならイムでもいいぞ、リンのことはリンリンとは言わないし!イムリンは話してないけど、うんって言ってる気がする」

「……そうか。……その、イムリンのリンは、何々さんとかと同じ扱いか?」

「それもあるけど、俺の一番好きなゲームでスラリ○って名前のスライムがいてな、それに肖ってもいる。……こんな形のスライムで目があって口もあって話すんだよ、悪いスライムじゃないよってな」

地面に、雫型の愛しのスライムを描くと、リンが覗きに来た。

「こいつとは違うんだな」

「このスライムがいたら、それはそれでアガるが、この形は鳥山先生っていう神が作り出したあのゲームの専売特許で門外不出、他のところでこの形は出しちゃダメ」

「そうか……ジンケットの時もそんなことを言ってなかったか?」

「あっちは藤子先生っていう神の作品で、こっちは鳥山先生っていう神の作品」

「神様が二人いるのか?」

「あーっとな、神様は大量にいる。まずだな、俺の国は八百万っていう神様がいる。そこかしこに神様がいるぞってやつで、あっちこっちに神社とか仏閣とか教会みたいなもんがあって、それだけじゃなくて最終的には100年だったかな、長年愛用してるものとかも神になる国でな。だからか凄いものを残した人にも神様って付けるんだ。発明家とかもだが漫画大国の日本では漫画の神様が有名で、漫画の神様の代表格は手塚先生だが、鳥山先生も藤子先生もそれそこオダッチだって神様なんだよ」

スライム熱の次は、漫画熱を語り出す俺に、リンは苦笑しか出ない。

「神がどこにでもいるし、増えていくとは凄い国だな、コウの国は」

「そうなんだよ、あーっワンピの新刊読めないじゃん、ワンピは紙媒体で買ってたから、スマホに入ってないし!あー、宇宙兄○もー、あーっ特典集めしないでダウンロードにしときゃ良かった……」

頭を抱えて蹲ってショックを受けていると、頭をポンポンと叩かれ、頭を上げると、目の前にはリンではなく、半透明な球体イムリン。

「しばらくは、こいつがいる世界で我慢してくれ」

リンがイムリンを俺の前に持ってきていた。

イムリンを受け取り、抱き締めるとイムリンは大人しくプニプニされてくれる。

「そうだな、まずは異世界召喚されたんだから、それを楽しまなきゃな、イムリンっ。なぁやっぱり目描いていいか?……なんでだめなんだよー、どこが目か分からないじゃんかぁー」

やっぱりイムリンからは、否と言われているようだが、それはリンには分からない。

リンは泉で顔を洗い、洗い終わったあとに、ふーっと大きく息を吐いていた。

汚れもなかったのにと、どうした?と聞いたが、いやっと首を振ったあと。

「お前を引き込むのはなかなか骨が折れそうだ」

と訳の分からないことを言って、さっさとディラに乗ってしまった。

お目通し、ありがとうございます。

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