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034、初野営 3(寝顔)【リン視点】

腕枕で寝ている相手が動いた感覚でリンは目を覚ました。

朝日で明るくなってきているテントの中で見えるのは、自分の腕を枕に熟睡しているコウ。

指の背で頬を撫でると、口元がムニッと動くが起きる気配はない。

その表情にリンの口元が緩み、小振りな唇にキスを落とした。

何度もこの唇を合わせているし、何度も体を合わせているが、最後の心の部分を開けてくれないコウを思う。

言葉では何度も伝えてもいるが、一度も本気で捉えないで聞き流しているようだ。

だが時折、苦しそうで寂しそうな表情を一瞬だけしては、そのあとそれを隠すかのように明るく話題を変えたり、時には激しく求めてくる。

コウの中で何か枷のようにあるのだろうが、それをこちらには伝えてくれないことに息をはいた。

ふっと、クリンスライムとたわむれていたコウを思い出す。

本当に楽しそうに、無邪気とも思えるほどの表情で遊んでいた。

それをスライム相手に出されたことを思い返しただけで、さらりと嫉妬の風が吹いたが、スルーを試みる。

スライム相手に嫉妬するのは、虚しいだけだろう。

そのクリンスライムは、テントの端で寝ているのか、微かに揺れているように見える。

何かのお礼だと瓶に入ったクリンスライムを貰ったが、どこで誰に貰ったのかは、よく思い出せない。

人助けはよくしてお礼にと出された、人や大型な物(家、土地、領地)は勿論省いた許容範囲内なものなら貰っていた。

害はないだろうと貰ったクリンスライムをジンケットに入れたのは、失態だ。

だが、ジンケット内でも生きていたのも、そもそも瓶に入れられていても生きていることが、生物としておかしい。

クリンスライムがとても役に立つとは知っていて、すぐに従魔にすることも出来たが、全て一人ですることに慣れていたから、必要性を感じずに失念していた。

そして一つ謎なのが、出ないからと水を入れたことだ。

瓶に入っているところを出すのに、水を入れたら出てくるなどという知識は持っていないのだが、何故か出てくると分かって行動したのは、何故だろう?


そこまで考えた時、コウが寝返りをし、こちらの胸の中にピタリと収まると、片腕が抱き着くように回り、ぎゅっと抱き締められた。

その行動に、胸の奥がほわっと温かなもので溢れて、次にはぎゅっと締め付けられる。

そんな行動一つで、いとおしさで胸が一杯になる。

こんなにも、誰かが心中を満たすなどこれまで一度もなかった。

コウに言えば、自慢だと言われてしまうだろうが、幼い頃から複数人に好意を寄せられているのが日常だった。

そんな中、初めて体を重ね恋人として付き合ったのは13歳の時、相手は年上の方だった。

その方から色々と手管を教わったりしたが、長続きせずすぐに別れた。

その手管はそのあとの相手にも好評だったから、あの方には感謝している。

その後も付き合うという行動をしてみたが、最終的に付き合うということへの煩わしさから、言葉は悪いが、来るもの拒まず……多少選り好みはしたが、床を共にするだけになっていった。

年齢が少し上がってくると、付き合うとすぐに伴侶にと話が上がってしまうことも、原因の一つにとなっていたのもあるだろう。

これまで、伴侶にしたいと思う相手には出逢うことはなかった。

ここに眠るコウに会うまでは。

出会いは冑越しだったから、コウは警戒心丸出しな顔でこちらを見ていた。

名前を聞かせても、それは変わらず、冑を脱ぐと警戒心は取れたが、すぐに国王の肖像画と見比べて、背筋を正したのは面白かった。

王族ではないことを伝えると、伸びた背筋がくにゃりと元に戻ったが、実はそれが一番の好印象だった。

俺の名前を聞いただけで、色々と算段して謙ったり媚びを売ってきたりする者が大半で、名前と顔を出したら、背筋は伸びる者がほぼ。

コウのように背筋が下りた者は今までいなかった。

そのあとも話してみれば、普通に話しかけられ、すぐに旧知の友とでも話しているかのような気さくさに益々コウを気に入っていった。

そして、あの何気なく言われた一言。

「聖愛の勇者……リンの性格からも言われてそう……」

俺は聖愛の勇者であろうと己をずっと正してきた。

だが俺を知るものは、何をやっても精霊に愛されているからだと見られ言われ、自身を見てくれる者はまずいなかった。

だが、会話しかしてないのに俺の性格から聖愛の勇者と言われてそうだと、心掛けていたものがようやく実ったような感覚。

そして、気に入ったというだけの思いが、欲しいと欲情と変わったのもあの瞬間だった。

性急にことを起こしたことも、今考えれば浅はかだったとも思えるが、その時は一刻も早くと急いていた。

この者を逃してはダメだと、単なる聖女としてではなく、一人の者として手に入れたいと。

終わって城に戻る時、恥ずかしそうにしていたのも……可愛かった。

そう、コウは可愛いのだ。

少し伸ばしすぎな前髪から覗く瞳は、こちらをしっかりと見据えてくるし、小振りな鼻も、色も厚さも薄い唇も可愛いと表現するのが適切。

コウは、俺は平凡以下だからと蔑むが、そんなことはなく可愛らしいと感じてしまう。

美人でもカッコいいでもなく可愛らしい。

そして、その外見からは想像できないほどの行為の最中のコウは、扇情的だ。

頬をほんのりと赤く染め、少し薄くした濡れているような瞳で見られると腰に股間に稲妻が走る。

初めてでも難なく入ることが出来たのは、聖女だからかもしれないが、だが初めてなのに俺専用と言っていいほどの完璧で絶妙な締め付け具合。

聖地以外でも、俺が少し煽るとすぐに乗ってくれるのもいい。

今のところ、コウから欲しいと言われたのは聖地だけだが、いつかは聖地以外でもコウから欲しいと言ってくれることを待つ……待てないな、今からでも欲しくなる。

こんなにも、初めて付き合った相手にもこんなことは考えなかった。

ずっと繋がっていたい、今すぐコウが欲しいと心の奥底が苦しくなる。

俺が気に入る者を精霊が選んだと言われ、聖女の役割等に怒りは感じたが、今となっては精霊の采配に感謝すら感じる。

よくぞ、俺の元にコウをと。


時計を見ると、起きるには少し早い、なら今から少し刻を潰しても大丈夫だろうと、リンは眠るコウに口付けた。

それでもまだ寝ているから、服を脱がせ始めるとコウが目を覚ました。

「おい、なにやってる」

「無防備に寝ているのが可愛くてな」

「可愛いなんてのは、イムリンみたいなのに言ってくれ」

「俺にはアイツは可愛いとは思えない」

「お前、目悪い?」

「いや、俺の目が悪くなったことはない」

「いっっ、んっっ……悪いって……んっっ」

前を寛げるとそこは朝の現象とも言えるが、もう先っぽには滲み出ているところを刺激する。

「可愛いものを可愛いと言えるのはいいな」

「なっ、んだよっっ……んっそれっ……」

「朝からコウが欲しくて仕方がないんだ、コウは?」

「ここっっまでしといて、終わりに出来るかよ!はやくっっ……」

「ありがとう」

口付けと共に礼を言うと、コウは目を一瞬見開き、そして首に抱き付いてきた。

朝起きてすぐに欲しいと思える相手がいる、例え聖女で精霊が選んだとしても、もうそれは俺の心からだろう。

朝の少し苦い口付けもそれはそれでいいと思える相手だ。

朝からテントの中で激しく抱き合った。


そろそろ起きる刻になり終わらせると、風呂に入ると言い出したコウの為に魔法で風呂を温め、入ってる間に朝食の準備をした。

俺がこうも人に尽くしていることを、俺を知っている誰かに見られたら驚愕ものだろう。

それも苦もなく、全てしてあげたいと思えるのがコウだ。


朝食も済まし、テントを片付けようとして気が付いた。

テント中が異様に綺麗になっている。

朝の行為もそのままに後から片付けようとしていたものが綺麗になっていた。

「お前がしたのか?」

クリンスライムに聞いても、ゆらゆら揺れているだけで返答はないのは当たり前だが、なんとなく話しかけていた。

「クリンスライム意外といいかもしれないな」

「意外ってなんだ!スライムをバカにするなよー、すっげーんだぜ」

呟いた言葉を聞き付けたコウが、コウ曰くテンション高めで反論した。

「お前の世界のとは違うかもしれないぞ」

「いやっ、スライムはすげぇの、これは決定事項」

「どんな決定なんだ」

「まずはこのフォルムだろっ」

「それは形ということでいいのか?」

「そうそう、形!あとは……………」

スライム熱をまた身振り手振りを加えて語り出したコウと会話しながら片付け続けた。

そんな二人の近くでイムリンはゆらゆらと揺れていた。

お目通し、ありがとうございます。

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