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003、ホワイト校長

召喚部屋を出て、ほとんどの人たちは左右の道に別れて歩いているが、俺と校長の二人だけでは真っ直ぐ歩いていく。

あの校長に似すぎなので、校長と心の中で呼ぶことにした。

横幅5mほどの廊下はきれいに磨かれた大理石みたいな見た目だが、コツコツと足音がしないので、異世界仕様なのだろうか。

壁はオフホワイトで、その壁際に一定の距離に置かれた花台の上の花瓶には、長い緑の葉が多めな品の良い花束。

明るい日差しの射す窓から見えるのは広い中庭のような空間、花壇や東屋と噴水つき。

景色も色合いもゴシック寄りなあちらとは真逆だけど、あの校長に似ている人とこんな廊下を歩くなんて、ウキウキしてしまうのは仕方がないだろう。

前を歩いていた校長がこちらを振り向き、俺の顔を確認するとにこりと笑み、また前を向いて歩き出した。

そして、あの校長のように優しく声をかけてきた。

「落ち着いているようなので、先に伝えておこう。貴殿が断るのであれば元の世界に戻ることができる。そなたの今のところの心境を聞いておきたい」

「へー、帰れるんですね。えーっと、話を聞いてからにします。魔王を倒せとかだったら、多分帰るかもですけど」

「フォッホッホッ、その予定は入ってはおらん。魔王は勇者が倒したと言う記録が大昔に残っているのでな」

フォッホッホッ笑いしたことにダン……とあちらの校長名を呟いてしまいそうになった。

「……っ、あっ魔王はいる、いたってことは魔物とかいるんですか?」

「んっ、それはいる。だが、魔物退治でもない」

「じゃあ、俺は何のために?」

「それは、ゆっくり腰を据えて話そうか」


校長先生の後に付いてしばらく歩き、これまたシンプルだけど品の良さそうな部屋に通された。

先生まで付けてしまうのは、もはや仕方がないだろう。

改めて言うが、着ている服や空間の色合いは真逆だが、彼はかの校長先生にしか見えなくなっている。

もはや気分は、おでこに傷を持つ丸眼鏡の少年だ。

その部屋の中で、目につくのは、暖炉の上に飾られている、大きめな肖像画。

これがこの国の王様と女王様なんだろう。

王様は、白髪で、黄色みたいなオレンジみたいなあれだ、琥珀色、琥珀色のキリッとした瞳のハリウッドの熟年俳優的なダンディな男性。

女王様は、ギザギザ不思議な形の耳に飴色のストレートな髪と水色の瞳の優しそうであり儚げな感じ。

二人共、シンプルな王冠とティアラにこれまたシンプルな服装で、羽織った緑色のマントが印象的なカッコいい立ち姿の肖像画。

うん。この二人はなんか感じがいいぞ。

ヒキガエルでアクセサリーコテコテなら、真っ先に回れ右だったが、そうではなさそうだ。

校長先生がテーブルに着くと、杖を振って、食事を出すかと思えば、そこは違って、コンコンと机をノックした。

すると、続きの部屋から、ザ・メイド服の巨乳ではなく、執事服の優しそうなおじさんがティーセットを持って出てきた。

「今一度、自己紹介しよう。我が名はアンゼルフ リスフナー。この国の大賢者と言われている。そして彼は、セミエール。君がこちらに滞在するとなればその間、生活全般を見ることになっている」

トレイをテーブルに音もなく置き、こちらに頭を下げてきた。

「セミエール リスフナーと申します。ご用があれば何なりとお申し付けください」

「どうも、立花幸多です。コウタの方が名前になり、んっ?リスフ?」

「私の家族だ」

「家族?あ、ありがとうございます」

注いだお茶を前に置かれ、嗅いだことがあるようないい匂いに自然とカップに手が伸びた。

「アンゼルフはアン、私のことはセミとお呼び下さい」

「あ、はい。あ、甘いっ……ヤベッ飲んじまった」

一応、一連の流れに喉が乾いていたようで、『異世界で最初に出されたものは食べるな飲むな』と色んな作品を読んで思っていたことをあっさり飛ばして、飲んでしまった。

それは飲んだことのある風味の甘いハーブティー。

「そちらの世界でラベンダーと言われているハーブと数種類の薬草を混ぜたもので、緊張を解すリラックス効果はありますが、他の効果は入ってはおりませんよ」

にこりと微笑みながら、癒し系おじさんのセミさんにそう言われたら、苦笑するしかない。

「あははははーっ、ですよねー」

「その警戒心は必要である。他意のあるものは多少なりといるので気を抜かないように……と言いたいところだが、聖女様には毒などの薬物はおろか、攻撃も魔法も効かぬので警戒は不要とも言える」

アンゼルフも注いでもらったお茶を美味しそうに飲みながら、こともなげに答えた。

「はぃ?」

「アン、タチバナ様が驚かれておりますよ」

「おーおー、失礼した。気がゆるんでしまったようじゃ。聖女様は全ての肉体攻撃、精神攻撃が効かぬ。もちろんそれはコウタ殿にも備わっているのだ」

かの校長のように髭を撫でさすりながら微笑む。

「無敵チート、標準装備……って、それは良かったですけど、そこじゃなくてっ俺、男っすけど、なんで聖女に?」

立ち上がりぎみに食いついたせいで、ティーカップから数滴飛んだハーブティーは、セミエールの素早い動きでテーブルクロスに付く前にセミエールのハンカチへと吸い込まれた。

「それはこちらとしては不可解なこともなくてな、そこはおいおい話すとしよう。良いだろうか?」

こちらが色々と戸惑っているのも含めて、色んな意味で微笑まれた気がして、カクンっと首を縦に振って、椅子に座り直した。

お目通し、ありがとうございます。

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