029、出立
今日もアンとセミの家に泊まったが、今度はリンも泊まった。
アンがリンの話も聞きたいと言い出し、みなでリフスナー家にテレポート。
夕食を食べながら、色々と話し、アンの脳にインプットしまくり。
そして寝床は当然別々に、アンがふざけて一緒の寝床にするかと言ってきたが、セミが一刀両断してくれた。
部屋に入る前に、リンにおやすみと軽くキスを落とされ、「んっ」とだけ返事を返す。
そのあと、忍び込んでくるかと思ったが、それはなく、召喚されてから四日目になって初めて一日アレらをしない日となった。
初めて何もせずに終わったという、微妙な気持ちを脇に置いて、ゆっくりと寝れなかったから、スマホを取り出した。
前に、AからZ社の電子書籍がSDカードに保存出来るようになってて、慌ててスマホも替え、容量のデカイマイクロSDも買い、漫画や本をダウンロードしまくったのが功を奏した。
新刊を買えないのは残念だが、これでも読み直すには充分の冊数がある。
実際かなり買ったので、全部ダウンロードするのに何時間もかかったし、ダウンロードも止まったりして、ちょっと大変だった。
数シリーズかは、SD保存出来ない他サイトで買っていたのが、残念でならない。
まあ、それは置いといて、何て言ったって寝不足にならない素晴らしい体なのだ、読むぞっと意気込んでみたが、一冊目を読み終わらない内に寝落ちしていた。
魔法を使ったせいかは分からないが、眠気に負けて朝までグッスリと爆睡していた。
翌朝、セミに起こされ、寝落ちしたのを教えると、体調を心配された。
そして、魔法を使うときは、充分に気を付けてと再度忠告された。
とうちゃんは、本当にとうちゃん染みてきた。
嬉しいやら、なんやら不思議な感覚だ。
一通りの確認も旅支度も済んだので、旅に出ることにした。
昨日、リンも交えて話したのはそれも理由の一つ。
召喚から五日目で旅に出るのは、タイミングとしては早くも遅くもなくいいんじゃないかとなったのだ。
旅立ち前に、王様に謁見するのかと思ったら、リフの間に王達が来た。
俺が公の場が好きではないからと、考慮して来てくれたようだ。
テレサ王は、他国との会合で昨日帰ってきたばかりだと、真っ先に挨拶出来ずにいたことに謝罪された。
この世界には女王はいない、伴侶は同等なので、結婚していたら一国に王は二人、なので、最初女王と思っていた魚人耳の女性は王様だった。
初めて会ったが、絵で見た時、儚げな雰囲気の女性だと思っていたら、クオーサ王にめっちゃ厳しかった。
本来は、『慈悲のテレサ王』と言われるほどのめちゃくちゃ優しい王らしいが、浮気防止も兼ねて、クオーサ王にだけ厳しくしているのだとあとから聞いて笑ってしまった。
その子供の男女合わせて五人、全員成人を過ぎているが、全員で挨拶に来て、俺の前に膝を突き、頭を下げるから、すぐにそれは止めてもらった。
皆にキュラビッツをよろしく頼まれ、なんだが気が引き締まるような逃げ出したくなるような変な感じだ。
ちなみにリンは俺が召喚される前に、広間で正式な式をやったようだ。
そして、俺がここ数日、城を出入りしても従者さんや執事さん衛兵くらいで、貴族さんや王様等、そういう人に誰一人会わなかったのは、極力顔を会わせないように配慮してのことだった。
最初に声をかけてきたのがアンだけだったのは、俺の人柄を知る為。
ちなみにあの儀式の場にいた他の方々は儀式に携わった人で、めっさっ人を使って、儀式していたみたい。
何故王城にいるのに人に会わないのか、ちょっと不思議だったんだが、あっさり解決した。
それで、ちょっとだけ、認識をほんのちょっとだけ変えてみた。
やり方はあれでも、俺はこの世界を救う聖女。
この人達の思いから逃げ出さないでやってみようと。
王様たちに見送られ、リフの間を出て、獣舎に向かった。
ラウとディラも鞍をつけ準備万端。
旅支度は全てジンケット内だから、手ぶらの状態。
寒暖対策も兼ねて、羽織ったことのないマントを羽織らされたのは、こっぱずかしくもあったが、セミが愛用しているマントだと聞けば、恥ずかしさも少しは消えた。
ピポグリフォンを引き連れ大通りを行くと目立つので、二頭と会ったときも使った城の裏門から城を出るつもりだ。
「コウタさん、聖女だと過信せず、本当にお気を付けて行ってらしてくださいね」
「はーい。セミは本当に心配性ー」
「……リンスラン様、コウタさんをよろしくお願いいたします」
「承知した。……コウ、セミがとうちゃんって言ってくれなくて寂しそうだぞ」
「なっ……」
「いいのです。何か気になることがあれば、すぐに文を送ってくださいね」
「うん」
「コウタ、陛下が各国に文を出して下された。今度の聖女は人前は好まぬので、城に立ち寄らず聖地を巡礼するとな」
「おっ、助かるー」
「おとうは近場から順に回ったが、お主らは被害の出てるドリエント王国とムンハ王国を先に目指すのじゃな」
「うん、順に回らなきゃいけないって決まりはないみたいだし、そこを回ってからグルッと回るよ」
「うむ、そうしてくれると助かる……」
アンがそこで言葉を切り、こちらに待てと言わんばかりに手の平を見せた。
そして、両の膝を突き目を閉じる、よくある祈りのポーズになった。
「大精霊様からのお告げのようです」
セミがアンの状態を教えてくれた。
こういうのをすると、校長先生感が増すから面白い。
コクりと頷いたアンが、立ち上がり膝の汚れを叩くとこちらを向いた。
「順に回ってくれるよう大精霊様はお望みじゃ」
「へっ?決まりあったんだ」
「此度のように被害が出る前にみな出立しておるから、みな順にまわっていたようじゃ。じゃが、それ以外にも順に回るのは訳があるようじゃが、そこは教えて下さらなかった」
「じゃあ、順に回るしかないか」
「被害が出ている二国には精霊の数を増やし、被害を留めているそうじゃ、最後に早く回れと言われたぞ」
あの女とも男とも言いにくい声の『わらわ』さんがそう言ってる場面を思い描く。
「あいつって、結構ワガママだよね」
そんな俺に、アンが一瞬目を見張り、次の瞬間大きくフォッフォッ笑いをし、セミも口元を手で隠し笑いを堪えているよう。
「大精霊様にそんなことを言えるのはお主くらいじゃ」
笑い終えたアンが、ニヤニヤしながら、そう言った。
「だってさー、また電話していい?って聞いたら、断るってブチンだぜ、今のもこっちに電話くれればいいのに……あっジンケット内だから、ブルっても分からないのか……着信はないか」
ジンケットの欠陥発見、スマホがブルっても分からない。
「あー、これが二台あって使えたら、手紙なんて書かなくて済むのに」
文字を書くのは苦手だ。
しかも、どうやってるかは謎だが、俺がキュラビッツ語にと思えば、キュラビッツ語を書け、日本語を書こうと思うと日本語を書ける謎な仕組みがこの手に出来上がってた。
「お二人共書いてくださいね」
「へっ?リンもってこと?」
「出来事などはリンスラン様が、その他をコウタさんが書けば、負担は減りますから」
「さっすが、とうちゃん!あっ……」
「フフッ、前にも言いましたが、私達の四人目の子として受け入れる気はありますから、こちらを存分に頼ってくださいね」
「わしとしては友人の方が気が楽じゃが、コウタが応と言えば、リフスナーの名を授けるぞ。コウタ タチバナ リフスナーとな……」
じんわりと目の奥が熱くなるが、ここで泣いたらウ○○ン染みてしまうので、笑って首を振った。
「言葉だけ貰っておく!じゃあ、ちゃちゃっとキュラビッツ救ってくる」
「いってらっしゃい」
「おお、行ってこい、文は定期的にな」
ラウに股がり、ディラに乗ったリンと共に出立した。
お目通し、ありがとうございます。




