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024、ブルーダリア

従魔養成所は、聖地のある広場の奥の端の方にあった。

何故、端かというと、街一帯を大きく囲む壁のすぐ近くにあるからだ。

壁と聞くと巨人のを一瞬思い出すが、あれよりは全然低い、電柱位の高さだ。

この壁より先には魔物等がいるから、壁と魔法でそれらを簡単に入らせないようにしているらしい。

それに、街中にこれは建てられない。

ペットショップの巨大版で、いる魔物は一匹一匹がデカイし、何体かの魔物は人が来たら吠えまくる。

防音装置付きの檻の中だから声は聞こえないが、見た目がめちゃくちゃ怖い。

「すげーっ、これって捕まえてくるの?」

「ほとんどが従魔の子だと聞いたことがあります。生まれた時から人に慣れてるので従いやすいとか」

「じゃあ、あれは捕まえてきた感じかな?」

「戻ってきたら、聞いてみましょう」

ペットショップを想像してしまうと全く違う。

家畜小屋とも言いがたい雰囲気。

養成所に入ると最初に応接スペースがあって、その奥のドアを抜けるとドデカイ檻が並び、中に魔物がいる。

あ、あれだ!ハリウッドの刑務所映画で出てくる、並びまくった牢屋の映像に近い。

「俺、この見た目嫌いかも」

小声でセミに呟いた声は、書類を取りに少し離れていた養成所の亭主にも聞こえていたみたい。

「見た目は悪くとも中は清潔に、彼らにも苦なく過ごせる空間を作っております」

家畜小屋ならまだしも、牢の中に魔物という絵面は、現代人には受け悪いだろうが、なんせここにいるのは魔物だ、これはこれで理に適っているから仕方がない。

吠えていた魔物に亭主が手の平を見せるポーズをすると吠えるのを止めて、大人しくなった。

「すごっ」

ちなみに吠えてた魔物は、番犬ならぬ番獣になるように躾けてあるので知らない人が来たら吠えるのは正しいらしい。

それに初見さんには、手前の番獣をわざと吠えさせ、冷やかし対策として様子見しているそうだ。

冷やかし対策としは、やり過ぎな感も否めないが、簡単に飼って、勝手な理由で捨てる最低なやつらを生まない為には必要かもしれない。

何匹かの目線はこちらを向いているが、全体的にリラックスしているのが見て取れる。


「騎乗目的ならこちらの子たちになります」

番獣を通り過ぎ、目的の騎獣たちの列に入った。

まずは需要の多い馬型の魔物たち、犬や猫型など四本脚の魔物が並び、鳥型のは最後の方にちょこっと。

「数多くね?どこでもこんなにいんの?」

「当店は、キュラビッツ一の大きさを誇ります。ここラリスアット国はキュラビッツの中央に位置しますので、他国からも見にいらっしゃいます。常にこの数を揃えてないとご要望に応えられません」

「そうなんだ。セミ、あとで地図見せて」

「ええ、用意しましょう。気に入った子はいましたか?」

「全部すげーけど……」

「コウは、鳥型が良いのか?」

後ろを黙って付いてきていたリンが、何かに気付いたようにポツリと呟いた。

「よく分かったな、昔見ていた……あとで言う」

ここでアニメやらの話をしたら、亭主に色々と説明しなければならなくなると思い、言葉を濁した。

「鳥型でしたか。まだ後ろに何頭かおりますのでご覧になりますか?」

「見てみたい」

「主人頼む」

「ええ。準備を致しますので少々お待ちください」

亭主が店員を呼び、準備を整えさせるよう伝えると、店員はペコリと頭を下げるとすぐにいなくなった。

なんだろう、さっきから日本臭い気がする。

一度、応接スペースに戻り、ソファに座るとすぐにお姉さんがお茶を運んできた。

リンとセミに挟まれて茶を啜りながら、回りを見渡し、亭主も店員も近くにもいないので、セミに聞いてみる。

「ここって、日本人関わってる?」

「どうしてですか?」

「丁寧さが日本臭い」

「ここは丁寧さも売りですが、聞いたことはないですね」

「ここの店の名前は、ブリーダリアだが、何か思い当たるか?」

「ブリーダーって言葉はあるけど」

「ブリーダーとは?」

「繁殖とかする人のことだったと思ったけど、ちょっと待ってな……合ってんな」

スマホの辞書でちょちょいと検索。

「けどここで日本人関わってますか?なんて聞いたら、俺がここの人じゃないってもろバレるしなぁ」

「ですね」

「だな」

両隣からもそう頷かれては、好奇心は素早くしまってしまうのが一番。

聖女だとバレないでいたいのは俺なのだから。


準備が出来たと、案内されたのは店から出て、裏手。

そちらはドッグランみたいに囲いで囲われた広めの広場になっていた。

その中に何頭かの鳥型の魔物がいたが、ピンとくるものはいなかったが、その奥にある違う囲いの中にいるモノに目がいった。

「アレか?」

俺の目線でリンにすぐに気付かれた。

「あれなんだ?」

「ピポグリフォル」

「ピポグリフに名前は似てるけど」

「そう、ピポグリフやグリフォンを祖先に持つが、あれには鉤爪も羽もない」

鷲のような顔を持つ、馬の胴体の魔物がいた。

「俺が前に乗っていたのもピポグリフォルだ、次もあれにしようと思っていた」


ピポグリフォルは、ブリーダルアのみ購入可能な魔物だそうだ。

なぜかと言うと、この店独自の改良品種、やはりブリーダー業も兼ねていた。

店頭には並べず、購入履歴のある人からの紹介状なしには買えない仕組みにしているらしい。

「以前乗っておられたと。でしたら、お持ちですね」

リンがジンケットから、メダルを取り出して亭主に渡す。

「はい、確かに……リンスラン ミニシッド……ミニシッド様でしたか、気付かずに申し訳ありません」

兜なしのメガネありの効果は素晴らしかったようで、気付かずに試すようなことをしてしまったと平謝りしていた。

だから、ここでは極力話さなかったのか。


そのあと、ピポグリフォルに会わせてもらい、その中でも少し小さめの緑色の眼の子と目が合った。

鷲の頭部分は白で体は茶色とグリフォンのイメージ配色通りだが、怖さはない、鳥の顔を見て優しそうな顔をしていると思ったのは初めてだ。

セミに、一目惚れしましたねっと言われ、目の離せないこの状況が一目惚れなのだと知った。

リンは一番大きな子が気に入ったと、早速試し乗りしていた。

こちらは白と黒色の、リンの髪のような配色。

瞳は金色で、顔はちょいと鋭くて怖い印象をもった。


ちなみにこのピポグリフォル、頭が鷲だが体は完全に馬なので、草食寄りの雑食魔物、肉も気分で食べるが普段は草を食む。

しかも気質も穏やかなのに馬より早いし、戦闘面でもそこそこ強いので、長距離移動する旅人に好まれるそうだ。

その分、ちょっとお高いが必要経費に入れて貰った。

リンの前のピポグリフォルは、戦の流れ矢の毒で死んでしまったらしく、自分で購入するとジンケットから金を出していた。

おおっ、なるほど!

ここはスリに会わない素晴らしい世界なんだな!

お目通し、ありがとうございます。

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