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023、訓練所

従者さんに食事を用意して貰い、従者さんに悪いが部屋を出てもらって、一人で静かにのんびりと食べてから、リフの間に移動した。


「コウタさん、おはようございます」

「おはー」

「よく寝られましたか?」

「二日ぶりにスマホで漫画読みまくったから、寝不足なはずなんだけど、疲れてないし眠くない、聖女ってすげーのな」

「ちゃんと睡眠を取って下さい」

「見始めると止まらないんだって、たまに仕事に遅刻したりしても止められない、漫画って中毒性ある」

「そちらは様々な娯楽があると聞いてます。その中でも漫画が一番好きなのですか?」

「うーん、一番ねぇ。ゲームも漫画もアニメも映画とかも好きなやつしか選ばないし」

「こちらにはない言葉ばかりですね」

「そうそう、ヒッキーばっか。引きこもりって言って、自宅で引き籠って好きなことばっかやるやつのことなんだけど」

「そちらに戻りたいですか?」

「今は、異世界を堪能するっしょ!魔法とか魔物とかゲームや漫画の中の世界にいんだよ、それを実体験できるんだから」

「……私に負けず劣らず、頭が固いですね」

「そう?ふんにゃふにゃよー」

「分かりました。では、ふにゃふにゃさんには今日はある所に行って貰います」

「どこどこ?」

「訓練所ですよ」

「えっ?」


これから、五年以内に108箇所の聖地を廻るためには、従魔で移動し旅をと、この間のディナー会議の間に決まった。

だが、俺に騎獣経験は全くないから、訓練所で従魔に乗る訓練をする訳だ。

「何に乗るの?ドラゴンとか?」

「聖女だと公表しながら旅をするなら、ドラゴンでも飛竜でも何でも良いですが、そうではないですよね」

「うん。俺が聖女でーす宣伝すんのはヤダ」

「であれば、旅人が乗る従魔になると選択肢の幅が広がりますので、まずは騎獣し、好みを見てみましょう」

セミと訓練所に向かいながら、説明を受ける。


一般の旅人や冒険者は、乗り合い馬車を使うことも多いが、従魔持ちもまあまあいるから、俺らはその部類で通すようだ。

昨日乗った馬車は馬の魔物だったが、騎乗できる魔物も馬科や犬猫科など多種多彩。

中には20人以上乗れる大きな亀型の従魔もいるらしく、それは主に客船のような使われ方をしているようだ。

その中でも、早さと騎乗時の安定性が評価されるのは、やはり馬の魔物、肉食の魔物のようにエサに肉を毎度用意しなくてもいいのも高得点らしい。

見栄を張り肉食魔物にして、旅費の大半がエサにひっ迫されることもあるそうだ。


「そりゃそうだ。って、俺金ないじゃん。自分で稼ぐ系?」

「いいえ、それは各国が予算枠を作り貯めたお金がありますから、それで旅をして貰います」

「必要予算って、訳だ」

「今回は従者を引き連れての旅ではないので、かなり浮きますが、それで豪遊しないで下さいよ」

「俺が豪遊する様に見える?」

「コウ、ここにいたのか」

訓練所のドアが開き、リンが入ってきた。

「リン、はよー。今さ、従魔の説明してもらってたんだけどっ」

「コウ、昨日のあれは何だ?」

やっぱり来るか、そこはスルーしてよ。

「俺の本音」

「でも、俺はっ」

「俺さ、あっちに帰ったら、このこと小説にでも書こうかと思ってるんだよね。『俺が聖女で異世界召喚』とかで、でもBLになるのがネックなんだよ、あっボーイでもない、メンズ?あっLはないな、んっ?HがLならLでいいのか?」

「っっ」

「だからさ、これはこれなんだって。サクッと廻って、お前は王様、俺は元に戻るのが一番なんだって」

リンの顔から表情が消えた、そんなリンにヅキリと心が痛むが、それは考えてはいけないことだ。

「そういや、リンは従魔乗ってたりするのか?」

「……今はいない……悪い、ちょっと出てくる」

「おう」

リンが踵を返して、訓練所から出ていった。

「素直に……いや、良いです。コウタさんのお考えがあるのでしょう。でも、心をすり減らすと後々大変ですよ」

「減るもんなんてないよー」

「強情ですね……アンの爪の垢でも飲みましたか?」

「飲んでないし、あっ、そういうのあるの?」

「おとうさまは言葉なども色々残してますので、でもこれは正規の使い方とは違いましたね、すいません」

「そうなんだ、いいんじゃね。言われなかったら気付かなかったし。俺、アンとセミに似てんだな、やっぱっとうちゃんって言わせて」

「乳母車持ってきましょうか?」

「ばぁ~ぶぅ~」


その後、色んな従魔に騎獣して訓練したが、ここでも聖女様が効力を発揮してか、ここで扱っている全ての種類の魔物を簡単に乗りこなし、訓練している他の衛兵に驚かれていた。

「さすがですね。どれか気に入った従魔はおりましたか?」

「鳥型は夢がいっぱいなんだよなー、あれなんて嘴のデカいのがいい、色が白なのは微妙なんだけど」

ガキの時に録画したナ○シ○を1日に何度も見るほど好きだったから、鳥型はやっぱり外せない。

「個体差はありますから、昼食後にでも従魔養成所にでも行ってみて、色々と合う子を選ぶといいでしょう。一目惚れする方もいるようてすし」

「あ、やっぱそういうのあるんだ!俺の世界でもペットショップに行って一目惚れして飼うとかよく聞いた。あっ、ペットってのは……」


リフの間に戻り、昼食を食べているとリンが戻ってきた。

「おけーりー。この後、養成所ってとこ行くんだけど、一緒に行く?あ、飯食った?」

「ああ、行く。昼食はまだだ。セミ頼んでも?」

「はい、少しお待ちください」

セミが出ていくと、沈黙が重く感じた。

「そうそう、俺さ」

「コウ」

同時に話始めることに、苦笑いしてしまう。

「なに?」

「……俺は、お前を愛すると決めた」

「おっ、愛の告白ぅ」

「お前の考えは昨日今日で大体分かった。だが、俺はそうは思わない。だからお前の考えを変える為にもお前を愛すると決めた」

「ほぉー、がんばれー」

「時間はたっぷりとあるからな」

ニヤリと笑むリンに心臓が少し大きめに鼓動したことは、感じてないふりをしとく。

フラフラと価値観などが瞬間で変わる10代20代は疾うに終っている。

一度こうだと決めたことは頑固に守ろうとすることも、30を越えたお互いに分かっている。

これからは、攻防が始まるのだろう。

俺は、今のところディフェンスの構え、下手に攻撃をしかけることよりも、早く廻って帰ることを優先する。

聖女をやると決めたのだから、逃げることはできない。

そして、今一度リンを王様にするのだと決意した。

お目通し、ありがとうございます。

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