022、次期国王
その後、リフの間には入らず、みんなで他の部屋に移動した。
後で、なぜ移動したのかと聞いたら、あの部屋には特殊な魔法がかけられていて、特に他国の人は入ることが出来ないようになっているらしい。
扉だけでなく部屋自体が最防犯機能完備だったようだ。
俺やリンが他国者なのに難なく出入り可能なのは、アンがちょちょいとやってくれていたかららしい。
「嘘言を述べた罪は巡礼後に受ける所存です。この度私が勇聖者となり、ここにおられるコウタ様が聖女様……」
別室へ移り、アンに促されて席に着くとアンが仕切り、次にリンが口を開いたが、すぐに話を被せてくる姫様。
「大精霊様に選ばれし勇聖者様を裁くなど以ての外、貴方様に罪などありません。やはり、この輝きは勇聖者様と聖女様の繋りなのですね、お美しい」
リンが罪を受けるとか許すとか輝きとかと困惑しつつも、姫を見ると隣り合って座る俺たちを見る目が、少し潤んでいる。
「ニアニクラ様は精霊眼をお持ちじゃったか」
全てを知る大賢者の声に皆の視線がアンに行った。
「はい、ですがこれは精霊眼よりも更に奥をみることができ、私は精眼と名付けております」
「それはジヒル国の秘匿ではなかろうかな?」
「私は次期国王。それにキュラビッツ随一の大賢者様に嘘はつけませんわ」
「ほう、決まったのですな」
「ええ。戴冠はまだですが、今期より評議会に参加しますわ」
「そうでしたか、ジヒル国はますます安泰ですな」
「国としては。ですが、私の片割れが足りません。リンスラン様に私の伴侶として、私を我が国をお守りして頂かなくては……」
そこで言葉を切るニアニクラに、セミがお茶を差し出した。
「貴方様がセミエール様でしたのね。アンゼルフ様と温かな光で結ばれておりますわ」
「ありがとうございます」
「……自分のことは可視出来ません。私と結ばれているのが心よりお慕いしているリンスラン様がそうであればといつも思っております……」
何故だろう、モヤモヤしてきた。
リンに恋心を持つ年下の女性の登場に生まれて初めての心境に戸惑う。
「ニアニクラ様が次期国王と決まったのであれば、尚更婚約を承諾することは出来ません。わたしに国王の伴侶などは不相応…………」
リンスラン王とイメージ容易に浮かぶ、めちゃくちゃカッコいい感じが……あ、クオーサ王か。
チラリとここにもあるクオーサ王の肖像画を見る。
これにリンがなる、簡単になれそうだ、何て言っても精霊に愛され過ぎている勇者だもんな。
「いえ、私はそう思いません。貴方様は聖愛の勇者。今までも国民を愛し、守ってきたではありませんか。ジヒル国の誰もが貴方様に王となって頂きたいと思っておりますのよ、もちろん私もです。先の戦でもそうです。あれにより更に国民の声も高まりましたわ、私の伴侶にリンスラン様をと」
「そう言われても、わたしはっ」
「リンが王様かー、似合いそう」
二人の会話にスルリと入り込むと、リンに睨むように見られた。
「コウっ」
「だって、これだろっ、めちゃくちゃカッコいいじゃん」
本当は指なんて指しちゃいけないんだろうが、王様の肖像画に指差す。
「貴方様もそう思われますか!クオーサ王は偉大な方ですが、リンスラン様なれば、更に偉大な王になれると思うのです」
「俺に偉大さとかは分からないけど、リンスランが王様ってのはありだと思うな」
「さすが、聖女様ですわ」
「コウ、何を言って……」
「ただ、思ったことを言ってるだけ。そうそう俺、腹減ってんだ、飯食ってきていい?」
席を立ち、セミを見ると呆れたような顔をしている。
「用意は出来ておりますが」
「どこ?行っていい?」
「そうでしたの、お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでしたわ。まだ、こちらにはおりますので、次回は私のエネルをぜひ受け取って頂きたいですわ」
「じゃあ、次ん時にでも、セミいい?」
「では、私も参りましょう。ニアニクラ様、席を外すことをお許しください」
「構いませんわ」
席から離れようとすると、手首をリンに捕まれた。
「コウっ」
「お前が王様ってまじで合ってると思う」
するりと捕まれた手首を外し、まだ話したりないだろうリンを残しドアに向かった。
「聖女様が分かる方で本当に良かったですわ、リンスラン様……」
そんな言葉を聞きながら、セミが開けてくれたドアから出た。
「コウタさん」
リフの間に戻り、セミが用意してくれた軽食をパクついていると、先程とは違う声音で呼ばれた。
「リンってスゴいな、国民に望まれてるってよ」
「その声が高いとは聞いていますが」
「勇者が王様とかになったことあんの?」
「過去に何度か」
「ふーん、あっそっか英雄だもんな」
「そうですね。でも良いのですか?」
セミには俺達が聖地の中で致したことをさっき伝えたばかり、その一言に色々なものが含まれてる。
「良いも悪いもないし」
「……何を意地になっているのですか?」
「意地なんてなってない、ただリンはスッゴい数の人に認められてるって分かっただけ」
「それを意地になってると……」
少し怒ったような声音に被せるように事実を述べる。
「俺さ、聖女なんだ」
「えっ?」
「リンの為にこっちに来た聖女なんだよ」
「それはそうですが」
「終わったら帰るだろ、あっちに。その頃には帰還の儀だっけ?それで帰るんだ」
「……巡礼が終わったあとなら、儀式は可能でしょう」
「だろ、そしたら帰るんだ、あっちに」
俺の考えが分かったのか、セミは口を噤んだ。
そのあとは、静かな時を過ごした。
今日はアンの家には行かず、城内の俺の元の部屋が五個くらい入りそうな広い部屋に泊まった。
ここ二日、色々と慌ただしく動いたし、色々あってバタバタしたのが嘘みたいに、静かな時を過ごした。
お目通し、ありがとうございます。