020、第一聖地キユランス 3(守護核)
俺たちは、まだ聖地の中にいた。
この後何かがあるような、起るような気がしたからだ。
壁を背に床に座り、しばらく話しているとそれは起こった。
淡く光っていたソレの光が徐々に強くなり、目も開けていられないくらいになり、手で目を覆っても分かるほどの強い光。
リンが俺の前に覆い被さり、それから守られる。
召喚された時よりも強い光が辺りを照らし、すぐに元の明るさに戻った。
「……終わった?」
「ああ、コウ、アレを見てみろ」
目をしばたたかせながら、ソレを見ると中央部分に先程まではなかった真っ赤なプヨプヨしてそうな液体の塊がユラユラと漂っている。
「アレが守護核とか?」
「だと思うが、確証はないな」
「核とか言うから石みたいなやつかと思ったよ」
「そう言われたらそうだな。……まだいるか?」
「セミが心配してるかもしれないから、帰る」
「もうすぐ14刻半だな、ここに来たのは11刻前だったはずだから……」
高級懐中時計をジンケットから取り出して、確認するリン。
「約三刻、励んでましたっとな」
「また、そういうことを」
「だって、本当のことじゃん。あ、そうだ。ご馳走さまでした」
手を合わせて、リンにペコリと軽くお辞儀する。
「なんだそれ?」
「美味しかったからな」
俺の視線にリンが、ようやく何の事が悟ると、目を丸くした。
「コウっ、お前……帰る気なくなるだろう」
「いやーん、1日にそんなに出したら萎んじゃうぅ」
そんな軽口を掛け、逆さ水まで逃げるように走ろうとすると、リンに抱き締められ、後ろから首元に口付けを落とされた。
「コウ、本当に止めてくれ。俺はまだ……」
「……実は、俺もなんだよねー……」
それから、二時間弱。
最初のヤバいほどの催淫効果はないが、それでも聖女仕様なのは変わらない。
疲れと枯渇を知らない二人の身体は、どこまでも求めた。
ちなみに、終わったキッカケは、ふわふわと俺らの上を漂っていた守護核が変化したせいだ。
赤いプヨプヨからキーンっと音が鳴り、驚いて見るとプヨプヨに硬度が出てきて、最後には俺が寝ている横にトスンっと落ちた。
「おわっ、えっ?」
「……魔石?」
「魔石って、魔物倒したら手に入るやつだろ?」
「ああ、巨大な魔石のように見える」
「これ、無事?」
「分からない。……ここで一旦終わるか……終われないってのは困るな」
「だな、まーだまだな」
「言うな、本当に終われなくなる」
聖女仕様のせいか、俺達の相性はドハマり過ぎて怖いくらい。
俺、地球に帰れないかも、これで女抱けと言われても、もう無理だろ、二丁目行きしかなくないか?
その後、本日二度目となる着衣を行い、二度目のキュポンで出て、今度こそ逆さ水まで向かう。
「セミにここに行くって言ったよな、もしかして出たらいたりして」
「それはないと思うが……いたな」
テレポートした先に、待ち構えてるセミに、にこやかにお帰りなさいと出迎えられた。
「鐘が鳴ったので来てみても、貴方方は出てこないので心配しましたよ、もうここを出ていて、すれ違ったのかと一度城に遣いを出したほどです」
「あ、鳴ったんだ。中では聞こえなかった」
「いつ鳴ったんだ?」
「2刻程前です。その間に大分人が集まったので、人払いをさせておきました」
2刻前、赤いプヨプヨが出来た頃だろう。
となると、あれが出来たら鐘が鳴る仕組み……と推察してみた。
「あ、助かるー。鐘鳴るのすっかり忘れてたし」
「あの……つい先程、見た目では何もありませんでしたが、どことなく空気というか空間が変化したような気がしましたが何かありましたか?」
つい先程と言えば、液体から固体へと変わったことしかない。
「あ、マジ?それはいいやつ?ヤバいやつ?」
「全く悪くはないですよ。空気が澄んだような心地良い感覚ですので」
「じゃあ、大丈夫か、な?」
「色々と伺いたいですが……まずは、部屋に戻りましょう。話はそれから、あちらに馬車を用意してます」
セミに促され、初めての馬車に乗り、セミは前に、横はリンという配置で座る。
この馬車、牽くのは馬の魔物と言われたが、見た目はほぼ馬。
口からやや大きめな牙が出ていること以外は、完全に馬。
しかも、サラブレッド系ではなく、蹄が大きい安定感抜群の道産子系のドッシリタイプ。
御者がいないと俺が言うと、基本的に行きは御者が必要だが帰りは帰属性質を利用して帰るから、御者いらないらしい。
御者がいないなら、道無き道を行きそうだが、馬車が通れるしっかりとした道を歩くように特別訓練されたもので、そもそも馬車本体を馬が大切にするらしい。
道産子馬さんは、馬車が大好きな馬ということが分かった。
「あ、そうそう。あれの中の壁に、中のことは話すな残すなって書いてた」
揺れもほぼない快適な馬車の中、俺はそう切り出した。
「そうですか、やはり秘匿なのですね」
「あ、でも話すなって書いてたことを言えたってことは、言えるじゃん」
「話すのか?」
「大賢者様とその伴侶様だぜ、なんか役に立ちそうじゃね?」
「……そうだな、コウがそう言うなら、赤裸々に話そうか」
「えっそれは、オブラートに包んで……オブラートってのはな……」
オブラートの説明に入ろうとした、その時セミが息を吐いた。
「……やはりそうなのですね」
「あっ、分かるの?」
「予想でしかなかったものが、確信に変わっただけです」
「予想はしてたのねぇー」
「108箇所も回り行うことが可能なものの中で、歴代の聖女様方が誰も中のことを漏らさず、頑なに秘匿し続けた、そうしなければいけないことが他に思い付かなかったと言った方が早いですかね」
「あー、なるー」
「ちなみに、お互いに了承してからのことですか?」
「中に入ったらアララ的な……なっ」
「昨日、すでに」
「あ、それ言う?」
「赤裸々に話すのだろう」
「昨日は昨日じゃん……あ、ごめんなさい」
昨日の門限破りはそういうことです、と白状しているものなので、一応謝罪しておく。
「それは成人も疾うに過ぎていますし、本人達の意思次第。でも、そういう基準も含めて選ばれているのですね。出会った初日にことを起こせるような……」
なんだろう、叱られている気分になってきた。
「でなければ、108をも廻ることなんて出来ないと思わないか?」
「……そうですね……失礼しました。頭の固い年寄りの小言と捨て置いてください」
年寄りには見えない年寄りにそう言われても、乾いた笑いしか出てこない。
「こちらも失礼した。コウが怒れられているような気がして……」
「いえ、こちらもコウタさんの親でもないのに、つい……」
失礼しましたと頭を下げる様子に、少し嬉しいと思ってしまった。
「それって……親のような気持ちになったってこと?」
「そうですね。そのような心持ちになりましたね」
「じゃあ、怒っていいよ」
「「えっ?」」
俺の言葉に二人が呆気にとられたように驚く。
「俺さー、そうゆうの経験ないから、今のなんか嬉しいや。あっ間違ってもマゾとかじゃないぞ。……あ、マゾってのは……」
そんなこんなで、城への帰路を馬車に揺られながら、穏やかな温かい気持ちで過ごせた。
城でアレが待っているとは知らずに。
お目通し、ありがとうございます。




