018、第一聖地キユランス 1
電話のあとアンも来て、スマホのロック解除してから触らせたが、俺以外の人が触っても動かないことが分かった。
そしてスマホ、オンラインものは出来ないけど、オフラインものは遊べるし、SDに落としていた電子書籍も読めた。
消さずに残していたオフライン辞書アプリがあったから、これでリンへの正確な返答が出来そうだ。
謎なのは常に電池は100%、全く減らない。
異世界ものは、こちらに来るとマジックアイテムになるってやつだろうか。
元のバッグはアイテムボックスにはならなかったし、時代背景に合わないので、ジンケット行き。
ジンケットはズボンのポケットに入るサイズなので、やはりアイテムボックスは凄い。
しかも、このジンケットさん、使用者の魔力を使って作られているので、落としても手元に戻ってくるし、他の人が開けようとしても開かない仕組みになっている優れもの、とうちゃん凄いぜ。
などと検証などをしている間、実はリンだけが静かに座って思案顔のままだった。
一段落し、リンを連れて散歩に出掛けた。
目指すは、すぐ近くにあるという最初の聖地キユランスに見学と下見。
朝から街中はもう人多く、そそくさと城前の大通りを手繋ぎで通り抜けた。
住宅街も抜けるとすれ違う人もいなくなり、目的地のあるだだっ広い公園のような場所を歩く。
ここまで口数少なく歩いてきたが、そろそろ言ってきそうだと先に言っておく。
「変なこと言うなよ」
「っ、……だが、俺の精霊がっ」
「そう、お前の精霊が俺を選んだ、お前じゃない」
「だが……」
「そうそう、お前が気に入る奴を精霊が選んだってことは、お前のタイプってこんなんなの?」
自分を指差してみる、言っておくが俺はイケメン等の類いには入っていない、平凡以下の以下のモブ。
その前にタイプとは?と質問が来て、好みと言い換えた。
「いや……いやって言うのもおかしいな。今は昔と違って好みとか考えてないのもあるが、昔のと照らし合わせて考えてもコウは違う」
「だよな、だと思った。じゃあ、なんで俺?気に入る要素ないのに」
「それはある……名前や姿を見ても、態度が変わらず、普通に接してくれた。謙ることも媚びを売ることもなく俺に接してくる人は少ないからな」
「うわーっ、そっちか。勇者って……でもそれなら俺じゃなくても異世界人なら誰でも良かっただろうに、誰もお前を知らないんだから」
「それはそう……いや、俺はお前がいい。俺の精霊が選んだとはいえ、こんなにも誰かといて楽しいと思ったことはない」
そっかー、この俺がこんなにも好かれるってのがおかしいと思っていたが、まさか精霊絡みとか思わねぇし、その精霊の何らかの力も働いてる可能性もある訳かー、微妙ぉ。
「そっ、なら、それでいいんじゃねぇ」
複雑な思いは置いといて、誰かに好かれるのは慣れてないからこそばゆいが、それでいい、それでいいとしとく。
「そう言ってくれると助かる。まだ俺も整理が付いていない」
「じゃあ、気分を変えて聖地ってのを見に行こう、もうすぐなんだろ」
色々と話ながらしばらく歩いていくと東屋が目についた。
「あれが第一の聖地キユランスだ。あの東屋が入口になっていて、本当の聖地はあの地下にあると言われているが、それは俺たちしか入れないらしい、入ってみるか?」
「いいの?」
「いいんじゃないか?」
「ちょっと、なげやり?」
「ちょっと」
リンの機嫌も少しは落ち着いてきた様子に、ほっと胸を撫で下ろし、人の顔色を考えている自分に少し驚く。
「どうするん?」
「あの、中央の湧水に触れるだけでいいと聞いた」
2メートルほどの東屋の中央には、腰辺りまでの高さの小さな噴水台のようなもの、公園の水飲み場みたいなやつだ。
湧いた水は下へ流れ落ち細い川となって流れているが、ここはどう見ても平地、高低差もないのに淀みなく流れていくのは異世界仕様と割り切った。
「これに触る?何にも起こらないぞ」
「確かにそう聞い……」
リンも湧水に手を触れた瞬間、視界が切り替わり、少し薄暗い部屋に飛んでいた。
「テッテレポート!あっ……転移魔法とかをテレポートとも言うんだ」
「お前の国は、本当に言葉が多彩だな」
「他の国の人が困るらしいよ」
噴水台はそのままだが、先程と違い、水が空中を飛んで上へと逆さ水になっている。
ということはこれで帰れるのだろうと予想。
台から離れ、部屋を見ると、中央にドテカイスライムのような物体。
「あれ、なに?」
「分からない、スライムにも似ているが、意思や危険も感じないから魔物などではなさそうだ」
「そうなんだ、んっ?」
周りをぐるりと見てみると、壁に額のようなものがあり、そこにキュラビッツ文字、即座に自動翻訳された。
“ようこそ、ユウセイシャ様セイジョ様
そちらの中にお入りください
中に入れば、分かります
この部屋でのことは誰にも話さず残さずに”
「説明これだけ?詐欺まがいなうたい文句」
「説明がこれだけなら入るしかないが、どうする?」
「うーん」
更に周りを見回してもこれといったものは何一つ見つからない。
現状、中に入ってみるしかないということだ。
巨大スライムのような物体に恐る恐る近寄ってみる。
無効耐性は付いているらしいが、まだそれが発揮されるような事態にはなっていない。
だが、これが初の異世界体験……転移魔法体験したから初ではない。
四度目の異世界体験なら、もうやってみるしかない。
そろりと触れてみる。
冷たいとも温かいとも言いにくい常温のゼリー?のようだが、サクっと指が中に入る、水の中に手を入れたような違うような不思議な感覚。
「おっ、すげっ」
そのまま腕まで入れてみて、次は出してみると、キュポンっと音をさせ表面張力で戻るように揺れ、腕は濡れてはいない。
「水?息出来るのか?」
「コウ、潔過ぎっ」
今度は息を止めて顔を入れてみる、膜を通り抜けたような感覚はするが水の中のような圧迫感はない。
「なんだこれ?あっ」
あまりの不思議な感覚に口を開けてしまったが、水が口の中に入ってくるような感覚もない。
「変なの、リンもやってみろっっ」
もう少し中に入ろうとしたら、膝ほどの箇所に突っ掛かりを感じて、そのまま前のめりに倒れる。
「コウっっ、おっ……」
助けようとしたリンも突っ掛かりに引っ掛かり、二人で足を外に出した状態で倒れ込むが、しっかりとした弾力のマットレスのようなものに守られ、地面にベタンはしなかった。
「二層式?すっげっ、空中に浮いてるみてー」
よくよく見ると物凄く薄い青色の剥き出しのウォーターベッドの上にいるようにも見えなくはない。
そのまま二人共、這いながら前進して体全てを中にいれた時、それは起こった。
「「えっ?」」
お目通し、ありがとうございます。