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013、閉門

リンに城まで送ってもらいながら通りを歩く。

活気のあった通りは静まり返り、これが静寂かと思える静かさで溢れていた。

街灯に似た光源が一定距離に置かれているが、あちらの明るさとは程遠いほど暗い。

「静かだな」

「この刻ならこんなものだろう、コウのいたところとは違うのかい?」

「24時間いつでも人は外歩いてるし、色々うるさい」

どことなく俺が違うのは分かっていてはいても、リン相手ではないことに気付いているのか、何も問わずにいてくれるのはありがたい。

「そちらは凄いな。俺は鐘の鳴り終りにこんな風に街中を歩くのは久しぶりだ」

「9時……9刻には鳴り終わるんだっけ」

「そう、これからは大人の時間だと子供は早く寝なさいと言われる時間だよ」

「あー、そうゆうの俺のとこにもあった、テレビで見たことある」

「世界が違っても同じものはあるんだな……コウ、明日は?」

「さぁ。知らない」

「そうか……あ、すっかり失念していたよ」

ちょうど城に着くと、城の門は閉まっていた。

どうしようかと城を前に立ち止まると、城前に待機している門兵が近付いてきた。

「黒髪黒眼……失礼ですが、お名前を宜しいでしょうか」

「あっ、立花幸多です」

「タチバナ様ですね。セミエール様より特例で開城せよと承っております」

「すいません」

「……ミニシッド様でしょうか?」

門兵が城門脇の通用口の開門の合図を中に送ってから、リンに向き直り、リンが頷く。

「セミエール様より伝言を承っております。明日、9刻においでくださいとのことです」

「了解した。コウ、ではまた明日」

「ああ、今日は……ありがとうな」

「これからまだまだ刻はあるからな」

「……なにが?」

フッと軽く笑いながら踵を返すリンに「またなっ」と声をかけ、通用口から中に入った。

しばらく案内する門兵と通路を歩いていると、セミさんが歩いてくるのが見え、駆け寄った。

「タチバナ様、お帰りなさいませ」

「えっと、はっ話してたら時間があっという間に過ぎちゃって」

「城には閉門する決まりがありますので、お気をつけください。……あとは私が案内します」

そこまで案内してくれた門兵にペコリと頭を下げると、門兵は踵を返して去っていく。

「はい……」

歩きながら、ペコリと頭を下げ、ふと思う。

学生時代とか、親が普通だったら、こんな言い訳していたのだろうかと謝りながらも少し卑屈な心地になってしまった。

「いいえ。閉門の刻を告げなかったこちらにも非がありますので。タチバナ様、陛下より城内の客室へお泊め頂くように承ったのですが、アンが話をしたいと申しております。よろしければ我が家にお泊まりになりませんか?」

「あ、俺もアンさんと話がしたくて」

「そう言って下さると助かります、では行きましょう」

先程の部屋まで歩いていく。

こちらも光源の弱さに辺りはうす暗く静まり返り、広さも相まって、よくホラーものにある夜の校舎のような不気味さを感じてしまう。

「あの部屋の続きには我が家への転移魔法陣があるのです」

「転移魔法!?」

「はい、ですがタチバナ様の思っている転移魔法とは少し違うかも知れませんよ」

「セミさん、俺の世界の人とか?」

「いいえ、私ではなくアンのお父様のルナミナー様がそちらの方でした」

「お父様?」

「はい、先の聖女様です。そして、先の勇聖者アザリスト様はアンの親父様です」

「えっ?」

歩いていた足が止まると、セミエールも立ち止まりこちらを振り向く。

「先の聖女もタチバナ様と同じく男性だったのです。ですが、このことを知っているのは陛下とアンと私のみ。歴代の聖女様の記録を残してはいけない決まりなのです」

ここにきて、更なるアンビリーバボーな事実。

「詳しくはアンを交えてお話しましょう、こちらに」

先程の部屋のノブにセミエールが手を置くとカチャリと鍵が開く音、その音がしてから部屋へと入る。

入ってから見てみると鍵穴らしきものはない。

「このドアは陛下とアン、そして私の三名だけが開けることができるものです、我が家に直接繋がっているものですから、そのくらいはしないと」

「セキュリティ、スゴっ」

「安全第一ですからね」

次の部屋もセミさんが手を触れると鍵の開く音、指紋認証でも付いてるのだろうか?

次の部屋に入ると、こちらには窓はなく、壁に囲まれ本棚や机などの書斎のような部屋。

前の部屋と同じような白を基調とした色合いで暗い色はないが、LEDなどの光よりは薄暗く感じる光源のせいで、奥にある魔方陣に、魔女……という言葉が思い付いてしまう。

「あの陣の中にお入りください」

魔方陣の中心部は何も書かれていない円、そこに立つとセミエールが何やらブツブツと呪文を唱えだす。

途端、淡い光が足元の文字やら線やらから溢れるが、すぐには転移しない。

「着いた先にアンがいると思いますが、寝ているかも知れませんので、『アンフウイップ』と言い起こして下さい、それで起きますので」

「アンフウイップ?」

「アンゼルフウェイクアップの略なのだそうですよ」

「おとうさん、アメリカ人?」

「よくお分かりで、正式には日本人とアメリカ人のハーフだったらしいです、私は少しあとからになりますので、よろしくお願いします、そろそろ飛びますよ」

にこやかなセミさんの笑顔に陽炎のようなモヤが現れたと思ったら、セミさんは消え、視界が切り替わると同時にソファに寝そべるアンさんを見つけた。

「すっごっ、これが転移魔法。確かに考えていたのとは違うけど、あっあれだドラク○の旅のとび○的な、なんか嬉しい。あ、起こさなきゃいけないのか、えーと」

人を起こすなんてことをするのは……初めて?おーっ初体験!!

こっちに来てから、初体験ばかりしている。

「アンフウイップ」

「んがっっ、それを言うなとあれほど……おおっコウタ殿、戻られたのじゃな、んっ?今、言ったのは?」

『んがっ』にも、一発で起きた即効力にも笑いが込み上げてくる。

ひとしきり笑う俺に、アンゼルフはムッとした顔をしたが、それもおかしくて笑いが止まらない。

「コウタ殿は笑い上戸というやつだな、まったく」

校長先生は、呆れた顔をしながら、俺が笑い終わるのを待ってくれた

お目通し、ありがとうございます。

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