012、肉体美
王様とのディナー&作戦会議みたいなのが終わり、セミさんに断ってから、リンと一緒に散歩に出かけた。
そして今、俺はリンにキスされている。
「まて……待てって」
抱き込まれ、巧すぎる舌の動きにフワフワの頭が更におかしくなりそうで止めに入った。
「俺としては、待ちたくないが、待とうか」
「なんだよそれ、ってかなんで」
「お前が欲しい。コウが」
ここはリンが取っていた宿屋。
荷物を取りに行きたいと言うから付いてきたら、部屋に入ってすぐに抱き締められ、キスされた。
「なっ」
腰を抱かれ、言われたことのない言葉に大きくドキリと心臓が音を立てた。
「あんな無防備な迷い子のような顔を見せられて、これでもずっと我慢してきたんだぞ」
「迷い子って……」
「今もしてる、抱き締めて気持ち良くさせたくなる」
グッと抱き締める腕がキツくなり、更に密着すると頬にチュッと軽くキスされる。
そんなことされたことも、したこともないが、腰にピキリと何かが落ちたのは確かだ。
「うおっ」
「俺は、君が欲しい、それでやめろは酷だと思わないか?」
「ヤられるこっちの方が酷だよ。もうキャパオーバーだよホント」
「おっ、また知らない言葉だ。けど、ここでなにも考えない時間があったらいいと思わないかい」
「お前がしたいだけだろうが」
「それもある。だがコウの為にもなると思うよ」
「うっ、ためってっ……」
伸びてきた手に、まだ二度目なのに、もうリンの手の訪れを喜んでいるのが癪だ。
「最後まではしない、だけどお互いに気持ちよくなろう、俺はコウが欲しい」
早くも、俺の抵抗虚しく天井を向いている。
リンが巧いというのもだが、リンの言葉に心臓にドクリドクリと血が通うような不思議な感覚が、俺の思考から行動さえもおかしくする。
「こういうのなんだっけ、タラシ?あーっくそっ」
「コウ、いいと言ってくれ。俺もこのままでは辛い」
リンの服を縋るように掴んでしまった。
「それは、いいと受け取っても?」
頷くこともやめさせることも出来ない曖昧な俺に、リンはにこりとした。
嫌ではないことが不思議だ、あれか聖愛の勇者効果なのか?だとしたら、相当の玉だ。
そんなやつに、欲しいと言われているのに、それが嬉しいと思ってしまっていることがダメなんだ。
だが、翻弄されて、気持ちよくなってしまえば、もういっかと吹っ切れた気にもなる。
ここは俺がいた日本ではない、異世界なのだからだと訳のわからない言い訳で自分を納得させた。
「んっ、うわっっ」
どさりとベッドに倒され上を向くと、ヤル気スイッチが入った初めて見る表情に、腰の辺りにザワリと何かが走る。
シャツの上からでも分かる肉体美が、露になる。
ビルダーのムキムキマッチョでもない。
アイドルやダンサーの体脂肪数パーセントの細マッチョとも違う。
ガッシリとした骨格を守るためにあるしっかりとした筋肉。
ボクサーのようでそれとは違うと思わせるのは体にある幾多の傷が、歴戦を彷彿させ、肉体美を更に際立たせる。
「傷跡すら、カッコいいって、ずるくねぇ」
「傷?これは若い頃、加護膜を無理やり外して、森籠もりした時のものだ。若い時はとにかく傷が欲しかった」
遠い目をして苦笑するリンに、若い頃荒れたと言っていたのを思い出す。
「へぇ、あっ俺、お前みたいに鍛えてたりしてないしっ」
脱ぎ終わり、ベッドに上がってくるイケメンの肉体美を前に、ムキムキでもガリガリでも、ポヨポヨでもない普通体型を晒すのが恥ずかしくなってくる。
「俺は体が欲しいんではないよ、コウが欲しいんだ」
もうなんだよ、このイケメン。
あれか、これが胸キュンワードなのか!?
いちいち心臓がドクリと大きな鼓動をさせるのは、言われたことないワードに心臓がついていかないってことか?
ズリズリとリンから離れるように移動してしまうのは、色々と怖さもあるせいだろう。
そんな俺の足首をグッと引っ張り、先程までの位置に戻される。
俺はやつの手管に、最後までではなくとも、人生初、一回ので5度と最高記録を弾き出した。
だが、そんな状況なのに、疲れもしない身体に違和感を感じ、リンの付き添い付きで城への帰路に就いた。
もちろんリンから泊まらないかという誘いもあったが、自分の体がおかしいことが気になり、怖いような不思議な感覚になったのだ。
そして、多分色々と知っているであろう人物に聞きたくなった。
この体、どうなってるっと。
お目通し、ありがとうございます。