011、ディナーで作戦会議
王様との初対面はそれだけで終わらなかった。
王様が急きょ、ここで食事を決めてしまった。
ここは城とは言え、今いるのは客間のような場所だろう。
そこで王が食事をと言い出すから、お付きの方々はバタバタと……していなくて、なんだかいつものことかのように、着々と準備が進む。
「王様もここで?」
なんとなく聞いてみると、爽やかなダンディ笑顔で笑われる。
「コウタは、畏まった場は嫌いであろう。大広間で晩餐するよりもここの方が気が休まるのではないか?」
「殿とか、なしで」
「あいわかった」
「ここの方がいいです。大広間とか想像が付かないし。しかも俺、聖女でしょ。男で聖女なんで?ってなるし、なんだか、それも……」
「そうであろうと思っておった。コウタは慎ましやかであるな。実はな……おお準備が出来たな、食べながら話そうか」
暖炉を背に王が座り、その前に向かいあった俺とリン、俺の横にセミさん、リンの横にアンさんが座った。
もちろん、音頭は王様、シルバーのコップを掲げる。
「夕食には少し早い時間であるが、コウタの決意に感謝して、乾杯」
「乾杯」
それに乾杯されてもと、あははっと乾いた笑いしか出てこない。
「して、コウタ。貴殿の考える聖女は女性であるか?」
出された旨い食事に心を無にして、なんとか堪能していると王様が口を開いた。
「女性以外思いつかない」
口の中でホロホロとほどけていく柔らかいステーキ肉をゴクリと飲み込んでから、答えると王様は微笑みながら頷く。
「この世界では、主に恋愛の面で男性女性の区別が曖昧なところがある。己の好みに合ったものを選ぶからな。それが男性か女性かは大きな差はないのだよ」
「だから、聖女が俺でも不思議はないと」
「うむ」
「でも、聖女と言われたら最初に思い付くのは女性でしょ?」
「そう言った固定観念もまだあるにはあるが……」
うむっと、コップの飲み物を口に運ぶ王様に、リンが顔を向けた。
「陛下、よろしいですか?」
「うむ、許すと言っても、公式の場ではないからな、ミニシッドも身構えなくて構わないぞ」
「はっ。コウタ様と数刻過ごして気付いたのですが、コウタ様は人前に出るのがお好きではない様子。公の場で聖女として振る舞うのが嫌なのではないかと推測します」
二度驚く、コウタをしっかり言えていることにもだが、言ってもいない心情を分かられてしまったことに、驚きながらもコクコク同意と頷くと、リンがこちらを見てクスリと笑った。
「なるほど、だが式典などがなぁ……うむーっ」
「陛下、出立の式典等は今回は反故してはいかがかな」
アンさんからのナイスな提案が飛び出してきて、そちらを向いて、またコクコク力強く頷く。
「大災厄まで五年を切り、余り時間もない中で式典などに時間を取られることは、こちらの不利。それに今回は、この世界の住人ではない異世界の方。呼び出した手前、こちらが折れるのが筋ではと。公の場で他の者を用立てることも考えましたが……」
「確かにその通りだ。大災厄が起こる前に全ての地を回って貰わなくてはいけないのだから、式典に時間を割くのは得策ではない」
ふーっ、式典から逃れられた!
小学校が卒業証書を壇上でわざわざ一人一人に渡すやつだったんだが、あれめちゃくちゃ嫌で欠席したら、後日一人だけの卒業式と最悪な過去がある。
そんなんで、俺は人前に立つのがマジでイヤだ。
日陰好きにライトを向けるようなことはしないでほしい。
今の状況でさえ、この飯がなければ実は逃げ出したいくらい。
食事を運ばれるとか、俺が座って飯食ってるのにぴしりと立ってる人がいるとか、有り得ない。
「陛下、それなら、従者を連れて巡礼してはそれも目立ちましょう。ここに経験豊富な聖愛の勇者という心強い方もいる、二人だけで回って貰うのが一番の近道ではないかと考えます」
「それでは、負担が大きくないか?」
「物資などは鶏等で送り揃えさせ、従魔で各地を巡れば、馬車を従えて進むよりも早く終えることができましょう」
従魔言いました?ワクワクワードですよ、それは!
従魔だって!やほーっ!乗りたい従魔は飛ぶやつです!
ラーミ○、あっあれ神獣だった、あとはドラゴンとかペガサスとか、あーレアっぽいのばっかだ。
だがしかし、陸路も捨てがたい。
好きなあの作品のようにモフモフな大型の獣に跨がるのもあり。
あっナウシ○のウ○様が乗っていた嘴の大きな鳥みたいなのもいいな、F○のチョコ○に近いし。
馬さえも乗ったことないが、二次元ものは大量に見てきた、想像するのはお手のもの。
キラキラの目をさせて、アンの提案に再度首を縦に振りまくっていると、王様に笑われた。
「コウタ、何にそんなに目を輝かせている」
「俺の世界には従魔とかいないけど、物語とかで従魔に乗って旅をする作品を色々ずっと見てきたから、それが出来るって……あっ……」
言いながら、色々と恥ずかしくなってきて、最後の方はどもってしまう。
そして思い出す、俺は魔物を媒体を通してしか見てないが、こちらは現実にいるのだ、しかも異世界から召喚しなければいけないほど切羽詰まっている状況だったことも。
「あっ、俺……」
顔色が変わったことで、王様には心情の変化が伝わったよう。
「仕方あるまい、だがその作品たちのお陰でこうして落ち着いて話していられるのであろう。でなくては、もしや召喚に応じてくれることもなかったでろう。こう話を聞いてくれることもな」
「……そうかも……」
浮ついている自分に叱咤をかけたいが、なかなか浮つきは取れない。
だって、現実世界から逃げ、楽しみまくったゲームや作品の環境に、俺が召喚されている。
全てにおいて確実に下位なモブで、イジメられて目立つのも嫌だからと、どうにかギリギリのラインを逃げて生きていた俺が。
親……も恋人もいない、唯一いた学生時代の友人も疎遠になり、友人と呼べるものもいない、ライ○の友だち欄にあるのは、仕事の連絡網のみの俺が。
俺ではなくてはダメだと、必要だと言われているこの状況。
恥ずかしさや戸惑いなどもありながら、そのことが嬉しくもある不思議な心地を浮ついている以外でどう説明したらいい。
この場だって、俺の意思を尊重したからこそ。
こんなにも、重要視されたことないから、どうしていいか分からない。
その後は、なるべく聞き役に徹して、返答を求められたら返答し、分からなければリンに投げてと、少し逃げスタンスで通した。
ようやく現実味が出て来た。
俺が召喚されたというリアルを。
お目通し、ありがとうございます。