悪役令嬢の陰謀
「くっ……」
わたくしは今婚約破棄騒動の渦中にあるアルヘンシラス公爵令嬢ワルキュラですわ。
遺憾ながら悪役令嬢危機一髪の立場に追い込まれてしまっていますの。
悪役令嬢であるのは、いいんですのよ。
だって元になった乙女ゲー『ハートどきどき、イケメンがいっぱい、どれを選ぶか迷っちゃう(ハート)』で、わたくしワルキュラは悪役令嬢なんですもの。
だから、悪役令嬢としてきちんとふるまっていましたわ。
そして、後から発売されたアペンドディスク『ハートどきどき、イケメンがいっぱい、どれを断頭台に送るか迷っちゃう(ハート)』で加えられた、悪役令嬢が断罪返しするルートの展開にもっていくつもりでしたのに!
ヒドインのヤツが、こんなに狡猾だとは思っていなかったですわ。
明るい金のほわほわ髪。舌っ足らずな口調。頭の悪そうなおおきな胸。
見た目で「まちがいなくお花畑脳ね(笑)」と余裕ぶっこいてたのが失敗でしたわ。
このアバズレ、ヒドインのくせに、用意周到でしたわ。
さては、こいつも転生者ですわね!
しかも、重度のやりこみの引きニートです! 社会不適合者めっ!
きっと、ゲームの世界と現実の世界の境界が判らなくなったゲーム脳ですわ。
そうでなかったら、設定を知っているとはいえ、攻略本の手順に頼らず、難易度が一番高い王子ルートを攻略するなんて! しかも、転生者のくせにハーレムルートを狙ってないなんて!
ヒドインのくせにハーレムルートを驀進しないなんて、あ・り・え・な・いですわ!
ゲームをやり込んだ転生者ならハーレムルート一択が常識ですわ!
前世のわたくしはハーレムルート以外やらなかったですわよ!(参考として他のルートも一応プレイしましたけど)
乙女ゲームの花は、誰がなんと言おうとハーレムルートですもの!
だって、なにもかもやってらんない元の世界、両親の介護に旦那の両親の介護、浮気先の女の家で倒れた旦那の介護までしてたわたくしにとって、そんくらいの夢みないとやってらんなかったですわ! それしか夢の時間なんかなかったですわよ!
このヒドイン、前世でよほど恵まれていたに違いませんわ! キィィィィッッ! 憎らしいですわ! きっと親ガチャで大当たりを引いて、一生働かずに暮らした勝ち組出身者ですわ!
しかもですわ。事前に攻略対象のトラウマや弱点を知ってたくせに。それを表面上は利用せずに攻略するとか、どれくらい暇人なんですのよ!
カリナン王太子もカリナン王太子ですわ!
この女を孕ませてでもいれば、よかったのに。
若い男なんだから手ぐらい出しなさいよこのヘタレ野郎!
元のゲームは、最初は18禁版だったんんですわよ!!
カリナンなんてヒロインとやりまくりでしたのよ!
わたくし18禁の頃からファンだったんですのよ!
この世界のカリナンはヘタレのフニャチンですわ! プンプンですわ!
くぅぅぅ。追い込まれましたわ!
でも、勝負はこれからですわ。
だって、わたくしはアペンドディスクの悪役令嬢ですもの!
彼らがわたくしを放り込もうとするのは、重罪犯用の地下牢6号って知ってますのよ。
前世では、何度も何度も悪役令嬢を送り込んでやったんですもの。
『ハートどきどき、イケメンがいっぱい、どれを断頭台に送るか迷っちゃう(ハート)』ではヒドインを送り込んでやりましたわ。
こんなこともあろうかと。
自分が悪役令嬢だって判った時から色々用意しておきましたの。
用意の大部分は、ヒドインの狡猾さのせいで無駄になりましたけど……地下牢の仕掛けはバレていないみたいですわね。
実は、ゴロツキどもを雇って、実家のタウンハウスから地下牢6号まで秘密の通路を作っておきましたのよ。ベッドの真下にある石材を決められた順序で外すと、ぱかっと出口が開きますの。
一度通路を通ってこっそり入ってみたのでぬかりはありませんわ。
あそこに入れられさえすれば、いつでも脱出できるってことですわ。
脱出不能な牢獄から、怪盗みたいに消える悪役令嬢!
かっこいいですわ! しかも、金の力にモノを言わせて作ったトンネルでなんて悪役令嬢に似合ってますでしょう!
実家に戻れさえすれば、わたくしを溺愛しているパパ公爵が助けてくれますわ。
元々後ろ暗いことやってた家なんですもの。
ゲーム世界では、摘発されるなんて思ってもいなくて何の準備もしてなくてやられましたけど。この世界では違うんですのよ。悪の準備は万全ですわ!
半年ほど前、わたくしが王座も欲しいっておねだりしたら、パパってばすっかりやる気。
卒業式の夜。王宮と卒業パーティ会場に襲撃をかけて皆殺し、王家簒奪。
パパにはそれだけの力があるんですのよ。
断罪で追い詰められたのを大逆転なんて、悪役令嬢にふさわしいですわ!
わたくしが脱出さえ出来れば、後は簡単。
王都の各所には、武装した犯罪者達や我が実家の手勢が潜んでいますのよ。
勝ち誇っているヒドインも、わたくしのモノにならないないなら憎らしいだけのイケメンどもも皆殺しですわ! わたくしの計画に抜かりなしですわ!
さぁ早く言いなさいな。
わたくしを重罪犯用地下牢の6番に放り込むっていいなさい!
わたくしの華麗な逆襲のはじまりですわ!
圧倒的な逆転勝利の予感にゾクゾクしてきましたわ!
※ ※ ※
「ワルキュラを重罪犯用地下牢の6番に連れて行け!」
王太子は運命の台詞を口にした。
ヒロインと悪役令嬢の口元に、にぃっと卑しい笑みが浮かぶっ!
ヒロインが勝つか!?
悪役令嬢が勝つか!?
王都は両勢力の繰り広げる内戦の舞台になってしまうのか!?
詰むや詰まざるや!
だが、その時。
「恐れながら王太子殿下に申し上げまする!
それは越権行為ですぞ!
殿下にはそのような裁きを下す権限はありませぬ!
陛下が不在であるとしても、陛下の代理として殿下が出来るのは、
その御令嬢に、陛下が帰るまで謹慎を申しつける事のみですぞ!」
誰もが注目していなかった人物から、強い意志をこめた叫びがあがったのだ。
並み居るやんごとなき人々は、声の主を見た。
決然と声をあげたのは、平の警備兵。
しかも明らかに引退間際の老齢の男であった。
読んでくださってありがとうございます。
まだ続くよ。
次回は、10月23日の0時をちょっと過ぎた頃に登校する予定です。




