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短編小説(ゆんちゃんのお話)

栗ごはんなんてゆるせないっ!

作者: 歌池 聡


武 頼庵(藤谷 K介)様 主催「秋は〇〇〇!!企画」参加作品です。


秋の味覚で真っ先に思い浮かんだのが『栗ご飯』。

何と、無謀にも初めての『童話』ジャンルに挑戦ですw



 パパの会社の人はみんな敵だ。ゆんちゃんはそう思っていました。

 せっかくの休みの日にパパをゴルフに連れて行っちゃったり、家族でお出かけの日に電話をしてきて、パパだけ行けなくしちゃったりするのですから。

 でも、今来ているお兄さんとお姉さんは、どうやら悪さをしに来たわけではないようです。

 なぜなら──ゆんちゃんもめったに食べられない高級なケーキ屋さんの箱を、おみやげに持ってきたからです。


「あの二人はパパの部下でね、こんど結婚するんですって」


 お茶の用意をしながら、ママが教えてくれます。


「そんなことより、ケーキたべてもいい?」


 ゆんちゃんも、かずや兄ちゃんも、もうケーキが待ちきれないようです。


「まだダメよ。お客様にお出ししてからね」


 そう言ってママは、お茶といっしょにケーキの箱を応接間に持っていってしまいました。

 うちのおみやげに、って持って来てくれたんだから、ゆんちゃんたちに先に選ばせてくれたらいいのに。変なの。






 しばらくして、ママが戻ってきました。お客さんたちがケーキを一個ずつ取って、たぶんパパはいつもの抹茶味とかいう苦そうなやつ。


 そして、ここからが勝負です。

 ゆんちゃんの家では、こういう時はじゃんけんで取る順番を決めます。ママは大人のくせに、絶対にゆずってはくれないのです。

 残ったケーキは三つ。イチゴのショートケーキと、チョコっぽい粉がふられたチーズケーキみたいなやつ。そして──。


 あのヘンな見た目のケーキはぜったいにイヤだ。そう思ってゆんちゃんはじゃんけんに挑んだのですが、結果は──ビリ。


「えええっ! やだ! ゆんちゃん、あんなのやだよ!

 あんな、()()()()()()()()()()なんてぜったいにやだ!」


 思わず大声が出てしまいました。いけない、お客さんもいるのに。


 怒られちゃうかなと思っていたら、ママもかずや兄ちゃんも大笑いしています。隣の応接からも笑い声が聞こえてきます。


「あのな、ゆん、知らないのか? これは『モンブラン』っていうんだ。上に乗ってるのはおそばじゃなくて、栗のクリームなんだぞ」


 かずや兄ちゃんが教えてくれたんですが──栗?

 前に縁日で食べたことがあるけど、剥くのが大変で、あまり味のことは覚えてません。そんなに甘かったような気はしなかったんだけど──。

 おそるおそるフォークで切って、口に運んでみます。


 そして──ゆんちゃんは、最近アニメで見たヒロインのセリフを思わず叫んでしまったのです。


「こ、これは、じんせいさいだいのしょうげきだわっ!」






 半年くらいたって、またあの二人が訪ねてきました。

 新婚旅行から帰ってきて、おみやげを持って来てくれたそうです。


 そして──ゆんちゃんがモンブランに感激したのを覚えていてくれたのか、今度はもっとすごいものを持って来てくれたのです。


『マロン・グラッセ』


 おそるおそる包み紙を開けてみると、何とそこには、モンブランの上でご褒美のように輝いていたあのつやつやとした栗だけが包まれていました。

 みんながなぜかわくわくするような顔で見守る中、ゆんちゃんはそっとその贅沢なお菓子を口に入れ、噛みしめました。


「──これは、じんせいさいだいのしょうげきだわ!」






 そんなある日。ゆんちゃんが学校から帰ると、ママは晩ご飯の支度をしています。

 テーブルの上に、ざる一杯に茶色い何かが乗っているのですが──えっ、これってもしかして栗!?


「ゆんが栗が大好きだって言ったら、田舎のおじいちゃんが送ってくれたのよ」


 ママ、ぐっじょぶ! こんなにたくさんの栗なんて夢みたい!


「今夜は『栗ご飯』にしますからね」


 ──え? うそでしょ、なにそれ。

 まさか、ごはんといっしょに炊くの? せっかくのあまーい栗を?


 ゆんちゃんが唖然としていると、ママは手早くお米を研いで水を張り、栗を入れていきます。それどころか──!?


「ちょっと、ママ、なに入れてるの⁉ その茶色いのはなに?」

「何って、お醤油に決まってるじゃない。あとはお酒とみりんと、だし昆布と──」

「ありえないっ!」


 ゆんちゃんの怒りが爆発します。


「なんで栗におしょうゆとか入れるの!」

「え? だって栗ご飯ってそういうものだし──」

「あ・り・え・な・いっ!」


 ゆんちゃんの目から、涙があふれて止まりません。


「そんなの、栗がかわいそうよ! せっかく甘いのにおしょうゆなんて入れたらだいなしじゃないっ!

 ママっ! ママはごはんの上にチョコレートのせて、おしょうゆかけて食べられるのっ?

 ママがやってるのはそういうことなんだよっ!


 ゆんちゃん、栗ごはんなんてぜーったいに食べないんだから!」


 そう言って、ゆんちゃんは号泣しながら子供部屋に駆け込んでしまいました。






 でもけっきょく、お腹が空いて我慢できなくなったゆんちゃんは、しぶしぶ栗ご飯を口にして、またあのセリフを思わず叫んでしまうことになるのです。


「こ、これは、じんせいさいだいのしょうげきだわっっ!」



あれからママは、ゆんちゃんがこの世で最も憎んでいる食材である『グリーンピース』を使って、『豆ご飯』を食べさせようと企んでいるようです。


豆ご飯を食べて、ゆんちゃんがあのセリフを口にするかどうか──それはまた別のお話ということで。


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― 新着の感想 ―
ゆ、ゆんちゃんかわいすぎる……!笑。 おそばっていう気持ちわかります(´・ω・`) 私も子どもの時に「えっ」って思ってました……笑。 ゆんちゃんの毎回の決め台詞がいいですね(*´ω`*) 歌池さん、あ…
[良い点] 栗は最大の衝撃を幾度も巻き起こす。 ゆんちゃんに素敵な出会いが訪れて嬉しいです٩(ˊᗜˋ*)و 栗ごはん食べたい(๑´^`๑)
[良い点] お誘いにのって、やって参りました(#^^#) ゆんちゃんシリーズはキャラクターが可愛いですねえ。 そして、子ども心あるあるが詰まってます。 「じんせいさいだいのしょうげきだわ」が面白く。…
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