表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/25

クローバーと人魚

 

 疲れた足で夜の浜辺を歩いていると、私は人魚に出会った。

 月明かりに揺れる滑らかな尾はキラキラと光り、長い黒髪には海藻が絡まっている。

 人魚は砂浜に寝転がって何かを探しているようだった。

「何かお探しですか?」

 私は家族の写真を胸ポケットに仕舞ってしゃがみ込んだ。

「五つ葉のクローバーを探しているのです」

 人魚はピアノを弾くかのようにクローバーの草原を撫でた。

「四つ葉では無くて?」

「五つ葉です。道標になるのです」

 柔らかな葉が砂だらけの素足を優しく包む。

 気が付けば、私も夢中になって五つ葉のクローバーを探していた。宵の薄明かりは小さな葉一つ一つを愛でるように照らし、葉に浮かぶ水滴は光沢を放っているかの如く煌いた。あたり一面は鮮やかな緑に色めいていた。

「あ、八つ葉だ」

 私は眼鏡を外して目を擦った。そのクローバーは確かに艶やかな八つの葉を並べていた。

「これでは駄目なのだろうか?」

「駄目では無いですよ」

 人魚はそっとクローバーを割る。今や五つ葉となったクローバーを嬉しそうに前髪に挟み、別れた三つ葉を私の手に乗せた。

「これはあなたの道標です」

「私の?」

「真ん中の葉が今いるこの場所を。左右の葉が、前と後ろの道を示しています」

「しかし、どちらへ向かえばいいのかわかりません」

 私は戸惑い、三つ葉を目の前で回した。すると人魚は微笑んで胸ポケットを指さした。

「それを知りたいのなら、聞けばいいのです」

 人魚は広い海の底へと帰って行った。

 私は海辺に並べた靴を履き直す。

 クローバーを胸ポケットの写真に重ねると、泡立つ暗い海を一瞥して帰路についた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ