水の結晶
梅雨明けの公園の砂場。
水の宮殿が砂上にぷかりと佇んでいた。
蟻が、水陰に淡く揺らめく陽の下で、涼しそうに花の種を運んでいる。
田中颯太はシャベルを握ったまま不思議そうに宮殿を見つめた。お母さんを呼ぼうかと思ったが、何処にも見当たらない。
水の宮殿は凸凹と起伏の激しい砂の上で、悠然と門を開いた。中は空洞だ。ちょうどしゃがんだ颯太ほどの高さで、シャベルを投げ捨てた颯太は頭から水の宮殿に入ってみた。
宮殿の奥へ進むと、ゆらめく天井は立ち上がれるくらいの高さになる。豪奢な水壁の向こうでは、公園を囲むイヌツゲの葉がキラキラと光った。上を見上げると流れるような水陰が太陽をシャンデリアの様に煌めかせた。
涼しいなぁ。
颯太は砂の上で横になる。ふと綺麗な水の結晶を見つけた。雄太はそれを手に取ってじっくり眺めると、ポケットに入れた。後でお母さんに見せようと思ったのだ。
ポタポタと、み空色の高天井から水が垂れる。ひんやりと身体が濡れたが、颯太は気にならなかった。そのまま涼しさの中で、すやすやと眠りに落ちていった。
目が覚めると白い天井が見えた。颯太はいつの間にか病院のベットで眠っていたのだ。
お父さんとお母さんが心配そうに颯太を見つめている。
お尻に違和感があった。なんだろうと手を伸ばすと、綺麗な水晶がポケットの入っていた。
颯太は「水の結晶だよ」とお母さんに水晶を手渡す。
何だか頭が重たい。
颯太は水の宮殿の涼しさを思い出しながら、もう一度眠りについた。