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春の国

ファンタジーと詩を25作まとめました


 春の国では青い花が咲き誇る。

 乙女色の山の木々は満開の桜だ。風と共に無数の花びらが紺碧の空の川を流れた。

 男は草原で仄かな陽の暖かさを楽しんだ。

「名前はなんだい?」

 男は手の平をくすぐる青い花に問いかける。

「瑠璃唐草」

 花糸から響く細い声は風に流される。

 蝶は青い花弁の上で笑った。橙色の斑紋が開いては閉じる。

「オオイヌノフグリと言う名は嫌か?」

 男は笑った。およそ可憐な花に似合わぬ名だったからだ。

 

 春の国では昼も夜も祭りが続く。

 青黒い夜闇の空は満天の星だ。月の側で無数の流星が漆黒の空の海を泳いだ。

 男は縁側で仄かな月の明かりを愛でた。

「名前はなんだい?」

 男は遠くに佇む青い星に問いかける。

「スピカ」

 眩い青の一等星が名乗りを上げる。

 流れ星は重力の波で怒った。青白い光線が流れては消える。

「おとめ座の一つでは嫌か?」

 男は苦笑した。夜空の大三角を見ていたからだ。

 

 春の国では空腹が訪れない。

 純白の磁器の盃は満杯の酒だ。皿の上の無数の山菜が五彩の染を覆った。

 男は川辺で仄かな粥の青柳を愁えた。

「名前はなんだい?」

 七草は盃に涙を落とす寂しい人に問いかける。

「春人」

 永遠の春の国で一人の男が呟く。

 酒は白磁の底で泣いた。透き通る波紋が広がっては止まる。

「春の国はもう嫌か?」

 春人は微笑んだ。春に愛想を尽かしたわけではなかったからだ。

 ただ春人は、暑い夏、侘しい秋、荒涼たる冬を想った。


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